意味深な事ばっかり言ってたら1000年後の未来に跳ぶ100人の英傑に選ばれた男   作:まだ早い

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3話連続で主人公出さないのはあれなので。






外話3:ブチギレ系ヒロイン

 

『5日以内にどんな手を使ってでも構わないからわたしに触れる事に成功した者を助手とする』

 

 突如として理事長ミラからアルカディア全土に通達された1つの伝令によって、人々に激震が走る。

 

 あの偉大なる伝説の賢者の助手?? 

 

 それはつまり、ミラによる常人では到底理解できない謎の発想力から来る様々は発明──例えば帝国に技術を売った結果、現在の経済の中心を担う存在となった飛空挺など──を1番最初に見られたり、あまつさえ開発に協力出来たりする事を意味しており。

 彼女による他では到底見られない超越的な魔法──例えば基本六属性全てを複合した究極破壊魔法など──に触れる機会が増える事を意味しており。

 まさしく喉から手が出る程に羨むべき立ち位置を手にする事を示している。

 

 当然、アルカディアはその話題で持ちきりだった。

 

 そんな中、とある銀髪の皇女は。

 

「……またお師匠様の思い付き?」

 

 と1人漏らす。

 理事長兼彼女の師でもある伝説の英雄ミラは、唐突にこうした戯れをする事が暫しあり、今回もまたそれかと彼女は考える。

 

 退屈こそが最大の敵とミラは頻りに口にしていたし、世界の頂点たる彼女からすればそれは確かにその通りなのだろうが、それに付き合わされる身にも……などと考えてから、隣の人物の方を向いて。

 

「……フェルナンド。あなたはどうするつもりなの?」

 

「フッ……面白い話だが、私には関係あるまい」

 

 いつも通り、理由は良くわからないが何やら不敵な笑みを浮かべる眼帯の男に対し、皇女は思わず半眼になり。

 

「……どうして?」

 

「かの伝説の賢者殿に、私如きが触れる事など叶う筈もないだろう? これは事実上、君やランバート辺りに課された課題に思えるが」

 

「……そう。まあ、そんなところでしょうね」

 

 フェルナンドの言う通り、課題の難易度があまりに高すぎる。

 普通の人間があの隙が全くない伝説の大英雄に触れるなど、荒唐無稽な絵空事だ。

 

 何より問題になるのは、賢者ミラが常時自らの周囲に張っている薄く強固な結界。

 あれを突破出来るのは世界屈指の人材の宝庫と言えるアルカディアとて極めて限られている。

 

 いくら目の前の整った顔をした男が、アリスリーゼが知る限り唯一自らの師に張るのではと思われる程に賢い人物とはいえ、物理的に無理な物は無理だろう。

 

 とはいえ。

 

「勿論、君は狙うのだろう?」

 

「そうね。お師匠様は普段あまり時間を取ってくださらないし……助手になるというのは私からしても魅力的な話だから」

 

 直弟子であるアリスリーゼにすら、ミラは2日に1度、1時間しか修行の時間を取らない。

 故に、このあらゆる能力が人類の中でもトップクラスである銀髪の皇女からしても、成功したら師の時間を確保できるという課題は実に魅力的に映った。

 

「まあ、お師匠様に普通の手段で触れるのは難しいでしょうけれど。……どうしたものか……」

 

 なんて考えながら、アリスリーゼ皇女は歩き去った。

 

 

 

 ──そうして、誰も課題を達成できないまま幾らか経過したある日。

 

 アルカディアの一画に存在するとある庭園にて。

 

 課題などどこ吹く風といった様相のフェルナンドは、日課として美しい景観を誇る庭園──この終末世界においてはすっかり数を減らしてしまった──で毎朝ランニングをしている。

 

 その理由は普通にトレーニングなのだが、彼は他の皆には綺麗な庭園を走るのが自分の趣味なのだと言い聞かせている。

 それは自らの意味深さを保つ為の苦肉の策だったが、皆なぜか納得してくれていた。

 

 そんな中、庭園で朝から作業に勤しむ庭師の老婆に対して。

 

「今日も精が出るな」

 

 フェルナンドは、自らの主張の説得力を担保する為に庭師によく話しかけて感謝の意を示すようにしている。

 こういった細かい注意こそが大事だと彼は信じているのだ。

 

「ありがとうございますじゃ。わしはこれしかできませんので」

 

「フッ……そう卑下する事はない。今の世界でこれ程に美しい景観を見ながら走る事などそう出来ないからな。あなたには感謝している」

 

「……おお……なんと嬉しい事を……」

 

 フェルナンドの褒め言葉に涙ぐむ庭師。

 

 当然の話として、神の呪いに苛まれる終末世界において美の価値は著しく下がっている。

 ましてや庭園などに金や労力を掛けられる場所など極めて限られている。

 

 この世界一高い民度と教養を誇るアルカディアではこういった文化は未だ存在しているが、さりとてわざわざ庭園を訪れる者は少なく、毎朝姿を見せるフェルナンドの存在は老婆にとって救いとも言えるのである。

 

「皆さん、世の中のためにいつも難しい事をお考えになって……わしの庭で誰か1人でも休んでくださるなら幸いですじゃ」

 

「……そうか」

 

 庭師の言葉によって少ししんみりした雰囲気となる。

 老婆はそんな空気を変えようとして。

 

「でも、わしにも使える魔法が1つだけあるんです。なーんにも役に立たん魔法ですがねえ」

 

「ほう? どのような魔法だ? 役に立たなくても良いから見せてはくれないか?」

 

「ええですよ……ほりゃっ!」

 

 庭師の老婆がそう口にした直後。

 ぽんっ

 と音を立てて草が1本生えた。

 

「……ふむ。十分面白い立派な魔法ではないか。胸を張ると良い」

 

「ふふっ。ありがとうございますじゃ」

 

 

 ──2人がそんなやり取りをする中、ふと庭園を訪れるもう一つの影があった。

 

 その正体は、自らの時間を止めて20代の若さを保っている世界最高の美人であり、伝説の勇者パーティの賢者兼聖女たる、正しく人類の頂点の存在であるミラ。

 

 昨日の夜にミラは自らの弟子をけちょんけちょんにしたばかりなのだが、彼女は何の疲労もなく普通に歩いていた。

 彼女は人類においてアルベル以外全く相手にならない位の強者であり、また人類最高の頭脳を持ってもいるから、少し本気を出すだけで簡単に皆を制圧できるのだ。

 

 戯れに出した課題により、弟子たちがあらゆる工夫を見せてくれた事に満足げに歩く彼女は、フェルナンドが毎朝この時間に庭園を走る事を当然知っている。

 そのため久しぶりに、自らの極めて優秀な──しかし定期報告などは一切行わない厄介な──部下の近況でも聞こうと思い、ここを訪れたのだ。

 

 そんな冷静沈着頭脳明晰、まさしく無敵最強な彼女が。

 

「ふむ。フェルナンド、何やら楽しそうにしているみたいだね」

 

 優秀であり厄介な部下たるフェルナンドが、珍しく普通の人間に話しかけている事を面白く感じ、そのように声をかける。

 

「け、賢者様っ!?」

 

「理事長か。なに。今、面白い魔法を見ていてな」

 

 慌てて頭を下げる庭師と、そのままの姿勢で平然と返答するフェルナンド。

 ミラは庭師に対しては気にしない様にと手を振ってから。

 

「面白い魔法? ……ふむ。キミがそういった事を言うなんてね」

 

 勿論、フェルナンドのそれは単なる世辞に過ぎないだろうとは推測できるが、その世辞を彼が言う事自体がミラとしては興味深かった。

 

 確かに、この部下が庭師と懇意にしている事は知っている。

 さりとてこの老婆は普段の彼が興味を持つような才人では決してない。

 故に、あのフェルナンドといえど自らの趣味に関わる人間に対してならば真っ当な人間らしい対応をするのだなと思ったりしていた。

 

「フッ……あなたも見ていくと良い。庭師よ、また見せてはくれないか?」

 

「け、賢者様にそのような……!」

 

 老婆は人と神の大戦争『ハルマゲドン』を生き残った世代であり、目の前の大英雄がどれほど偉大な存在なのかを身を以て知っている。

 そんな偉人に、こんなくだらない魔法を見せるなど。

 

「ふっ……構わないよ。今は余暇だからね。どんな魔法でも腹を立てたりなんかはしないさ」

 

 というか自身の生徒とかでも何でもない……どころか魔法使いとして生きてすらいない庭師が大した事ない魔法を使ったとて、それで怒るほどミラは人格破綻者ではない。

 

 そんな寛大さと冷静さに定評のある偉大な理事長は、目と手振りで庭師を促す。

 

「で、では……ほりゃっ!」

 

 庭師の老婆がそう口にした直後、先程と同様に。

 ぽんっ

 と音を立てて草が1本生えた。

 

 その瞬間。

 

「うわああああああっ!? なんだあああああああ!!????」

 

 ミラが凄まじい大声を出してぶったまげていた。

 

「……幻術か? いや、幻術じゃない……。いや、幻術……なのか?」

 

 何やら茫然自失としたように自問自答する姿を見せるミラ。

 自分の身体を探索するが、勿論幻術に掛けられた様子はない。

 というか自らにまともに魔法で干渉できる存在はアルカディアには居ない……はず。

 

 つまり、目の前であっさり行われた所業は現実のそれだと意味しており……

 

「……け、賢者様……? どうかされたのでしょうか……?」

 

「……ふむ」

 

 突然のミラの奇行に困惑する庭師の老婆と、何やら訳知り顔で頷くフェルナンド。

 そんな2人に対して。

 

「な、なあ。庭師。もう一度、やってみてはくれないか?」

 

 決して見逃すまいと目をギンギンにするミラ。

 謎の反応に対して庭師は困惑しながら。

 

「は、はあ……そりゃっ!」

 

 すると、またまた。

 ぽんっ

 と音を立てて草が1本生えた。

 

「す、すごおおおおおい!! 生命創造してるうううううぅ!!!!」

 

 世界最高の賢者はあまりの事態に語彙力の低下を起こしていた。

 既存の魔法理論では不可能とされていた生命の創造……既存の生命に何か手を加えるなどではなく、明らかに無から魔力だけで新たな生命を創り出している神の所業が目の前であっさりと行われていたから。

 

 繰り返すが。

 最早それは錬金術などという次元を完全に超越した神の所業だった。

 

 それを、何故庭師が? 

 何の苦もなさげに、あっさりと?? 

 ミラは最早感情が迷子になっていた。

 

「いや、ええ? ちょっと、草触って良い!?」

 

「ど、どうぞ幾らでも」

 

 ミラは草を傷つけないように魔法で土ごと抜き、自らの顔の近くまで浮かせてから指で触れる。

 

「……何処にでも生えている単なるエーレン草に見えるけど、どうなんだ? 既存の草と比較して……いや、もしこんな事が出来るなら人の夢の大体は叶えられ……」

 

 手で思いっきり草をさわさわするミラ。

 

「…………」

 

 そんな伝説の聖女の醜態をまざまざと眺めるフェルナンド。

 ……彼女は草を思う存分さわさわしながら、自身の目に触れるくらいまで近づけて観察している。

 

 故に。

 

「理事長。落ち着くといい」

 

 そう言って、フェルナンドは普段の結界を完全に解除しているミラの肩に、ぽんっと手を置いた。

 

 ──仮にそれが害意のある行動であったならば、聖女ミラはこの状況であっても即座に対応出来た。

 しかしフェルナンドには一切その気はなく、ただ彼女の肩に手をぽんっと置いただけ。

 

 そのため、草に注力するミラからすれば別に何かすべき行動ではなく、また極めて自然なやり取りでもあるので……素通りさせた。

 

「あ、ああ……確かに、わたしとした事が少しばかり冷静さを欠いているようだ。感謝するよ」

 

「そうだな。では背中をさすろう」

 

 すりすりすり……

 

 思う存分ミラの背中をさするフェルナンド。

 理事長は当然気にせず、言われた通り落ち着いて草の観察を続ける。

 

 そして。

 

「では、肩を揉みすらしようか」

 

「……? あ、ああ……」

 

 ミラは一瞬

『こいつ、そんな事する奴だったっけ?』

 とか思ったが、別に拒否する理由もないから好きにさせる事にした。

 

 もみもみもみ……

 

 肩だけでなく、首筋……つまりミラのシミ一つない美しく透き通った素肌すらも思いっきり揉み揉みするフェルナンド。

 

「……さて、理事長」

 

「どうした?」

 

 フェルナンドが唐突に何かを語りかけてきた事に対する疑問の声を上げる理事長に。

 

「私はもうずっとあなたに触れているが」

 

「……? いや、まあそれはその通りだけれど」

 

 肩に手を置いたままのフェルナンドに対して

『こいつ何当たり前の事言ってんの?』

 と言いたげな様子のミラ。

 

「あなたが課した事だろう?」

 

「……………………!?」

 

 少し考えて、ようやく彼女はとある課題──

『5日以内にどんな手を使ってでも構わないからわたしに触れる事に成功した者を助手とする』

 などという戯れに出したそれに思い至る。

 

「お、おまっ、お前っ!?」

 

 まさか、今までのこのやり取り──なぜか庭師が既存の理論上あり得ない筈の生命創造の魔法を使えて、それを見せる事でミラが動揺し、結界を解除して容易に触れられるようにする──という一連の流れを、狙ってやったのか? 

 

「ま、まさか、ぜ、全部っ!?」

 

 考えてみると、この男が趣味とかなんとか言ってこの庭園を毎日ランニングして、庭師に話しかけたりしていたのも……

 この頭のおかしな男は、まさかそのためだけに、これだけの──世の中の全てを覆しかねない事実を今日まで取っておいた? 

 

「フッ……あなたがこうまで動揺する姿を見られるとはな」

 

 いつも通りの不敵な笑みを浮かべるフェルナンド。

 まさしく、全部が自分の掌の上だと言わんばかりの態度。

 

 そんな不届き者を見たミラは全身をぷるぷる震わせて。

 

「いやそんなクソどうでも良い事の為にこんな大発見を使うなあああああああ!!!!」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

「……こうしてフェルナンドが、何故か庭師が人類には不可能とされていた生命創造の魔法を使える場面をミラ様に見せ付けて動揺させ、その隙に触れる事で見事助手の座を勝ち取った……と。凄いな。俺の頭では何を言っているのかさっぱりわからん」

 

 ランバートは、自らの友人がとんでもない事をやらかしたという報せを見て思わずそう漏らす。

 

 なんで庭師? 

 というか彼は一体何をしているんだ? 

 なんでいきなり世の常識を覆した? 

 そこまでして助手になりたかったのか? 

 別に課題関係なく普通にその発見を伝えたら、功績的に考えて助手になど簡単に成れたのでは? 

 

 ──ランバートは最早考えても仕方ないと頭を振って。

 

「奴のしでかす事はいちいちスケールが違うな。流石だ」

 

 そして彼がふと隣を見ると、同じく報せを受けた銀髪の美姫が何やら全身を震わせており。

 

「あんの野郎……な〜にが『私には関係あるまい』だっ!」

 

 彼女はフェルナンドの言葉を思い出し、そして報せの文章を再度見る事で更にぷるぷると震えて。

 

「いかにも『興味ないですよ〜』みたいな顔をしていた癖にっ! 本っ当に、白々しい大嘘付き野郎が……!!」

 

 などと罵詈雑言を吐いていた。

 

 しかし、そんな──普段は氷の様に冷たい目をしていて他者を寄せ付けない静かな皇女──アリスが見せる表情は。

 

「あいつはこれだから腹立たしいんだっ! ……考えてみたら、あの時だって私を……!!」

 

(アリスリーゼ皇女、虚空に向かって罵声を浴びせかけながら嬉しそうに笑っているな……)

 

 本当に嬉しそうに、在らん限りの罵詈雑言を口にするアリスリーゼの実に怖い姿を見て、それを指摘するほどランバートは勇者ではなかった。

 

 

 

 

 

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