意味深な事ばっかり言ってたら1000年後の未来に跳ぶ100人の英傑に選ばれた男 作:まだ早い
ティル・ナ・ノーグにて。
ダークネスとファルザンの目の前に突然現れた天帝ルナ。
エデンの支配者として中央に君臨する筈の彼女は、2人の人間……黒髪の少女と緑髪の少年と共に、ふらっと何事もないかのように訪れてきた。
あまりの異常事態にダークネスと族長が戦慄していると。
「……『来ちゃった♡』ってルナが言うと可愛いからやめて」
ルナと一緒になって現れた1人たる黒髪の少女がそんな事を言い出した。
ダークネスたちは思わず
『こいつは何を言っているんだ?』
と言いたげな目で少女を見つめるが。
「てへっ♡」
天帝はその少女に向けて片目を瞑り、舌を少し出すという……まさしくぶりっ子の行いをやり出したため、2人は瞠目した。
「……くっ……可愛い。ルナは悪質」
一緒に来た黒髪の少女と何やらイチャついている様子の天帝ルナ。
そんな2人を見て緑髪の少年は懐からノートを取り出し、無言で何かを記入し始めた。
──あまりにもやりたい放題の彼女たちの姿に、かつてルナが非常に退屈そうに玉座に座る姿を目の当たりにしたファルザンは呆然としながら。
「……何だこれは……我の知る天帝殿の様子とは……いや、済まぬ。我如きが口を挟むべき場面ではないか」
すると、ルナは微笑みを浮かべて。
「ふふ。いえ、その殊勝さに免じて同席を許しますよ。実際、あなたは私が知る限りの新種族の中では5本の指に入る優秀さだと思っていますし」
「……貴公は我の事を認識していたのか……?」
急に真面目な事を言い出すルナに対して驚きの声を上げる族長。
てっきり、ファルザンから見て天帝からは何も感じ取れない事と同じように、彼女はファルザンの事を認識すらしていないと考えていたから。
すると彼女はその可愛らしすぎる顔を少し不満げな感じにして。
「私を何だと思っているのですか。まあ確かに凡人には興味がありませんが……あなたには及第点を上げて構いませんよ。だからこそ、あの時に色々な知識を教えたのでしょう?」
「……そうか。感謝申し上げる」
ファルザンは頭を下げて謝意を示す。
そんな彼に対して。
「ええ。ダークネス様が密かにフェルナンド先生たちに水晶を使って救援要請をするための時間稼ぎ。私を認識した瞬間に即それをする辺り、優秀です。……というわけで、その水晶、渡して頂けませんか?」
「……やはり、ぼくではあなたの目を誤魔化すのは不可能ですか。わかりました」
可能な限り魔力を察知されぬように、ゆっくり時間をかけて水晶に魔力を込めていたダークネスは降参の意を示す。
そして、やはり目の前の存在は知においても自分如きでは到底及ばぬ高みにいるのだとダークネスは理解した。
「ふふ。これだから賢い方とお話をするのは好きですよ。話が早くて非常に助かります。……皆様が現れるまでの3年間、本当に苦痛でしたから」
水晶を受け取ったルナは辟易したようにしながら。
「物事の道理を解さない馬鹿……いえ、すみません。口が悪くなってしまいました。とにかく、新世界において、私はアルカディアに訪れてから久しく離れていた感覚を思い出しましたよ。……無論、思い出したくはありませんでしたが」
そう言ってからルナは黒髪の少女を見つめて。
「フェリシア先生。この街に居る他の皆様を此処に集めるのをお願いしても良いでしょうか?」
「……私を使い走りにするの?」
露骨に嫌そうな顔をするフェリシアと呼ばれた少女に向かって。
「おねがい♡」
「……くっ……仕方ない。今回限りだから」
これからも何度もありそうだとダークネスと族長は思った。
そしてそんな中、緑髪の少年は何やら頷きながらノートに記載を続けている。
……彼は一体何をしているのだろうか。
「ふふ♡ああ、そちらの部屋に族長の妻が居るので、彼女に案内させると早いですよ」
「……わかった」
何故かそんな事を把握しているルナの指示に従い、フェリシアは退場する。
族長は、天帝が自らの妻について言及した内容に対して。
「何故それを……と尋ねて問題ないだろうか」
「ふふ。そう下手に出ずとも……と言いたいところですが、あなたのそういった点も評価していますよ。身の程を知らない馬……とにかく、そういう輩とは違うわけですから」
彼女に一体何があったのか。
フェルナンドの口ぶりでは、ルナは素直で真面目な性格との事だったが……新世界で余程の経験をしたのだろうか? とダークネスは考える。
「とはいえ、その質問が出るという事は、私の事はフェルナンド先生はあまり話していないという事ですね。先生は相変わらずのようで何よりです」
「……なるほど。今のルナさんの発言から様々な事がわかりましたが……変わった方は大勢いらっしゃるのでしょうか?」
ルナとフェルナンドが親しい間柄である事は予想通り。
彼女が何かしらの特異な能力を持つであろう事は……まあ言われずとも想定して然るべき話ではある。
──そして今更ではあるが、フェルナンドが記憶を持ち込んでいる事やダークネスたちの名前などは真実であった事も確定した。
それに関しては最早疑ってはいなかったが、さりとて確定させる事自体は重要な話だから。
とはいえフェルナンドには色々と言いたい事はあるが。
……彼は英傑ならば皆が自らと同等以上の頭脳を持っていて、これくらい言わなくても良いだろうなどと考えていそうな節が頻繁に見られるから。
誰もがあれ程の超越的な頭脳を持っている訳がないだろうとダークネスは声を大にして主張したかった。
そして、彼女はフェルナンドが記憶を持ち込んでいる事も承知の上らしい。
まあそれについては色々な可能性が考えられるが。
「ええ。というより、ダークネス様自身が今その様になっている事が私としては驚愕の一言ですからね。正直な話、先程は私が驚きの声を上げなかった事を褒めて貰いたいくらいです」
なんて言ってから、彼女はダークネスの顔をまじまじ眺めて。
「……いえ……あの……あなた、本当にダークネス様ですよね? あの伝説の。あまりに私の記憶と差異がありすぎて、少々不安になってきたのですが……」
「……ええと。それを記憶を失ったぼくに聞かれても……」
困惑するダークネス。
むしろそれは彼こそが聞きたい話でしかない。
というか自分は伝説とか言われるような人物だったのだろうか?
アリスたちの事ならばともかく、彼自身としては全くそうは思えなかった。
「まあ、それはそうなのですが……フェルナンド先生は一体……」
何やら1人で考え込む様子のルナ。
「……ぼくは一体どのような人物だったのですか?」
ダークネスはそのように問いかける。
──これまでもそうだったが、あからさまな時間稼ぎを続ける。
目の前の存在にはバレバレだろうが、さりとて今のダークネスにそれ以外の策はない。
時間を稼ぐどころか、むしろルナが自ら他の面子を呼びに行かせた以上、カルロスやラナリアの救援は恐らく無意味だろうという事もわかっているが、他に出来る事がない。
「……ふふ。そうですね……フェルナンド先生がお話になっていないなら、私が話すべきではないのでしょう。内緒にしておきます」
口に人差し指を当ててそんな事を言うルナに対し。
「……なるほど。あなたは確かにフェルナンドさんの教え子のようですね」
とはいえ、フェルナンドに比べたら幾分マシには思えるが。
なんて考えていると、何故かルナは顔を綻ばせて。
「その評価は非常に喜ばしいですね。まあ、私はフェルナンド先生からそこまで多くの教えを受けたわけではありませんが……とはいえあの短い言葉で最も大事な道は示して頂けましたから」
「1000年前もそんな感じだったのですね……まあお2人が記憶を持ち込んでいる以上、変化がないのは当然なのでしょうが」
フェルナンドとルナの2人がどのようにして記憶を持ち込んだのかは気になるが、今それを聞いても意味はない。
2人が超越的な頭脳を持っている事は身に沁みて良くわかったが、ならばどうするか……
なんて考えていると、ルナは。
「ええ。後はまあ……ふふ。これもまた、内緒にしておきましょうか」
「……」
彼女は悪質さでもフェルナンドと張り合えるかもしれないとダークネスは感じた。
「それにしても、ここに居ないのは……そうですか。あのお三方が全員……ですか」
先程といい、彼女には何故それがわかるのか。
どんな異能を有していたらそうなる?
類稀な情報収集能力……とは違いそうに思える。
ダークネスはひたすら思考を続ける中、彼女は嬉しそうな表情をしなから。
「確かに、こう早くに雌雄を決するのはつまらないですからね。やはり相変わらず、フェルナンド先生らしいです」
またもや意味深な事を言うルナ。
それが何を意味しているのかを考えたら、ダークネスとしては戦慄するのみである。
つまり、彼女は自分たちの動向を知っている……或いは予測しているという事だから。
「とはいえ、こういう時のお決まりと言えば、私がアリス先生辺りに圧倒的な強さを見せ付けて、意味深な事を言いながら立ち去る……といった感じでしょうが、それはどうやら不可能のようで」
その言葉に冷や汗を隠し切れているか内心不安になりながらも、冷静を装って。
「……では、あなたはアリスさんより強いと?」
「ええ。そう確信していますよ。アリス先生のお力は良く知っていますが、私は別次元の強さを手に入れたので。しかし、言葉だけでは空虚な物になってしまいますね……どうしたものか」
再度、何やら考え込む様子のルナ。
ただ、ダークネスはそれに僅かながらのわざとらしさを感じる。
先程の会話からそうだった。
彼女から時折、演技じみた様子というか、わかっていて聞いているかのような雰囲気をダークネスは感じていたのだ。
何故? と考えながらも。
「戦闘タイプではないダークネス様を吹き飛ばしたところで、という話ですし……」
「……なら、オレと手合わせして行かねえか? 天帝さんよ」
ダークネスとしてはあまりに物騒であり、絶対にやめて欲しい言葉を遮って現れたのは、神獣攻略以降のここ数日で見違えるほど強くなった男……カルロスだった。
「……ふふ。カルロスさんですか。あなたは……まあ、どれだけの力を持つのか見るのも良いでしょう」
ルナは何やら懐かしむように。
「あなたはフェルナンド先生がやたら気にしていましたし、才能はあるのでしょうから」
「へえ……そうかい。それは嬉しい話だ。じゃあ、外に出るか」
──そうして、長耳族の修練場で2人は向き合う。
その場に居るのは、ルナたち3名と、族長や妹のミルネンを始めとした長耳族数名、そしてティル・ナ・ノーグに集まっていた英傑たち。
「どうぞ、そちらから。私はこの場から一切足を動かさないので」
微笑みを浮かべながら、そして腰に下げた剣を抜きすらしないままにそんな事を宣言するルナ。
「……随分と余裕だな? まあ、あんたがとんでもねえ強者だってのはわかるけどよ」
「ふふっ。こうして格上ぶるのも楽しい物です。理事長の気持ちが良く理解出来る」
なんて言いながら楽しそうに微笑む天帝を見て。
「じゃあ……行くぜっ!」
カルロスが剣で斬りかかる。
正面からの単純な突撃であり、彼に出来る最強最速の攻撃。
ルナを格上と見做すカルロスは最初から全力で行く構えだ。
すると。
「……!?」
ルナはそれまでの彼女とはまるで違った驚きの表情と共に、身を逸らして剣を躱す。
「まだまだああぁ!!」
カルロスが二の太刀、続いて三の太刀を繰り出す。
天帝はその場から足を動かさないまま、剣撃をあっさり避けているように見えるが。
「……ルナ、びっくりしてる?」
黒髪の少女フェリシアが言う様に、ルナはずっと驚いた表情をしていた。
しかし彼女は腕を振るって衝撃波を放ち、あっさりとカルロスを後方に吹き飛ばす。
カルロスは衝撃に慄くも、どうにかバク宙して受け身を取る。
「アルベルに何度も吹き飛ばされてて良かったぜ……」
安堵したように漏らす彼に対して、ルナは。
「……予想より遥かに強い。まだ新世界に来て1週間程度ですよね? 一体何が……」
そう言った直後に、彼女はカルロスの後方にいる存在を見て。
「なるほど。あの長耳族の少女ですか。魔力を視る魔眼……それなりに便利な物を持っているようで」
「ひいっ!?」
あり得ない魔力を持つ天帝に眼を細めながら見られて、長耳族の少女は恐怖から声を上げて、綺麗で優しい憧れの長耳族のお姫様たるエカテリーナお姉さんの後ろに隠れる。
「な、なんで……?」
何故魔眼の事がバレた?
この化け物……いや神様のような信じられない魔力を持つ存在も、もしや魔眼のような能力を……? と少女は恐れ慄く。
「ああ。エリンがアドバイスをくれてから、オレは掴んだんだ」
長耳族で唯一魔眼を持つ少女エリンは、カルロスの訓練する姿を見て、こうすると魔力の流れが良くなると助言した。
それからというもの、彼女はカルロスが訓練する際に横で見学する様になったのである。
天帝はカルロスによるエルフのハーレムが築かれつつある様子を眺めてから。
「とはいえ、それはアルカディアで既に実現されていた技術。然程の価値は感じませんね」
ルナの台詞を聞いて、王子がダークネスに。
「……そうなんだ。まあフェルナンドやアリスが所属していた組織である以上、どんな技術があっても不思議じゃないか」
「ですね……しかし、カルロスさんは僕から見ても飛躍的に強くなっている様に見えますが、ルナさんの予測すら上回っているのですね」
嬉しそうに呟くダークネス。
新世界初日からの仲間として誇らしい気持ちだった。
すると、それまでずっと黙っていた緑髪の少年が突然。
「おお……これは……」
カルロスの方を見て何やらぷるぷる震え出して。
「未熟な青年が周りの力を借りて、どんどん強くなっていく……素晴らしい!」
そんな事を叫び出した。
「え? なになに? どした?」
すぐ側にいたラナリアが困惑する。
しかし、黒髪の少女フェリシアは
『またか……』
と言いたげなジト目をし、ルナは。
「……グラン様。本当にあなたという人は……まあ、私も随分と英雄譚らしい話だとは思いましたが」
彼女もまた、ジト目でグランと呼ばれた緑髪の少年を軽く睨んでいた。
そして。
「良いでしょう。ならば、少しだけ私の力をお見せします」
ついに天帝が剣を抜き放つ。
──彼女が握る剣は、見事な意匠に加えて何やら宝石が埋め込まれているのが見える。
「あれは、神玉か?」
思わず漏らす族長に。
「そっか、ああやって使えばいいんだ〜! ルナちゃんも賢いね〜!!」
「……ルナちゃん……馴れ馴れしい」
ラナリアの言葉に反応するのは黒髪の少女フェリシア。
「あは! 嫉妬〜?」
「……五月蝿い。そんな事はない」
ルナはそんな姦しいやり取りを横目で見てから。
「では、行きます」
そうして天帝は光り輝く剣を振るい──
「……当然の話ですが、如何なる優れた師であろうとも本人の資質以上に伸ばす事は不可能」
だからこそ、彼女は旧世界であれほどまでにアルカディアの面々から持て囃されていたのだから。
「カルロスさんが私たちの戦いに入って来る事が叶うのか。そして、何より成長が間に合うのか。……楽しみにしていますよ」
倒れ伏したカルロスに向かい、自らの過去を思い返しながらそう言い放った。
──
「……ルナ。満足した?」
「そうですね。100点とはとても言い難いですが……とはいえ予想外の事象を幾らか見られた事は嬉しいです。やはり、皆様はそうでなくては」
ルナは本当に嬉しそうにしながら。
「全てが予想通り、私の思い通りではつまらないですからね」
「……そう。なら良いけど……それ、そんなに楽しい?」
「ええ。楽しいですよ。これこそが、私の望んでいた事ですから」
そうして、ルナは遠くを眺めて。
「──私は全ての望みを叶えなければならない。そうですよね? フェルナンド先生」
次話も遅れるかもしれません