意味深な事ばっかり言ってたら1000年後の未来に跳ぶ100人の英傑に選ばれた男   作:まだ早い

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26話:1人でやってるよー

 

『ふん……親に裏切られたばかりの惨めなわたくしに、何か用があるのですか?』

 

 紗羅の元に訪れた男……やたら整った顔立ちに高級そうな眼帯を付け、何やらミステリアスな雰囲気を醸し出す男に対して彼女はヤケになったように話す。

 すると、男は。

 

『フッ……用があるのは私ではなく、君の方ではないか?』

 

『わたくしが? お前に? ……何を言っているの?』

 

 言っている意味が全くわからない。

 しかし男は妙に声が良いというか、思わず聴き入りたくなるような声をしていると感じる。

 

『親に裏切られたと言うならば、最早君を縛る物は何もあるまい』

 

 目の前の男が言う事は、客観的に考えるとわけのわからぬ世迷言そのものだった。

 すぐさま会話を終わらせて良いはずだった。

 

 しかし。

 

『縛る物……』

 

 彼の言葉には、謎の説得力があり。

 何より紗羅には自らを縛る物という言葉にあまりにも心当たりがあり過ぎたため、考える。

 

 縛る物。

 

 ──まず最初に思い付くのはつい先日死に、そしてあの馬鹿げた遺言を残してくれた忌まわしい母親だった。

 

 母である『夜叉姫』は、姉の紗代には何も課していなかったにも関わらず、紗羅にだけ毎日の訓練と学業と……更には幾つかの領地経営も課していた。

 

 何故? と聞いた事がある。

 母は答えなかったが、長年勤める家臣が

『それは、紗羅様が大和を継ぐお方だからです。紗羅様は、同年齢の頃の夜叉姫様を遥かに超えていらっしゃるが故に』

 と言ったため、納得して課題を続けていた。

 

 ──自分は、姉が鍛錬も何もせずに茶会をしたり……誰が素敵だのという反吐が出るような話に参加したかったのだろうか? 

 

 いいや。

 あれを羨ましいなどと思った事は一度としてない。

 

 自分と姉の扱いの違いは何故と聞いたのも、単純に気になったというだけであり、それ故にすぐに疑問を打ち切った程度の話でしかない。

 

 それに、いざこうして考えてみると。

 

『わたくしは、本当に母上の後を継ぎたかったのでしょうか……?』

 

『……』

 

 母に遺言状で後継ぎの梯子を外され、裏切られたと言ってはいるが……いや、裏切られた事自体は間違いないのだが、それはそうとして。

 

 1度でも。

 自分は

『大君として大和の民を率いたい』

『大和をより良い国にしたい』

 などと考えた事があっただろうか? 

 

 家臣たちにやたら誉めそやされて、初代大和大君が有していたとされる覇者の双眼を初めて継いだ存在だのと言われ……当然のように大和を継ぐのだと見做すだけで、自分は国を欲してなどいなかったのではないだろうか……? 

 

 そもそも。

 

 1年前。

 12歳の紗羅は母親から1本取り、彼女の実力を完全に超えた。

 それ以降も将来の当主になる事を踏まえて刀の修行などは続けてはいたものの、誰からも教わる事はなくなり。

 つまり強制ではなくなった。

 

 当然の話だ。

 12歳という若さで母を超え……つまり大和最強の侍となった紗羅に、一体誰が何を強制できるというのか。

 

 しかし。そうだとしたら。

 

『ま、まさか……』

 

 とある事実に思い至り、紗羅は愕然とする。

 

『わたくしを縛るのは、わたくし自身だった……?』

 

 誰からも何も強制されていないのに、ただひたすら大和の主を見据えて……本当はそれになりたいとすら思っていないのに、鍛錬と学業と領地経営を続けるという……何故か自ら縛られにいっている思考停止の無能。

 それが自分なのではないかと。

 

 ──客観的に考えたら、仕方のない話だった。

 

 12歳の頃に母親を超え、それ以降何も言われずに教育を放り出されたとして。

 それまでの人生においてずっとしていて、明確すぎる結果も出していた鍛錬などを投げ出し、新たな何かをする……それは、12歳の少女には無理のある話だ。

 というより、紗羅が修練に励むのは普通に考えて悪い事でもなんでもないから。

 

 しかし。

 そうして仕方ないなどと考えるには、紗羅は賢すぎた。

 

『わたくしには最早やるべき事はない。つまり、これから……いえ、1年前から既にわたくしは自由であり、これまでの行いは全てわたくしが……』

 

 あまりの衝撃に思わず狼狽えてしまう。

 

 しかし大和史上最高の天才である彼女は、すぐに次なる事に思考を移す。

 それはもしかしたらある意味では不幸かもしれないが、13歳にしてこの状況ですぐに未来を考える事が出来てしまう程に彼女は賢すぎた。

 

 ──これからの事。

 やるべき事が存在しないならば。

 目の前の、不敵な笑みを浮かべ全部わかっていると言わんばかりの男が示すように、残るのはやりたい事という話になる。

 

『で、ですが。今のわたくしにやりたい事なんて……』

 

 紗羅が狼狽しながら思わずそう漏らしてしまうと。

 

『やるべき事。やりたい事。両方ないというならば、いっそ世界を……いいや、これ以上は無粋か』

 

『世界……』

 

 目の前の男に言われた事を考える。

 確かにこうなった以上、紗羅が大和に居続ける理由は全くない。

 

 国に残って姉を支え、大和を良い国にする? 

 そんなもの、あまりにも馬鹿げすぎている。

 国も領地も、もう紗羅にとってはどうでも良い。

 

 しかし、だからと言って外国に伝手など全くない以上、ただ外に出ようと無意味に彷徨い歩くだけになるだろう。

 ……世界最高の組織と噂で聞いた事のある、アルカディアとかいう場所から来たこの男に着いていくならば、話は変わるが。

 

 つまりこの男が最初に言った、紗羅の方こそ男に用があるというのは。

 

 そこまで考えた紗羅の思考を読んだようなタイミングで。

 

『私は明日、この地を去る。……では、さらばだ』

 

『……』

 

 そう言って男は去っていった。

 

 

 そして、次の日。

 

『フッ……来たのか』

 

『……白々しい……あそこまで露骨に誘った癖に』

 

 紗羅は、立ち去るとかさらばとか言っていた癖に、あからさまに彼女を待っていた様子を見せる男をジト目で軽く睨んでから。

 

『誰かさんのせいで、わたくしのこれまでの価値観は破壊されました』

 

『そうか』

 

 こうなる事が全部わかっていたかのように頷く男に対し、彼女は一瞬目を閉じてから。

 

『そうだとしても、気に入らない物は気に入らない。そこを変えるつもりはありません』

 

 大君の証である、最強の刀『政宗』を姉に引き継がせた母も。

 くだらない言い訳をし、鍛錬をせずに人との繋がりがどうのと大和の大君家にあるまじき腑抜けた事を言う姉も。

 紗羅が武の鍛錬や学業、与えられた領地経営などに励む中、ひたすら天才だのと媚びるだけで、結局のところは普通に考えてあり得ない遺言状に意義を唱えなかった大和の凡人共も。

 そして、何より無能な自分自身も。

 

 全部、嫌いだ。

 

『それでいい。君が変わりたければ変われば良いし、嫌ならばそのままで構わんさ』

 

『……本当に、お前はわたくしの……』

 

 この男は、紗羅の心……紗羅自身すら気付かないような心の奥底を読む能力でも持っているのだろうか? 仮にそうだとしても不自然な面が多々見受けられるが……

 

『いえ、良いですよ。別にどうでも』

 

 ──改めて、紗羅に対するこの男の言動を考えてみる。

 

 全体を通してあまりに言葉が少なく婉曲的。

 少なくとも凡人の姉がその意図を読み取るのは不可能だったであろう意味深な発言。

 

 しかし。

 仮に普通に誘われたとして。

 親に裏切られたばかりで荒れている自らが素直に着いていっただろうか? 

 ……いいや。

 きっと心に壁を築き、話を聞きはしなかっただろう。

 改めて自分自身に嫌気が差すが……それはそうとして。

 

 自分は目の前のこの男にまんまと乗せられている。

 昨日も同じ事を考えたし、改めてその事は良く理解したけれど。

 

『……まあ、それも良いでしょう。……お前……いえ。あなたはきっと、まともな死に方はしないのでしょうね』

 

『フッ……恐ろしい事だな』

 

 

 

 ────

 

 

 

 紗羅が占拠していた立派な屋敷を出て、そして同じく紗羅が既に支配完了していた街を出る。

 

 うん。今回の征服の所要時間は0秒だったな。

 最速ではと思っていた前回を遥かに更新したぞ。

 

 例によってこれから長耳族の役人に街の支配権を押し付け……託すわけだけど、役人が来るまでただ待つのは無意味のため、遺跡攻略を手早く済ませようという話になったのである。

 

 前にアルベルと紗羅、後ろに僕とアリスという隊列で歩いている最中。

 

「王族の家庭環境……ねえ。まあ、普通に考えて終末世界の王族となると平時より色々あるのでしょうけれど」

 

 なんかアリスが凄い色々聞きたそうにしながら話しかけてきたので。

 

「フッ……どうだろうな」

 

「いや、あなたが私たちをボロクソに言ってくれたんじゃない……」

 

 いつものジト目で軽く睨んでくる変な姉ちゃん。

 そのため、僕もいつもの雰囲気を作りながら。

 

「そんなつもりはないのだがな」

 

「まったく……まあ、良いわよ。好きにしなさい」

 

 ん? 好きにしていいの? 

 それならばと、僕は思い付きでとある話をぶっ込む事にした。

 なんとなく面白そうだと思ったからね。

 

「そうだな……その中でも紗羅は幸せそうにしていたな」

 

「そうなの? 流石ね。とはいえ昔はどんな感じだったの? 十傑とか大和って国の王様……大君? とかいうのだった事は理解しているけれど」

 

 アリスの言葉に、僕は旧世界最後の戦争を思い出して。

 

「紗羅は今と1000年前とであまり変わらないな」

 

「へえ……そうなの?」

 

 僕たちがこの話を始めた途端にピクっとして密かに聞き耳を立てている紗羅の姿を見ながら、僕はありのままを語る事にした。

 あの時、彼女は……

 

「そうだな……決闘で大和の大君である自らの姉の腕を斬り落として国宝の武器と大君の座を奪い取り、そのまま兵を率いて大戦に駆けつけ、自国の兵に死を前提とした無謀な突撃をさせて自らはその隙に大将首を打ち取り、背後にある自国の兵の大量死体を見て涙を流しながら『美しい……これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう』と感動していたな」

 

「うん……うん?」

 

 何やら怪訝な表情をするアリスに僕は頷いて。

 

「総括すると、随分と幸せな人生だったのだろう」

 

 そうやって話を締めた所、前からとある人物が顔をギギギと壊れた人形のように動かしてこちらを見てきて。

 

「……ごめんなさい。今、凄く受け入れ難い話が聞こえてきたような気がするのですけれど、気のせい……よね?」

 

 思わずといった感じで話に入り込んで来た紗羅。

 でも、全部事実だし。

 僕は再び頷いてから。

 

「そう思うのは君の自由だ。好きにするといい」

 

「……嘘よね? 過去のわたくしは一体何をしているの? え、でも今と変わらない……? わたくしはそこまで異常者ではないですよね? 過去のわたくし……わたくし。わたくしとは、一体……?」

 

「紗羅が壊れた……。それにしても、何やら凄く見覚えのある光景ね?」

 

 なんかぶつぶつ呟き出した紗羅の怖い姿を見て、ジト目で僕を軽く睨みながらそんな事を言うアリス。

 

 うん。だってわざとやってるからね。

 

 そんな僕たちを見たアルベルが。

 

「王族ロクでもない説が補強される話だったな」

 

「おい。私はまともだぞ」

 

「どの辺りがだ……?」

 

「『私は』って、わたくしがまともでない事は当然かのようにしないでっ!」

 

 怒り狂う黒セーラーオッドアイ。

 

 うんうん。

 良いね。これを望んでいた。

 

 という事で、僕は次に。

 

「それだけの相手だったという話だ。何故なら相手の将は、人類の中で、有史において最も多くの人類を殺害したと言われる存在だからな」

 

「それってどれくらい?」

 

 やはり良い相棒たるアリスが期待通りの質問をしてきたので。

 

「3000万には届いていないという話だったが」

 

 すると、紗羅とアルベルが。

 

「ええと……それはつまり、そういう事ですよね?」

 

「ふむ。2000万くらいは殺していそうな言い方だな」

 

 僕は不敵な笑みを浮かべて答えない。

 まあ、実際そう言われていた。

 

 だから理事長曰く、エリスリーゼ元帥が100英傑の中で1番頭がイカれてる存在だとか。

 軍人だとか命令だとかで済ませられる数を超越し過ぎているって言ってたな。

 

 割と賛成だけど、僕としては序列6位の英傑の方が……

 とか思っていると。

 

「ふうん……とんでもない奴も居たものね」

 

 なんか他人事のようにあっけらかんに言う銀髪に向かって。

 

「そうだな。そしてそんな彼女は君の姉君だ」

 

「……ほんっとにこいつはっ! そうじゃないかとは思っていたけどっ!!」

 

 皇女様、口調口調。

 

「王族ロクでもない説は確固たる物になったな」

 

 とか頷きながら他人事のようにアルベルが言ったので、銀髪は全身をぷるぶる震わせて。

 

「ねえっ! この白髪のアホには何かないのっ!?」

 

「そうよっ! わたくしたちだけ不公平ですっ!!」

 

 白髪のアホって。

 そして紗羅もこんな風になるんだね。

 面白いな。

 

「ふっ……この偉大な覇王たる俺にそんな物がある筈が……」

 

「私の主観にはなるが、アルベルが1番まずいな」

 

「なん……だと……?」

 

 僕の言葉に愕然とした様子の『神殺し』。

 だって……ねえ。

 そうじゃなければ何故理事長の、ひいては人類の敵になったのかという話だし。

 

「こいつらより酷いと言うのか……? それは幾ら何でも……」

 

「おい。こいつらとは何だ」

 

「わたくし、いきなり扱いが酷い気がするのですが?」

 

 不満を口にする我儘お姫様2人。

 

 いやあ……そうだね。

 この3人がこんな感じの扱いだなんて、何度も何度も繰り返して申し訳ないけど本当にあり得ない話だ。

 

 紗羅もアリスも、こんな風に騒ぐ姿なんて見た事ないからね。

 2人とも常に冷静なクール系万能王女だった。

 

 みたいな事を当時ランバートに言ったところ。

 

『………………そうか』

 

 って言われたな。

 ……今考えると、なんかランバートの返答に物凄い謎の間があった記憶がある。

 とはいえまあ、彼はいつも何事に対しても必要以上に考え込み過ぎていたからね。

 特に気にする事はないだろう。

 

 

 ──こんな感じで、僕たちは緊張感0のやり取りをしながら遺跡に向かっていたのである。

 

「私の家族、一体どうなっているの……?」

「わたくしは一体何をしているのですか……?」

「俺は一体何をやらかしたんだ……?」

 

 うん。何の問題もない平和で順調な道程だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 <<よくわからない解説>>

 

 

『ふん……親に裏切られたばかりの惨めなわたくしに、何か用があるのですか?』

 

『フッ……用があるのは私ではなく、君の方ではないか? (特に意味のないカッコいい台詞が決まった……)』

 

『わたくしが? お前に? ……何を言っているの?』

 

『親に裏切られたと言うならば、最早君を縛る物は何もあるまい(言いたいだけ)』

 

『縛る物……』

 

(いい感じの反応だ。悪くない)

 

『わたくしは、本当に母上の後を継ぎたかったのでしょうか……?』

 

『……(? 急にどうした??)』

 

『ま、まさか……』

 

(なんか謎に1人で衝撃を受けてるんだけど)

 

『わたくしを縛るのは、わたくし自身だった……?』

 

(???? いや、ほんといきなりどうした??)

 

『わたくしには最早やるべき事はない。つまり、これから……いえ、1年前から既にわたくしは自由であり、これまでの行いは全てわたくしが……』

 

(なんか1人で語り出して怖いんだけど……)

 

『で、ですが。今のわたくしにやりたい事なんて……』

 

『やるべき事。やりたい事。両方ないというならば、いっそ世界を……いいや、これ以上は無粋か(意味わからんけどとりあえず意味深な事言っておかなきゃ)』

 

『世界……』

 

『私は明日、この地を去る。……では、さらばだ(よし。なんとか誤魔化せたぞ)』

 

『……』

 

 






紗羅→フェルナンド
「この人全部わかってる…頭の中どうなってるの?」
フェルナンド→紗羅
「なんか1人で話してる…頭の中どうなってるの?」
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