意味深な事ばっかり言ってたら1000年後の未来に跳ぶ100人の英傑に選ばれた男 作:まだ早い
コンコン
僕は遺跡に入るや否や、壁をノックして意味ありげにニヤリと笑う。
いつも通りカッコよく決まったな。
なんて自画自賛していると、変な姉ちゃんがジト目をしながら。
「……まったく……まあ、いいわよ。前回はアルベルが前だったし、さっきは紗羅が活躍したし……今回は私が前に出ます」
開幕第一声として相変わらずな事を言ってきた。
この銀髪の蛮族はこうだよね。知ってた。
対して我らが白髪の蛮族が。
「良かろう。ならば俺は後方で背後を守る役目を果たそうか」
とか言う。
そうなると僕とセーラー服の蛮族が中央で何もせず歩く感じか。
僕は単独で悪魔と戦うのは厳しい……どころか複数来たら負け確定だから大歓迎なんだけど、2人程ではないにせよ十二分に戦闘狂たる紗羅は良いのだろうか?
なんて考えてオッドアイ娘を見ると、彼女はいつも通りの澄まし顔で黙っていて、そして僕の視線に気付いた途端謎に頷いていた。
彼女は一体何故頷いたのか。これがわからない。
……本当に1000年前と変わらないな。
クールで言葉が少なく、凡人に意図を伝える気が全くないというか、今回もはや言葉を発しすらしなかったからね。
フェリシアとかルナとかにはこれで十分通じてたみたいだから、紗羅本人からすればわかりやすく表現しているつもりなのかもしれないけど。
でもこういうのって普通
『かつては凡人に話を伝える気が皆無だったけど成長するに従ってマシになっていった』
みたいなのがセオリーだと思う。
しかし、何故か紗羅は関わる期間が長くなるほど余計にこれが酷くなっていった記憶があるのだ。
一体誰の影響を受けたのか、全くの謎である。
もっと僕みたいな凡人に優しくして欲しい物だ。
僕たちがそんなやり取り(?)をしていると、変な姉ちゃんが弱そうな白髪に。
「必要ないわ。私が感知して全部倒せば良いのだから」
「……ほう?」
随分とやる気だね、今回のアリスは。
どうしたのだろうか? ここ最近影が薄い事を気にしてる?
見た目は相変わらず1番派手だから良いと思うんだけどね。なにせ世界に2人しかいない銀髪だから。
……いや、紗羅のオッドアイは紗羅しかいないな。
やっぱりアリスは影が薄いかもしれない。
とか思っていると。
「ならば今回俺は謎解き役という事か? まあ、悪くはないな」
え、アルベル君が謎解きするの?
いやまあ、勇者がダンジョンで謎解きをするのはお決まりの話ではあるか。普段の姿から全く想像はつかないけど。
ギミック扉とかあっても斬り落として直進しそうな脳筋イメージしかないぞ。
なんて思っていたが、アリスはそれすらも。
「いいえ、必要ないわ」
「……なんだと?」
怪訝な顔をする白髪と僕たち2人。
その瞬間。
銀髪は渾身のドヤ顔をしながら。
「私がいれば、それで十分よ」
『!?』
僕たちはアリスの言葉とドヤ顔を見て、衝撃に包まれる。
な、なんだ?
この謎の説得力というか気迫というかカリスマのような物は。
発言の内容こそ『何言ってんだ? こいつ』と言いたくなるような物だけど……いやまあ、確かにアリス1人で余裕で遺跡攻略はできるんだけど、それは置いておいて。
僕と同じくそれを感じ取ったのか、弱そうな白髪は気圧されながら。
「……そ、その威勢がいつまで続くのか……見ものだな」
そんな苦しまぐれのセリフを言うが、ドヤ顔皇女アリスはそれを全く気に留めてない。
そのため、僕は紗羅の方を向き。
「どうやら今回の言い争いはアリスの完勝のようだな」
「そうですね……『私がいれば、それで十分』……ですか。悔しいですが、わたくしも思わず使ってみたい言葉だと感じました。奇しくも敗北感に苛まれざるを得ません」
君は君で何を言ってるんだ?
とか思ってると、紗羅は弱そうな白髪を見てから。
「それにしても、アルベルは惨めですね。あれほど負け惜しみという言葉が相応しい捨て台詞もないでしょう」
「ぐっ!」
なんか図星を突かれてダメージ受けてるね。
確かにあれは勇者にあるまじき三下の惨めな姿だった。
「じゃあ、3人とも。行くわよ」
というわけで。
今回はすっかり勝ち誇った様子のアリスが前に出て悪魔を討伐する役を買って出た。
で、最後尾にアルベル、真ん中に僕と紗羅という布陣である。
最後尾に白髪の三下が陣取るも、銀髪は宣言通りに全ての悪魔を1人で1撃必殺していた。
例えば。
『グオオオオ!』
「はい、さよならー」
バチバチィ!
みたいに。
いや、ほんと苦もなくあっさりと大魔法を使うよね。
仮に今の魔法を僕が使ったら1発で干物になるんだけど。
というかそもそも使えないし。
──とまあ、こんな感じで宣言通りに全てアリスが1人で気持ちよくやっているため、僕は少々暇だったので。
「時に紗羅」
「……どうしました?」
僕は紗羅に袋をチラつかせながら。
「実は今回、私は紅茶とワインを持参していてな。町長の屋敷から拝借してきたのだ。君はどちらが良い?」
なんていう素晴らしい提案をすると、目の前のセーラー服は。
「………………紅茶を頂きましょう」
うん。何やら凄い物申したげな間があったな。
これはこれで悪くないリアクション。
そして何やら目の前の銀髪が、悪魔に魔法を撃ちこちらを振り向かないままに『ピクッ』とした気がするけどきっと気のせいだろう。
僕は意味深な男として、そんなオッドアイ娘や銀髪の不審者の反応などはどうでも良いと示さんばかりに。
「フッ……そうだろうと思っていた。焼き菓子もあるぞ」
「……その袋……いえ、良いです。頂きます」
またもや凄く言いたい事が沢山ありそうだけど、なんか我慢してるね。
まあこの袋、外観と内容量が明らかに合ってないという、フェリシアと世界最高の鍛治士セレナ婆さんが共同で作成した世界に1つしか存在しない特別な袋であり、そして僕が聖石と同様に長いこと暖めてた秘蔵品の1つだからね。
幾らかの制限はあるから、これに武器を入れたりはしてなかったんだけど……事情を一切知らない紗羅から見たら、これは得体の知れない謎の万能袋にしか見えないだろう。
うんうん。期待通りのリアクションをしてくれて満足。
というわけで、紗羅にお菓子と紅茶を渡して。
「! ……美味しい」
「少し味見させて貰った際に、これは君が好む味だと思ってな」
「……………………そうですか」
またもや何かを言いたげにするオッドアイ娘。
懐かしいな。かつての僕たちのやり取りも大体こんな感じだった。
言いたい事があるなら言えば良いと思うんだけど、何故か紗羅は昔から飲み込む事が多かったんだよね。
なんてやり取りをしていると。
「2人共、随分と楽しそうな事をしているじゃないか。俺も一枚噛ませて欲しいところだ」
三下のアルベル君が仲間に入りたいと主張してきた。
寛大な心を持つ偉大なる僕は頷いて。
「フッ……良いだろう。貯蔵は十分あるからな。好きなだけ堪能するといい」
「あなたは本当に自由ですね。いえ、それは良い事でもあるのでしょうけれど」
紗羅がまたよくわからない事を言う。
そして目の前のずっと悪魔と戯れている銀の不審者がピクピクってした気がするけど、僕と同様にアルベルもそんなのは一切気にせず。
「ほう……やるな。ならば俺はワインを頂こうか」
「承知した」
そう言って、僕とアルベルはワインを飲み始める。
ふむ。少し酸味が強いが、まあこれはこれで好む層もいるだろう……なんて、僕は屋敷で味見してたから知ってる味だけどね。
とか考えながら横を見ると、アルベルは満足そうな顔をして。
「ふむ……流石は町長の屋敷の蔵にあったワインだ。悪くないな」
「そうだな。決して美酒というわけではないが、この世界で飲むワインと考えるならば十分だろう」
うん。新世界の文明レベルを考えたら及第点を超えた出来栄えだ。
もっと渋かったり酸っぱすぎたりして話にならないワインである事も想像していたからね。
そして次に。
「これは前のカルレアの街にあったワインだ。飲み比べをしてみると良い。紗羅はこちらの紅茶はどうだ?」
「ふっ……ところどころ姿を見せないと思ったら、抜け目のない男だ。感謝する」
「……なるほど。わたくしも、有り難く頂きます」
2人にそれぞれ新たなワインや紅茶、お菓子やツマミを渡す。
すると。
「へえ……独特な風味ですが、悪くないですね。普段から飲む物ではないでしょうけれど、こうして偶に飲む分には稀有な味を楽しめます」
とか。
「ほう……ワインにしては度が強いように思えるな。素材や製法が気になるところだ。あの狐族や狼族も多少は役に立つのかもしれんな」
とか。
僕たちはこんな風に、どこぞの銀の蛮族が1人で……いや、悪魔たちと一緒に仲良く戦う中、好き勝手に品評会をしていた。
気分は完全にピクニックとか食べ歩きとかである。
そんな中。
ふと、我らが白髪が。
「しかし、こうして俺は後ろで高みの見物というのも悪くないな」
「ほう?」
続きを促す。
目の前の悪魔とずっと戯れてる不審者がピクピクピクってする謎の軟体生物と化してるのを眺めながら。
「つまり。この程度の相手ならば、この俺が出るまでもない……というやつだ」
「フッ……君が楽しそうで何よりだ」
みたいに僕たちが話していると、目の前の謎の物体による震えが尋常ではなくなってきた。
なんかスライムみたいだな。
銀色のスライム。倒したら良い事ありそう。
とか思っていると。
「…………ない」
?
今、何か聞こえたような?
「……許さない……」
僕とアルベルは顔を見合わせて。
「……許さない……許さない……許さない……!!」
「何やら救われぬ怨霊による怨嗟の声が聞こえてくる気がするな、フェルナンド」
「そうだな、アルベル。実に恐ろしい物だ。思わず震えが来る」
悪魔の同僚への恐怖に震える可哀想な弱者たる僕とアルベル。
ふと紗羅の方を見ると。
「……これ、結構楽しい……はっ! いえ、何でもありません」
なんか怨霊が紗羅の事を裏切られた衝撃を示すかのような眼差しで見た後、思いっきり睨んでて面白いな。
それはともかく。
「人が黙って聞いていたら、随分と好き放題に言ってくれるわねっ!」
どうやら悪魔のお友達はお怒りのようだ。
今までお仲間を殺戮しまくって楽しく遊んでた筈なのに。
情緒不安定で怖い。
「そして何故か酒盛りまで始めたわね……」
そんな銀の悪魔はワイングラスを手に持つ僕とアルベルを呆れ顔で見てくる。
やっぱり新世界のアリスは表情がやたらコロコロ変わるな。
なんて思っていると。
「確かに前に出る事を望んだのは私だけど、こうぞんざいに扱われると流石に物申したくなるわよっ! というか、あなたたちは一体何をしているの!?」
なんかまた怒りながら言ってくるアリス。
するとアルベルが。
「ふっ……随分と我儘な事だな? フェルナンド」
「フッ……そうだな。1000年前と変わらんな」
うん。やっぱり僕とアルベルは気の合う仲間だね。
僕たちは硬い友情を確かめ合う。
「1000年前もこんな扱いをしていたの……? 私、皇族だったのよね……? 次期皇帝だったのよね……??」
いや。
言っておいてなんだけど、1000年前は流石にこんな扱いはしてなかった。いくら何でもあの時のアリス相手にこれをするほど僕は頭がおかしくはないからね。
我儘というのは変わってないから嘘を吐いたわけではない(屁理屈)。
とか思っていると。
「まあ好き放題するのは優れし者の特権ですからね」
なんかまたよくわからない事を言うセーラー服。
いやまあ、紗羅が言ってる事自体はその通りではあるんだけど。
銀髪は何やら驚愕の表情をしながら。
「ねえ。さっきから……もしかして紗羅も『そっち側』なの……?」
「いえ、この頭のおかしな男2人と同類扱いされるのは流石に遺憾です」
なんかセーラー服に首を横に振られながら失礼な事を言われたんだけど。
「その言い様には俺こそ遺憾だが」
「私も誠に遺憾の意を示さざるを得ないな」
「こいつらほんっとに……!」
いつものように怒る銀髪の怨霊。
というわけで。
「フッ……まあ、これでも飲んで落ち着くといい。かつての君が好んでいた味に近い茶だ」
「え? あ、ありがとう」
そもそも君は僕たち3人の仲間に入りたくて騒いでるんでしょ? みたいな事を言いたくて仕方なかったけど、こういう時に僕は意味深な男として大人な対応を見せるのである。
ちなみに、今更だけど紅茶やワインの材料がゴブリンだったりしない事は確認済みだ。
アリスは紅茶をゴクリと飲んで。
「……美味しい。……何故か淹れたてのように暖かい事とかその変な袋とか色々突っ込みたいけれど……まあ、良いわ」
うん。やっぱりチョロいなコイツ。
いやまあ、何度も繰り返すけど旧世界だとそもそもこんなに騒いだ姿を見た事ないんだけどね。
ちなみにこの変な袋の原理は僕もよくわかっていない。
フェリシアが作るのを横で見てたんだけど、凡人にはあまりに難解すぎたからね。
あいつ、知識の共有だとか世に技術を広める気だとかなんて一切なかったしなあ。
──そうしてアリスが落ち着いてから。
「それにしても。こういう時って普通、今回はどんな遺跡だとか前の遺跡との比較がどうとか紗羅とどんな関係があるとかそういう話をする筈よね……?」
唐突に全くの正論を言ってくるの面白いな。
今まで悪魔と遊んでた怨霊のセリフとは思えない。
なんて思っていると。
「ふっ……俺としては、アリスにこうして正論を言われるのは遺憾だな」
「お前さては遺憾って台詞を気に入ったな?」
口調を崩しながらアホの白髪にジト目を向ける銀髪。
──うん。これは良い機会だな。
「では、そんな君に私はこう言うとしよう」
隙を見つけた僕は、アリスの顔を直視しながら意味深なタメを十分に作る。
「な、なに?」
僕からずっと見つめられた銀髪が狼狽えるのを確認してから、フッと不敵な笑みを浮かべて。
「楽しければ、何でも良いのだとな」
『!!』
僕のセリフを聞いた3人は驚愕の表情を浮かべる。
「……それは、そうね」
「そう、ですね」
「ふっ……そうだな。流石だ」
凄く滅茶苦茶な事を言った自覚があるのになんか凄い納得されてる。
3人共、やっぱり僕とかなり相性良いよね。
こんな、単なる勢いと雰囲気のゴリ押しだけで納得したり賞賛したりしてくれるなんて。
──そして、1番重要な事として。
どうやら今回の言い争いの最終勝者は僕のようだね。
僕は勝者のワインを堪能しながら内心ほくそ笑んでいた。
とまあ、こんな感じで今回の冒険は進んでいった。
前回とはだいぶ違うけど、これはこれで非常に楽しいからいい感じである。
これは間違いなくイヴに投稿する話