安楽の証明ー祈りの果てにー 作:ナオミ・ペンバー
2004年、深夜。夜神月の部屋。
月はディスプレイに映る掲示板を見つめながら、静かに息を吐いた。
「……そうか」
リュークを使い、安楽様を探らせてから数日。リュークは「そんな奴はいなかった」と報告した。
この結果に、月はある種の納得を覚える。
「やはり、教義は信者が作り上げたものだったということか」
ノートを所有する者ならば、当然その力を何かの目的のために使うはず。
それがこいつには感じられない……
この時点で、月にとって安楽様は”少なくとも敵では無い”と判断できるはずだった。
しかし、問題は信者たちが勝手に暴走を始めたことにある。
安楽様の名を掲げた信者たちは、次第に過激な行動を取るようになっていた。
「死は救済」という思想のもと、死を望まぬ者にさえ「救い」を与えようとし始めたのだ。
掲示板には、信者たちの狂信的な言葉が並んでいた。
『安楽様のご意思に従い、迷える魂を救済すべきだ』
『我々は選ばれし者として、もっと多くの人々に安楽様の教えを広める必要がある』
『自ら死を選べない者にこそ、救いを与えるべきだ!』
月は小さく息をついた。
「愚かだな」
安楽死は個人の選択であるべきだ。
それを強要する教団の存在は、キラの理想にとっても不要なものだった。
月は指を組み、顎を支えながら考える。
この状況を放置すれば、キラへの影響が出る可能性がある。
“救済”の名のもとに暴走する信者たちが、キラの支配する新世界の障害になり得る。それは月にとって避けたいことだった。
加えて“安楽様”の影に潜むノートの所有者、信者たちが作り上げた理想に殉じ、暴走すら止める気配のないその無責任さが癪に障る。
「ならば排除すべき、か」
力を持つものは正義を成さねばならない。
確固たる信念の元、月は冷静に結論を下した。
同時刻、Lのアジト
Lはパソコンのモニターを見つめながら、スプーンで砂糖をかき混ぜる。
「……ふむ」
安楽様の信者たちが暴走し始めた。
最初は匿名掲示板の都市伝説に過ぎなかったが、今では”組織的な動き”が見え始めている。
「これは放置できませんね」
Lにとって、“死”を正当化する思想は極めて危険だった。
最悪な事にそれを信者たちが独自に拡大解釈し、社会全体に広めようとしている。
「安楽様の指示では無い……が、間違いなく把握している筈だ」
''貴方''は何を考えているのでしょうね。
Lは指を唇に当てながら、静かに考える。
現在の推理では、“安楽様”と”キラ”に直接的な繋がりはない。
だが、どちらも”死を選別する存在”であり、もし関係があるならば。
「もし”安楽様”という概念が広がれば、人々の倫理観はどう変化するでしょう」
Lは、教団の拡大が社会秩序に与える影響を計算し始めた。
今の段階では、“キラ捜査”が優先だが……安楽様も無視はできない存在になりつつある。調べる程に浮かぶ不可解な点、教団との温度差。
「調査を始める価値はあります」
まるで無機質な観察者のようだと、緩やかだが着実にLはパズルのピースを揃えていく。
「ワタリ、今から言うものの準備を頼みます」
____数日後、東応大学構内
月は大学の講義が終わった後、L____“流河”と名乗る男が近づいてくるのを視界に捉えた。
「夜神くん、少し時間いいですか?」
「……何の用だ?」
Lは菓子の袋を手に持ったまま、いつもの無機質な口調で続けた。
「最近、“安楽様”の教団が活発化しているのは知っていますか?」
月は眉一つ動かさずに答えた。
「ああ。ネットで見たよ。どうやら、少し過激な思想に傾いているらしいな」
Lは月の顔をじっと観察しながら、ゆっくりと頷いた。
「ええ。個人的に気になっているのは……安楽様の存在が”キラ事件”と関連している可能性があるかどうか、です」
月は心の中でわずかに警戒しながらも、表情には出さずに笑みを浮かべる。
「……キラと安楽様を結びつけるのは、少し飛躍しすぎじゃないか? ただの都市伝説だろう?」
Lは菓子を頬張りながら、目を細めた。
「そうかもしれません。でも、“死”に関わる事件が同時期に増えているというのは興味深いですね」
月は軽く肩をすくめる。
「偶然という可能性もあるだろう?」
「ええ、可能性はありますね。でも、私は”偶然”をそのまま信じるような人間ではありません」
月はLの瞳をじっと見つめた。
「それで、流河。君は安楽様をどうするつもりなんだ?」
Lは思案の後、口の端に微かに笑みを浮かべた。
「調査を進めるつもりです。特に、彼らの信じる”救済の手段”とは何なのか……それが分かれば、もっと有益な情報が手に入るかもしれません。」
月は内心で考える。
Lの関心は、まだ''安楽様”に留まっている。つまり、デスノートの存在には気づいていない。
「……なるほどな。まあ、興味深い話ではあるよ」
Lはやや身じろぎしながら、、月をじっと見つめる。
「夜神くんは、安楽様についてどう思いますか?」
月は口元に笑みを浮かべた。
「さあな。ただの都市伝説だろう……」
Lは少しだけ間を置き、それから微かに頷いた。
「……そうかもしれませんね」
そう言い残してLは踵を返した。
もう確認する事は何も無いかのように。
「死神が来ていた?____キラか。そしてLも関心を持ち始めている……」
『どうするんだ?』
「別に、何も。やる事は変わらないからね」
____行こう、もう少しだから
まだ流河として大学にいる頃、第2のキラが出る前の時期。
6~7話で完結予定です、次話が1番悩む。
感想評価モチベになりますどしどし下さい。