安価で祠をぶっ壊す   作:激辛党

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【謎の】宇美沢村探索スレpart6【因習村】

144:祠クラッシャ 20XX/10/14 (火) 21:30 exIDinject99

 意外にも、食事の最中は誰も――弥彦さんを含めて――喋ることは一切ありませんでした。

 皆、一様に黙々と箸を動かし、口へ運び、咀嚼するだけを繰り返していました。

 息の詰まるような緊迫感さえ漂う、異様な風景です。お陰でご飯の味など全く分かりません。

 

 どれほど厳格な教育の施された家庭であっても、ここまで冷ややかな食卓は拝めないでしょう。

 それとも僕が知らないだけで、厳正な場での食事とは、一言も発さないのが通例なのでしょうか。

 

 場のおおむねが箸を置く頃、ついに沈黙の破られる時が来ました。

 弥彦さんが、こつんと音を立てて、啜っていた湯呑を膳に戻しました。

 

 ごくごく僅かな響きであったにも関わらず、それに合わせて、他の者が皆一斉に彼の方を向き直ります。

 釣られて、僕も顔を上げてしまいました。

 

「今宵、皆に忙しい中わざわざご足労願ったのは他でもない……祠の件について、だ」

 挨拶もそこそこに、弥彦さんは切り出しました。

 

 途端、空気が張り詰めます。彼が喋る隙間の静寂は、それこそ水を打ったようでした。

 

「知っての通り、つい先日、北のかなめ祠が何者かの手によって破壊された。これが非常に由々しき状況であることは、本来あえて詳細に説明するまでもない。

 ……が、この場にはまだ村の慣例に疎い者もいる。事態の深刻さを周知する意味も兼ねて、かなめ祠の役割について、改めて私から話したい」

 

===

 

162:祠クラッシャ 20XX/10/14 (火) 21:41 exIDinject99

「そも、かなめ祠とは何か?」……弥彦さんの語った話は以下の通りでした。

 

 宇美沢村では、古くよりとある氏神様を村を挙げてお祀りしている。

 その御神体の鎮座まします社殿こそが、つまり三和戸神社である。

 

 このことから、氏神様のことを村の者は俗に『ミワトさま』とお呼びする。

 

 ミワトさまのもたらすご利益は様々あるが、その恩恵にあずかり続けるには、村全体が常に敬虔な信徒であらねばならない。

 この信心の根幹を為すものがまさに、かなめ祠である。

 

 村では東西南北の四方に分けて、かなめ祠が存在する。ちなみに中央に位置するのが三和戸神社である。

 村人の居住区分も、かなめ祠を中心として整理されていて、北区、東区……といったように分かたれている。

 

 区にはそれぞれ祠守りが、村長より任命されて就任する。

 彼らの役目としては、祠の守護はもちろんのこと、参拝も重要な一つである。

 

 参拝の頻度は月に1度。

 訪れる度に、ミワトさまへの捧げものを、祠の中に保管されている甕へと捧げる必要がある。

 捧げものの内容は、四季折々によって変化するが、基本的には蛇の脱皮した殻である。

 

 では、この参拝および、捧げものを行わねばどうなるのか?

 

 祠守りは、村長の認めた、責任感の強い立場ある年配者であるのが常であり、参拝を放念するなどの失態を犯すことはまず無い。

 

 しかし過去の事例を遡れば、残念ながら幾度かに渡って、有りうべからざる過失が起きている。

 

 直近でなら、二十三年前のこと。

 止むにやまれぬ事情があったか、はたまた単なる怠慢か。

 東区の祠守りが参拝を怠った、その月の最後。当時、東区に住んでいた村人たちは――

 

163:名無しさん 20XX/10/14 (火) 21:42 43EuS5zM

 なんだよ、変なところで切るなよ

 

164:名無しさん 20XX/10/14 (火) 21:44 aILVNPYz

 流れからして、ロクな目に遭わなかったってのはだいたい想像つくけどな。

 

165:名無しさん 20XX/10/14 (火) 21:45 nKf3tBad

 当てて見せようか。

 宙に浮かぶ白い球体に襲われた……そうじゃないか?

 

===

 

173:祠クラッシャ 20XX/10/14 (火) 21:55 exIDinject99

 弥彦さんは、そこだけ妙に低く、地の底に沈み込むような暗い声で言いました。

 

「東区に住んでいた者たちは、突如の火災に見舞われた。空すら覆わんばかりの、とんでもない大火事だったと文献に残っている。

 当然、多くの者が焼け死に、住居もほとんど焼失した。延焼が山まで及ばなかったのは、奇跡としか言いようがない。……あるいは、その他の三つの祠の効力はまだ残っていたからこそとも言えるだろう」

 

「それが……祠への参拝を忘れたせいだって言うんですか?」

 良くないとは分かっていましたが、僕はついつい口を挟んでしまいました。

 なぜって、どうにも納得がいかなかったからです。

 

 とんでもない大火事と言っても別段、人知の及ばぬ怪現象ではありません。その氏神様とやらの加護が有ろうが無かろうが、火災は起きる時には起きるでしょう。例えば乾燥が酷い時などに。

 

 しかし、この疑問は想定の範囲内だったらしく、弥彦さんは余裕ぶった笑みで答えました。

 

「この村では、火の取り扱いは殊更、厳に取り締まられている。すなわち光源になるからね。

 煮炊きの一つとっても、石窯の奥に閉じ込めて、決して明かりが漏れないよう、誰しもが細心の注意を払っている。

 今でこそ、炊飯器やIH調理器の登場によって、簡便に行えるようになったが、二十三年もの昔は、朝食をこさえるのにも多大な苦労を要したものだった」

 

「でも……そうやって怖がり過ぎたからこそ、逆に予期しない事故が起きてしまったのでは?」

 負けじと、僕が反論をすると、弥彦さんは大げさに肩をすくめてみせました。

 

「だとしても、一晩で区のほとんどを焼き尽くすような火災は現実的に有り得ない。初期消火の手順や設備は、当時も万全な体勢だった。にもかかわらず、東区は焼き尽くされた。だからあれは――」

 

 そこで唐突に、流暢だった説明が途切れました。

 一転して、弥彦さんは視線を畳へ下ろすと、ぼそっと付け足しました。

 

「かなめ祠をないがしろにした我々に対する、天罰だったのだ」

 

===

 

181:祠クラッシャ 20XX/10/14 (火) 22:00 exIDinject99

「事態の深刻さが分かってもらえたところで、話を最初に戻そう」

 

 湯呑のお茶を一口啜って、弥彦さんはそう仕切り直しました。

 

「現在、北のかなめ祠は完全に倒壊していて、捧げものを貢ぐ甕までも粉々になっている。

 まこと、参拝どうこう以前の、不信心極まりない有様だ。開いた口が塞がらない」

 

 じわりと全身に冷や汗が滲みました。まずいまずいとは思っていましたが、案の定、僕のやったことは、およそこの村では最悪の部類に入る所業だったようです。

 

 なにせ、その区の村の住人全ての命が掛かっているような大事です。

 実際問題、ミワトさまの天罰が有るかどうかは別として、村人全員がその神通力を信じている以上、もしも祠破壊の犯人が僕だと知られでもしたら……。

 その先を予想すると、指先に震えが走りました。

 

 決して絶対に、まかり間違ってもバレるわけにはいきません。

 別に今更、自分の命を惜しむつもりもありませんが、それはそれとして痛いのや苦しいのは御免です。

 気色ばんだ村人たちに、寄ってたかって袋叩きにされる未来を想像したら、それだけで意識が遠のくようでした。

 

「弥彦さま。して、その痴れ者の所在はもう掴めたのですか?」

 

 突然、全く別の者の声が聞こえました。弥彦さんに最も近い位置に座っている中年の女性がその主でした。

 彼女もまた和装なのですが、僕の隣の中居さんらしき女性とは違って、着物の色合いが紫に黄色と、やたら豪勢です。

 もしかしたら地位の高い人――例えばエツコお婆さんのような、別の区の祠守りなのかもしれません。

 

 弥彦さんは鷹揚に片手を挙げて、質問に答えます。

「いいや、まだ。目下のところ捜索中だ。……しかし、大方の見当はついている」

 

「それはいったい?」

 語気を強めて、中年女性が重ねて問います。

 

 全く気のせいでしょうが、顔こそ向けられていないものの、彼女の発言は暗に僕を示唆しているように感じられました。

 なぜって、弥彦さんの話を訊く限り、およそ宇美沢村の住人で、かなめ祠の重要性を理解していない者は誰一人として存在しないようです。

 それが破損されれば、ミワトさまの天罰が下る危険性があると知っていれば、壊そうだなんて夢にも思わないでしょう。

 

 となると、必然的に下手人は外部犯に限定されます。

 そして、この朝食兼会議の場に呼び出された、あからさまに余所者の僕……。

 もうわざわざ、弥彦さんの口から結論を聞く事さえバカバカしく思えました。

 

 昨晩はそれとなく訊かれる程度だったので、つい安心してしまったのですが、その判断は完全な誤りだったと今にして分かりました。

 弥彦さんはつまり、この公の場で、僕を断罪するつもりなのです。

 

 どくんどくんと、心臓が身体から浮き出るほどに鼓動しています。

 とっさに、僕は叫んでしました。

「違います! 僕は何もしていません!」

 

182:名無しさん 20XX/10/14 (火) 22:01 YqCK81Bc

 信じてもらえるわけないだろ! いい加減にしろ!

 

183:名無しさん 20XX/10/14 (火) 22:01 J7U3fL6p

 (語るに)落ちたな

 

184:名無しさん 20XX/10/14 (火) 22:01 BBxLsUpi

 逆に訊きたいんだけど、こっからどう助かる気だったんだこのバカ……。

 

185:名無しさん 20XX/10/14 (火) 22:01 cbKmWhEq

 フルボッコで草 まぁそうなるわな

 

===

 

199:祠クラッシャ 20XX/10/14 (火) 22:12 exIDinject99

 しん、と大広間は静まり返りました。

 

 弥彦さんも、中年女性も、吉野くんも。誰しもがじっと黙って、僕の方を見つめています。

 その視線は……しかし決して、非難めいたものではなく……かといって優しいものでもなく。

 なんと表現すれば良いでしょうか。

 手に取った中古商品の値打ちを見定めるような……そんな冷徹で、計算高いようなものでした。

 

「ふっ」

 

 突然、笑い声がしました。

 

「ははは!」 弥彦さんのものでした。彼は大口を開けて、笑っていました。

 

「面白いことを言うじゃないか、倉敷瑞希さん。

 いったいいつ、だれが、あなたを疑ったというのかね?」

 

「え? や、それは……っ」

 思わず、しどろもどろになります。

 彼の言う通り、今のは僕の早とちりであって、まだ誰も僕を名指して犯人扱いはしていません。

 だというのに、躍起になって犯行を否定するのは、『僕がやりました』と自白しているのと同義です。

 

「えっと、違うんです。僕は確かに村の外から来た人間ですが、けど祠を壊してなんていません。……なんというか、真っ先に疑われそうな立場ですけど、そうじゃないんですって言いたかったんです」

 

「分かっているよ」

 

 弥彦さんは、見透かしたように答えました。

 

「確かに、あなたの考えは的を射ている。我々が一番先に挙げるとすれば、それはあなたのような、外部から来た人間だ。だが、あなたはやっていない。それは重々分かっているとも」

 

「お待ちください!」

 

 先ほどの着物姿の中年女性が、鋭い声を発しました。

 

「弥彦さま、そう結論付けるにはいささか性急では? せめて、今しばらくの調査を続けてからでも……」

 

「北のかなめ祠が消失した状態で、今しばらく? ずいぶん悠長なことを言うね、テツコさん」

 

 真っ向からの批判に、テツコさんと呼ばれた女性は、鼻白んで押し黙りました。

 ですが、内心で納得がいっていないのは明らかで、小声でもごもごと口を動かしました。

 彼女のそういった不服に同調するかのように、隣席の者たちも互いに目を見合わせだします。

 

 騒然となりつつある場をいさめるように、弥彦さんは再度、はっきりとした語調で言いました。

「私の口から断言させてもらおう。今、この場にいる倉敷瑞希さんは、北のかなめ祠を壊した犯人ではない」

 

 あまりにその態度が堂々たるものだったので、反射的に「なぜ?」という一言が口をついて出ました。

 

「なぜ、弥彦さんはそう思うのですか?」

 そして、言った後に絶大な後悔が湧きました。自分を庇ってくれようとした人に、疑義を呈していったいどうするのでしょう。

 

「簡単なことだよ」

 弥彦さんはさも当然のように答えてくれました。

 

「外部にはもちろん、村の皆にさえ詳細に伝わっていないことだが……。

 四つのかなめ祠を建立されるにあたって、初代の神主さまはある術法を施しになった。

 神聖なる祠が、よこしまな考えを持つ者によって冒されることのなきように」

 

「それはいったい、どういった……?」

 恐る恐るといった口調で、テツコさんが問います。相当の立場にあるはずの彼女すら、その術法とやらには聞き覚えも無かったようでした。

 

「自らの意志でもって、祠を穢し、破損せしめた者は、一晩が明けぬうちにその命、以てミワトさまの心慰みとして献上されるべし……とね。

 神代の血も薄れた現代の話ではない。強大な神通力を有していた、初代さまのお言葉だ。信じぬことこそ不敬である。

 だから倉敷瑞希さん。五体満足で、この場で呑気に朝食を食べている……そのこと自体が、何よりあなたの無罪を示しているんだよ」

 

 そう微笑みかけてくる弥彦さんの目は、その実、まるで笑っていませんでした。

 

===

 

 

208:名無しさん 20XX/10/14 (火) 22:14 l3YzCaBt

 つまりどういうことっすか?

 

209:名無しさん 20XX/10/14 (火) 22:14 OdLZB3Rg

 かなめ祠を壊したら、絶対にバチが当たる。

 なら逆に、バチが当たっていないなら祠を壊してはいないってこと。

 いちいち言わせんな恥ずかしい。

 

210:名無しさん 20XX/10/14 (火) 22:15 nKf3tBad

 妄信もここまで行くとある種、滑稽だね。

 自分の信ずる神の社を傷つけた不心得ものを、その口で庇う羽目になるとは。

 祠クラッシャくんにとっては、幸いに働いたようだけど。

 

===

 

 

234:祠クラッシャ 20XX/10/14 (火) 22:43 exIDinject99

 弥彦さんのその言葉に、反意を表明する者は誰もいませんでした。

 一同、神妙な顔ながらも、無罪判決の下された僕の方をまじまじと見つめています。

 

 一方の僕はと言えば、恥ずかしいやら、嬉しいやら、不気味やら……様々な感情が一斉に湧いてきて、どんな顔をすれば良いか分かりません。

 結局、どうすることもできず、また最初のように目の前の膳をじいっと見下ろしていたところ――「さて」と、弥彦さんが打って変わって軽い調子で言いました。

 

「ひと段落したところで、今後の話に移ろうか。

 倉敷瑞希さんの処遇についてだが、ひとまず迎えが来るまでは、ここで預かろうと思う。

 無論、西谷さんに話を通して、即刻退去いただいても構わないのだが、彼女の方にも色々と事情があるようだからね……」

 

「色々と、ですか」

 そこで口を挟んだのは、テツコさんではなく、その対面に座る老齢の男性でした。大広間に入った時からずっと、両腕を組んでむっつりとしていたあの人です。

 

「私は賛成しかねますな。彼女にどういった事情があるにせよ、例外を認めては村の風紀をいたずらに乱す」

 

 そうだそうだ――と、彼の隣に座る者たちが次々と追従しました。直属の配下、もしくは親族筋の方々なのでしょうか。

 

 それで勢いに乗ったように、老爺は語勢を増して続けます。

 

「それに、いかに初代さまの術法が適用されなかったとはいえ、時期的に見て彼女の素性は怪しすぎます。少なくとも、祠の復旧がなるまでは、地下牢なりに閉じ込めておくのが吉かと……」

 

 一度引っ込んだはずの怯えが、またぞろ持ち上がってくるのを感じました。

 地下牢……? この現代日本において、そのような野蛮なものがあるとは聞いていません。

 

 僕が何も言えないでいると、弥彦さんが「いいや」と、力強く彼の発案を否定しました。

「その必要は無い。

 彼女とは昨晩も、一対一で話をさせてもらったが……少なくとも、悪心を持った人物ではないことは良く分かった。

 また、年齢的に見ても、陳腐なマスメディアの雇う手先という事も無いだろう。むしろ家に帰りがたい哀れな子供として、村で面倒を見てやるこそが、ミワトさまの本願に叶うところであるはず」

 

「ははあ……ですがそのような前例は」

 まだ老爺が反論を続けようとするのを察してか、弥彦さんはそれを遮って、更に言った。

 

「堂次郎、お前が心配がるのも分かる。だが案ずるな。家へ置くとは言ったが、何も放置しておくわけじゃない。

 ひとまず彼女には社殿にて、直々のご裁断を受けてもらう。もしも、私の目に曇りがあったとしても、そこで誤謬は正されよう」

 

「……分かり申した」

 堂次郎さんという老爺は、ようやくこれで引き下がりました。

 

 しかし、僕にはここで一つの新情報が飛び込んできました。知らぬ間に、次の行先が勝手に決められています。

 社殿といったら、三和戸神社そのもののことでしょう。そこで誰かしらに裁断を受けないといけないようですが……。

 ならせめて、僕本人に事前に了解を取ってからというのが、物の筋ではないでしょうか?

 

「というわけだ」

 ――そういった僕の心境を知ってか知らずか、こちらへ向き直ると、弥彦さんは少しいたずらっぽいような笑みになりました。

 

「身支度を整えたら、社殿へと出立してくれ。安心しろ、案内の者は同行させる。いいな?」

 

 最後は疑問形のようでしたが、実際のところ拒否権は無さそうでした。

 

235:名無しさん 20XX/10/14 (火) 22:44 phi74Y9h

 今、思い出したけど、宇美沢村から出ることを拒否したのは、祠クラッシャ側からだったなそういや。

 まぁ確かに、顔も性別も変わってちゃどうしようもねーわ。

 

236:名無しさん 20XX/10/14 (火) 22:45 aILVNPYz

 だからって、弥彦に言われるがままに村に居つくのは論外だろ。流れに乗せられ過ぎじゃね? 祠を壊したのだって、いつかはバレそうなもんだしさ。

 もしかして詰んだか?

 

237:名無しさん 20XX/10/14 (火) 22:46 nKf3tBad

 個人的には、弥彦氏の話に出てきた、古代神道の術法の方がよほど気になるね。

 皆、当たり前のように呑み込んでいるが、人間一人の生命を直ちに神への捧げものとして奪い去るとは、いったいどういった理屈なんだ?

 

 それともこれは一種の例えで、雷にいきなりに打たれるといった多大な不幸が訪れることを意味するのか?

 

===

 

257:祠クラッシャ 20XX/10/14 (火) 23:01 exIDinject99

 弥彦さんの号令で、会合はお開きとなりました。

 再び吉野くんが僕を連れ出し、今朝の5時前にも行った和室へと戻ります。

 

「では、僕はこれで。しばらくしたら、弥彦さんの言っていた案内の人が来ますから」

 吉野くんはそれだけ言い残して、早々にどこかへ行ってしまいました。

 

 一人、部屋に取り残された僕は、とりあえずスマホを弄ろうとしましたが、その機能の大半が死んだままであることを思いだし、意欲を失いました。

 検索もゲームもできないスマホに、どういった楽しみを見いだせと言うのでしょうか。

 

 唯一、なぜだかネット掲示板だけは使えますが、あの無責任な連中と相談する気分にはあいにくなれませんでした。会合の一部始終を言って聞かせたところで、どうせ「自業自得乙ww」と返されるだけに決まっています。

 

 それなら、畳の上にでも転がって、ぼうっと天井を見上げて頭を休ませるほうが、よほどマシでしょう。

 

258:名無しさん 20XX/10/14 (火) 23:02 DcuVa4nH

 自業自得乙ww

 

259:名無しさん 20XX/10/14 (火) 23:02 znFxYdnl

 心配しなくてもAIの力で全部筒抜けっすね

 

===

 

278:祠クラッシャ 20XX/10/14 (火) 23:27 exIDinject99

 ほどなくして、「もし」と控えめに呼ぶ声が襖の向こうから聞こえました。

 もしかしなくても、案内の人でしょう。無視したい気持ちはありましたが、大した時間稼ぎにもならないでしょうし、僕は素直に迎え入れました。

 

 襖の向こうにいたのは、昨夜にも会った二十代の女性でした。

 古めかしい印象の割烹着を着た人で、捻挫した足に湿布を張ってくれたのも彼女です。

 この何もかも異常な村の中では、数少ない良心的な存在と言えました。

 

「あ、昨日はどうも……」

 取りも直さず、お礼を口にすると彼女もぺこりとお辞儀しました。

 

「いえいえ、大したことではありませんから。……足、もう良くなったんですか?」

 

「え? ……ああ、そうみたいです。全然痛くないので」

 

「それは良かった。社殿までは割と距離があるので、ちょっと心配だったんです」

 彼女はにっこり笑うと、腕に抱えていた衣類を、ひょいと前に突き出しました。

 

 それは見るからに女性ものの柄をした着物でした。

 訳が分からず、僕が呆然としていると、彼女は「すみません、これしかなくって」と申し訳無さそうにします。

 

「今時の外の人なら、スカートやパンツみたいなのがお好きなんですよね。知ってます。ですが、そういうのはすぐに用意できなくって。

 慣れないとは思いますが、これで我慢してくれませんか?」

 

 どうやら、彼女は僕に着替えて欲しいようです。

 もちろん、僕としては毛頭そんなつもりは無いので、「嫌です」と簡潔に突っぱねようとしました。

 

「困ります……。ミワトさまの社殿に向かうのですから、きちんとした格好をしてもらわないと」

 すると、彼女は眉を寄せて悲し気な表情を浮かべました。

 

 これは実に卑怯な手です。僕も男ですから、妙齢の女性にこういう顔をされては、強情を張るわけにもいきません。

 

「分かりましたよ。着ればいいんでしょう、着れば」

 半ばやけくそ気味に返し、僕はその群青色の着物を受け取りました。

 

===

 

290:祠クラッシャ 20XX/10/14 (火) 23:51 exIDinject99

 なにぶん、過去に一度も着たためしの無い和服、それも女性ものの着物でしたから、ちゃんと着込むのにはかなりの手間を要しました。

 

 とりわけ帯を巻く部分が鬼門で、彼女――冷泉さんという名前でした――の手を何度も何度も借りて、ようやく最低限の体裁を整えることができました。

 この間に具体的にはどういった労苦があったかについては、書き連ねたくもありません。

 十代の男子高校生が半裸に剥かれたうえ、年上の女性に矯めつ眇めつされる状況を思い浮かべてもらえれば、それがどれだけ屈辱的なことかお判りでしょう。

 

 さておき準備の整ったところで、冷泉さんは僕の手を引き、屋敷の玄関へとまず向かいました。

 靴脱ぎのところで、僕は自前のトレッキングシューズを探しかけましたが、その矢先に草履を押し付けられました。

 藁を組んだ簡素なものでなく、エナメル製のいかにも高級な物です。

 

 さすがに驚いて、

「いやこれはちょっと……」と、押し返そうとしましたが、

「サイズが合いそうなのが、これしかありませんから」と強引に押し切られてしまいました。

 

 最初は柔和な雰囲気の女性かと思いましたが、冷泉さんもやはり、一筋縄ではいかない人物のようでした。

 

291:祠クラッシャ 20XX/10/14 (火) 24:00 exIDinject99

 屋敷を離れ、暗がりの林道を進みます。

 冷泉さんが先導してくれるので、道に迷う心配は無さそうです。

 

 ただし、懐中電灯などの照明は当然と言うべきか、彼女も用意していませんでした。

 何のしるべも無い、ただ暗黒だけが広がるような世界を、しかし真っすぐ僕達は進んでいきます。

 

「足元、気をつけてくださいね」

 道すがら、冷泉さんは思い出したように振り向いて、そう声を掛けてくれました。

 

 今更かよ……と内心、ため息を吐きましたが、ここは見栄を張るべき場面です。

「いえ、大丈夫です。なんというか、もう慣れたんで」

 と、きっぱり返しました。

 

「そうですか。……それは良かった」

 

 冷泉さんは、あまり喋るのが好きな性格ではないようで、それきり会話は途絶えました。

 無心で両の脚を動かしていると出し抜けに、ぼおん、ぼおんと重厚な音が鳴りました。

 村にとっての、正午を知らせる鐘の音――昨夜はあれほど不気味に聞こえたそれは、なぜだか少し、親しみ深くもありました。

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