安価で祠をぶっ壊す   作:激辛党

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【謎の】宇美沢村探索スレpart7【因習村】

310:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 00:38 exIDinject99

 宇美沢村は元々、深い山奥にありますが、三和戸神社はとりわけ分け入った場所だそうです。

 

 小石や枝がそこら中に転がる山道を、前を行く冷泉さんはすいすいと登っていきました。

 彼女は特段の訓練を積んでいる風でもない、見た目ごく普通の女性なのですが、その身のこなしの軽やかさは、さながら野鹿です。

 

 僕が息を切らして、やっとのことで登り終えるような坂を、彼女はもろともしません。先々とてっぺんに辿り着き、遥か後方でひーこら喘いでいる僕を振り返っては、見守っているとも、あるいは蔑んでいるとも取れる微笑みを湛えているのでした。

 

 そんな冷泉さんでしたから、果たして彼女が案内役として適当なのか、僕としては甚だ疑問に感じなくはなかったのですが、正しい方角へ導く、という点についてだけ論じるならば、彼女は確かに優秀でした。

 

 午前零時を知らせる鐘が鳴り響いてから、体感でおよそ30分程度経った頃でしょうか。

 それまで急斜面の連続だった山道が急に平坦となり、あれほど周囲に茂っていた木々すらもパッと魔法のように立ち退きました。

 

 開けた視界に入ってきたのは、前方へ真っすぐ伸びる敷石の道。そして、その中途に仁王立ちで待ち構えている赤紅の鳥居でした。

 

 まだ見えただけなのに、僕は面食らって、思わずその場に立ち尽くしました。

 宵闇の黒に染まり切った景色にあって、鳥居はあまりに鮮烈な色を発していたからです。

 それはあたかもネオンサインのように、僕の脳裏に焼き付きました。

 

「どうしましたか?」

 

 背後から掛けられた声に重ねて驚き、「きゃっ」と我ながら情けない悲鳴が出ました。

 誰かと思いきや、当然ながら冷泉さんです。一体全体、いつの間に後ろへ回り込んだのでしょう。

 

「瑞希さんがぼうっと立っている間に、ですよ。鳥居がそんなに珍しいのですか?

 下の方の神社でも、ああいうのはまだ現役だと聞きますけど」

 

 少し不思議な訊き方でした。

 どういう意味か推察するのに、やや時間を要しましたが、分かればなんて事の無い話です。

 下の方、とは僕が住んでいる街、ないしは都会を指すのでしょう。となれば、答えるのは簡単です。

 

「いえ、鳥居が珍しかったわけじゃないんです。こんな奥まった所なのに、やけに綺麗な見た目だなって……」

 

「もっとうらぶれた、廃墟同然の神社を想像していましたか? ご期待に添えず、申し訳ありません」

 

 皮肉めいた冷泉さんからの返しに、慌てて僕は両手をぱたぱた振りました。

「ち、違いますって」

 

「分かっています。冗談です」

 そう言って、彼女はまた例の微笑みを浮かべます。

 ただし今度のそれは、9割9分のネガティブな感情が垣間見えるものでした。

 

311:名無しさん 20XX/10/15 (水) 00:39 D0KGXtPH

 今更だけど、ほいほいついてきて良かったのか?

 どう見ても呪いの本拠地だぞ。

 

312:名無しさん 20XX/10/15 (水) 00:40 7NkAbCc0

 独喰らわば皿までの精神じゃろ。

 どのみち、あの状況下じゃ逃げようが無かったし、しゃーない。

 

313:名無しさん 20XX/10/15 (水) 00:42 2ItpqLoS

 弥彦氏の目論むところとしては、この神社の神主のご裁断を仰ぐ――とのことだったが、まぁロクなものではないだろうね。

 

314:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 00:55 exIDinject99

 真冬並みの冷気を発する笑顔のまま、冷泉さんは懇切丁寧に説明してくれました。

 

「倉敷さんがこれまでどういった世界で暮らしてきたか、私には想像も及ばないけれど、私たちにとってミワトさまは掛け替えの無い、大切な存在なんです。

 神主様のご一家はもちろん、私たち氏子らも毎日お勤めに励んでいるのですから、美しく保たれていて当たり前です」

 

「あっ……はいすみません」

 気圧されるあまり、とっさに謝罪が口をついて出ました。

 冷泉さんはそれで幾分か機嫌を直したようで、「では行きましょう」と、さっそく鳥居の方へ歩き出します。

 

 近づくにつれ、鳥居の全容が明らかとなってきましたが、意外にもそれは特筆すべきところの無い、ごく一般的な物のようでした。

 

 二本の柱の上に笠木を乗せて、その下側に柱同士を繋げて支える貫が一本、入っています。

 他に余計な装飾は一切なく、例えば鳥居の上部中央に掲げられる額束――神社の祭神の名などが記される扁額――なども備わっていません。

 

 大まかな種別としては、いわゆる神明鳥居に分類される形状です。それも極めて素朴な。

 

 冷泉さんの言うよう、村ではミワトさまを大いに崇め奉っているはずですが……過剰な装飾はむしろ敬遠される、ということなのでしょうか。

 

 少し興味が湧きましたが、質問したいという欲求をぐっと堪えました。これ以上、余計なことを口にして、冷泉さんの神経を逆撫でしたくありません。

 

315:名無しさん 20XX/10/15 (水) 00:56 HTCGuSHV

 なんやコイツ。急に専門用語使いだしおって。

 神明鳥居ってなんぞ?

 

316:名無しさん 20XX/10/15 (水) 00:57 pAB0S1xv

 訊く前に自分でググる癖を付けろサルゥ!

 

317:名無しさん 20XX/10/15 (水) 00:57 w9kHQ1uj

 は? なんで俺がそんな手間かけんといかんのじゃボケ。

 >>318、お前が調べてこい

 

318:名無しさん 20XX/10/15 (水) 00:58 omfLsCaM

 神明鳥居とは……調べてみましたが良く分かりませんでした! いかがでしたか?

 

319:名無しさん 20XX/10/15 (水) 00:59 2ItpqLoS

 それを説明し出すと長くなるから、大胆に端折るが……

 最も古くから存在する鳥居の形状の一つで、シンプルな見た目であることが特徴だ。

 かの有名な、天照大神に由来する神社にて多く見られる。

 

320:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 01:01 exIDinject99

 鳥居を抜けて境内を少し行くと、ついに本殿が見えてきました。

 正面から見て、横長の長方形をした木造建築で、長い方のラインに大きな扉があります。

 大きさとしては、平屋建ての一軒家と同程度。わりあい、小ぢんまりとしてます。

 

 屋根は瓦ではなく、茅葺きとなっていて、それも本を上から伏せたような切妻型です。

 分厚く、直線的な外観のそれには、鳥居と同じくやはり何の装飾や、彫刻も施されておらず、端的に言えば質素な見た目でした。

 

 強いてポイントを挙げるなら、茅葺き屋根の上に乗っている横向きの木材でしょう。鰹木――と呼ばれるそれが、四本渡されていましたが、いずれも最近になって新調されたものらしく、若々しい木肌を晒していました。

 

 境内に人影は無く、ここまで歩いてきた山道と同じく、シンとした静けさに包まれています。

 弥彦さんの話では、神社には天野さんと言う神職のご一家がいるという話だったはずです。

 

 しかし、辺りを見渡してみても、本殿以外の人のいそうな家屋はありません。

 屋根の付いた手水舎は少し離れた箇所にありましたが、そこには水を湛えた鉢があるだけでした。

 

===

 

330:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 01:23 exIDinject99

 いったいこれからどうするのか。冷泉さんの方を振り返ってみて――言葉を失いました。

 

 そこには誰もいなかったからです。

 確かに、つい先ほどまで僕は冷泉さんと一緒にいたはずです。

 石の敷き詰められた道を進み、鳥居を抜けて境内に入って、しげしげと本殿を眺めていました。

 どの段階で、彼女とはぐれたというのでしょう? 

 よしんば、向こうが悪戯心でもって僕からこっそり離れようとしたとしても、他に誰もいない状況なのですから、離れ行く足音ですぐ分かります。

 

 まるで、何かの怪奇現象によって忽然と姿だけが掻き消えたようでした。

 普段の僕なら、そんなはずはないと必死になって捜索に励むでしょうが、いかんせん、ここは呪いなんて言葉が簡単に出てくる異邦の村です。

 

 冷泉さんが、僕の知らぬ間に妖術によって転移した可能性もゼロとは言い切れないため、ここは慎重を期すことにしました。

 

「冷泉さーん……?」

 まだ境内にいるなら、聞こえる程度の音量で彼女の名前を呼びました。

 同時に、そろりそろりと後退します。

 神社の中へと勇んで乗り込んでゆく選択肢は、とっくに消滅していました。案内がいても御免被りたいような場所に、どうして単身で行く必要があるでしょう。

 

「冷泉さん、いませんかぁ……?」

 

 もう一度の確認をしたのち、僕はとうとう踵を返して、元来た道を戻ることにしました。冷泉さんの身に何があったかは分かりませんが、少なくとも僕にできることは何も無いのは確定的です。

 

 弥彦さんの屋敷にいったん戻り、救援を願おう……そう心に決めて、鳥居へと一歩足を踏み出した矢先に「無礼者」――出し抜けに少女の声が叱咤しました。

 

331:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 01:33 exIDinject99

「挨拶も無しに上がり込んできたと思えば、賽銭の一枚も投げずに直帰とな。開いた口が塞がらぬとはこのことよ」

 

「え?」

 唖然としたのはむしろ僕の方です。

 事態が何も分からないなりに、状況把握に努めようと辺りを見渡したところ、あろうことか今、目の前にしている真っ赤な鳥居の上に少女が一人、立っているのでした。

 

 そう、鳥居の上にです。あの簡素な外観の笠木に、二本足をしっかり付けています。

 

「無礼者はそっちだろ」

 あまりの驚きのためか、心に浮かんだツッコミがそのまま口を衝いて出ました。

 神社の鳥居は、神様にとっての玄関であって、非常に神聖なものです。それを土足で踏みにじるなど、村人に見られでもしたら八つ裂き間違いなしの悪行でしょう。

 

「これは異なことを」

 

 対する少女は、僕の非難を意にも介さず、颯爽と鳥居から飛び降りました。

 ふわり、と漆に浸したような艶やかな黒髪が舞います。

 着地――するや否や、流れるように前へステップ。一瞬にして距離を詰め、気づいた時にはもうその少女は僕の鼻先に、剣呑な目つきで睨んでくるのでした。

 

「弥彦の紹介に加え、冷泉のお嬢が直々に連れてきた客人だ、さぞや貴い血筋の持ち主かと思いきや……。態度も言行も不届き千万、でき得ることならこの場で切って捨てててやろうか」

 

 立て板に水のごとく、のたまう少女は腰元にスッと手をやりました。

 以前にショート動画で見た、居合抜きの達人のするようなポーズです。

 

「待った!」

 慌てて僕は両手を挙げて、敵意が無い事を表示しました。

 少女が刀を佩いているかどうかはさておき、この子に喧嘩を打ってはまずい――そういう直感が、頭の中でガンガンと鳴り響いていたからです。

 

===

 

339:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 01:41 exIDinject99

「僕は怪しい者じゃない。倉敷……瑞希。色々あって、この村に迷い込んじゃった高校生だ。ここへは――」

 

「弥彦の差し金で来たのだろう。とっくに了知しておるわ」

 

「なら不届き者じゃないって分かるだろうが」

 

「あ?」

 再び物騒な眼光を、切れ長の双眸が灯します。紛れも無い殺意がそこには宿っていました。

 

「違う違う、今の無し!」

 この時ほど、自分の生来の粗暴さを悔やんだことはありません。妹の百分の一の清楚さが僕にも宿っていれば、このように無駄な危機を招くことも無かったでしょう。

 

 ともかく少女の怒りを収めるべく、ぺこぺこ必死に両手を合わせて降参を示すうちに、少女の表情は唐突に、怪訝そうなそれに切り替わりました。

 

「お前……」

 かと思いきや、こちらへにじり寄ってきて、いきなり僕の胸元に顔を突っ込んでくるではありませんか。

 あまりに予想外の動きだったため、全く反応できませんでした。

 

「どぅわっ!? 急になに――」

 抗議は一切聞き入れられず、少女は僕を押し倒さんばかりの勢いで、鼻頭を擦りつけてきます。

 こそばゆいやら、暖かいやら、黒髪が妙にかぐわしいやらで、我慢の限界を一瞬にして迎えた僕は、とにもかくにも彼女を突き飛ばそうとしましたが、両腕に力を籠める一瞬前に、相手はひらりと身を翻していました。

 

「なるほどの」

 とんぼ返り――。恐ろしいことに、宙で一回転を挟んでから、事も無げに少女は着地を決めました。体操選手がマットの上でやるような技を、何の助走も無しに、です。

 

「よう分かった。弥彦が取り込もうとするのも頷ける。何とも面白い奴を連れてきたものよ」

 少女は楽し気に笑っていました。

 

340:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 01:51 exIDinject99

 きちんと正常な距離感を取って、改めて少女を観察してみると、つまり彼女は三和戸神社の巫女のようでした。

 

 綺麗に紅白に分かれた小袖と袴に加え、長い黒髪は後ろで一本にまとめてあります。まさしく、絵に描いたような巫女さんの恰好でした。

 

 歳は十代後半……僕と同じか、少し上くらいでしょうか。背丈についても、今の僕よりは少し高いです。

 しかしそういった印象は、威風堂々とした言動のために大人びて見えるだけで、実際はもっと幼いのかもしれません。

 一口に言えば、年齢不詳の女の子でした。

 

「ワシのことは、ミカゲと呼べ」

 互いのわだかまりを、どうにか解消した後、少女はそう名乗りました。

 

「じゃあフルネームは、天野ミカゲってこと?」

 

「その通りだが、苗字では呼ぶな」

 何の気無しに僕が言うと、少女は即座に拒絶を示しました。

 

「なんでさ」

 

「そのくらい察しろ。俗世のお前には馴染みのない事かもしれんが、神職には色々あるのだ」

 

「はあ……」

 

 少女改め、ミカゲは一見気難しい性格のようでしたが、顔を突き合わせて話してみると、案外気さくでした。

 

 先ほどの一幕は、単純に互いの間が悪かっただけらしく、隠し持った小刀で斬りかかってくる気配など、今や微塵もありません。

 

 境内の中にあった、石造りのベンチ……のようなものに、僕たちは二人して座り、ひとまずの情報交換が始まりました。

 

===

 

367:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 02:12 exIDinject99

「弥彦さんから、僕の話はどれくらい聞いてる?」

 

「お前……つまり、十代のおなごが村にうっかり迷い込んだ。ついては、そいつの素性の良し悪しに関して、ワシ達の判断を仰ぎたい、といったところだ」

 

「素性の良し悪し!? そんなの見ただけで分かるもんなのか?」

 驚き呆れる僕に、ミカゲは「ふん」と自信満々に鼻を鳴らしました。

 

「かりそめにも、次代の神主の座を担うべき直系の子孫ぞ? 個々人に纏わる縁起の一つや二つ、占えずしてどうする」

 

「と言うと、いわゆる占い師みたいな真似ができると」

 

「あのような下賤な香具師と一緒にするでない! それに真似事とはなんだ!」

 

 そう言ってプンスカ肩を怒らせるので、試しに色々と訊いてみることにしました。

 まずはもちろん忽然と姿を消した冷泉さんについてです。

 

 すると、彼女は「なんだ、その事か」とつまらなさそうに答えてくれました。

 

「境内を囲っとる林は、一見深いようでその実、いくつもの抜け道がある。お前がぼうっとしとるうちに、いずれの一つから逃げ出したのであろ」

 

「なるほど」

 そう言われてよくよく目を凝らしてみれば、確かに林の一部には、人が通れるほどの狭間が開いています。

 分かってみれば、なんてことはありません。彼女はそこから、そうっと逃げ出したのでしょう。

 ともすれば怪奇現象でも起きたか……と戦々恐々していた自分が途端にバカらしくなりました。

 

 しかし方法があったとしても、どうして冷泉さんは僕の前から姿を消したのでしょうか。

 

「それも簡単なこと。あやつ、ワシのことを蛇蝎のごとく嫌っておるからな。

 弥彦の言いつけには従わざるをえなんだが、直前になって嫌になり、すっぽかしたのじゃ」

 

 そう語るミカゲは悪戯っぽい笑みを浮かべていますが、しかし嘘を言っているようには見えませんでした。

 僕としても、冷泉さんとは昨夜出会ったばかりなので、反論も擁護もしようがありません。素直にその説を受け入れることにしました。

 

「じゃあ、肝心の僕については? できるって言うなら、占ってみろよ」

 

「いいだろう。遠慮なく裁断せよ、との言伝でもあったしな」

 

 ミカゲは一呼吸を置くと、真っすぐ合わせていたはずの視線をやや上へと逸らし――それこそ()()()()()()()()()()を睨むようにして――ぽつんと呟きました。

 

「お前、死した妹に憑りつかれておるぞ」

 

368:名無しさん 20XX/10/15 (水) 02:13 7NkAbCc0

 そう来たか

 

369:名無しさん 20XX/10/15 (水) 02:13 2IlomirC

 占う(未来を予言するとは言ってない)。

 

370:名無しさん 20XX/10/15 (水) 02:14 2ItpqLoS

 倉敷瑞希の死霊がすなわち性転換の原因だったとでも?

 バカバカしい。

 

371:名無しさん 20XX/10/15 (水) 02:15 exIDinject99

「弥彦が訝しむのも当然よな。お前のように、死臭をぷんぷんと漂わせた輩は、方々から人の集まるこの村でも、なかなかどうして巡り合えん。

 かく言うワシも最初お前を見た時は、破れたる結界より紛れて入った浮遊霊の類かと思うたほどだ」

 

 ミカゲは得心した様子で続けていますが、僕は相槌さえまともに打てません。

 彼女はいったい何を言っているのでしょうか?

 僕の妹――倉敷瑞希は、確かに故人です。

 

 二年前、妹は不幸な事故で水死しました。ですが、その事はこの村の住人には誰一人として話していません。

 身辺を調査するにしても、ネット環境も整っていないここでは不可能です。

 いったいどうやって、ミカゲは妹の存在を知り得たのでしょう。まさか本当に、占いが使えるとでも?

 

 いいやそれよりも驚くべきは、僕に妹が憑りついている、という部分です。

 それだけは絶対に――あってはならないことでした。

 

「ふざけるな!」

 怒鳴り声が自然と迸りました。

 

「言っていいことと悪いことの区別もできないのか! あいつは……もうどこにもいない!」

 

「いいや、いる。お前が認めようとも、認めざろうとも。

 しかし解せんのは、なぜその妹がお前に害為そうとしているか、だ。

 お前、妹によほど恨まれるような真似でもしたか? 今にも取り殺される一歩手前ぞ?」

 

「なん――だって?」

 瑞希が、僕を、殺そうとしていると? 今、ミカゲは確かにそういう事を言ったようでした。

 

 頭が痛いです。ガンガン鳴って、だんだん良く分からなくなってきます。

 

「その顔を見るに、心当たりが全く無い……訳でも無さそうだな。

 ま、他所の家庭の事情に立ち入るなという金言もあるし、詮索はしまい。

 だが一つ言っておくと、そのままでいるなら、お前は近いうちに確実に死ぬ」

 

372:名無しさん 20XX/10/15 (水) 02:16 yu3pml2n

 まさかここで本場の「アンタ〇ぬわよ」が聞けるとは

 

373:名無しさん 20XX/10/15 (水) 02:17 HpeObWEY

 祠の呪いで死ぬかと思ったら、実は妹の呪いでってオチ?

 

374:名無しさん 20XX/10/15 (水) 02:17 WArH6Gpd

 ほらやっぱり倉敷瑞希が重要人物だった。俺の調査は無駄じゃなかった!

 

375:名無しさん 20XX/10/15 (水) 02:18 2ItpqLoS

 倉敷瑞希ちゃん(13)の溺死事件には、兄である倉敷大悟が関わっていた……ということか?

 

376:名無しさん 20XX/10/15 (水) 02:19 7NkAbCc0

 祠クラッシャ、初期スレの方では確かに妹にやたら謝ってたな

 

===

 

399:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 02:32 exIDinject99

「こうして知り合ったのも何かの縁よ。どれ――」

 ミカゲは腰元へまた手を伸ばし、姿勢をぐっと低く構えました。

 

「――その悪霊、ワシが祓うてやろうかえ? 安心しろ、後から金子を強請ったりはしない。なにしろ、ゆくゆくは村の貴重な腹となるおなごだからな」

 

 ミカゲはまだ何か言っているようでしたが、言葉の意味は半分も汲み取れませんでした。頭痛が酷くて、全く思考がまとまりません。

 堪らず地面に膝をつき、額を押さえました。脳みその中に虫でも入り込んで、ぶんぶん飛び回っているみたいです。

 視野に星が瞬いて、もはや何を見ているかさえ分かりません。

 

「ふむ。ひとたび、そうだと意識をしたら耐え難くなったか。まこと、只人の哀れなモノよ。どれ、ワシが楽にしてやるから、身体を見せよ」

 足音が……近づいてきます。

 少女の冷い手が、僕の頬に触れます。ツツ、と下へ撫で落ちて着物の懐に滑り込みました。

 

 ダメだ――まだいけない――やめ――。

 

「止めておけ」

 凛とした男性の声がこだましました。

 

 途端に、バチバチと明滅を繰り返していた世界が正常に直ります。

 元通り、暗闇の境内の中には僕に覆いかぶさるような姿勢のミカゲ……そして、その後ろには、初老の男性が一人立っていました。

 

 上下ともに純白の装束を纏った彼は、しずしずと歩いてくると、ミカゲの傍に立ち、彼女の肩にそっと手を置きました。

 

「いかなる亡者の類であろうと、見境なしに滅するのはいかんと先日、教えたばかりのはずじゃ。……分かったら下がっておれ」

 

 諫めるようなその物言いに、しかしミカゲは承服しかねたらしく、「だが父上――」と膝立になって反駁しようとします。

 

 その彼女の肩から、出し抜けにグキッと嫌な音がしました。今まさに、父親と思しき初老の男性に掴まれている方です。

 

「ぎっ!」

 踏まれたカエルそのままの悲鳴がミカゲの口から漏れました。

 彼女は何度か口をぱくぱくさせた後、一転して平常の顔つきに戻り――と見せかけて微細に唇を震わせながら、ゆっくりと立ち上がりました。

 

「分かった。この場は父上を信じて、預けよう」

 ミカゲがそう答えると、ようやくその肩から手が外されました。

 すると間髪入れず、彼女は横へと跳んで、男性から遥か隔たった場所へ移動しました。

 よほど痛かったのでしょうか、先ほど肩を掴まれていた部分を、片手で押さえています。

 

「瑞希!」

 捨て台詞のように、ミカゲはそう僕へ呼びかけてきました。

 

「覚えておけよ。お前が生きていたいなら、その悪霊は必ず祓わねばならん。助かりたかったら、ワシの元へ来い。ただし父上の――」

 

「下がれというのが分からんか!」

 男性の一喝が轟きました。至近距離で大砲がぶちかまされたような、とてつもない大音声でした。

 反射的に僕は両耳を塞いで、地面に伏せてしまいました。

 

 そして次に顔を上げた時にはもう、そこにミカゲはいなかったのです。

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