411:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 02:55 exIDinject99
上げてもらった本殿の中は、ひどく小ざっぱりとした殺風景なものでした。
一面、板張りの床に、木材の露出した天井。壁の方も飾り気は全く無く、神社仏閣でよく見かけるような掛け軸や、額の一つもありません。
その中にあって、唯一目立つ物はと言えばやはり、奥に安置されている祭壇でした。
祭壇は極めて異様な外見をしていました。
白木を組んだ檀上に、垂れ幕や玉串が施されているまでは通常と変わらないのですが、問題なのは神棚の中央に置かれている『その』物体です。
この本殿でも最上級の敬意を以て祀られているもの――いわば御神体。
果たしてそれは岩でした。
両腕でやっと抱えるほどの一塊の岩が、どすんと神棚の最上部、それも中心に設置されているのでした。
「君のような若者には、さぞや奇異に映るだろう」
本殿へと僕を招いてくれた老爺――天野大理さんは厳かな声で言いました。
「しかしそれこそが、ミワトさまの依り代なのだ。
イニシエより伝わる磐座そのものよ。これを守護し、奉ることこそが我ら一族の務め」
大理さんはそう説明しながら、音もなく床を移動し、祭壇の前へと向かいました。板をまるで滑っているかのような挙動でした。
「不肖の娘が悪い事をしたな」
スッと一点で落ち着くと、大理さんはやおら深々と頭を下げました。被っている烏帽子の先も小さく揺れます。
「身寄りの無い哀れな女子だと、弥彦めに押し付けられたのが運の尽きじゃった。あやつめ、自分の力量を過信するあまり、方々に出向いては手前勝手に悪さをして回る。
挙句に、神社に勤める巫女の身でありながら、拝み屋の真似事を始めるのだから、とんと呆れる」
「というと、ミカゲは大理さんの実の娘ではないんですか?」
「ああ」
やっと頭を上げた大理さんは、短く首肯を返しました。
「血の繋がった息子、娘は別におる。しかしどうにも神職が肌に合わず、継がせることができなんだ。そこで養子に迎えたわけじゃが……。
お前さんも見ただろう。居丈高なあの物言いを。
引き取ってからもう十年は経つところ、私としたことが、よほど育て方を間違えた」
「そう、でしたか……」
そんな愚痴を聞かされても、僕としては曖昧に頷くのが精いっぱいでした。
まさか便乗して、「ええ、とんでもない奴でしたよ」と暴言を吐くわけにもいきません。
412:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 03:12 exIDinject99
「さておき、時間も惜しいことだし、弥彦めに頼まれた職務を果たすとしよう。
倉敷瑞希……と申したか。寒々しい場所でかたじけないが、そこへ座ってくれるか」
大理さんが手で指図するので、僕は中央手前側の床に座り込みました。
すると、大理さんは僕の眼前へと立って、こちらを見下ろすような態勢となります。
大理さんは老齢ですが、割と上背のある方だったので、これは結構な威圧感を覚えます。
厳粛な雰囲気漂う本殿に、威厳ある大理さんの恰好も相まって、それらと相対した僕はすっかり恐縮してしまいました。
「いくつかおぬしに問いたいことがある。何も、全てを洗いざらい話せとは言わんが、身の潔白を示したいなら、せいぜい正直に述べることだ。……よろしいか」
拒否権はどうせ無さそうだったので、僕は取りも直さず「分かりました」と承知しました。
神社に至るまで、冷泉さんにミカゲと矢継ぎ早に新展開の連続でしたが、どうやらここが正念場のようです。
大理さんは当代の神主であり、この村では弥彦さんい次ぐ――あるいは同等の権力の持ち主なのでしょう。
彼のお墨付きを貰えればこの先、村での行動は幾分かやりやすくなるはずです。
しかし、逆にひとたび疑われたなら、それこそ地下牢にぶち込まれる未来も想像に難くありません。
なるたけそっと深呼吸して、僕は早まる心臓を落ち着けました。
「まず一つ。村のかなめ祠を破壊したのはおぬしか?」
413:名無しさん 20XX/10/15 (水) 03:13 sodUwhfj
さっそくド直球で草
414:名無しさん 20XX/10/15 (水) 03:13 ifrxfjW6
やっぱ疑われてんじゃねぇか!
415:名無しさん 20XX/10/15 (水) 03:13 7NkAbCc0
弥彦さんはああ言ってたけど、そりゃあ本職の人からしたら、まず問い質すに決まっとるわな。
416:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 03:13 exIDinject99
違います――と即答しようとしました。
肯定などあり得ません。その問いかけは否定しなければ、僕はお終いなのですから。
ですが開いたはずの口は、思った通りの言葉を発してくれませんでした。
代わりに流れ出たのは無音。意味を為さない掠れた声が、静寂の室内に空しく散りました。
「どうした?」
大理さんが厳かに言います。
「答えられんと申すのか」
――そういうわけじゃありません。答えたくても、できないんです。
伝えたいのはやまやまですが、なぜだかどうして、声は全くでないままです。
喉を震わせようとしても、筋肉が引き攣ったようになって、正しく声になりません。
まるで、僕の身体が否定を口にするのを拒んでいるようでした。
「一つ、言い忘れていたが」
何も言えないまま、押し黙っている僕を見下ろし、大理さんは変わらず堅い口調で告げました。
「この場は見て分かる通り神域だ。道すがらに鳥居を通っただろう? あれは現世と幽世との境目を示す門。
ミワトさまの住まわれる社殿の内は、何人たりとも穢すことまかり通らん。
悪事の一切は言うに及ばず、虚言の一つにおいても」
「そんなバカな」
この僕の反応は、皮肉にもきちんと声になりました。おそらく、心の底から思った真正直な言葉だったからでしょう。
つまり、三和戸神社では嘘が吐けない――というのは真実なのです。
他でもない僕自身が、それを直ちに証明してしまいました。
「弥彦からは、おぬしは大勢の前で『やっていない』と宣言したと聞いておる。ところが、実際はこれだ。百聞は一見にしかずとはよく言うたものじゃな」
いよいよ僕は進退窮まってしまいました。
もうこれでは自白したも同然です。やはり正直に打ち上げ、謝罪に徹するべきなのでしょうか。
そうした方がずっと賢明に思えてきた頃――唐突に、辺りに呵々とした大笑いが響き渡りました。
その主は言うまでも無く、大理さんでした。彼は腹を抱えるようにして、いっそ苦しそうなほど爆笑していました。
「すまんすまん。……困らせるつもりは無かったんじゃ」
そして藪から棒に謝りました。
417:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 03:24 exIDinject99
「職業柄、年頃の娘っ子と話す機会がそうそう無くてのう。その点、お嬢さんはたいそうな別嬪さんじゃったから、つい興が乗ってからかってしまった。
神社では嘘が吐けないなど、ほんの冗談じゃ。飛行機が空を飛び、レンジでレトルト食品が暖められる時代に、そのような事あるはずが無かろう」
「え……えぇ?」
突然の大理さんの豹変に、僕は驚きを通り越して呆然としてしまいました。
どうやら、今のやり取りは一から十まで単なる茶番だったようです。
「このような不穏な場所へ呼び出され、厳めしい面の爺に問い質されては、声も出なくなるのは当然じゃ。茶の一つも出さず、すまんことをしたな」
そう言って、なおも笑顔を崩さない大理さんの様子は、話に聞く好々爺そのものです。ようやく彼が敵でも何でもないことを察した瞬間、緊張の糸がぷつっと切れました。
「も、もぉ。急に変な事を言わないでくださいよ。本気で信じたじゃないですか」
「悪い悪い」
ぺこぺことしながらも大理さんは脚を屈め、僕と同じよう床に腰を下ろしました。
同じ目線になると、あれほど厳粛に見えた雰囲気も消え失せて、同じ人間だという印象がよりはっきりと伝わってきます。
何とはなしに、田舎の祖父母のことを思い出しました。
「でも、ミカゲは除霊の力があるみたいなこと言ってましたが……」
互いに気の緩んだところで、僕があべこべに質問をぶつけてみると、大理さんは「そんなことか」と事も無げに答えてくれました。
「まぁ、おぬしが信じようが信じまいが、世の中にはそういう科学では図り知れん不可思議な面があるということじゃ。それ以上の説明はしようが無い。もう聞いたかもしれんが、祠に掛けられた術法もその一つじゃな。
ただ、そうは言っても初対面の人間を、自由自在に操るような便利な術は存在せん。
当たり前じゃろう。仮にそんなことが出来たら、この日の本はとっくに、ワシの手に落ちとるわ」
これはあからさまにジョークだと分かったので、僕は相槌代わりに声を出して笑いました。
先ほどとは一転して、朗らかな空気が満ちます。
「次にもう一つ聞いておきたいのだが――」
ひとしきり落ち着いたところで、大理さんが質問の続きを口にしました。
===
423:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 03:30 exIDinject99
「おぬし、いつまでこの村に滞在するつもりだ?」
「いつまで……ですか」
真正面から問われると、これはちょっと答えづらいです。
当面の目標としては、もちろん元の男の身体に戻るまでなのですが、それを他人に説明するのは非常に困難です。
まず僕が倉敷瑞希ではなく、その兄の大悟であることから話さねばなりませんし、その時点で多数の人は理解を拒むでしょう。
その点においては、僕の妹が故人だと一目で看破したミカゲは可能性があるかもしれませんが、性格上の難点から、彼女の協力を期待するのは難しそうでした。
結局、僕は大理さんの質問について、正確な回答を持ち合わせないということです。
期限を問われたところで、曖昧に返す他ありません。
「ええまぁ……ほとぼりが冷めるまで……ですかね」
とりあえず心に浮かんだ言葉そのままを口にすると、大理さんは「ほっほっ」と顎の下を擦りました。
「いついつまで、と決まった日数はまだ無い……ということじゃな?」
「そんなとこです。優柔不断で、どうもすみません」
「良い良い、どうせ人よりも猿や鹿の方がずっと多いような山奥だ。むしろ若い娘っ子が増えるなら大歓迎よ。いつまでも居座ろうが、誰も構わん」
「そうですか? 冷泉さんなんかは、ちょっと怖い感じでしたが……」
僕がその名前を出すと、大理さんは少し眉を顰めました。
「冷泉のとこのお嬢さんが? ……ああ、気にするな。村の男どもにちやほやされるのが生きがいのようなおなごだから、対抗馬が増えてやっかんでおるのだろう。よくあることだ」
「なるほど」
しかし僕は本当のところ男なのですが……という思いはいったん心の内にしまい込みました。あまり具体的に想像すると、それはたいへん不快なイメージを喚起しそうだったからです。
ただでさえ、このレディースの着物を無理やり着させられ、辟易しているところだというのに。
===
430:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 03:40 exIDinject99
「では最後に聞かせてくれんか」
咳払いを挟み、語調を少しだけ正して、大理さんは言いました。
「この宇美沢村のことをどう思う?」
「どう……とは?」
これまでとは打って変わって、いきなり質問の内容がひどく抽象的になりました。
捉えようのいくらでもある尋ね方です。
あるいはネットレビューのように、星がいくつだとか良いのでしょうか? ですが、さすがに星1つなんて口にしたら、温厚な大理さんでも怒りそうな気がします。
僕が答えあぐねていると、大理さんが助け舟を出してくれました。
「率直な気持ちを口にしてくれたらええ。
これまでの道中、おぬしは様々な村の様子を見聞きしてきたはずじゃ。それらについて、どう感じたか。お世辞などはいらんから、正直に話してくれはせんか」
「それは――」
三和戸神社に辿り着くまでに起きた様々な事柄が、頭の中を過ぎります。
山中で行き倒れになったこと。
そこを石削エツコお婆さんに助けてもらい、家で介抱されたこと。
その後、弥彦さんの屋敷へ連れていかれ、様々な話を聞いたこと。
――などなど。
たった二日のうちの出来事ですが、異様に濃密な時間でした。
危険を感じた瞬間も何度となくあり、恐怖を覚えたのはその更に数十倍はありました。
しかし今になってこうして一から振り返ってみると――なぜでしょうか。
さほど嫌な経験では無かったように思えました。
二度と味わいたくない、苦しみに満ちた記憶ではないのです。奇妙で、不可思議だったけれどそれらはむしろ興味深くて、新鮮味のある得難い体験だったような……。
「あらゆる物はいつか壊れる」
いつの間に、僕はぼうっとしていたようでした。
大理さんの声は壁に天井にこだまして、ぐわんぐわんと頭蓋に響くようです。
しかしそれでいて、耳元で念仏を囁かれているようでもありました。近くて遠い……距離感がよく掴めません。
「万物流転。諸行無常。村の者達はかなめ祠を崇めて絶対視するが、果たしてそれは真の信仰とは言えん。所詮は偶像、時を経れば儚く崩れ落ちるものに縋るのは、ミワトさまへ捧ぐべき本来の信心ではない」
大理さんがゆっくり両手を伸ばしてきます。僕の肩を掴み、そっと床へと仰向けに倒します。
木の骨組みそのままの天井が視界に入ります。いくつもの柱が格子状に合わさったそれは、面妖な陣形を描いて見えました。
「重要なのは信仰そのものを引き継ぐこと。決して忘れないこと。慎ましきさざれ石の時を経てやがて巌となるように、積み上げ絶やさぬことこそが、ミワトさまを為す根幹なのだ」
どすん――。後頭部をつけた床が僅かに、しかしはっきりと鳴動しました。
一度では終わりません。二度、三度と続きます。何らかの詠唱を続ける大理さんの言葉に応じて、何度も何度も床は揺らぎます。
仰向けになっている関係上、僕の視界には入りませんが、これはあの御神体――岩が鳴らしているのだろうと直感しました。
あの黒々とした岩が何によってか震動し、本殿全体を揺るがしているのだと。何の根拠もありませんが、なぜか僕には分かりました。
===
444:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 03:55 exIDinject99
「でも……」
ミカゲに言われたことがその時、不意に蘇りました。
僕には妹が憑りついている。そのまま呪い殺そうとしているくらいに、恨まれている。
彼女の指摘はおそらく当たっています。いいえ、おそらくなんて確度ではありません。
妹は――瑞希はまず間違いなく絶対に、僕を憎んでいます。
はっきり言います。瑞希が死んだのは僕のせいです。
妹は僕が殺したようなものです。
だから、彼女が僕に憑りついていると知らされた時、本当は嬉しかったのです。
妹に取り殺されるなら、それは本望です。
だから――だからでしょうか?
このまま大理さんに言われるがままでいることに、本能的な忌避感を抱きました。
僕はこのままいったら、たぶんダメになる。いいやダメにはならないかもしれない、むしろもっとマシな人間になるのかも? しかし少なくとも、妹の呪いは解けてしまう――そんな予感が、強く強く働いたのでした。
「やだぁっ!」
そうしてしかるべくして、僕はその場から飛び起きました。
岩の鳴動が途端に止みます。足元には先ほどまでと同じく、板張りの床の冷たい感触。
あの夢うつつに迷い込んだような、奇妙な感覚は消え失せました。
「なぜ拒む?」
いつの間にやら、立ち上がっていた大理さんは心底不思議そうな顔で、そう訊いてきました。
「おおよそ、おぬしの身の上は分かる。その歳のおなごが、夜の山へと一人迷い込むなど、ただ事ではない。十中八九、己の行く末を儚んで、首吊りでも考えていたのだろう」
「否定はしません」
実際、半分以上は当たっていました。破れかぶれだったのです。
祠の呪いだろうが、凍死だろうが、滑落死だろうが何でもいい。
三和戸山の山道を登っていく時、僕の頭の大部分を占めていたのはただ死にたい――その一点でした。
でもそれは、今生の苦しみから逃れたい、救われたいという意識から出た行動ではありません。
逆です。
「僕は救われちゃいけないんです。妹を殺した僕は、誰かに祟られなきゃいけないんです。神様でも仏様でもなんでもいい。
瑞希がみんなに語って聞かせて、それでも信じてもらえなかった呪いの存在を証明さえできればそれで良かった」
「だが――」
大理さんは、少し残念そうな顔をしていいました。
「おぬしはとっくにこの村の一部だ」
445:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:00 7NkAbCc0
まぁそうだよね
446:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:01 EEu0IsYr
とっくにスレ内でも結論出てるのに、祠クラッシャくんはスレを頑なに見ようとしないからなぁ……
447:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:02 2ItpqLoS
新しく板を見に来た者もいるかもしれないから、根拠を一応解説しておこうか。
1.深夜ということもあって、村中が真っ暗闇にも関わらず、一切の明かり無しに自力で視界が確保できている。
2.ミワトさまの恩恵として、村に住む者に暗視の能力を与えるというものがある。
3.昨晩から今夜にかけて、祠クラッシャくんは蔵という場所に閉じ込められ、何らかの儀式を受けていた形跡がある。
以上からして、彼はとっくに村の一員となって、ミワトさまの庇護下、言い方を変えれば支配下に置かれていると見做して間違いない。Q.E.D.
448:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:04 D0KGXtPH
この様子じゃ、マジで自分では全く気付いてなかったみたいね。
それとも、そういう違和感自体を無くす効能があるのかもしれん。
449:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 04:10 exIDinject99
「くそっ! ふざけるな!」
もうこれ以上は我慢できません。僕はひとまずこの場から逃げ出すことにしました。
村の一部だかなんだか知りませんが、とにかくここにいてはマズイのは確かです。
振り返って、本殿の正面入り口へと突っ込みます。内部には一切の障害物も何も無いので、そこまでは全く容易でした。
両開きの木戸を力任せに引き開け、境内へと転がり落ちるようにして飛び出しました。
開けた視界には石の敷かれた参道、脇に沿って生い茂る草木、そして満点の星が占める夜空があります。
しかしながら当然、待ち構える人は誰一人としていません。
ごく低い可能性として、冷泉さんが待っているパターンもありましたが、その賭けには幸い勝ったようでした。
本殿から抜け出た勢いそのまま、僕は敷石の上をひた走りました。
どこへ行くともなく、とにかく逃れたい一心です。
この場に留まったら最後、僕はあの御神体によって、何か良からぬ状況に陥るのでしょう。それが具体的にどういったものかは皆目見当もつきませんが、まず間違いなく瑞希は消えます。
ちょうどミカゲがやろうとしていたように。なぜって僕は、何の処置もしなければ遠からず瑞希に呪い殺される身なのですから。
「無駄なあがきを。おぬしはもはやどこへも行けんと言うのが分からんか」
距離はとっくに、ずいぶんと稼いだはずなのに、大理さんの声が耳朶を直に打ちました。
とっさに横を向いてみれば、どうしてかそこには先ほど見たばかりの袴姿の神主が立っています。
「かなめ祠はすなわち結界の役割を為す。外部からの侵入を閉ざし、内部からの脱出を防ぐ。おぬしはもう一生、ここで過ごす他は無い」
「冗談じゃない!」
「いいや冗談ではないとも。おかしいとは思わなんだか? このような不便極まりない村で、なぜ誰もが永住しているのかと。
簡単な話だ。ミワトさまに見初められたが最後、何人たりともこの宵闇から逃れるには能わんのだよ」
走れども走れども、神主の影は追ってきます。彼は一切脚を動かしていないというのに、です。
それはあたかも、走行中の車の窓そのものに張り付いたシールのようでした。どれだけ本体が高速で移動しても、全く意に介しません。常に視界に入り込みます。
では僕の場合、シールが張り付いているのはどこなのでしょうか? それは僕の眼球以外ありえません。
それに気付いた瞬間、とんでもない吐き気に襲われました。
ああ――そうか。やっぱりここは異常な世界だったのだと、諦観と共に安堵を覚える僕でした。
450:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 04:30 exIDinject99
「どうして僕なんだ!?」
いつまでもついてくる神主に、僕は怒鳴り散らしました。
「他にいくらだっているだろう!」
「いいやおらんとも。人間数多しといえども、ミワトさまがお気に召す者は少数だ。ましてや、一晩を共にしただけで
喜べ倉敷瑞希、おぬしは数百年に一度あるかないかの、類まれなる才を有しておる」
全く嬉しくない話でした。昏目というのが何なのかはさっぱりでしたが、ともかくロクな才能でないのは状況からしても明らかでした。
それこそ、生前の瑞希が有していた霊視能力や霊媒体質のように。
なぜ今になって? 絶大な悔恨が湧きました。
何が起きるにしても遅すぎます。
こんな目に遭うとしても、もう少し早く、瑞希が生きているうちであったなら。
この疑り深い僕であっても、彼女の話を心の底から信じてあげられたかもしれないのに。
451:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:31 2IlomirC
ほう。霊媒体質とな。これまたパワーワードが出てきた。
452:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:32 pAB0S1xv
昏目ってのは、上で言われてた暗視能力のことかいな。分かりづらいが。
453:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:34 2ItpqLoS
文脈からしてそう読み解くのが正解だろう。
しかしそうなると、生前の倉敷瑞希の体質の全容が気になるな。
今をもって、怨霊となって祠クラッシャくんに憑りついているみたいだし。
現地に凸している彼には、ぜひその事も調査してもらいたいね。
454:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:35 WArH6Gpd
簡単に言うなよなぁ……。んな個人情報、ただの素人にどうやって調べろっているのさ。
ま、やるんだけども。俺は口だけのksと違って、有能な男だから。
455:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:36 sodUwhfj
お前らもうちょっと祠クラッシャくんの心配したれや……。
今、絶体絶命のピンチやぞ。
456:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:36 2IlomirC
言うほどそうか?
これ別に捕まっても今までとあんま変わんなくない?
だって村人として迎え入れてもらえるわけでしょ?
457:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:37 ezpMQ169
だよなぁ。
祠破壊の件についても、明らかに村人全員に見抜かれてるっぽいのに、お情けで見逃してもらえてるしさ。
458:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:39 Wiyd6CSL
え、やったってバレてんの? じゃあなんで地下牢行きになんないの?
459:名無しさん 20XX/10/15 (水) 04:44 2ItpqLoS
少し考えれば分かるだろう。
村では若者は貴重なんだ。
それも若い娘ともなれば、利用価値はいくらでもある。
そして神主も言っていたよう、祠なんて壊れたらまた作り直せばいいだけのこと。
それよりは新たな村の礎となってもらう方が、百倍メリットがある。
ま、元男の彼からしたら憤懣やる方ない話だろうが。
===
478:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 05:00 exIDinject99
走って走って――それでも先には行き着かず。
ついに鐘が鳴りました。