安価で祠をぶっ壊す   作:激辛党

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【謎の】宇美沢村を探索するので見ろpart9【因習村】

710:名無しさん 20XX/10/15 (水) 11:00 NIJr1WEI

 で、30分が経過したわけだが……

 スネーク、東の祠にはまだ着かないのか?

 

711:名無しさん 20XX/10/15 (水) 11:01 bcpQiQL9

 もうあと1時間で12時になるぞ。正午になったら鐘がなるから、ヤバいんじゃない?

 マンマルもちょうどあの時間帯に出現したよな。

 

712:名無しさん 20XX/10/15 (水) 11:04 3VSbNnck

 よく覚えてるなお前ら……。

 それより俺的には、普通に村人に襲われる危険性のが高く見える。

 祠クラッシャの末路は惨いもんだった。

 

713:スネーク 20XX/10/15 (水) 11:05 exIDinject00

 白日の空の下、それでもどこかしら薄ら寒い、妙にぼやけた視界の中、一心不乱に拙者は歩き続けてた。

 

 先へ広がるのはただただ野原だった。

 宇美沢村には田畑が無い。そのため外を出歩く者も少ないようで、道はほとんど整備されておらん。

 だが、最低限の体裁を取り繕うだけの文明人たる矜持は残っているらしく、木々を押し退けた道らしきものは確かにある。

 

 そこへ蔓延る雑草らを靴に踏みしめて、拙者は前に進んでいる。

 季節が秋口で良かったと心底思ったものだ。これが夏真っ盛りであったなら、やぶ蚊の群れに襲われて到底探索どころではなかったに違いない。

 はたまた真冬の季節なら、雪に覆われ凍傷を負い、雪崩でとどめを刺されただろうから、やはり幸運である。

 

 しかし不思議なのは、行けども行けども民家の一軒も見えないことだった。

 祠クラッシャの書き込みを信じるならば、ここらは村の一区画であって、少なくない人数の住人が暮らしておるはず。

 必然的に、それらに供されるべき住居もあろう。

 

 にも関わらず、拙者の視界には一つの人工物も入りはしない。ただ黄土と緑の草木らが茂るばかりでござった。

 これはいったいどうしたことだ? あまりの異様さは、それこそ狐につままれたようであった。

 

714:スネーク 20XX/10/15 (水) 11:08 exIDinject00

 異様と言えば、遠く前方にある山肌のところどころに、大きく出っ張った岩が散見されるのもそうだった。

 字面だけ読むなら、そう大したことの無い事柄に思えるかもしれないが……しかし違うのだ。

 

 目測ではあるものの、高さにして3mは優に越すような巨岩が、山間からでんと突き出ている。それも10や20では利かない数だ。

 また、岩の形状はおおむね直方体で、それが本のように縦置きで、ずらりと陳列されているのである。

 

 明らかに、自然の営みによって生じたものでない。人為的、作為的なものを感じ取れる配置でござった。

 さながら、布が風で飛ばぬようにするための、置石のようだと拙者は片隅に思うた。

 ああして繋ぎ留めておかねば、眼前の山に存在する『何かしら』は、ふわりと浮いて天へ帰ってしまうのだ。

 

 さて、そういった摩訶不思議な所感のある風景であるから、何かが待ち受けているのはおよそ間違いないだろうとも確信した。

 かなめ祠が隠されているとすればあそこだ。両脚を動かすのが我にも無く早まる。

 

===

 

 

725:スネーク 20XX/10/15 (水) 11:22 exIDinject00

 山の裾野に行き着くかという頃、不意に立ち眩みを覚えた。

 視界がすうっと暗くなる。日の明るみが薄まって、木陰の作る影は群れを成して集まった。

 背筋をひやりとした風が撫ぜては抜ける。

 

 いつの間に異界の最中に紛れ込んだようだ。ここは暗い、寒い……。暖かき陽の射す場所でない。日中にあって宵闇のごとき昏きの占める洞穴の底である。

 

 平野部から遠目に見えたあの巨岩の一つが前にある。

 3mほどと見積もったが、あれは誤りだった。聳え立つ灰色の岩は、例えるなら塔のようで、見上げても頂上を捉えられぬ規模がある。

 

 いいや、そんなことは現実であるはずが無いのだが、そうとしか見えないのだ。

 拙者の視神経が混線しているのか、はたまた知らずのうちに白昼夢へと落ちたのか。

 

 いずれにせよ、この現状が平常のそれと異なっていることは明白でござった。

 

===

 

 

730:スネーク 20XX/10/15 (水) 11:34 exIDinject00

 危機的を自覚すると同時、拙者は周囲の様子を改めて窺った。

 今、立っているのは、野原から山林へと分け入っていく、ちょうど境目のような場所である。

 地面は緩く傾斜を描いていて、振り返れば後方、視界の足元に、例の川が流れていた。

 登ってきたという意識こそ全く無かったものの、既に一定の標高を稼いでいたらしい。

 あるいはそうと見えないだけで、この野原全体が微細な傾斜を成しているのだろうか。

 

 奇妙なことを挙げるとすれば、もう一つ。

 鳥獣の鳴く声、気配が無い。それも全くだ。

 こういう里山ならば、少なくとも囀りの一度や二度は流れるものという思い込みが拙者にはあるが、しかしここら一帯に限っては、なぜだか一切耳に入らぬ。

 

 空を見上げても、編隊を組んで飛ぶ群れはおろか、枝を飛び移る小鳥の一匹さえ見つからないとは、どういうことか。

 街中にあってもカラスの二、三羽はすれ違うのが常だ。

 

 街の喧騒から遠く離れたこの山中にあって、それらの痕跡さえ見つからないのは奇異の一言に尽きた。

 

 やはりおかしい。先ほど過ぎった危機感が、甲高い警鐘となってこだました。

 人もいない、建物も無い、獣すら住まない……。

 すなわち、ここは常世の国ではないか? 死した者が流され、訪れるべき泡沫であって久遠の世界。決して、生ある者が紛れ込んではならぬ辺獄よ。

 

 だからこれほど暗いのか。雲無く、太陽もそこにあるというのに、常闇の冷たさが忍び寄る。

 

 厭だ……ここは良くない。ここは拙者の居て良い場所ではない。

 忌避と嫌悪はすぐさま焦りへと変じた。ともかく、かなめ祠とやらを見つけねばならぬ。

 目的を果たしたなら、早急に退こう。臆病者と誹られようが、構うものか。

 

 ここは駄目だ。

 

731:スネーク 20XX/10/15 (水) 11:41 exIDinject00

 かなめ祠はいずこにあるのか。

 

 腹の底から沸き立つような怯えを抑えつけながら、一心に思考を巡らせる。

 村に取って、それほど重要な意味合いを持つ施設ならば、道祖神のように道端へ置いたりはしまい。

 奥まったところ、なるべく人目につかぬような所で、ひっそりと居を構えているはずだ。

 

 しかし、弥彦氏の語りによれば、祠守は毎月に一度、供え物を捧げに行かねばならぬという。この役目に就くのは年配の者も多いらしい。

 

 ならば、山の頂などといった、あまりにも過酷な立地には建てぬはずだ。加えて、それでは万が一があったとしても、異変に気付きづらい。

 

 その点、この付近――山の裾野は木々も深く生い茂り、祠を潜ませるにはもってこいの立地だ。重点的に探すなら、まずはここからが良いだろう。

 

 波のように、引いては寄せてくる不快感に似た恐怖に耐えながら、拙者は木立の狭間に目を光らせた。

 先達である祠クラッシャによれば、かなめ祠は大人の背丈程度の全高であった。ともすれば見逃しかねない矮躯である。

 

 辺りは息の詰まるような静けさに満ちていた。それでいて、縁の限界まで水を注がれた杯のような、緊張感もあった。

 

 やがてそこから雫の一滴が零れ落ちるかどうか、その寸前で、拙者はついに捉えた。

 新緑の海に埋もれるようにして佇んでいた、木造の小さな社。それこそ、目当てのかなめ祠に相違なかった。

 

732:スネーク 20XX/10/15 (水) 11:50 exIDinject00

 我ながら、まこと電光石火の勢いで拙者は祠へ取り付いた。

 可及的速やかに、一刻も早く、寸暇を惜しんでこいつを粉々の木っ端みじんの残骸にせねば気が済まぬ。

 

 これが建てられたがために、拙者はこのような昏き穴倉の底に閉じ込められねばならなんだ。

 骨の髄から口惜しゅうてならぬ。はらわたの煮え滾る様は、さながら地獄の釜のごとくでござろう。

 

 ぱちぱちと煮沸した泡の弾ける怒りに飽かせ、さしあたり拳を社の扉へ叩きつけた。

 めきり、と乾いた歪な音がした。

 

 既に経年によって随分と脆くなっていたらしい木板はたったそれだけで、ひしゃげて折れた。裂けた割れ目から、生っ白い中身が覗く。染み込んだ雨水がだらりとと滲んで垂れるのは、さしずめ創傷より生き血の滴るようだった。

 

「ひっひっひっ」

 引き攣った笑い声が耳元でする。決して楽しむそれではない。むしろ苦しみに満ちたものだ。

 肺病に冒された患者が病床で繰り返す呼吸だ。もう間もなく黄泉路へと旅立つか弱き者の末期の声。

 この場において、それに該当すべきものはこのにっくき祠において他に無い。

 

 さもありなん。

 何がかなめ祠だ、結界だ。これの果たしていた役割は、村人を守ることでも厄災を防ぐことでも何でもない。

 ただ彼らを閉じ込め、――封じるためだけのもの。許すべからず罪と偽りの象徴よ。

 

「ひひ……ひ、ひ」

 壊れろ、壊れよ、跡形も無くなれ。たとえ――が――としても――わ――ない。

 

733:スネク 20XX/10/15 (水) 11:58 exIDinject00

 Error!

 409:Conflict.

 

734:名無しさん 20XX/10/15 (水) 11:59 bcpQiQL9

 バグった?

 

735:スネク 20XX/10/15 (水) 12:00 exIDinject00

 鐘が鳴っていた。音が戻った。それでやっと我に返った。

 

 ホワイトアウトしていた視界が、ゆっくりゆっくりと彩られていく。

 緑、灰、茶……赤。真っ赤。

 

 散らばった木屑、打ち倒された柱、横から真っ二つになった扉、砕けた陶磁器の破片。

 

 血だまり。

「ひ……ひ……」

 両手が燃えている。深紅が指先から迸っている。伝って落ちて、地に溜まる。

 爪は剥がれて肉は擦り切れ、先端からは骨が覗いていた。到底自分のそれとは信じがたい。というより、受け入れられない。

 

 だが、間違いなかった。血塗れになっているこれは、拙者の両腕だ。

 素手のみで祠を無理やり破壊した結果、こうなったのであろう。

 まだ血は生暖かい。ほんの一瞬前のことのはずだ。にもかかわらず、その記憶は全く無いのだ。

 

736:スネク 20XX/10/15 (水) 12:02 exIDinject00

「ひっひっ……ひ」

 餓狼が発するようなこの呻きも、我に返ってみれば拙者だった。

 鳥も獣もいないなら、それが自明の帰結である。

 

 出血に伴う痛みによる苦悶――とはしかし異なる。なぜならちっとも痛くない。

 代わりに冷えた炭酸を浴びたような爽快感があった。

 成し遂げた、やり切った――達成感に浸っていた。

 

 目線を落せば、そこには干からびた蛇の抜け殻がある。

 祠に保管されていた甕の中身だ。祠守が奉納した、捧げものであろう。

 

 右足を持ち上げ、振り下ろす。主を失って久しい依り代は、一振りで脆くも崩れ去った。粉になったなれ果ては風に攫われ、地には何一つ残らない。

 

 いいや拙者が流した血は確かに、生無きこの地を穢れという形で爪痕を刻んでおる。

 それは何にも例え難い快楽の――で――は――なければ――

 

737:snク 20XX/10/15 (水) 12:03 exIDinject00

 Error!

 409:Conflict.

 

738:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:04 sodUwhfj

 おい本格的にどうした? アプリ側がおかしくなってんのか?

 

739:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:04 sodUwhfj

 運営はよ対応しろ役目でしょ

 

740:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:05 pM9yHp6K

 祠発見したあたりから、文章の乱れがヤバくね?

 いや前々から変だったけど、ここにきて一気におかしくなったというか……。

 だいたいAIってこんな書き方普通するか?

 

741:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:06 EEY1BaXz

 そういうのばっか学習させてれば、別に可能だと思うけど、この状況であえてそうするメリットはどこにもないわな。

 狙ってるとしても動機が不明。

 

742:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:06 nUOUl1Eu

 409:conflict エラーとは、サーバ側に存在するデータと、ユーザによるリクエストとの間に競合があった際に発されるものだ。

 これを現状に当てはめれば、スネークくんがAIアプリに対して入力した発話について、全く同じステータスを持った発話が既にサーバ側に存在していた……といったところか?

 

743:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:07 nywgVYo1

 どや顔で専門用語語られても分かんねぇよ。

 ここでは日本語で話せ。

 

744:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:08 7NkAbCc0

 一つのデータを、同時に複数人が操作しようとした時なんかに良く起こるエラーだ。

 それ以上詳しく知りたいんなら自分で調べろ。

 

745:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:08 3VSbNnck

 どうでもいいからスネークが無事かどうかだけ知りたい。

 自分の腕がボロボロになるって、どんな勢いで叩きつけたらそうなるんだよ……。

 

746:snk 20XX/10/15 (水) 12:10 exIDinject00

 白い大きな蛇がいる。

 山を下ってくる。ずるずると這い進んで、こっちへ近づいてくる。

 

 ぱっくりと大きく開いた口で、真っ赤な舌がちろちろと踊っている。二又に分かたれた先が、触覚のように蠢く。

 拙者を探し求めている。今にも丸呑みにして平げんと、みるみるうちに迫ってくる。

 

 安価>>748

 

747:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:11 NIJr1WEI

 だから安価急に出すなっつってんだろ

 

748:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:11 3VSbNnck

 逃げる以外あんのか?

 

749:snk 20XX/10/15 (水) 12:12 exIDinject00

 呆けていられたのは数秒だった。

 逃げねば――! 電撃的に、脳裏にその指示が閃いた。そうだ、このまま突っ立っていてどうする? 拙者はまだ死ぬわけにはいかない。祠クラッシャを探し出し、連れて帰らねばならんのだ。あやつの餌食になっている場合ではない!

 

 例の白い大蛇が、木々を押し退け山肌を滑ってくる。樹齢数百年の大木のような胴体が、ぐねぐねとのたうつ様は悪夢さながらだ。

 

 振り向き、後方――山から離れる側へと拙者は駆けだした。

 両腕を振り上げるたびにに、赤い飛沫がそこらへと飛び散る。

 見た目以上に傷口は深いらしい。早急に手当てをせねば不味いのだろうが、いかんせんそのような余裕はどこに無さそうだ。

 

 山の麓を離れ、先ほどまで探索していた平野部まで戻る。

 しかし後ろから迫りくる気配は全く衰えないどころか、むしろ猛りを増しているようにさえ感じられる。

 全く振り切れていない。マンマルくんの時と同じだ。果たしてこのまま愚直に走り続けるだけで良いものか、迷いが生じた。

 

 安価>>751

 

750:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:13 EEY1BaXz

 安価までがみじけーんだよぉ! 相談するヒマもねぇ!

 

751:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:13 Xu84YI5l

 いったん後ろを振り返って、相手の様子を見るのは?

 

752:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:13 nywgVYo1

 バカかてめぇそれホラーの死亡フラグの定番じゃん

 

753:名無しさん 20XX/10/15 (水) 12:14 sO5yCQCJ

 ほらこういうのが湧くからさぁ

 

754:snk 20XX/10/15 (水) 12:14 exIDinject00

 いつ追いつかれるのか。いつ大蛇に捕えられ、一呑みにされるのか。最悪なのは、その瞬間が訪れたことを死してなお、拙者は終ぞ知り得ぬことだ。

 覚悟も何もできないまま、ただ一方的に生を奪われるのは筆舌に尽くしがたい恐ろしさだった。

 その耐え難い衝動が、拙者に背後を振り返らせた。

 

 そこには白い壁があった。

 天を衝かんほどに高く、巨大な白壁だ。しかしその表面は煙のように揺らめいて、妙に捉えどころがない。莫大な体積に反して、その質量は綿ほども軽いようであった。

 証拠に、辺りはただただ静かだった。

 

 かような存在が大地に蠢いているというのに、そこらに響くのは拙者の駆ける足音だけだった。それすら今や、呑気に振り向いたせいで消え失せてしまった。

 

 壁とはつまり大蛇である。

 鎌首をもたげ、大口を開けたソレは、脚を止めた愚かな人間を今にも平げんと、弓なりにしならせていた胴体をピンと伸ばし――たその瞬間。

 

「ノウマクサマンダ、バサラダン、カン!」

 凛とした鋭い声が、横合いから飛んできたのだった。

 

755:snk 20XX/10/15 (水) 12:15 exIDinject00

 途端、大蛇は雷に打たれたようにその巨体を翻した。

 背をのけぞらせて、後方へと一気に退いてしまう。

 世にも恐ろしかったあの大口は拙者を捉えることは無く、こうして今も自分は地面に両脚で立っていた。

 

 いったい何のことやらさっぱりだが、どうやら間一髪で助かった――否、助けられたらしかった。

 

「まこと明王様とは有難いお方じゃのう」

 一瞬前、呪文が聞こえてきた方から、若い女子の声が言った。

 

「異郷の地、異教の神に拝する巫女にもお力を貸してくださるとは。大多数が鞍替えするのも無理はない」

 熱心な信徒が聞いたらひっくり返るような、とんでもない暴言を吐く。

 いったいどこの破戒者かと、そちらを向いてみれば、そこには年の頃十代後半と思しき少女が立っていた。

 

 紅白の二色に綺麗に分かたれた、伝統的な装束に身を包んでいるその姿は、なるほど自称の通り巫女らしかった。

 だがしかし、見過ごしようのない異常が一点あった。病的なまでに白い肌をした少女の細面――いかなる故か、その目元はすっぽり黒い帯で覆われているのだ。

 

 それも片目だけでは無い。両の瞳を、帯で完全にふさぎ切っていた。

 あれでは何も見えはしまい。

 

「何を呆けておる!」

 あまりの出来事の連続に、よほどの阿呆面をしていたのだろうか。そんな拙者の横っ面を少女の声が張り飛ばした。

 

「疾く逃げんか。今のはせいぜい驚かせただけじゃ」

 その言を裏付けるように、怯んでいたはずの大蛇が、ゆらりと身体を起き上がらせるのが見えた。

 

 こうしてはいられない。拙者は取りも直さず脚で地面を蹴った。ひとまず距離を稼がねば、先ほどの二の舞でござる。

 

「こっちじゃ!」

 

 巫女服の少女が頼もしくも先導役を買って出てくれる。

 彼女が目線で示したのは(見えてはいないはずだが)、平野を少し行った先にある雑木林だった。あそこへ逃げ込んで隠れようという魂胆らしい。

 

「分かった!」

 拒絶する理由などあるはずもない。

 既に駆けだしていた少女の背を追う形で、拙者はその林を目指した。

 

 それにつけても、走る少女の速いこと速いこと。さぞ脚の動かしづらい丈長の紅袴ながら、野兎のような勢いでびゅんびゅんと飛び跳ねていく。

 眼帯のために、彼女の視界はおそらく皆無のはずであるが、それを一切感じさせない躍動感だ。

 

 かくいう拙者も、私事ではあるが脚には自信があったのだが、ややもすると引き離されそうになってしまう。

 

 少女に置き去りにされたら最後、きっと拙者は為すすべなく大蛇に喰らわれるという直感はひしひしとあった。死に物狂いで、震える両脚に鞭打って、小さく細い少女の背へ追いすがった。

 

756:snk 20XX/10/15 (水) 12:18 exIDinject00

 大蛇はなおも迫りくるも、拙者はそれをもう振り向いて確かめようとは決してしなかった。

 ただ一心に前方の少女と、その先にある雑木林だけを意識して、駆けずった。

 

 一秒にも、それでいて一時間にも思える時が経った頃、果たして拙者らは二人して木立の内へと飛び込むのに成功した。

 

 それと同時、視界が一気に昏まった。青々と張った木々の葉が、日差しを遮るためだ。

 心なしか気温も下がって、うっすらと肌寒さすら覚える。

 

「止まるな! もう少しじゃ」

 前方の少女が叱咤するので、拙者は緩みそうになった気を引き締めた。

 彼女はよりいっそう深く暗い、林の奥へと分け入っていく。大蛇の目を完全に撒くためには、ああまでしなければいけないのだろうか。

 

 一抹の不安が過ぎりはしたが、拙者は既に一度、助命された身でござる。落ち着いたところで、せめて礼の一つでも言わねばなるまいと、漠然とした恐れは腹の底で押し留めた。

 

757:snk 20XX/10/15 (水) 12:21 exIDinject00

 進めば進むほど、頭上から射す陽の光は弱まっていった。

 今や幾ばくの木漏れ日もなく、二人の影すらも見当たらなくなった。雑草と苔で覆いつくされた腐葉土は、ただ一面の茫洋とした黒である。

 

 あの大蛇はもう後ろにはいまい。確証は無いが、確信はあった。背筋の寒くなるような殺気がいつとは無しに消えている。

 それこそ現れた時と同じく、奴は嵐のように過ぎ去ったのでござろう。

 

 だが不思議なのは、それでもなお脚を止めようとしない少女だった。

 彼女は今この時も、奥へ奥へ、より昏きへと僅かも速度を緩めずに進んでいく。あたかも、拙者をその果てへと誘おうとでもするかのように。

 

 走るべく全身を動かし続け、体温は上がっているはずなのに、どうしてか寒さに震えを覚えた。かちかちと歯の根が合わなくなっている。

 暦はまだ10月、それも正午過ぎの刻だと言うのに、真冬の雪中に投げ出されたかのような感覚でござった。

 

 事ここに至って、拙者は自分がまだ危機から何ら逃れていないことを自覚した。それどころか、自らの脚でそちらへと突っ込もうとしている。

 

「待て!」

 先を行く少女の背に怒鳴った。

 

「もう十分だろう」

 これで止まってくれなければ、どうしてくれようか――。嫌な想像が頭を駆け巡ったが、その懸念は杞憂に終わった。

 

 少女はぴた、と脚を止めて、ようやく拙者の方へ向き直ってくれた。

 

「ま、そうじゃな」

 しかし、どこかしら残念そうな言い方だった。

 

758:snk 20XX/10/15 (水) 12:30 exIDinject00

 ひときわ長く、大きな古木を背にして、少女は拙者と目線を合わせた。

 いや、彼女は相変わらず黒い帯で双眸を塞いだままであるから、正確には目線も何もないのだが……ともかく、向かい合ってくれた。

 

「確かにここまで深く潜れば、もう追って来はしないであろ。じゃがお前、その腕はどうする」

 

「腕?」

 いきなり何を訊いてくるかと思いきや……と首を傾げそうになったが、何のことは無い。少女の指摘は至極真っ当なものだった。

 

 拙者の両腕は、祠を破壊する際の反動で生傷だらけになっている。

 改めて、少し上に構えてみれば、つつっと生乾きの傷口から、出血が下へと垂れ落ちた。

 黒土に深紅の水玉が描かれる。

 

「ミワトさまの御所を生き血で穢すとは、何と罰当たりな人間よ。ワシでなければ、滅多打ちにされておるところじゃぞ」

 

「知るかそんなの」

 我ながら、ひどくぶっきらぼうな受け答えになった。

 少女はしかし特別に気分を害したようでもなく、むしろケラケラと笑った。

 

「面白いなお前。昨夜のおなごも妙な奴じゃったが、お前も負けず劣らず外れておるわ」

 

 さも愉快気な口調でこそあるものの、褒めていないのは明白だった。

 何と言葉を返せば良いか分からず、拙者が押し黙っていると、いきなり少女がパっと身を翻した。

 

 ぴょん、と木の高枝にも届かんばかりに跳躍――しかるのち、呆気に取られている拙者の眼前にひらりと羽毛より軽やかに着地した。

 目測だが、何の助走も無しに3m以上は跳んだようだった。

 

 ……普通に考えれば、人間技ではない。しかしそういった観点で言うなら、大蛇を呪文で退けた時点で真っ当な人間でないことは明らかだから、今更でもある。

 

「見せてみろ」

 

「え?」

 

「いいから」

 こちらの返答を待たず、少女は拙者の右手を引っ張り上げた。微細に散った血飛沫が、少女の白装束に斑点を作る。

 さすがに悪いと思って、腕を振り払おうとするも、予想より遥かに強い力のために全く振りほどける気がしない。

 

 それどころか、

「良い子だからじっとしておれ!」と、叱りつけられた。

 拙者をまるで幼児扱いでござる。これには酷く自尊心を傷つけられたが、いかんせん腕力で勝てない現状、どうしようもない。

 

 拙者の右腕を高く掴み上げた体勢のまま、少女はしばらく固まった。もしかしたら、怪我の具合を確かめていたのかもしれないが、これもやはり眼帯のせいで視線の動きが良く分からない。

 

 というか、少女の視力はいったいどうなっているのだろうか?

 この森奥に至るまで、いくつもの木の根やぬかるみがあったのに、彼女の足取りは全く危なげないものだった。

 聴覚に優れた者は、標も導きも無くとも自在に歩くことが出来ると言うが、少女はその使い手なのか。はたまた黒帯は見た目だけで、隙間からこっそり視野を確保しているのかもしれない。

 

 いずれにせよ、少女は確かに拙者の手傷を検分していたらしい。少しの間があって、彼女はうむ、と訳知り顔で頷いた。

 

「見た目ほど深い怪我ではない。出血は酷いが、表面までじゃ。放っておいてもそのうち止まるであろ。……まぁよしんば深くとも、ワシに施す手は無いが。

 ……とはいえ、このまま野晒しというのも酷か」

 

 言うが早いが彼女はパッと拙者の腕を話すと、今度は自分の白装束の袖を掴んだ。そのままぐっと力を込めたかと思うと、呆れたことにびりりと布地を引き裂いたのである。

 

「何を……?」

 困惑する拙者をよそに、反対側の袖も裂いてしまう。結果、手にした粗い切れ目の布を、なぜかこちらへ押し付けてくる。

 

 ここへきて、やっと少女の意図が推して知れた。道具が無いなりに、拙者の手当をしたいらしい。

 

「悪いって」

 と、拙者が固辞しようとするも、

 

「ワシの厚意を無下にするか」

 で、押し切られた。

 

 少女の手つきは看護に手慣れたものとは言い難く、有り体に言えば不器用だった。

 しかし姿勢は真摯なもので、十数分の苦闘の末に、少女は拙者の両腕に、即席の包帯を巻き終えた。

 

「でもこれ、消毒とかした方が良かったんじゃ?」

 巻いた端から、じっとりと血の滲んでいく包帯を見て、拙者が思わず言うと、

「知らんわ」

 の一言ですげなく返された。もしかしなくとも、感謝の言葉が欲しかったのかもしれない。

 

 多少の罪悪感を覚え、「ごめん、助かった」と言い直すと、少女はふっと口元を緩めた。

 相変わらずの眼帯のせいで、表情もろくに分からなかったが、たぶん微笑んだのだと思う。

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