安価で祠をぶっ壊す   作:激辛党

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【見見】見見見見見見見見見【見見】

622:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 20:30 exIDinject99

 ――お嫁さん?

 耳から入ってきた単語のあまりの異様さに、私は呆然と立ち尽くしました。

 

 しかし確かにエツコお婆ちゃんは言いました。それも冗談や揶揄ではなくって、本心から出た発言であることは、お婆ちゃんの態度からして明らかでした。

 他でもないこの私が、ミワトさまの妻として輿入れする。それを祝して、今宵は村一同が、お祭り騒ぎをしている――つまりそういったことらしいのです。

 直感は遅ればせがら理解と至り、やがて恐怖に取って代わりました。

 

「い、いや……」

 悲鳴の成り損ないが零れます。しかし実際に、辺りに私の金切り声が響き渡るまでにはなりません。

 

 叫ぼうとした私の口は瞬間、ぴたりと凍り付いてしまったからでした。

 まるで唇と喉が別人の所有物となったかのように、頑として私の意図に応じません。

 

 ならばせめて首だけでも横に振って、拒絶もしくは嫌悪を表示しようと試みますが、それすらもあえなく失敗しました。

 といっても、声に続いて首の制御までもを喪ったためではありません。

 もっと具体的で、切実な理由からです。

 

「なんね?」

 エツコお婆ちゃんが言います。

 私の顔をじいっと覗き込むようにして、ニコニコした満面の笑みのまま訊いてきます。

 

「あんまり嬉しゅうて、口も利けんとね?」

 

 ――この行事を私が受け入れ、喜んでいることをさも当然のように前提に置いた訊き方でした。

 お婆ちゃんにとっては、そう感じることがきっと当たり前で――ごく自然なことなのでしょう。

 

 しかし私はそんな彼女が恐ろしくて恐ろしくてならず、頭から血の気がいっぺんに下がりました。

 目の前がちかちかと瞬いて、意識がさぁっと遠ざかります。気温が突然に下がるはずもないのに、尋常でない寒気を覚え、上下の歯がガチガチと騒々しい音を立てました。

 

「さぁ、行きましょう。瑞希さん。弥彦さんもお待ちです」

 お婆ちゃんと同じく、横で笑顔を浮かべている吉野君が促してきます。

 手招きをして、大通りの奥へと――村人たちの寄って集る道の先へと誘っています。

 

 いや、嫌だ、それだけはダメだ。

 心の内で、凄まじいまでの悪感情と忌避感が生まれました。

 このままいったら不味い、今すぐ二人の傍を離れて、どこかへ逃れなければならない。

 

 そうしなかったら、間違いなく私は――。

 

 私は――どうなると言うんでしょう?

 

 >>625

 

623:名無しさん 20XX/10/15 (水) 20:32 X7yLaoPm

 いやこっちに聞かれても……

 

624:名無しさん 20XX/10/15 (水) 20:33 DB9aFKLG

 スネークもだけど、この謎安価マジでなんだよ。

 スレを直に見てるわけでも無いのにさ。

 

625:名無しさん 20XX/10/15 (水) 20:34 iakPapu5

 まぁ普通に考えたら死ぬ……ってか、殺されるんじゃない?

 前スレに出てきた伝承じゃあ、ミギワトさまに嫁入りした村娘は滝つぼに落ちてそのままで、二度と両親の下へは帰って来なかった。

 たぶんそれと一緒でしょ。

 

626:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 20:35 exIDinject99

 死ぬ……?

 

 そんな――そんな程度で済むのなら、私は全く構いません。

 むしろ望むところです。

 

 初めから、私は祠クラッシャです。

 神さまの怒りを買い、祟り殺されるために私は祠を壊すのです。

 そうしてやっと、妹の言葉を証明できる。私の過ちを正すことができる。

 

 二年前のあの日、あの時をやり直せる。

 

627: 20XX-2 /9/20 (水) 17:22 exIDinject99

 ――馬鹿だなぁ瑞希は。お化けなんてホントにいるわけねぇじゃん。

 え? お化けじゃなくって神さま? クラスメイトが祠を壊したから祟られた?w

 

 どっちにしたって同じことだよ。

 あのな? 

 怪談とか都市伝説ってのは、あくまで人が楽しむための娯楽として作られたフィクションなわけ。

 そりゃ出だしは大概「これは本当にあった話ですが~」なんて付けてるけど、あれはリアリティを持たせるための前菜みたいなもん。

 本気で信じてるヤツなんてまずいねぇし、語り手だってそれを大前提として話してる。

 

 そしてこの点において、お化けも幽霊も、お前の言う祟り神ってのも変わりは無い。

 全部、現実にはあり得ない妄想であって、ただのジョークだ。

 

 そりゃあ、良くできた話なら怖くて夜に眠れないってこともあるかもしれない。

 でも除霊法とか、呪い返しの方法とかを躍起になって探すのはなぁ……。

 はっきり言って恥ずかしいし、痛々しいよ。クラスメイトが迷惑がるの、俺だって分かるわ。

 

 いいか? もう一度言うけど、祟りや呪いなんてこの世には存在しないんだ。

 だから大真面目にそんなもんに立ち向かう必要は全く無いし、ましてや人様にそれを強要するのは論外だ。

 

 分かったら、明日にでもクラスメイトのみんなに謝りに行け。……俺も暇だから、なんなら一緒に頭下げに行ってやってもいいぞ?

 

 な? だからもうその酒と塩は捨ててこい。母ちゃんには黙っておくから。

 

===

 

641:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 21:00 exIDinject99

 だからこれは私の過去の行為に対する正当な罰なのです。

 妹からの――あるいは神さまからの。

 

 現実に神さまはいたし、呪いもあったし、祠を壊したら祟られるのも、全て何もかも本当でした。妹の言う通りでした。

 

 もちろん後悔はしています。こうなることを知っていたなら、あの日決して妹をバカにしたりなんてしなかった。

 頼れる兄として、妹の除霊の儀式に力を貸したことでしょう。

 

 でもそれ以上に――なぜでしょう、不思議と嬉しいのです。

 こうして、ほら。

 白無垢を着せられて、頭に角隠しを被せられて、立派なお飾りのついた御輿に大事に大事にしまい込まれて、男衆に担がれいずこへと林道を運ばれてゆく。

 盛大な花嫁行列の、その中心にあってなお――いえ、だからこそ? 私は幸せに包まれていました。

 

 御輿の側面に備わった暖簾を少し開けてみれば、闇夜の空が映ります。

 星々の煌めく帳の下には、影絵として切り抜かれた木々たちの作る風景が広がります。

 かつては一面の黒としてしか認識できなかった景色が、今はこんなにも美しい。

 私の身に宿ったミワトさまの御力の賜物です。

 

 村人たちは昏目などと呼んで親しまれていましたが、私にとっては透視にも似た神通力そのものに思えました。

 なんと有難く、光栄なことでしょう。かの存在をこんなにも身近に、力強く感じるすべがあるだなんて。それも村に訪れて一週間と立たないこの私などに。

 

 そして最後には、神さまの妻として私は滝つぼに捧げられる。これほどおあつらえ向きの最期が他にあるでしょうか?

 妹殺しの兄として、これは望むべくもない幸福なのです。

 

===

 

675:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 21:11 exIDinject99

 しばらく経って、花嫁行列は不意に停止しました。

 私の乗っている御輿も地面へと下ろされます。

 気になって、暖簾をつと開けようとしたところ、先んじてこちらを覗き込んでくる者がありました。

 

「やあ。お加減はいかがかな」

 和装に身を包んだ弥彦さんでした。にこやかな表情で、まだ御輿の中に座っているを私を見下ろしています。

 

「ええ、お陰様で――」

 とりあえずのお返事はしましたが、このままの体勢で挨拶するのも失礼かと思い、私は御輿から出ようとしましたが、弥彦さんはそれを手で制止してきました。

 

「そのままでいい。本来、本殿に着くまでの間、花嫁はみだりに姿を晒してはならない。

 それでも引き留めたのは、ひとえに君の容態を確かめたかったからだ。

 でも、その様子なら問題なさそうだね」

 と言い終えるが早いが、弥彦さんは暖簾を上から押さえつけ、強引に閉じました。

 

「ちょっと待って――」

 そのまま弥彦さんが立ち去ろうとする気配を察し、私は声を上げました。

 彼の用事は済んだのかもしれませんが、私はそうではありません。

 

「どうした?」

 暖簾を開けて姿を見せこそしませんが、踏みとどまってはくれたようでした。

 返ってきた問いに、私は精一杯、声を張って聞きました。

 

「なぜ私なのですか?」

 

 吉野君率いる使用人連中に、半ば強引に御輿へ押し込められた時から思っていたことでした。

 今更、こういった終わりを迎えることを私は嘆いてはいません。

 ですが、それと納得がいくかどうかは別問題です。

 

 どうして、村にとって完全な部外者である私が、このような栄誉な役目を与えられたのか、甚だ疑問で仕方がありませんでした。

 

676:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 21:28 exIDinject99

「おかしなことを聞くね」

 そこには少しばかりの笑い声が混じっていました。

 

「君が今、その輿の中でじいっと大人しくしてくれていること……。それ以外の――というよりは、それ以上の理由が必要かい?」

 

「え?」

 あいにく、私には彼の発言の意味が良く分かりませんでした。

 それとも、これは一種のなぞかけなのでしょうか?

 そう思うとがぜん悔しくなって、私は輿の中で一人うんうんと悩みます。

 

 しかし弥彦さんはこちらの回答を待つつもりは毛頭無かったらしく、やがて足音の遠ざかるのが聞こえてきました。

 

 間を置かず、御輿は再度担がれて、行列の移動が再開されます。

 周囲の男衆たちの規則的な闊歩の音を耳にすると、全く眠くは無いのに、なぜだか意識が薄まります。

 その辛さに負けた私は考えるのを止め、御輿に揺らされるのに身を任せるばかりとなります。

 結局、弥彦さんの謎めいた言葉の真意は分からずじまいなのでした。

 

===

 

693:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 21:57 exIDinject99

 次に御輿が下ろされたのは、ずいぶんと山道を登ったところで、そこが行列の終着点のようでした。

 

「さぁ、どうぞ」

 男衆の一人が手を貸してくれ、私は御輿の中から外へと出ます。

 

 立ち上がって辺りを見渡し……唖然としました。

 そこは洞窟の中でした。

 空も見えなければ、木々も無い。頑丈な岩壁に周囲を覆われた閉鎖空間です。

 

 しかし全くの密室かというとそうではなく――入ってきた以上当然なのですが――後方の壁には木製の観音扉が一つ備わっていました。

 それ以外の出入り口は今のところ見当たりません。

 

 空間の広さは、昏目であっても厳しい暗さのために測りかねましたが、おそらくかなり手広なのでしょう。でなければ、御輿ごと入っては来られません。

 

 ただし、行列の大多数は扉の向こうへ置いてきたようで、家財道具や旗などを担いでいた方々は姿が見えなくなっていました。

 

「ここは……?」

 どうしようもなく心細さを感じた私がそう訊くと、男衆の一人が答えてくれました。

 

「ミワトさまの御住まいでございます」

 

 意表をつかれました。

 スレッド内の書き込みから、私はてっきり、ミワトさまとは『ミギワトさま』という本来の名前が変じたものであって、すなわち水神さまだと思っていたためです。

 ゆえに、ミワトさまのおわすべき場所とは滝つぼであり、例の日暮川の上流の果て――滝つぼに連れていかれるものとばかり思い込んでいました。

 

 ですが、この有様はいったいどうしたことでしょう。

 この洞窟がどこから繋がってきたものかは定かではありませんが、水の流れる音は一切しないので、河川に関わる類のものではないようです。

 

 疑問を解く手掛かりを求め、私はもう一度良く周囲を観察しました。

 すると前方に、明らかな人工物が一つあるのにやっと気が付きました。

 

 反射的に、もっとつぶさに確かめようと足が赴きます。男衆に遮られるかもと思いましたが、意外にも彼らはこの行動に無反応でした。

 

 かつかつ……と固い石床を歩き、私はソレへと近づいてゆきます。

 距離が縮まるにつれて、その全容は自ずと明らかとなりました。

 

===

 

701:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 22:10 exIDinject99

 祠なのでした。

 そうと分かると同時に、己の運命を悟りました。

 やはりコレで始まり、コレで終わらされるのです。

 

 祠は、私が最初に破壊したアレと瓜二つの造形をしていました。

 石の台座に、木造の社が立っていて、それに観音開きの格子扉が正面に備わっています。

 

 しかしただ一点、全く異なるところがありました。それは大きさです。

 石壁から突き出るようにして建っている祠は、見上げるほどの高さがありました。

 二階建ての一軒家に近いほどです。

 

 もはや祠というよりは、社殿のが近い図体なのですが、そうは言ってもやはりこれは祠なのでした。私はそれを誰より深く知っています。

 

「瑞希さま」

 いつの間に、すぐ傍まで来ていたらしい男衆の一人が言いました。

 

「ミワトさまにお誓いください。

 『この身を以て、新たなる村の礎とならん』と」

 

 いしずえ……? 花嫁ではなく?

 耳を疑った私は、とっさに横を振り向きました。

 すると、そこに立っていたのは法被を着た村の男衆ではなく、装束姿の老爺でした。

 

「誓いなさい。御身の支えとして尽くしますと」

 老爺の顔には見覚えがありました。神社の本殿で出会った、あの神主――大理さんでした。

 

 大理さんは何度も何度も繰り返します。

「膝をつき、こうべを垂れて、誓うのだ。未来永劫、遥か長きに及ぶとも、変わらず御身の下にありますと。――それこそが」

 

 大理さんはいったん言葉を切って、私の顔を一瞥した後、続けました。

「あなたが妻として為すべきことだ。その身と心を捧げ、荒ぶる御霊を鎮めたまえ」

 

 遅まきながら――本当に今更ですが、私はようやく例の伝承の真実を知りました。

 村の衆に囲まれる中、果たしてか弱い村娘一人が、自ら手を上げることなどあり得るでしょうか?

 

 いいえ違います。彼女はきっと上げざるを得なかったのです。何なら、上げてすらいなかった。

 彼女は村人に選ばれて、捧げられた。

 女衆に囲われて、男衆に担ぎ上げられ、滝つぼに放り込まれた。

 今の私がこうなっているように。

 

「ふ、ふふ……」

 だから、答えはもちろん決まっています。

 かつての彼女がそうしたように、私も同じくそうするのです。

 

===

 

722:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 22:22 exIDinject99

「捧げます」

 

 冷たい床に額づいて、そうっと囁きました。

 小さな低声、けれどそれは不思議と洞窟中にこだますようでした。

 

「私は……ミワトさまの花嫁として、この身を捧げ……生涯に渡り……いいえ、それが果てなき永遠であったとしても……村の礎であり続けることを、この場でお誓いいたします」

 

「よろしい」

 大理さんが深々と頷いた途端、ぎぎ……と乾いた木の擦れ合う独特な音が鳴りました。

 何かと思って顔を少し上げてみれば、祠の観音扉が、誰も手を掛けぬのに独りでに開いていくではありませんか。

 

 3メートルはあろうかという扉が、じりじりとその大口を広げる様は、否応なしに肉食獣の顎を思い起こさせました。哀れな獲物はもちろん目の前に座り込む私、ちょうど蛇に睨まれたように動けません。

 

 ですが何より私の心胆を寒からしめたのは、祠の威容でも大理さんの冷徹さでもなく、扉の向こうに見えた光景です。

 

 それは深淵でした。

 黒であり、闇であり、この地球上のどこよりも寒く凍てついた地獄の顕れでした。

 どれだけ昏目を凝らしたって、その内には何も浮かび上がりませんでした。

 

 全く無関係であることは明白なのに、ふと脳裏に遥か遠い宇宙の果ての超重力特異点が過ぎります。

 ひとたびあの漆黒の中に踏み込んだならば、光だってきっと逃げられません。軌跡を歪められ、囚われ、底へと向かってどこまでも落ちていくのです。

 

「さぁ、お行きなさい」

 

 そして大理さんは告げました。私にいけと言いました。

 この深い暗い寒い地の底へ、進んで身を捧げろと命じるのです。

 

「最期に一つ、いいですか?」

 ――嫌、逃げたい、帰りたい。叫ぶ私の本能をいともたやすく裏切って、私の口は、しおらしい事を述べ始めました。

 

「あなたも御力のある方なら、私の背に妹が憑いているのが見えるのでしょう?

 どうかこの後、あの子をきちんと成仏させてやってはいただけませんか?」

 

 大理さんからの反応はありません。そも、私の両目は祠の闇に釘付けとなったままなので、表情すらも分かりません。もしかしたら、遠の昔にこの場から去っているのかもしれません。

 それでも私は続けます。

 

「不徳の兄で……情けないお兄ちゃんでごめんなさいと、どうか伝えて欲しいんです。もしも、あの子がそんな私のせいで、極楽浄土に行けずじまいなのだとしたら、これ以上悲しいことはありません。

 引導と言うのでしょうか? それを渡してやってくれませんか?」

 

 そこまで言ったところで、深いため息が聞こえました。

 細く掠れた声が、呟くように言いました。

「引導とは、渡来人の僧が使う用語だ。

 ……安心せい。お前さまの妹は、ワシが責任を持って送ってやる」

 

「良かった」

 心の底からそんな感想が漏れました。

 それだけが唯一の心残りでした。

 ゆえに解消された今、私がためらう理由は何一つとしてありませんでした。

 

 私は脚に力を溜めて立ち上がり、その勢いのまま祠へと――正確にはその扉の向こう側の景色と向かい合いました。

 一歩、二歩……もう目と鼻の先までに近づいても、相変わらずそこには何一つのよすがも、目印も、光明さえも見て取れません。

 くろいくろい、虚無があるだけです。

 

 足は僅かもためらわず、床を蹴りました。巨大な祠に飛び込めば、私は暗がりの底へ落ちて――。

 

723: 20XX/10/15 (水) 22:22 exIDinject00

 させないよ

 

724: 20XX/10/15 (水) 22:22 exIDinject00

「させるわけないでしょ……」

 

 瑞希ちゃんの手を強く握り締める。あまりにも冷やい、まるで死人のような感触。掴んで止めて、引き上げる。全身全霊を賭けて、墜落を阻止する。

 

 一方、引き上げられた側の彼女は、目を真ん丸に見開いて驚いている。あんぐりと開いた口……おかしいの。何がそんなに不思議なのか、こっちの方がびっくりするくらい。

 

 最後に「えいっ」と気合を込めて、扉の内から外側へと放り投げる。かなり乱暴なやり方になったが、こっちだって余裕が無かったのでしょうがない。むしろ、このギリギリのタイミングで間に合っただけでも褒めて欲しい。

 

「やっと会えたね。瑞希ちゃん。この二年間、ずうっと探していたんだよ」

 盛大に尻餅をついた間の抜けた体勢の彼女に、腰を少し屈めて微笑みかける。

 

「もう絶対に離さない。今度こそ私があなたを守るの。

 だから――」

 

 そこでくるりとターン。アホ面引っ提げて突っ立っているジジイへ振り返った。

 

【挿絵表示】

 

「恥知らずの嘘つきどもは、みんな消えろ」

 

 暗がりの洞窟に、暗闇の夜に火が灯る。

 御岩戸(みわと)の封印はいま破られて、罪人を焼き尽くす日天が昇る。

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