安価で祠をぶっ壊す   作:激辛党

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724:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 22:25 exIDinject99

 何が起きたのか。

 誰が何をしたのか。

 

 誰よりも間近で、その瞬間を見ていたはずの私でさえ、ほとんど何も分かりません。

 

 祠から繋がる大穴へと飛び込んだと思ったら、なぜだかいきなり重力が逆転し、上へと引っ張りあげられて、息つく暇なく固い石床を転がりました。

 そうしてやっと顔を起こした先で、視界に入ってきたのが――空色の髪をした少女でした。

 

 ――やっと会えたね、瑞希ちゃん。

 

 動揺のあまり、正確には聞き取れませんでしたが、そういった趣旨の発言を碧髪の少女はしました。

 にっこり、とっても楽しそうに微笑んで、私を見つめて言いました。

 

 ――今度こそ、私があなたを守るよ。

 

 少女は私と旧知の間柄のような口ぶりでした。ともすれば、深い絆で繋がれた十年来の親友のような。……あるいは固い誓約で結ばれた夫婦のような。

 

 ですが私の方はと言えば、彼女の顔にも名前にも、全く心当たりが無いのでした。

 少女は見た目、十五か六歳で、由緒正しき白のセーラー服に黒のスカートを履いています。おそらく、どこかの高校の制服でしょう。

 

 しかし、私の通っている高校では間違ってもありません。そもそも私は女性相手には酷く人見知りする気性なので、入学してこのかた、まだガールフレンドの一人も作れてやいません。

 

 ではいったい彼女は誰なのか。なによりどうして、私を「瑞希ちゃん」と妹の名で呼んだのか。

 

 次々湧いてくる疑問には枚挙に暇がありません。反対に、唯一はっきり分かっていることがあるとすれば、それは――。

 

「ひぎっ!」

 突然、耳をつんざくような奇声が洞窟中にこだまします。同時にべちゃり、と重たく水っぽい音。

 それは大理さんが正面から床に倒れ込んだことによるものでした。

 

「がぁっ! がぁっ!」

 そこから少しだけ身体を起こし、四つん這いとなった体勢で、大理さんは顔を地面に打ち付け始めました。

 床に額を擦らせる土下座……のような生温い行為ではありません。文字通り自分の顔を、勢いよく振りかぶって石床に叩きつけるのです。

 

 骨の砕ける異音と共に、付近に血雫が飛び散りました。量そのものは大したことはありませんが、液体が額からべっとり糸を引くさまは、惨いの一言に尽きました。

 

 大理さんはそういった常軌を逸した自傷を、更に二度、三度と繰り返しました。彼は己の頭部を、大工の扱うトンカチよりも手荒に、無造作に振り下ろし、最終的に五度目でようやく止まります。

 ですがそれは彼の意志に基づいた停止というよりは、意識を喪失したことによる昏倒のようでした。

 ぱたり、と電池の切れた玩具のように、自らの創り出した血飛沫の上に寝転がったのです。

 

「どうして……」

 いいえ、昏倒で済んだならまだ良いでしょう。びくびくと、手指の先端を痙攣させている大理さんは、既に死に瀕しているとすら見えました。

 

「どうして……こんな」

 

725: 20XX/10/15 (水) 22:28 exIDinject00

 ――どうして、こんな酷いことをするの?

 

 こちらへ向けられた瑞希ちゃんの目が、そう訴えかけてくる。

 そこで無様に死んだ老いぼれを慮ってのことだろう。

 

 分かっているとも。彼女は生来、そういう人だ。庇わずとも良い人を庇い、結果として失わずとも良いものを失う。

 生真面目で、健気で、可哀想な子。

 

「当然の報いよ。……このジジイだけじゃない。村の連中は全員そう。何がミワトさまだバカバカしい。

 こんな下らない嘘八百を先祖代々受け継いで、挙句に瑞希ちゃんをまた生贄にしようだなんて……!」

 

 あまりに怒りに、目がくらんだ。息が苦しい。喉が張り裂けそうなほどに、呪詛が引っ切り無しに湧き上がってくる。

 

「許さぬ、決して許しはせぬ。地表を百篇焼き払い、骨ごと灰と消してもまだ飽き足らぬ」

 

 舌が怨みを綴るに合わせて、今や完全に空色へと塗り替わった髪が、ふわふわと宙に泳いだ。

 宇美沢村へと迷い込んだあの日、髪の変色に気づいた当初は、我ながら飛び上がらんばかりに驚き、怖がったものだが、今となっては何も感じない。

 むしろ黒色だった過去の自分に、違和感を覚えるほどだ。

 

 今、この姿こそが、拙者にとって――妾にとって、最も自然な状態である。本能でそう分かるのだ。

 

「さて……」

 瑞希ちゃんはこの手に取り戻せた。ペテン師の筆頭たる天野大理も死んだ。

 お次は蟻の子のように増え群がる村人どもを始末して回らねばならぬ。

 

 この千年のうちに、彼奴らはそれこそ両の指を千倍しても数え切れぬまでになったが、かえってそれは朗報である。

 我が身に燃え盛る憤怒の念を満たす甘露が、無数に味わえることを意味するのだから。

 

726:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 22:31 exIDinject99

 私と少女は見つめ合っています。

 大理さんが物言わぬ身体となった今、洞窟は凍り付いたような時間に包まれていました。

 

 互いに訊くべきことも、言うべきことも山のようにあるはずなのに、きちんとした言葉になりません。

 少女側の事情は定かではありませんが、少なくとも私のそれは怯えによるものでした。

 

 神社の境内でも、あれほどの力を振るっていた大理さんが、彼女に見据えられただけで、呆気なく発狂死したのです。

 空色の髪の少女が、尋常な存在でないことは、火を見るよりも明らかでした。

 

 そんな私と彼女の奇妙な均衡は、背後からした声によって破られました。

「大理さま……! いったい何が」

 奈落に繋がっていた祠、そのちょうど反対側に位置する場所には、私も通ってきた出入口の扉があります。

 それが半開きとなって、花嫁行列に携わっていたと思しき法被姿の男衆が数人、身体を覗かせているのです。

 

「ダメ!」

 反射的に私は叫びました。

 理由を聞かれても答えかねます。ですがとにかく、彼らがこの空間へ入ってきては絶対にいけない――という直感が、電撃的に閃きました。

 

 ほとんど絶叫であった私の声は、数十メートルの距離にある彼らの耳にも届いたようで、うち一人がぎょっと飛び上がりました。

 それですぐに身体を引っ込めてくれれば良かったのですが……事は上手く運ばないものです。

 

 戻らない大理さんの安否を気遣ったか、はたまた私の悲鳴を助けを求めるものと勘違いしたか。

 私の意に反し、彼らは扉を叩き開けると、こちらへ向かって駆けてきたのです。

 

「ダメだったら!」

 諦めず、私は再び叫びましたが、これは悪あがきにもなりませんでした。

 音節の終わりを発する頃にはもう一線、空色の帯が走っていました。

 

 少女の走る速度は、さながら地を滑るようでした。いいえ実際、両脚で地面を蹴ってはいないのかもしれません。

 明らかに物理法則を無視した挙動で、小柄な体躯の少女は洞窟内を移動し、あっという間に男達の前へと迫ります。

 

「な――っ」

 最も前方にいた一人が、遅まきながら接近者を察知して、驚く、悲鳴を上げる、激突に備える――といった複数の反応を示します。

 しかし案の定、少女はそれらをどれ一つとして意に介しません。

 

 彼女が返したのはただ一言。

「燃えろ」 ただそれだけでした。

 

===

 

730: 20XX/10/15 (水) 22:33 exIDinject00

 途端、男の身体は炎に包まれた。

 真っ暗闇、それまで何の光源も無かった洞窟内が、煌々とした白に染め上げられる。

 

 男は堪らず、床に転がって、必死に纏わりつく火を振り払おうとするが、この行動には何の意味も無い。

 むしろ足掻けば足掻くだけ、それはよりいっそう深々と男の身体に噛みついた。蛇さながらの貪欲さ、執念深さは妾も見ていてすこぶる気持ちがいい。

 

 男の喉から、醜い金切り声が迸った。着ていた法被も脱ぎ捨てるが、これも効果はいまいちだ。

 白炎は己が罪を燃やすべく、肉の内側から立ち上っている。外部的な消火が意味を為すはずもない。

 

「ぎ……ぎ」

 そうこう暴れているうちに、やがて男は静かになった。後には描写する価値も無い、黒白の入り混じった残骸が散らばるのみである。

 

「ふ、ふざけんな……なんだよこれ!」

 後続だった男が一人、月並みな台詞を吐いた。

 他も口々騒ぎ立て、三々五々に逃げ惑いだす。ある者は出入口の扉を目指し、ある者は壁際へ。その二つが大半を占めていたが、ごく一部の勇敢な奴は、愚かにも妾に立ち向かった。

 

「きさまぁ! よくも――」

 事情など何一つ理解していないだろうに、妾がこの変事の主犯であると得心がいったらしい。威勢良く飛び掛かってきた男はたちまち、二本目の蝋燭となった。

 

 その身体を起点に、再びまばゆい白光が放たれる。彼は一人目の犠牲者と比べ、より高い地位にある者だったらしく、炎はめらめらと燃え盛った。

 

 しかして光とは、昏目を持つ村人たちにとっては毒そのものだ。

 近くにいた者たちは悲痛な呻き声と共に、両目を手で押さえてうずくまった。だが動きをそうやって止めてくれるなら、まさしく格好の的である。

 

 蝋燭が一本、また一本と燃え広がっていく。宇美沢村の者が村人であるがゆえに、この延焼を止める手立てなどありはしない。

 いつの間に、祠の洞窟は昼間よりも明るい空間へと変じていた。

 

「あったかい……」

 真っ白に照らし出される最中で、妾は両手を上げて仮想の空を仰いだ。

 明るいのは光、光は熱、これならもうどこも寒くない。どんなに昏い夜だってほら、皆が頑張って燃えてくれるから、こんなに暖かくなる……。

 

「止めて!」

 

 白に染まった洞内で唯一、肌色の人体をいまだ保っている彼女が言った。

 

「今すぐ止めなさい! あなた、何をしているのか分かっているのですか!?」

 

===

 

754:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 22:45 exIDinject99

「何って……は、はは。あはは! 見ての通り! 燃やしてるの! 瑞希ちゃんを虐める奴らは全部ぜーんぶ燃やし尽くす! 例外は無い! 己が罪を薪とし、彼奴らは焦熱地獄に堕ちるのだ!」

 

 少女の喋り口調は、可憐な外観とまるで釣り合わない、酷くアンバランスなものでした。それこそ全く別人の精神でも入り込んでいるかのように。

 

「まさか……」

 そこでふと、脳裏に過ぎるものがありました。これほどまでに深く、宇美沢村を怨み、憎んでいる者に私は一人、心当たりがありました。

 

 伝承に出てきた、あの村娘。彼女の怨霊が現代に蘇り、少女の身体に憑りついているとでもいうのでしょうか。

 

 しかしそれにしては、「瑞希ちゃん」とやたら私の妹の名前を連呼するのに違和感があります。

 もしかすると、それが少女本来の記憶に根差すものなのかもしれません。

 

「あなたは誰!?」

 

 今や洞窟内は大火に覆われていましたが、不思議と熱は一切感じませんでした。人肉が焦げているなら、煙や異臭が立ち込めるはずですが、それもやっぱりありません。

 事ここに至っては、少女の異能を疑うべくもないでしょう。

 

 事態を一刻も早く鎮静化したい一心で、私は必死に呼びかけました。

 

「私は瑞希じゃない! だからこんなことをしても無意味です!」

 

===

 

759: 20XX/10/15 (水) 22:48 exIDinject00

 ――瑞希じゃない?

 

 そんなワケが無い。何をいきなり意味不明なことを言いだすか。

 妾はいったん、火の手を煽るのを止めて、瑞希ちゃんと向かい合った。

 

「面白くない……冗談だね。瑞希ちゃんが、瑞希ちゃん以外の誰だって言うの?

 それとも……妾が貴様の顔を見間違えるとでも思うてか?」

 

 疑問の形を繕ったが、言外に真っ向から否定した。

 しかし彼女は「違うに決まっているでしょう」と、更にそこから反駁してきた。

 

「私は……倉敷大悟。

 倉敷瑞希は私の妹の名前です。あの子は二年前、貯水池で溺れて、死んでしまった。

 だからあなたの探している瑞希ちゃんは、もうどこにもいません」

 

「は?」

 

 瑞希ちゃんが――死んでる? もういない?

 

「ははは! そんなわけない! 瑞希ちゃんはずうっと現世に留まってる! ほらだって、こうして妾に会いに来たではないか。それが何よりの証拠よ」

 

「いいえ死にました! なら逆に訊きますが、妹が亡くなっていないなら、私はどうしてこの村に来たのですか!?

 私はっ……! 私が妹を殺したから、その贖罪のために祠を壊したのです!」

 

 話が噛み合っていない。

 そう悟ると同時に、猛っていた妾の怒りが勢い共々、消沈した。

 念願の再会を果たしたというのに、いまだ彼女は混迷の霧に包まれているようだ。

 

「仕方ないなぁ……」

 スマホのカメラを立ち上げ、白無垢を着込んだ彼女の全身像を撮ってあげた。

 画面に表示された姿は、髪の一本から爪の先に至るまで、あの時の瑞希ちゃんと一片だって相違ない。

 

 二年の月日。

 瑞希ちゃんが高校生になっていたなら、きっとこんな風に成長していただろう。

 何度も何度も夢枕に描いた姿、そのままの女の子が、妾の前に今、立っているのだ。

 

 だというのに、近寄ってその写真を本人に見せてやっても、なぜだか彼女は首を横にふるばかりだった。

 

「違う……違う、私は……」

 

760:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:49 7NkAbCc0

 おいこれ……今しがた公開されたネットニュースなんだけど……。

 

761:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:49 7NkAbCc0

 急ぎ過ぎてリンク忘れてた。

 https://net.news.shinomiya.comXXXXXXX

 

762:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:50 S5ee8iPa

 規制で見れん。本文コピペよろ

 

763:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:52 A7hvNH5j

 しゃーねぇな

 ――――――

 

 10/11(土)から、母親によって失踪届の出されていた夏涼原郡在住の倉敷大悟くん(16)が、10/15(水)の午後五時頃、五月ケ丘署の警官によって発見、保護されていたことが同署の発表によって明らかとなった。

 

 発見された大悟くんは、11日の夕方、「友達のところへ遊びに行く」と言って家を出たきり行方不明となっていた。

 この事態を受けて、同区内の警察や、ボランティア団体を含む延べ三百人以上が、連日の捜索活動を行っていた。

 

 警察によれば、大悟くんが見つかったのはJR「石狩田」駅から、徒歩で一時間ほどの距離にある三和戸山のふもとだという。

 この地域は田畑の広がる農村で、近くには幹線道路も通っていない。また、特に大悟くんの親戚、知り合いなどが住んでいるわけでもないそうだ。

 

 発見当時の大悟くんは、酷く憔悴しきった様子であり、軽度の脱水症状と栄養失調を引き起こしていたものの、怪我はしておらず、今は受け答えも十分にできる状態にある。

 

 同署の警官からの聞き取りに対して、大悟くんは以下のように回答している。

「あの日は、急にむしゃくしゃした気持ちになって、気分転換に山登りをしようと思った」

「陽が落ちる前には帰ろうと思っていたが、予想以上に暗くなるのが早く、山道で遭難してしまった」

「下手に動くと体力を消耗して危ないと思い、一か所に留まって、持ってきていた携帯食料を食べつつ、救助を待っていた」

 

 そして遭難してから五日目となる今日、ようやく警察に救助されたということである。

 通常、山での遭難者の生存時間の限界が、おおむね72時間とされていることを鑑みると、これは奇跡と言っても差し支えのない救出劇だ。

 本人を含めて、関係者各位の多大な努力に、弊誌としては惜しみない敬意を送りたい。

 

 これほどまでに捜索活動の長引いた理由の一端に、大悟くんの携帯していたスマホのGPS機能に不具合が生じていた可能性が示唆されている。

 

 大悟くんの話によれば、彼は遭難中にも何度もスマホの各種機能を使用し、外部に助けを求めたとのことだが、通信電波の不通によるものか、どうしても上手く繋がらなかったという。

 

 しかし、たとえ通話ができなかったとしても、スマホ本体のGPS受信装置さえあれば、遭難者の位置特定は問題無く行える。

 にもかかわらず、五日もの日数を要したことには、いずれかの段階で大悟くんのスマホの探知に不具合が生じたと見てもよさそうだ。

 

 この点については、警察は現時点では詳細を伏せている。

 

 また、大悟くんは聞き取りの最後に、

「たくさんの人に迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

 助けてもらったことに、とても感謝しています。そして心配をかけてしまったお父さんとお母さんにも、すごく謝りたい気持ちでいっぱいです」と、述べた。

 

764:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:53 NIJr1WEI

 えっ

 

765:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:53 iakPapu5

 えぇ……(困惑

 

766:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:54 1NHlHerk

 倉敷大悟くん無事見つかっとるやんけ!

 良かった良かった。

 

767:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:54 DB9aFKLG

 じゃあ今、誰と誰が話してんだよ。

 

768:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:54 X7yLaoPm

 そりゃスネークと祠クラッシャじゃろ。

 

769:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:55 35Rvwb9e

 なんの説明にもなってないんだよなぁ……

 

770:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:56 7NkAbCc0

 倉敷大悟が二人いるってこと?

 

771:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:57 CqTd29ir

 ていうかまずスネークが誰だよ。そろそろ教えろ。

 

772:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:58 nUOUl1Eu

 そっちは簡単だろう。

 

 比上礼子。二年前の五十鈴西中学校の一学年における、倉敷瑞希の同級生だった女子生徒だ。

 倉敷大悟と面識はあまり無かったようだね。

 

773:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:59 A7hvNH5j

 あーあの、イジメ系クラスラインに載ってた女子か。

 でもなんかそういう証拠あるんですか?

 

774:名無しさん 20XX/10/15 (水) 22:59 m8GikfBx

 ちょちょ、ちょまって。スネークって女子中学生だったのか??w

 車にも乗ってたしさ、あいつは完全に中年のおっさんだろって誰か結論付けてたじゃん!

 

775:名無しさん 20XX/10/15 (水) 23:00 bQejuKIz

 AIを使ってない時の、節々の書き込み方がなんか女々しいってか、幼稚だったから俺は何となく察してたわ。

 あと昔のAAを嬉々として張り付けてるとことか、中学時代の俺にそっくりで痛かった。

 

 

776:祠クラッシャ 20XX/10/15 (水) 23:00 exIDinject99

 少女が掲げて見せたスマホの画面の中で、スレッドの書き込みがつるつると流れていきます。

 倉敷大悟くん(16)が三和戸山で遭難し、五日後に発見されたというネットニュースが目に飛び込んできました。

 

 詳細な内容まで読み込むことはできませんでしたが、触りだけでも十分過ぎるほどでした。

 

 私は――私ではありませんでした。

 倉敷大悟はそこにいました。

 思い浮かびます。心配性の母が玄関を開けるなり抱き着いてきます。さめざめと泣いている彼女の後ろで、父は柔らかな笑みを湛えて立っています。しかし彼の頬はたったの五日であからさまに痩せこけていて、どれだけ息子の失踪が気がかりだったかが見て取れます。

 

 二人の心配は押して知れます。というより、私はそれがどれだけ辛く、苦しいものであるかを身をもって体験しています。

 二年前、いつものように「行ってきます」と言ったきり、二度と帰って来なくなった妹を、夕焼けの窓で私はずっと待っていました。

 陽が落ちても暗闇に包まれても、ずうっと玄関を見つめていました。父も母も大騒ぎで、方々に電話を掛けて回ります。親戚一同が押しかけてきて、口々にああだこうだと議論が始まっていました。

 

 私はそれでも待っていました。妹が元気に扉を開けて帰ってくるのを、あるいは泣きじゃくりながら私の胸に飛び込んでくるのを。

 

 ……本当にそうでしたか?

 

 それは私でしたか?

 私が待っていたのでしたか?

 私を待っていたのでしたか。

 

 二つは似ているようで、決定的に違います。

 

 私は妹を殺し、妹は私を呪いました。

 だから彼女は今も私の肩に憑いているのです。

 

 本当にそうでしたか?

 二つは天と地ほどにかけ離れていますが、しかし紙の表裏のように一体です。

 私はいったいどっちの――。

 

777: 20XX/10/15 (水) 23:01 exIDinject99

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778: 20XX/10/15 (水) 23:03 exIDinject00

「瑞希ちゃん?」

 かくん、と彼女の首が折れた。

 決して骨ごとへし折れたわけではない。あくまで急に失神したためだ。

 

 しかしあまりに唐突だったから一瞬、本気でそうなったのかと不安になった。

 仮に頚骨が九十度曲がっていなかろうとも、命に係わる怪我を負っている可能性はある。

 なにせ彼女は、あの陰湿な村人連中に五日間にも渡る監禁の憂き目にあっていたのだから。その境遇の過酷さときたら、察するに余りある。

 

 一度、落ち着いたはずの激憤がまたふつふつと湧き上がってくる。

 次に焚き上げるべき罪人はいずこかと、洞窟内を見渡してみても、あいにく動く影はどこにもない。あれだけいたはずの男どもは皆、物言わぬ灰燼と果てていた。

 

 ではそろそろ河岸を替えよう。洞窟を出て山を下ろう。林道を進んだ先には集落があって、そこに生き汚いクソムシどもがうようよ這っていることは知り及んでいる。

 

 ただ、その前に一つやるべきことが残っている。奈落の底へと繋がる、あの大穴。西のかなめ祠として、洞窟の最奥にしつらえてある社に、妾は目をやった。

 

「灼けろ」

 一言くれてやるだけで、祠の屋根を成している茅葺き、その先端に火が灯った。

 初めは煙管のような、矮小なともしびだったそれは、瞬きのうちに大火となって巨大な祠の全体を覆いつくした。

 

 いかに対象が木造とはいえ、この洞窟のような閉鎖空間では、炎は本来こうも燃え広がらない。酸素がすぐさま足らなくなるためだ。

 だがそのような些末事は妾には関係無い。そもそも妾は物体を燃やしているのではない。

 現世にあるべきでないものを、あらぬ姿――すなわち灰に帰すだけ。

 

 少しも待たずして、やがて西のかなめ祠は跡形も残さず焼け落ちた。

 だが、しかし。祠が腹に抱えていた奈落の穴だけは、依然として口を開けていた。

 

「忌々しい……」

 思わず、呪詛が漏れた。ぜひとも消し去ってやりたかったが、いかんせん祠と違って、あれは元より自然にあるものだ。妾の力ではどうにもできぬ。まことに口惜しい。

 

 見ているだけでも、反吐が出るほど胸がむかついたので、視線を外した。

 今はそれより、村人を鏖殺するのがよほど優先する。

 

 移動を開始するに先んじて、まずは気を失ったままの瑞希ちゃんを肩に担ぎ上げる。彼女の身体の重みに、ふと悪戯心が湧いて、たわむれに頬を突っついてみた。

 

 ふにふにと柔らかい感触。そして当たり前だけれど、暖かい。

 きちんと血の通った、生者の鼓動が伝わってくる。久しく――本当に久しぶり、千年ぶりに指に覚える愛しい者のぬくもりだった。

 

「瑞希ちゃん……」

 彼女の名前を口に呟く。それは妾が憶えている名前とは違うが、しかし妾の求める名前であった。

 大好きな親友。二度と誰にも傷つけさせるものか。

 無知蒙昧な邪鬼共は尽く、妾が焼き殺してくれようぞ。

 

「れいちゃん」

 不意に、そんな呼びかけがあった。

 とっても懐かしい呼び方だった。

 

 根暗なうえに地味で、家の手伝いで学校を休みがちで、クラスで一際浮いていた(わたし)を、そんな風に親しげに呼んだ子は、たった一人しかいなかった。

 

「みず――」

 すぐさま応えようとしたが、それに被せる形で、彼女は続けた。

「君だってさ、れいちゃんじゃないよね」

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