VS聖神の異世界   作:殺鼠剤

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「ただ蛮勇のみで悪を斬れば良いというものではない。だが功ある者に報いぬのもまた道理ではないか……。」
 ――刀装神(とうそうしん)ガシュカダル


VSフルフェイス

 この世界の人種は割とわかりやすい特徴がある。

 ハルぺリア人はバルガーみたいな黒髪とかライナのような青髪を持っている。

 サングレール人はヴァンダールの銀髪や金髪、白髪だな。母さんも白くて綺麗な髪を持っていた。

 アマルテア系は割と複雑だが、俺の身の回りだと赤系統の髪色が多いかな。ウルリカとかそんな感じだ。あと“デッドスミス”の二人みたいな褐色の肌の人もいる。

 ここまでなら前世でもありえただろうが、ここはファンタジー世界。他の種族も当然いるわけだ。

 たとえばエルフ。長く尖った耳があるが、それだけだ。寿命も少し長いけれど特筆するような特徴なのかというと……。ハルぺリア人とかと違ってエルフだけの国なんてない。少なくとも俺は知らない。カテレイネみたいにそれぞれの国でそれぞれの人間として普通に暮らしている。

 後は魔大陸にいる魔族。魔人とも呼ばれる彼らは俺達人間にとっては毒になるような一部の食物を食べられるが、逆に麦とか肉は食べられないらしい。人間側も魔大陸の食物を全然食べられないそうだ。でも話は通じるし細々とした交易はある。

 

 今挙げた程度には色々いるけど、時代的にまだまだ遠くの人種と交わらないせいかそれ以外はよくわからん。よくわからんが、それなりに多くいるといって良いだろう。

 まあ、だから。

 明らかに人間でもなさそうな奴が言葉を発してきたら俺でも驚くんだよ。

 

 

 

 ギルドからスコルの宿に戻る道すがら、去年よりも往来が激しい市場を覗くと見知った顔を見つけた。

 

「ようカテレイネ。売れているか?」

「やあ少年、よく売れているよ。やっぱりレゴールだとよく(さば)ける」

 

 三十路を超えた俺を少年と呼ぶ怪しいダークエルフ風の女性。正体は一般麦わら帽子金髪日焼けオッドアイエルフ農家ことカテレイネだ。最近はこうしてレゴールで根菜を露店売りする姿を見るようになった。

 恰好が古着のローブと杖という魔女みたいな出で立ちで、農作業でも損なわれていない(つや)のある金髪を(さら)しているものだが、なかなかどうして売り物はよく()けている。

 前にカテレイネの実家の農作業を手伝ったこともあるが、結構立派で収穫量もあった。貧しい開拓村生まれの俺としてはかなり(うらや)ましかったな。それで少しからかわれたこともあったっけ……いやタンポポばっかり食っていたことに多少驚かれただけだったか。

 

「君もどうかな。そもそも今日はギルドマンの仕事はないのかな?」

「俺もするつもりはなかったんだが急遽(きゅうきょ)依頼が来てな。カエディアっていう魔物の討伐なんだが」

「ああ、あの森を食い荒らすという」

 

 カエディアはチャージディアと同じくディア系の魔物だ。とにかく大食いで樹木の枝や樹皮を見境なく食べて荒らしまくる。食べた跡もボロボロで汚い。そうやって森を荒らすせいで環境に悪影響を及ぼすらしく、狩人やギルドマンからは嫌われているらしい。

 らしい、なんて曖昧な理由はカエディアがバロアの森では見かけない魔物だからだ。

 

「作物の被害は聞かないしベイスンにもいないけど、レゴールの近くにはいるんだね」

「それがレゴールでも全然いないはずなんだよ。チャージディアやクレイジーボアを倒せるなら問題なく討伐できる魔物ではあるが、バロアの森に現れた理由がよくわからないらしい。見間違いの可能性もあるが念のために行ってきて欲しいそうだ」

「でも最初に見かけたのもギルドマンだろうに、見間違いなんてあるんだ」

「あいつならあり得る」

 

 カエディアの一番の特徴、それは外見が草っぽいところだろう。何ていうか(ぼう)携帯獣ゲームの鹿モチーフの草タイプみたいな印象を受けるし、実際はそれよりも植物じみている。そのせいか肉は青臭くて人気がない。毛皮は上質な素材として高く売れて、王都のバロアソンヌのパクリボードゲームでも使われていたほどだ。“アルテミス”もカエディアのラグマットを持っているらしい。

 名前も明らかに(かえで)とディアをかけたもの。まんま花札の組み合わせだから、俺が一時期この世界をゲームやラノベ原作だと思っていた大きな理由の一つだ。

 

「そういうことなら残念だね、せっかくの野菜を少年にも味わってほしかった」

「それなら一旦宿に戻るから大丈夫だ。こいつとこいつを貰うよ」

「ウフフ、ありがとう」

 

 どうせチャクラムを取りに戻るんだ。今買って良い。カテレイネの根菜を貰って一度宿に戻るのだった。

 

 

 

「まあこんなもんだな」

 

 特に何もなくバロアの森の少し深いところでカエディアを発見し、さくっと討伐終了。討伐証明部位を分け、皮だけ()いで持ち帰る。良い臨時収入になるぜ。

 ブロンズは調査依頼を受けられないものの他に手隙がいなかった。なのでミレーヌさんが名目を少し変えて討伐任務として実力のある俺に仕事を振ってきた。現場では臨機応変にってことだな。特に俺は貢献点を多少減らすような調整をしてでもブロンズ3にこだわっているから、発見できませんでしたで下がってもメリットがある時は歓迎する。

 とりあえず気になるのはどうしてカエディアがいたのかだ。倒した経験はあれどレゴール領以外でのできごとだったし、こいつはバロアの森に生息するような魔物ではないはずだが……。カテレイネにそれとなく聞いてみたが、どうもベイスンにも現れたようすはない。まあ、俺が気にしても仕方ないか。

 

 さて戻ろう、と(きびす)を返したところで。

 異形が数メートル先に立っていた。

 

 身長は俺より少し高い。だが全体的に明らかに人間でもエルフでも魔族でもない。

 虫だ。とりわけ(あり)に似た雰囲気を持つ蟻人間としか言いようがない何かが立っていた。

 二足歩行のようだが下半身についている肢は四本脚で、上半身についている二本の腕も虫のそれに見える。全身に鎧にも見える黒い外骨格を持っていた。

 目は黒く複眼状になっていて、頭頂部から後頭部にかけてヘルムのような分厚い外骨格の装甲が(おお)っている。その装甲の下部からは緑色のセミロング程度の髪が見えていた。

 よく見ると頭頂部の外骨格には二つの手術(こん)のようなものがある。まるで外科的に二本の触角を切除したかのようだ。

 腰にはボルツマンの如く四本の剣を差しており、(さや)は地球でも見たことがないくらい真っ白で、一目で高級品だとわかる。

 

 思わずバスタードソードに手をかける。

 抜かなかったのは万一友好的種族で、俺が何かしらやらかしたら大変だから……なんてことはなく、正直初めてクヴェスナやペジュリオを見た(とき)(なみ)に驚いていただけだ。

 

「デーモンを確認」

 

 だというのにさらに俺は驚かされた。言葉を発したこと、ではない。

 この蟻人間が明らかに日本語を喋ったことに、だ。

 

 この世界の言語は日本語じゃない。ところどころ英語のようでもあるが、やはり違う。

 なのに、こいつはどう聞いても日本語を発したとしか思えない。

 しかもデーモン? 俺が知る限り神はいても天使や悪魔はいない。もちろんイビルフライのイビルやガミガミストラスのストラスなど地球では悪魔を意味する言葉自体は存在するが、独立した邪悪な何かを表す単語じゃない。

 しかも確認ときた。もしもデーモンとやらが俺のことを指しているなら、日本人だった俺に向けて日本語を話しているのだとしたら。

 この蟻人間は敵……なのか?

 

「魂のあるべき故郷に(かえ)るため、覚悟は決まっているな?」

 

 再び日本語で言われた内容は要領を得ない。しかし蟻人間が腰の剣を抜き、両手に一本ずつ構えたところで俺も抜刀する。

 こいつは俺を殺そうとしているのだ。

 

 剣を抜いた俺に蟻人間は少しだけ笑った……ような気がする。

 

「参る」

「!?」

 

 声を出す(ひま)もなかった。

 俺の全力の身体強化に匹敵する速さで距離を詰めてきた蟻人間は、両腕の輝く剣を勢い良く振り下ろしてきた。

 咄嗟(とっさ)にバスタードソードで防ぐが重みも尋常じゃない。早々に受け流して後ろに飛び退()き距離を取る。かすかだが久しく感じなかった手の痺れが逆に現実感を失わせてくる。はっきり言って聖堂騎士の“圧撃(スマイト)”よりもずっと威力があった。

 もちろんそんな程度で相手が止まってくれやしない。そこからは剣舞(けんぶ)にも似た連撃が銀色の筋道を幾重(いくえ)にも交差させながら襲いかかってきた。カエディアの毛皮を入れた袋を放り出して応戦する。

 こっちはもう両手持ちかつ全力で強化魔力を使っているのに、蟻人間の二振りは少しも欠けることがない。相手の強化魔力も俺並にあるらしい。

 

「お前、何で俺を……っ!?」

「貴公は早く楽になるべきだ」

 

 こっちも日本語で話しているのに全然会話が通じない。蟻人間の猛攻に耐えるだけで精いっぱいだ。

 どうやら抜刀した剣の形状や刃渡りが変化しているようだ。通常は腰に差せる剣の長さはバスタードソードまでで、ロングソード以上は背負うような形になる。

 蟻人間の剣はその常識が全く通じない。鞘は明らかにバスタードソードほどしかないのに抜身の剣はロングソードのように長い。どことなく神秘的な(きら)めきがあり、魔剣とか業物(わざもの)といった区分をも超えていた。

 そんなロングソードじみた長剣を片手で、しかも二刀流で振るってくるんだ。俺も片手でロングソードを扱えるが、普通は、いやそれこそ強化魔力込みで高級軍人であっても使えない。

 つまり目の前の蟻人間はギフトでも使用しているか、もしくはギフトすら超えた強化魔力の持ち主だろう。

 そして本来はここにスキルも乗る。もし仮に攻撃系スキルが一つでも使われれば愛剣は折られ、俺自身も真っ二つだ。笑えねえ。

 

 何とか位置取りを調節し、蟻人間の剣にバロアの木を斬らせて今度こそ距離を取る。それなりに太さがあった樹木が両断され、バランスを崩して倒れ込む。

 今必要なのは少しの余裕だ。

 だがその前に蟻人間の人離れした口が開いた。

 

「“アトラ・カダル・アクレイシア”」

 

 発した言葉は日本語ではなく詠唱だった。

 蟻人間が突き出した右腕の長剣が魔光を発して、白銀に光る三日月状の斬撃が飛んできた。

 あまりにも大きな魔法の斬撃は周囲のバロアの木や倒れた樹木を容易に切断し、危うく俺の半身同士を切り離すところだったが、どうにか高い位置にあるバロアの木の太い枝まで跳んで回避した。

 

 文頭にアトラとつく古い詠唱の高度な魔法。そんな魔法を習ったり、扱える人間や環境は限られる。蟻人間の正体がますますわからん。

 それはそれとして、俺はようやく必要な一息の時間を手に入れた。

 

「“(イクリプス)”」

 

 ぶわりと膨れ上がった魔力が黒い炎となって白骨の身体に纏わりつき、次いで剣の全体に広がる。おおよそ人間離れの度合いでは目の前の蟻人間をも超えているかのような亡者の姿。

 これこそが俺の、モングレルのギフト“(イクリプス)”だ。もうこいつを倒すにはギフトを使うしかなかった。

 

 俺の姿を見ても特に反応を示さず四本の足を前に出す蟻人間に対し、木々がなぎ倒される中で着地した俺はこちらから詰めていく。

 

『おりゃあ!』

「ふん!」

 

 “(イクリプス)”状態では言わない気合の声。それをもってしても神々しい双剣の防御は崩せない。マジでこいつ何なんだ……?

 だが今度はこちらの番だ。初めて相手に防御させた勢いを維持して果敢に攻めていく。蟻人間もさるもので禍々(まがまが)しい炎の魔力を付与されたバスタードソードを時にいなし、流し、受け止める。

 それでも守勢に回っているのは蟻人間側だった。それでいて一瞬でも油断すれば簡単に巻き返される予感があった。

 押し切るしかなかった。

 

『おらぁ!』

 

 一際大きな声で剣を叩きつける。蟻人間は二本の剣で防ぎつつ……逆にこちらの威力を利用して後ろに大きく下がった。

 蟻人間が仕切り直しを考えるなら、と考えて何らかの遠距離攻撃を警戒しつつ側面に回り込もうと走る。

 しかし思っていたような攻撃は来なかった。

 

 蟻人間は大きく息を吐き、口からある言葉を放った。

 

「“黒機神(フェイスフル)”」

 

 まるで俺のように蟻人間の姿が変わる。といっても俺ほど劇的ではない。

 外骨格の鎧は生物感を失い金属光沢のある分厚い装甲に変わり、複眼は発光ランプに変化する。虫のような丸みを()びた六本の腕と足は黒々として角ばった部位になり、緑の髪は細いコードに変わる。全体的なシルエットは黒い騎士を思わせる。

 

『ロボット……!?』

「そうだ」

 

 側面から切りかかりながらつい呟いてしまった言葉に、蟻人間のロボットは二振りの剣で守りつつ反応した。

 その二振りの剣は先に交えたものではない。足のうち二本が腕に変化して腰にぶら下げたままだったもう二振りを抜いたのだ。本当にボルツマンみたいだが、はっきり言ってあの若い聖堂騎士よりも数段、いや数十段は上の相手だ。

 そのまま蟻人間ロボットの規格外の長剣に俺の体が弾かれ、後退すると共に奴の言葉が続く。

 

「我がギフト“黒機神(フェイスフル)”は私をロボットへと変化させる。重量も増すが、その分身体強化も強まる。つまり貴公の勝ち目はなくなった」

 

 日本語で返ってきた答えに心中で驚愕するが、既に俺の準備は終わっていた。

 

『“金屎吐(コンフリクト)”!』

 

 黒い炎で燃え(さか)る数枚のチャクラムを超高速で射出する。城砦をも貫き破砕する、破壊力がありすぎる俺の攻撃スキルだった。

 なりふりなどもう構っていられない。ギフトを使えるということはおそらく人間なのだろうが、殺したくなくとも攻撃スキルを使用しなければならないほどこちらは追い詰められている。

 対して蟻人間のロボットはランプの目を発光させた。

 

「“剣の聖域”」

 

 たった一本の神聖な剣が最小限の動きで全てのチャクラムを払い落とした。

 防御系の中でも特に珍しい剣を使ったスキルだ。範囲内に入った矢や投擲物(とうてきぶつ)を切り払い身を守る。話では魔法も含めた遠距離攻撃全てを防げるという。

 

 まずいな。こちらの攻撃スキルが無駄になってしまった。それこそいつも俺がわざとやっているみたいに外してしまったならまだ良かった。だが完璧に防御させてしまってはどうしようもない。……マジで詰んだか?

 

 絶望しかけた俺に蟻人間のロボットはギフトを使用する前よりも速く俺に向かってきた。

 

『ぐっ!』

「ふふふ、もうすぐだ。二度も奪われたあの場所に還れるのだぞ」

 

 わけのわからない内容の日本語を聞きながらも、表情筋を失った今の俺はそれでも必死に歯を食いしばる。バロアの森にけたたましい金属のぶつかり合う音が連続で鳴り響く。

 一本の剣で四本の剣を受けきれるわけがない。特に足が変化した二本のロボットアームが下半身部分から伸びているせいで防御しにくい。ジリ貧だったし、俺にバスタードソードで挽回(ばんかい)する手段は残っていなかった。

 

 ギィン、と大きな音を立てて俺の剣が上方に弾かれる。まだ柄から手を放してはいないが無防備な状態だった。蟻人間のロボットには剣を弾いた上の左腕以外にもまだ三本残っている。

 

「先にあちらで待っていろ!」

 

 不可解な勝利宣言と共に三本の切っ先が俺を貫こうと迫る。避ける手立てはない。

 

 だからこそ俺はフリーになった左腕を蟻人間のロボットに伸ばした。

 黒い炎に包まれても輝く白骨の腕が自らの肩に触ったのを見て、発光ランプの光がわずかに揺れる。

 今まで“(イクリプス)”の状態で得ることはなかった苦痛にしゃれこうべを歪めながら、俺は手の骨から無機質な金属の感触を貰った。と同時に叫んだ。

 

『“混合沌(コンフュージョン)”!』

 

 途端、蟻人間を飲み込まんとばかりに触れている骸骨の手から機械の肉体へと禍々しい炎が浸食していく。

 

「ぐがあああぁ!?」

 

 蟻人間が身をよじり、苦痛の声が辺りに響く。

 

 俺のスキルの一つ“混合沌(コンフュージョン)”は武器や装備品を吸収して自らの体の一部にできる。だからとどめの攻撃の直前で思ったのだ。こいつのロボットの体ならあるいは通じるかもしれないと。

 

 目論見は成功した。

 右肩、上の右腕、右脇腹、右胸辺りまでを奪ったところで蟻人間のギフトが解除された。

 蟻人間が手にしていた剣は一本も奪えていなかったが、足だった二本の腕も元に戻って三本の剣が地に落ちる。

 こっちも体全体を捻って何とか最後の突き攻撃をやり過ごせたが、どうにも“混合沌(コンフュージョン)”の吸収が異様な感覚でさっさとロボットの体の一部を排出したいところだった。

 

 だが呑気(のんき)弛緩(しかん)している暇はなかった。

 

「まだ、だ」

 

 身体の四分の一を失った蟻人間はなおも踏み止まって俺のことを睨みつけ、バランスを欠いた虫のような左腕の神剣を振り下ろそうとする。

 そしてその前に俺は照準を合わせていた。

 

『“金屎吐(コンフリクト)”』

 

 奪った機械部品の塊を(ほむら)と共に返してやり、蟻人間は最後の剣で何とか防御しようとするが防ぎきれずに上半身が吹き飛んでいった。

 残った虫の下半身が仰向けに倒れ、“金屎吐(コンフリクト)”で飛ばされた神秘的な長剣がくるくると回って近くのバロアの木の上に刺さった。

 

『はぁ、はぁ……勝ったのか。今回ばかりは危なかった』

 

 日本語を話す謎の異形、蟻人間との戦闘はこうして終わった。

 ギフトを解かず思い切って残っていた下半身にバスタードソードを突き立てるが、虫系魔物を斬るような感触が伝わってくるだけでアンデッドになるような気配もなかった。

 

 まずは常備していたポーションを受けた傷にかけて癒す。毒の類もなかったようなのでこれで十分だろう。まさか俺自身に使う時が来るとはな。

 襲われて放り出したカエディアの皮と討伐証明部位を見つけチャクラムを回収する。改めて死体を確認しようとすると、辺りには戦闘の跡しか残っていなかった。

 蟻人間の下半身も、神々しくも恐ろしい四本の長剣も、“金屎吐(コンフリクト)”で射出した機械の塊も。何一つ発見できなかった。

 残されたのは鋭利すぎる刃物で斬り落とされたバロアの木々と、俺の中に(わだかま)る殺しの感覚だけだった。

 

「あいつは一体……」

 

 周囲をまだ警戒しつつもとにかく疲れた俺は一度帰路につく。一抹の不安を無視しながら。

 

 ……この戦闘の跡、俺の責任にならないよな?




VSフルフェイス終了
VS「クァルケル=ガ=クェチカ」に続く
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