VS聖神の異世界   作:殺鼠剤

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「これは、“クランブル・ロック”を基にした魔法か?」
 ――法神(ほうしん)アトラマハトラ


VS打ち砕くロッカ

「ギフトぉ! ――“打ち砕け(クランブル)()偽りの故郷(リトネイヨ)”!!」

 

 ギフトが発動されると辺りの光景が一変する。黒々とした砂鉄の大地がどこまでも広がり、バロアやハルペリアローリエの木々は消え失せた。代わりにさまざまな形状、性質の岩石や鉱物が隆起するかのように出現した。空自体はさっきまでと変わっていない。地形の塗り替えか?

 変化はまだあった。エルフの右手に先程まで形もなかった漆黒の鶴嘴(つるはし)が握られていた。

 

 砂鉄を踏みながらエルフは鶴嘴を振り上げてきた。

 

「死ねえ!」

「うおお!?」

 

 大きく()け反って鋭利な鶴嘴に突き殺されずに済む。そのままバスタードソードのところまで移動して持ち直す。

 エルフはすぐ傍まで迫っていた。

 

「“(イクリプス)”!」

「逃げるなヒトモドキ!」

『ぐう!』

 

 右腕の真っ直ぐな殴打を愛剣で受ける。“(イクリプス)”で超強化されているのに折れるかと思ったほどだった。

 

『うう!?』

「耐えよったか、汚物め」

 

 小柄な体躯からは想像もつかない寒気のする声音だった。

 ジャケットの左肩のエポーレットに下がっていたピックを手にし、鶴嘴と共に掲げてそれぞれが一際輝く魔光を発した。

 

「“スティヘイムの至宝剣”!」

 

 身体強化を全力にして横に飛んだ。

 直後に巨大な剣を模倣した膨大な魔力エネルギーが砂鉄の大地に叩きつけられた。

 

 轟音の後に横を見やれば、地割れと表現して良いくらいの斬撃の跡が地面に刻まれていた。あそこには多くの種類の鉱物が露出していた巨岩が鎮座していたが、もはや見る影もない。恐ろしい斬撃によってできた溝の深さは何十メートルになるだろうか、どこまでも地面の下は砂鉄で埋まっていた。とんでもない威力だ。

 

 俺はすぐに目に映った近くのチャクラムを拾った。喋る馬との戦いで使用した物だ。(すす)こけたチャクラムは砂鉄の地面でも何とか見つけられた。

 

『“混合沌(コンフュージョン)”からの“金屎吐(コンフリクト)”』

「“スティバーマル”」

 

 俺が取り込んで即撃ち出した投擲武器とエルフが生み出した何枚もの盾が衝突し、相殺する。盾は鉄製だけでなく、他の金属や岩石でできたものもある。それらを重ねられたせいでこちらの攻撃スキルが届かなかった。

 金属や岩石を作る魔法。そんなものは聞いたことがない。グレナデンも空間干渉魔法を行使していたが、奴らだけが使える特殊な魔法だろうか。鶴嘴やピックが杖なのはおかしいが、そう考えるとどちらも様になっている。とりあえず目の前の敵を岩エルフと呼ぶことにしよう。

 

「“スティフェイブルムロッドヘイム”」

 

 岩エルフはその身を魔光で包むと、次の瞬間には黒い全身鎧を着込んでいた。兜はエルフ特有の長い耳もきちんと仕舞われており、背中には棘のような突起物が六本生えていて(いか)めしい。その黒い金属は鶴嘴に使われている物と同質なようで、俺でも一目でただならぬとわかる。

 

「お前達ヒトモドキはいつもそうだ。私達人間からさも当たり前という顔で何でも奪っていく、右手を失ったあの時のように! 自分達の方が偉いと勘違いしている蛆虫にも劣る無学な劣等種が!」

 

 鎧越しに聞こえてくる内容は日本語なのに少しも理解できない。だけど心の方が共感できてしまった。

 

「お前達のようになりたくないのに、私に勇気がないばかりに! 忌々しいこの長耳を残してしまった!」

『なあ……』

「黙れ! “スティグジム”!」

 

 鶴嘴が突き出されると帯電した鉄の針が放たれ、当たらぬよう身を(ひるがえ)す。

 

 獣のような警戒心はこの世界を信用していないからだ。

 

(なぶ)り殺してやる」

 

 ある意味で俺と同じく、この人はこの世界に復讐心が(たぎ)っているのだ。

 

「“スティアンク”」

 

 鉄のブーメランを投擲すると共にこちらに向かってきた。バスタードソードで弾き返してやろうとしたがすぐに砕けて消滅してしまう。

 その数秒後には俺も岩エルフも距離を詰め、互いの武器をぶつけ合わせ拮抗(きっこう)する。白く輝く骨の手に伝わる衝撃はギフトを使っていない(あり)人間やグレナデンの時よりも強かった。岩エルフの身長は百四十センチもないように見える。その体格差もあって逆に俺は押し切れなかった。

 膠着(こうちゃく)したのもつかの間、鶴嘴を器用に操ってバスタードソードに引っかけられ、共に下に降ろされる。岩エルフは左手を放してピックで刺しに来た。俺は多少無理な体勢でも急いで剣を引き抜いてピックの攻撃をガードする。さらに左足で鶴嘴を踏みつけて動かせないようにした。

 

「“スティエンジュ”」

『何!?』

 

 足蹴にした鶴嘴の下から岩の柱がせり上がって出現し、足元を掬われそうになる。俺の燃える剣と自由になった岩エルフの黒い鶴嘴が石柱を挟んで激突した。と思いきや、鶴嘴は前兆もなく赤錆びたスコップに変形し、一際強く押し込んでくると剣との摩擦で炎を生じさせた。

 

『あっつ!』

「“スティアノスフウル”!」

 

 岩エルフが間髪入れずに放った通常色の炎版“金屎吐(コンフリクト)”っぽい魔法を払い落とし、今度はこちらの目が光る。

 

『“幽雅刀(ゆうがとう)”』

「“スティラギロアブローム”」

 

 先程よりもずっと太く長い岩の柱が岩エルフの足元から急速に伸び、俺の剣は敵の体を捉えられず空振りに終わる。“幽雅刀(ゆうがとう)”は物理攻撃じゃないので岩の柱を通り抜けてしまって、壊すこともできなかった。

 

「押し潰れろ! “スタヅ・スタニアルモンタズマ”“スタング”!」

『おおおおお!?』

 

 岩エルフが載る柱のさらに下から四角い鉄の柱が伸びたかと思うと、それが岩の柱を載せたまま俺に倒れ込んでくる。微妙な角度で倒れてきたので逃げる方向が限定され、そちらに岩エルフも飛んでいた。

 

「“スティーボー”“スティボウ”“ステイボー”!」

 

 飛び降りてくる岩エルフは微妙に発音が異なる詠唱で三つの(もり)を作り出し発射した。速度も大きく痛手を被らないためには剣で叩き落とさざるを得ない。壊れた銛は欠片も残さず瞬時に消え去った。

 それこそが岩エルフの狙いだった。

 

「食らえ“スティラ”!」

 

 ピックを光らせて生成されたそれは俺の何倍もある巨大な鉄塊だった。でっか。

 まずいことに魔法の銛に対処したせいで足が止まっていた。そんなデカブツは少しきつい。

 

 返事は単なる馬鹿力にした。

 

『おりゃあ!』

 

 砂鉄の大地に踏ん張って真正面から巨大な鉄塊を受け止め、そのまま投げ飛ばす。当然、投げるために両腕を伸ばしきって脇腹を(さら)した俺は無防備だ。岩エルフは落下しながら鶴嘴を叩きつけようとする。

 だが忘れて貰っては困る。

 

『“金屎吐(コンフリクト)”!』

 

 このスキルは取り込んでさえいれば輝く骨身のどこからでも射出できる。たとえ隙を見せたように思えても油断はできない。

 

「小賢しいぞ、“スティヘイムの盾”!」

 

 スリット越しでもわかるくらい憤怒(ふんぬ)の表情を浮かべる岩エルフも戦闘は冷静だ。魔法で瞬時に形成した大きなカイトシールドで投擲された超高熱のチャクラムを()らす。シールドはチャクラムの攻撃で破壊され消滅してしまうが、代わりに岩エルフは無傷だった。

 

『でえりゃあああ!』

「頭蓋も砕けろぉ!」

 

 上方からの攻撃にも何とか対応し、バスタードソードと鶴嘴が激突する。鶴嘴は先程までのスコップ状態と同じように赤錆びた色で炎熱を放っていた。全身鎧の分を鑑みてもそこまで重くはなかったが、例に漏れず強化魔力が尋常ではない一撃に踏ん張らなければならなかった。

 それでも何とか岩エルフの体ごと突き飛ばす。

 

『“坩納堝(コンセントレイト)”“金屎吐(コンフリクト)”!』

「“スティディカトレット”」

 

 魔力回復からのスキルによる追撃にさえ合わせられ、二本の曲剣が射出された。だが身体強化込みで盾で逸らした時とは異なり、“金屎吐(コンフリクト)”の勢いはまだ止まらなかった。単純な威力なら岩エルフの通常魔法攻撃よりも強いようだ。

 

「おのれ、“レン”“スタンバルマ”“スティピュラムス”」

 

 しかしせっかくの攻撃も蛇腹状の薄い鉄のカーテンと厚みのある鉄板、全身を包む三角錐状の鉄製防御魔法に防がれる。喋る馬の時にも思ったが互いに視界を(さえぎ)られると魔光の確認ができなくてやりづらい。

 

「“スティアスノットブリーオン”!」

 

 聞き取りづらい声が発せられると、三角錐の後ろから岩の大砲が頭をもたげてきた。完成直後から灼熱に発火する岩石の砲弾が連射される。そこまで喋る馬と同じなのか!?

 俺の周囲にあった巨大鉱物や魔石の類が容赦なく破壊されていく。弾の強度に難があるのか多くはこちらに届く前に砕けているが、逆にウルリカの割れ矢、いや散弾矢の如く面の攻撃に変わっているため厄介だった。しかし大砲は一つだけ、砲口の向きを変える柔軟性もなければ鉄の三角錐に(こも)っているため俺の姿を確認できなくなっているから逃れるのは簡単だった。

 

 “金屎吐(コンフリクト)”をお見舞いしてやろうと側面に回ると、いきなり三角錐が消滅した。ピックを突き出すように持っている全身鎧の岩エルフはその黄色い瞳でじろりとこちらを確認する。

 

『“金屎吐(コンフリクト)”!』

「しゃらくさい、“スティヴァレット”!」

『くっ!』

 

 またも何らかの特殊金属に変化したスコップをもの凄い勢いで扱い、黒い炎を纏ったチャクラムが呆気なく弾かれる。間を置かずに高速で発射される何本もの鉄の短槍を今度は俺が弾く。お互いを確実に仕留めるには接近戦以外にないと悟ってしまった。

 両者共に殺すために走り出し、鉄の武器を投げつける。

 

『“金屎吐(コンフリクト)”!』

「“スティディレリル”“スティタンブラム”!」

 

 今度は鋭い刃を何本も備えた巨大な鉄の杭と四角い大質量の鉄塊が飛んでくる。“金屎吐(コンフリクト)”は杭を破壊するも阻まれ、鉄塊の方は勢いが減らず向かってくる。

 

『なら!』

 

 当たる直前に強化魔力に物を言わせて跳躍。一度炎上する骨の足で鉄塊を踏んで飛び越えた。多少驚いたような岩エルフにお返しとばかりに渾身の力でバスタードソードを振り下ろす。

 再び漆黒の大地の上で黒く燃える剣と赤錆びたようなスコップが激突し、文字通り火花を散らした。

 

「馬鹿が」

『う、ぐ!?』

 

 ……そして、俺の背中から胸にかけてを鋭い短槍が貫いていた。当然肺のある箇所も通っていた。たまたま吸収していたチャクラムに引っかかり抜けてはいないが、その分の苦痛は長く感じられた。

 

 後ろに伏兵などいなかったはずだ。岩石の砲台も俺の前方にあり、槍を投擲する手段なんてどこにもなかった。

 

「こういうことだ、スカタン。“スティグマ・スティレット”」

 

 スコップと競り合う力を緩めてなどいなかった。なのに岩エルフの鎧の後ろに生えていた棘が一つ後ろ向きに射出されたかと思うと、相手の押し込む力が急激に強まって(はる)か後方まで突き飛ばされる。(そび)え立つように露出した魔法金属の鉱脈にぶつかり、大きく空気を吐き出す。大地の砂鉄が砂埃のように立ち込めて俺の白い体を無遠慮に撫でる。

 

 おそらく棘の発射時の反発を上手く膂力(りょりょく)に足したんだろう。つまり岩エルフがやったのは魔法で生成した物体を再度操って高速で発射する魔法。これまで色々な鉄の魔法を行使していたから、そのうちの一つを無詠唱で操ったわけか。

 起き上がると岩エルフがピックを回転させて持ち手の方を握った。再操作魔法を行使した際は上手く金属部分の方を手で隠すように持っていたんだろう。スコップを持っていたのに器用だな。魔光を見せないようにするなんて対人戦では基本だし、大きい杖と小さな杖を併用(へいよう)する理由もわかった。

 だが二本の杖の併用も、わざと最初は詠唱を声に出して本命を無詠唱で使って奇襲するのも並大抵の技術ではない。やはり岩エルフもまた、これまでと同じくこの世界最強を名乗れるだけの実力者なのだろう。

 

 だけどな。

 

『そら!』

「な、“ティレブシェット”!」

 

 胸部を貫いていた魔法の槍を槍投げの要領で投げ返してやる。岩エルフは大きめの鉄の杭を生み出して迎撃したものの、ほんの少し動きが固い。黄色い目にようやく激情以外が浮かんだ。

 

 話は単純、そもそも俺は傷ついていない。なにせ今の俺の姿は黒い炎で荼毘(だび)に付し続ける骸骨だ。岩エルフの槍は丁度骨と骨の間を通ってしまい、かろうじて吸収したチャクラムに当たった。吸収した武器を通じてちょっとした衝撃やそれに伴う痛みはあるが負傷はない。

 スカスカの骨だけの身体にダメージを与えたいならきちんと骨を狙え。

 

 まだまだ丈夫な俺は遠のいた岩エルフにまた突っ走る。この距離だとおそらく“金屎吐(コンフリクト)”も届かない。槍投げなら今の身体強化で届きうるわけだが防がれて終わりだろう。ならばひたすら走って愛剣で一閃してやるだけだ。

 

「“スティントゥドット”、“スティガミル・ステイボウ”、“スティドガミル・ステイボウ”、“スティロージェス”、“スティントゥガミル・スティーラー”!」

 

 俺の周囲の大地から材質もばらばらな杭や壁が次から次に生えて襲いかかってくる。それだけじゃなく先程使用された数種類の柱も新しく伸びていく。これだけ大量に生成するとなるとほぼ無詠唱が大半を占めている。通常、魔法は使用者から近しいところに生み出されるものだが、岩エルフは距離が開いた俺に対しピンポイントに攻撃し続けている。ギフトの影響下にある地形ならどの場所でも強力な鉄と岩の魔法を放てるのだろう。

 生成された大きな岩の柱が別の金属製の杭に折られてこちらに倒れる。別の岩壁に登ってもそこから杭や牙が突き出されるように生み出され、時に針が射出される。材質もさまざまで、単なる鉄もあれば見たこともない魔法金属のものもあった。

 

 とりあえずこの地獄から抜け出さなければならなかった。

 

「“スティヘイムの至宝剣”!」

 

 比喩でなく山を断てる魔法の斬撃がまたも振るわれた。

 

 間一髪、俺に向かって生えてきた鉄柱にわざと当たって勢いを借りて脱出していなければ死んでいた。少し前まで囚われていた魔法攻撃の牢獄があった場所は思った通り跡形もなくなり、地割れにも似た二つに分かれた砂鉄の地形が作られる。

 俺が魔法攻撃の牢獄から早く逃げ出した理由だ。俺の方は接近しないと勝てないが、岩エルフはこちらの動きを止められさえすれば勝てる手段がある。発動まで多少時間がかかるのと振り自体は速くないから避けられはするが、食らってしまえば終わりだった。

 

「“スティントゥピュラムス”“スティグマステラリス”」

 

 岩エルフは黒い金属鎧を破壊して新たにごく普通の鉄鎧を出現させ、再び大きな三角錐を射出した。驚いたことに撃ち出した三角錐に飛び乗って近付いてきた。一度の投擲用魔法では俺に辿り着けないが、連続使用することで落ちずに向かってきている。

 

『く、“金屎吐(コンフリクト)”』

「“ハ”、“ステイディア”、“スタンフウル”!」

 

 スキルで撃ち落としを試みてもスコップの杖の魔法で上手く軌道を曲げられてしまう。おまけに三角錐は特別頑丈なようで、一部を損壊させても消滅しない。妨害もままならず、俺の頭上から三角錐が落とされる。

 

「“スティディレリネオレリリアンフォーク”!」

 

 力任せにバスタードソードで受け流して三角錐の直撃を避ける。しかし黒く巨大なフォークの追撃を(しの)ぎ切れなかった。“幽雅刀(ゆうがとう)”によるカウンターも無理だった。ちょっとした手傷だが今度こそ負傷する。

 

『らあ!』

 

 骨の手足で強引にフォークを破壊し、次いで着地していた岩エルフに剣を叩きつける。が、片手で振ったのが悪くピック一本に止められる。

 そのまま接近戦で剣と鶴嘴、ピックを何度もぶつけ合う。摩擦で炎熱を放つスコップを振るってくれば漆黒の炎で強化されたバスタードソードで払い除け、こちらの斬り込みを鶴嘴で防御してくる。ピックの突きを寸前に岩エルフの手を掴んで阻み、俺の下段蹴りがスコップで弾かれる。

 

「“スティビホウル”、“スタヅラグナレク”“スティラギロール”“スティントゥラギロール”」

 

 しかし岩エルフはお互いの手首を魔法で生成した手錠で繋いできた。すぐに引き千切ろうとするが、その前に岩エルフの鎧の棘による加速が俺にも込められて体勢を崩す。低い身長を活かした攻撃なのか、同じく魔法で形成された荒い岩肌や金属の床に高速で引き()られる。

 

『“金屎(コンフ)”……!』

「やらせるかよ」

 

 岩エルフは高速移動中でも器用に手錠の中心にピックを突き立てて破壊してしまう。同時に鶴嘴でブレーキをかけたようで、俺だけが投げ飛ばされ凹凸(おうとつ)の激しい地面の上を滑らされる。

 

 再度開いた距離に対し、岩エルフは鎧の背中から推進力を受けてこちらに突っ込んでくる。黒い鎧の時とは明らかにパワーが違った。

 何とか滑り止まれたものの、地面や魔法生成物から出現する牙や柱がまた生み出されて思うように身動きが取れない。岩エルフの鶴嘴やピックを観察しても常に魔光が輝いているせいで予兆を掴めもしない。

 

『“金屎吐(コンフリクト)”!』

「“ステイプルランプル”!」

 

 魔法製の針は真っ直ぐにこちらに飛び左頬の骨を(かす)める。“金屎吐(コンフリクト)”による俺の投げナイフはピックと黒い金属の盾に防がれた。

 その攻防の直後、離れられないように硬質な金属の壁が左右に展開する。上にも牙が生えて天井のようになり、脱出できなくなる。

 

「“スティグマステルス・スティレット”“スティントゥティーラ”!!」

『おおおおおっ!?』

 

 岩エルフがさらに数倍の力で加速し押し出される。しかも複数の鉄の(つぶて)がその勢いを借りた状態で撃たれた。

 鶴嘴の一撃も含めて受け止めることは諦め、針が張り揃えられた右の金属壁に体当たりした。ほんの少量鉄の礫が骨を削ったものの、壁の一部を破壊して何とか振り回された鶴嘴から逃れる。あまりの速度に岩エルフも遠ざかった。

 だが。

 

「“スティヘルレット”、“スティントゥガトル・スティカウト”」

 

 直感でまずいと理解した。剣を壁に叩きつけて完全に反対側まで開通させ、素早く遁走(とんそう)する。

 

「“スティア”」

『ちっ!』

 

 俺が出てきた穴から顔を出した岩エルフの詠唱が鉄の壁に響き渡る。次の瞬間、壁から幾本もの針が俺に狙いを定めて一斉に射出された。とにかく数が多く、捌ききるには多少の傷を負わねばならなかった。あの通路みたいになった場所で受けていたらかなり大変だった。

 しかし俺は腐ってもハルぺリア最強の剣士だ。時間間隔が狭くとも所詮(しょせん)一斉射出なので避けやすい。

 あの大砲も再度生成されたが、それでも砲弾は避けやすい程度の速度だった。鉄塊やチャクラムが飛ぼうとも弾き、鉄の槍が飛んできても掴み、逆に剣と共に振るって針や砲弾を何本も落としてやる。そしてさっさと力()くで半ばから折ってやれば槍は消滅する。無詠唱で再利用魔法なんてやらせない。

 

「“スティディレリネオレリリアンフォーク”!」

 

 一際巨大なフォーク状の鉄製武器さえ、屈みつつバスタードソードで真っ二つにしてやる。

 

 数多くの魔法投擲を使ってくるが、それでも隙を作られはしない。

 そもそも二人ともあの喋る馬に襲われて体力も体調も万全じゃない。どちらも精彩を欠いた攻撃しか繰り出せず、かえって戦いが長引いていた。

 

「“スティグマステルス・スティレット”!!」

 

 岩エルフが今度は右拳を握り締めて突っ込んでくる。もはや飛来と言って良いその瞬発力と出力は恐怖を覚えるだろう。

 だがもう見切った。

 

『ぜりゃあ!』

「はあ!?」

 

 突き出される右腕を掴み、一本背負い。身長差があってやりにくかったが、事前に屈んでいたこともあって何とかできてしまう。

 そして一本背負いは単なる技術だ。この世界の異能はまだ使える。

 

 宙に持ち上げられた岩エルフに逃げ場も余裕もない。

 

『“金屎吐(コンフリクト)”』

「あああああ!!」

 

 無詠唱で作り出した鉄や岩ではどうにもならず、禍々しい炎に包まれた何枚ものチャクラムが鎧ごと岩エルフを八つ裂きにした。

 

 砂鉄の大地に岩エルフの(おびただ)しい血が染み込んでいく。鎧も壊れ、兜も脱げてしまった岩エルフの表情は血の気が失せていたが、こちらへの憤怒は変わらぬままであった。

 それも、もうすぐ死ぬ。

 

「ちくしょう、ヒトモドキ、め……」

 

 途中から聞かなくなっていた罵倒が復活していた。あれは怒りを見せることで思考誘導する戦術だったのかもしれないな。

 にしても自称神やグレナデンとは大違いだ。蟻人間も喋る馬も敵意というよりは戦意を見せてきていたが、(おとし)めるようなことは言わなかった。本当に仲間割れの最中かもしれん。

 

『あのな、ヒトモドキって何なんだよ。この世界の奴は人間じゃないってか?』

 

 その声に初めて気が付いたような表情をした。

 

「あ、あなたは……日本、語……わかる……の?」

『……気が付かなかったか。俺は日本から転生したんだよ』

 

 岩エルフの瞳から感情が失われた。

 

「デーモン、だったんだ……良かった……」

 

 それが最後の言葉だった。

 岩エルフは死に、死体も杖もこの砂鉄だらけの場所も消滅する。バロアの森にある秘密基地4号の隠されている地点に戻った。戦闘の痕跡はなく、俺の傷だけが証明してくれていた。

 

「……眠い」

 

 思わずその場に座り込んでしまった。疲労困憊(こんぱい)で再度同じくらい強い敵に襲われたら今度こそ死ぬ。速やかに休息をとる必要があった。

 まだ日は暮れ切っていないが、考えるのは明日にしよう。切り株の近くに置いてあった荷物から簡易なテントを張り、鳴子(なるこ)を設置し魔物除けの香を焚いて眠りにつく。幸いにも今夜のバロアの森は静かで、微睡(まどろ)みを邪魔する者はいなかった。

 

 

 

 一夜明け、戻って街中をふらふらと目的もなく出歩く。

 秘密基地のことは手につかなかった。体力以上に気力が削がれすぎた。真昼間から店を冷やかすくらいしかできない。いや、冷やかしもできてないな。本当にただ街を歩いているだけだ。

 そろそろお別れする街なので今のうちに回っておきたい、ってのもあるけどな。メリルさん、ユースタス、ブロノアさん。表通りも裏通りも、もう何年も前から知っている馴染みの顔ばかり見つかる。貴族街方面は全く知らないが、こうして庶民の暮らしを見るのも良いもんだ。

 

 それでも昨日のできごとは頭の中から振り払えなかった。

 デーモン、良かった。蟻人間も使っていたが、あの岩エルフの今際の言葉はどういう意味だったんだろう。悪魔であることが良かったのか? 俺は前世で人間だと思っていたが、実は悪魔だったのか? だから俺は狙われている? 悪魔は自動的にこちらの世界に転生される? だとしてなぜ喋る馬と岩エルフは敵対していた?

 何を考えても纏まらない。情報が足りなすぎる。最近の癖になったため息をまた一つつく。

 

「おやモングレルさん、こんにちは」

「ようケンさん」

 

 考え事をしていたら市場近くのケンさんの店に来ていた。当のケンさんは店前の看板を磨いて位置を直している最中だ。前に俺が作った看板を今でも使ってくれていることは嬉しいが、それ店長がやることかね。

 

「何だかお疲れのようですね」

「え、そう見えますか?」

「ええ、とても」

 

 うーん、(さと)いライナだけじゃなくケンさんにまで見破られたか。

 さすがに自分の精神的不調を見て見ぬふりはできない。はっきり言ってかなりきつい。きついがやせ我慢しなきゃならないだろ。言っちゃ悪いがこの件で誰かが力になれるとは思えない。転生者のことも話したくないしな。

 

「そうだ、モングレルさんが前にレシピを提供してくださったプリン、できていますよ」

「本当かいケンさん。なら食べないわけにはいかないな」

「ぬふふ、そうでしょうとも」

 

 おお、ついに完成したのかプリン。レシピを伝えてから地味に気になっていたし、レゴールを離れる前に食べたかった。この世界じゃ探しても見つからないし、ケンさん自身も知らなかったからな。店長の手招きに応じて店内に入っていく。

 

「モングレルさんが何に悩んでいるのかはわかりません。おそらく菓子関係ではないでしょうし、となると力添えは無理でしょうねぇ」

「……すまねえ」

「いいえ。私は菓子職人ですから、できることは菓子作りだけです。ならモングレルさんが満足できるような最高のお菓子を作るだけ」

「ありがてえ。なら早速(うな)らせて貰うとするか」

「ぬふふ」

 

 テーブルカウンターの一席につき、俺はプリンを注文した。

 結論から言うと香りはともかくマジで美味かった。レゴールから出ていくと食べられないんだなと思うと、さらに気持ちが沈んだのはケンさんには内緒だ。




VS打ち砕くロッカ終了
VSゾンビから世界を救うはずだった男の異世界召喚に続く
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