十月も半ばに入り、グラウンドの木々はすっかり紅葉し、秋の深まりを感じさせる。
中間テストが目前に迫り、クラスの空気もどことなく落ち着かない。そんな中、現代文の先生は朗らかな声で教室を見渡しながら言った。
「読書の秋なんて呼ばれることもありますから、皆さんもたくさん本を読みましょう」
テスト前にそんな余裕のある生徒がどれほどいるのかはわからないが、先生は続ける。
「さて、皆さんにとって秋とはどんなイメージですか?」
しかし、誰も答えない。生徒たちはただ静かにノートを開いたり、机の上に突っ伏したりしているだけだった。
先生は少し困ったように微笑みながら言葉を足す。
「皆さんは恥ずかしがり屋さんなんですね。高校生なんですから、自分の意見を発信することも大切なことなんですよ」
その言葉が終わるや否や、教室の空気を切り裂くように、突然――
「革命の秋!」
曽米さんの声が響き渡った。彼女は立ち上がる勢いで身を乗り出し、拳を突き上げるような仕草までしている。
一瞬、教室が静まり返る。先生も驚いたようだったが、すぐにお茶目な笑顔を浮かべた。
「なんですか、曽米さん?先生に反抗しようとでもいうのですか?」
その軽妙な切り返しに、クラスの空気が少しだけ和らいだ。数人の生徒がクスクスと笑い、僕も思わず肩をすくめる。
曽米さんがどんな歴史ネタをぶち込もうとしているのか、僕にはもう予想がついていた。
曽米さんは毅然とした表情で言い放った。
「先生は私たちが怖くないんですか?
彼女の目はいつも以上に輝き、教室の空気が一瞬ピリッと張り詰める。
なんだこれは、世界史の授業じゃないぞ……。いや、そもそも先生はただ「秋といえば?」って聞いただけだ。どうして革命の話になったんだ。
クラス中がどよめき、みんな曽米さんと先生のやりとりに釘付けになる。
先生は少しだけ困ったような顔をして、落ち着いた声で言った。
「あの、曽米さん?今は世界史の授業ではありませんよ?」
だが、曽米さんは怯まない。むしろ勢いを増した。
「生徒一人につき兵士十人分の戦力が我々にはあります。1クラス30人なので、三百人に匹敵する戦力になります!それでも先生は中間テストで我々を辱めようと言うのですか?」
僕はペンを持ったまま固まった。
いや、意味がわからない。なんで生徒が兵士十人分の戦力を持ってる前提なんだ?そもそも三百人って、何と戦おうとしてるんだ?
もはや先生を相手に討幕運動でも始める気なのか?
先生は曽米さんの理解が追いつかない論理に少し戸惑いながらも、優しく諭すように言った。
「曽米さん、落ち着きなさい。先生は皆さんの味方です。決してテストを恣意的に運用するつもりはありません。授業を続けますよ」
先生の冷静な対応に、ようやく教室の緊張が解けた。
曽米さんはまだ何か言いたげだったが、隣の日向さんに「もういいから座りなさいよ」と小声で制され、しぶしぶ席に戻った。
僕はそっとため息をつく。……読書の秋の話、どこに行ったんだ?
席に戻った曽米さんは悔しそうにノートを走り書きしていた。
僕は何気なくその手元を見てしまい、思わず目を疑う。……なぜか、ハゲ頭の彫りの深いおじさんが描かれている。しかも妙にリアルなタッチで。
誰だ、このおじさん。どこから湧いて出たんだ?
そんな様子を見兼ねた日向さんが、ため息混じりに言う。
「少し冷静になりなさいよ。前回のテストが不甲斐なかったからって先生を脅すなんてどうかしてるわ」
的確で手厳しい指摘だった。
が、曽米さんはそれを聞いて、なぜか目をキリッとさせる。
そして、力強く言い放った。
「柚乃、お前もか!」
……いや、どういうこと?
教室が静まり返る。みんなが曽米さんの言葉の意味を測りかねているのが、沈黙の重みで伝わってくる。
僕は思わず曽米さんのノートをもう一度見る。……いや、関係あるのか?このハゲ頭の人と今の発言、関係あるのか?
そんな中、ついに先生が我慢の限界に達した。
「曽米さん、後で職員室にくるように」
お叱りの言葉が飛ぶ。
当然の展開だったが、曽米さんは動じるどころか、またもや突拍子もないことを口にする。
「
さっきから歴史ネタが止まらない。
このままだとフランス革命が起きる。いや、もうすでに起きているのか?
先生はそんな曽米さんを一瞥し、たった一言だけ冷たく言い放った。
「反省文です」
その瞬間、曽米さんはガクッと机に突っ伏した。
ピクリとも動かない。
死んだふりをしている。
……なぜそこまで抵抗するんだ?
①十月革命
第1次世界大戦中に起こった、レーニンが主導し帝政打倒を目的とした革命。ロシア帝国は倒され大戦から離脱した(ブレスト・リトフスク条約)。
②アンシャン・レジーム(旧体制)
フランス革命前の絶対王政や身分制を指した言葉。聖職者や貴族は封建的特権(免税特権や国王から支給される年金など)を有していた。市民は不満を募らせ革命の導火線となった。
③テルモピュライの戦い
ペルシア戦争におけるギリシア軍とアケメネス朝ペルシアとの戦い。少数精鋭のスパルタ軍が大軍のペルシア軍を3日間食い止めた。「サラミスの海戦」におけるギリシア軍勝利への布石となった。
④ユリウス・カエサル
共和政ローマの政治家。
ローマ内戦や激しい権力闘争を経てディクタトル(終身独裁官)に就任する。強権的な政治運営に市民からの反発を招き、暗殺された。「ブルータス、お前もか」はカエサルの最期に発した言葉とされている。