曽米さんの『世界史』愛が強すぎる!   作:公私混同侍

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聖海高校2年生編
新生、常任理事会!


 

二年目の高校生活が始まった。

新しい教室に足を踏み入れると、見慣れた顔は半分ほど。

当然といえば当然だが、去年と同じクラスのメンバーは限られている。

 

そんな中で、一人だけすぐに目についた人物がいた。

 

長身に眼鏡、大堤霸輝(おおづつみ きみてる)君だ。

 

彼とはオンラインゲームを通じて知り合った仲で、たまにボイスチャットで会話する程度の付き合いだったが、こうしてリアルで同じクラスになるのは初めてだ。

 

「おはよう、大堤君。同じクラスだったんだね」

 

僕が声をかけると、大堤君は大げさに胸の前で腕を組み、芝居がかった口調で答えた。

 

「これはこれは不屈のライオンハートではありませんか!去年の体育祭での獅子御殿の立ち振る舞い、未だに脳裏に焼きついておりますぞ。しかし、同じクラスになったからには、もはや敵味方の区別は無用!これからは現実世界でも持ちつ持たれつの関係を築いてまいりましょうぞ!」

 

「そのライオンハートって呼び方やめてよ……」

 

僕は思わず顔をしかめた。

 

オンラインゲームで使っているハンドルネームを現実で呼ばれるのは、正直むずがゆい。

 

「うひゃー、ピョートル君だよね?改めて見ると背高ーい!」

 

突如として響いた曽米さんの声に、僕は思わず振り向いた。

 

そして、それ以上に反応したのが大堤君だった。

 

全身を強張らせ、ガチガチになっている。しかも、顔がみるみる赤くなっていくのが分かった。

 

「そ、その声はもしや、生粋の世界史狂いと噂される曽米妃美華殿?アワワワ……」

 

曽米さんを前に、彼の動揺は隠しきれないようだ。

 

「どうしたの、大堤君?」

 

僕が問いかけると、大堤君は眼鏡を押し上げ、震える声で言った。

 

「う、美しい……なんと美しい女性なのだ。これからはヒミコ様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

「うーん、その名前だと世界史っぽくなくて会話したくなくなっちゃうんだよね」

 

曽米さんは軽く首をかしげながら言ったが、その理由が全く分からなかった。

 

「どんな理由なんだ?」

 

思わず心の中でツッコミを入れつつ、大堤君を見ると、彼は今にも卒倒しそうなほど緊張していた。

 

「リチャード君がネットゲームで使ってるハンドルネームってライオンハートなんでしょ?それならピョートル君が使ってるハンドルネームってどんな名前なの?」

 

曽米さんの質問に、僕は直感した。絶対に世界史絡みで話を広げるつもりだ。

 

「大堤君が使ってるハンドルネームは『栄光ある孤立』だよ。どんな意味があるのかは知らないけど」

 

そう答えると、曽米さんがニヤリと笑った。

 

「その意味、当ててあげようか?」

 

「えっ?」

 

急に話を振られた大堤君が狼狽える。

 

「一年生の時、浮いてたんじゃない?クラスメートに溶け込めなくて孤立してたんでしょ? わかるなぁ、その気持ち。私もよく『落ち着きがない』ってみんなに言われてたからねっ!」

 

自信満々に言い放つ曽米さんだったが、孤立の意味が微妙に違う気がする。でも、大堤君はなぜか感動していた。

 

「まさかそこまで理解してくださるとは恐悦至極。ワタクシ、今日からヒミコ様の親衛隊としてお支えさせて頂きます!」

 

「ナチスの親衛隊はちょっと……」

 

急に顔をしかめる曽米さん。話が噛み合っていないのに、なぜか苦い顔をしている。

 

「やっぱり今日も騒がしくなりそうだ」

 

僕は小さくため息をつきつつも、どこか安心していた。

 

―――

 

昼休み、僕は曽米さん、伊藤、そして大堤君と机を並べて昼食を取ることになった。

 

「いやー、これまた博学多才の伊藤殿ではございませぬか?評判は聞いておりますぞ」

 

開口一番、大堤君が妙にテンション高めに声をかける。突然の絡みに、伊藤は明らかに気圧されていた。

 

「あ、ああ……」

 

ぎこちなく返事をすると、椅子をずずっと僕の方へ寄せてくる。その動きがあまりにも自然だったので、思わず笑いそうになった。

 

そんな中、曽米さんが僕たちに興味を持ったようで、楽しげに尋ねてくる。

 

「リチャード君とピョートル君ってゲーム仲間なんだよね?私、あんまりゲームやらないんだけど、どんなゲームをやってるの?」

 

僕が答えようと口を開いた瞬間、大堤君が勢いよく割り込んできた。

 

「我々が連日入り浸っているのは、ズバリ『戦国クエスト』というオンラインゲームなのです!単騎(ソロプレイ)もよし、仲間と連携してクエストをこなしてもよし、という戦略性に富んだロールプレイングゲームなのですよ!ヒミコ様もどうですか、ご一緒に!」

 

一息でまくしたてるように語る大堤君。

 

「早口過ぎて半分くらいしか聞き取れなかったんだけど……」

 

曽米さんが苦笑しながら僕に助けを求める視線を送ってきた。僕は仕方なく、曽米さんにもわかりやすいように説明することにした。

 

「一人プレイならゲーム中に提示されるミッションをこなすことで報酬を手にできるんだ。その報酬には金貨や兵糧があるから町を大きくしたり、武将をスカウトしたりできるんだよ。部隊に入ってチームプレイもできるから、その人に合った遊び方ができるゲームと言えばわかりやすいかな」

 

僕ができるだけ簡潔に説明すると、曽米さんは興味深そうに頷いた。

 

「へー、要はお気に入りの戦国武将を集めて、自分の国を大きくするってことだよね?」

 

僕に向けられた質問だったのに、なぜか横から割り込んでくる影があった。

 

「そういうことです!」

 

大堤君だ。勢いよく返事をした彼は、まるでゲームの広報担当のような顔をしている。

 

「リチャード君の好きな戦国武将は?」

 

曽米さんが僕に向かって興味津々な顔で尋ねてくる。僕は少し考えてから口を開いた。

 

「僕の好きな武将は――」

 

その瞬間だった。

 

「ワタクシの尊敬する戦国武将は忠義の男、朝倉義景でございます!」

 

またしても大堤君が割り込んできた。力強く宣言する彼に曽米さんは首を傾げ、あっけらかんと言い放つ。

 

「へー、誰?」

 

いや、そこはもう少し気を遣ってあげてもいいんじゃないか。さすがに不憫だと思った僕は、場を繋ぐように話を続けた。

 

「あはは、僕の好きな武将は浅井長政。史実だと朝倉義景と同盟を結んで織田信長と敵対したんだよ」

 

「織田信長なら知ってる!確か本能寺の変で自害に追い込まれたんだよね!」

 

曽米さんが身を乗り出してきた。よし、いい流れだ。このまま戦国時代の話で盛り上がれる――と思ったその矢先だった。

 

「織田信長ってヴァレンシュタインみたいだよね。名誉とか手柄を欲する野心家なところとか、城で休んでただけなのに死に追いやられちゃうところとか」

 

「は?」

 

その場にいた全員が一瞬、思考停止する。そして、ずっと黙っていた伊藤が呆れた声を漏らした。

 

「曽米、少しは獅子御たちに話を合わせるような気遣いができないのか?」

 

伊藤が呆れたようにため息をつく。確かに、戦国時代の話をしていたのに、突然『ヴァレンシュタイン』が出てくるとは思わなかった。

 

「えー、だって似てるじゃん。織田信長とヴァレンシュタイン」

 

曽米さんは全く悪びれずに話を続ける。

 

「織田信長は天下を統一する前に死んじゃったからヴァレンシュタインに転生して、ヨーロッパで天下を取ろうとしたんだよ、きっと」

 

「……え?」

 

僕は思わず曽米さんの顔をまじまじと見つめてしまった。そんな突飛な発想、どうやったら思いつくんだ?

 

しかし、そんな僕の戸惑いをよそに、大堤君は感心したようにうなずいている。

 

「なるほど、そういう見方ができるのはヒミコ様が歴史を愛している証拠なのでしょう」

 

いや、そういう問題じゃない。何が「なるほど」なんだ?

僕はまだ頭が混乱していた。

 

―――

 

僕たちと大堤君が顔を合わせたその日の夜、スマホに通知が届いた。『聖海高校常任理事会』のグループチャットだ。開いてみると、曽米さんからのメッセージが目に飛び込んできた。

 

「今日から新しいメンバー、ピョートル君を加えた新しい常任理事会、その名も『神聖同盟』として始動します」

 

……また妙な名前をつけたな、と僕は思う。「新生」と「神聖」がかかっていることに気づき、苦笑する。曽米さんらしいダジャレセンスだ。

 

すぐに大堤君が続けた。

 

「夜分失礼いたします。聖海のピョートルこと大堤霸輝と申します。日向殿、ナチス殿。お手柔らかにお願いしますぞ」

 

……ナチス殿?僕は少し嫌な予感がして画面を見つめた。

 

「クラスは違うけどよろしくね、大堤君」

 

日向さんは普通に受け入れてくれたが、案の定、那智くんがすぐに反応する。

 

「誰がヒトラーだ!ヒミコの影響受けすぎだろ!ていうか、クラスが変わっても常任理事会やるのかよ……」

 

那智くんのツッコミに、曽米さんが「だって楽しいじゃん!」とでも言いそうな顔が思い浮かぶ。去年、色々あったけど、結局今年もこのメンバーで続くことになりそうだ。

 

こうして、僕たちの『聖海高校常任理事会』は再び動き出した。

 

 




①栄光ある孤立
「世界の工場」と呼ばれたイギリスは、突出した海軍力を背景に海外植民地の獲得を積極的に行う。ヨーロッパ大陸ではドイツ帝国宰相ビスマルクによるフランス包囲網が形成されており、イギリスが介入せずともドイツを間接的に支援することで戦争のリスクを下げることになった。
同盟を結ばないという独自の外交方針と領土拡張政策により広大な植民地を獲得したが、ビスマルクが失脚すると列強間の力関係は複雑になりドイツやロシアとの対立構図が浮き彫りになる。
そんな中、ロシアの進出に危機感を抱いていた日本と利害が一致し「日英同盟」を締結、外交政策を転換した。

②SS(親衛隊)
ナチス・ドイツの秘密警察及び軍事組織で、第2次世界大戦終結までヒトラーを支える。
「長いナイフの夜」で上部組織であった突撃隊(SA)の幹部たちをヒトラーと共謀して粛清した。

③ヴァレンシュタイン
神聖ローマ帝国の貴族、傭兵。
「三十年戦争」で皇帝の信任を得てカトリック(旧教)軍の指揮官となり、プロテスタント(新教)軍の指揮官グスタフ・アドルフを戦死させる。一度は指揮官を解任されるも、カトリック軍が劣勢に立たされたことで再び戦列に復帰。しかし、和平交渉を皇帝の許可なく独断で行う、選帝侯位を要求するなどの野心を疑われたことで暗殺された。

④神聖同盟
ロシア、オーストリア、プロイセンが結成した同盟。
フランス革命やナポレオン戦争の影響で広まった自由や平等の思想を抑え、絶対王政を守ることを目的とした。
キリスト教の価値観に基づきヨーロッパの秩序を維持しようとしたが、革命の波及を抑えきれず、同盟は有名無実化し、各国はそれぞれの事情に応じた政治を押し進めるようになる。
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