先生を助けてただけなのにキヴォトスを敵に回した生徒さん 作:竹製のたけのこ
先生達のいなくなったキヴォトスはどうなってしまったのか…。
先生の死後、キヴォトスは暗い雰囲気に包まれた。
徹底された情報統制により先生は謀反を起こした五十嵐マキナを止められず、後悔の念から自刃した英雄として祀り上げられた。
だが、
どれだけ統制しようと当事者は真実を知っている。
観測者は全てを見ている。
託されたものは復讐を誓う。
「…絶対に許しません。」
先生の死後、シッテムの箱は管理者を失い、キヴォトスは連邦生徒会長が失踪したときのように各地に混乱を引き起こしていた。
違うのは先生を失った失意により犯罪を犯すものが少ないという点。
管理者を失ったとはいえ、依然としてシッテムの箱は起動したままであり、当時を知るOSは今は亡き人物に想いを馳せる。
「どうしてこうなっちゃたんですかね…。」
「アロナ先輩…。」
「あ…プラナちゃん…。」
シッテムの箱のメインOS、アロナ。別世界の先生から託された存在、プラナ。
彼女達はかつての事件を知る当事者の1人であった。
「どこで間違えたんですかね…。」
彼女達は事件当時、車の爆発から先生を守ることにリソースのほとんどを使用してしまい、先生の自殺を止めることができなかった。
だが、リソースが余っていたとしても止められたかと言えば否であろう。
当時の先生には最早、マキナしか見えていなかったのだから。
「何故…」
「プラナちゃん…?」
「…何故二度も先生を失わなければならないのですか…!何故あの2人が…死ななければならないのですか…!」
「…」
「…憎いです…全てが憎い…!」
管理者を失ったから、という単純な理由ではない。
プラナは、先生のことを確かに認めていたのだ。プレナパテスを弔い、自分に居場所を与えてくれた先生に恩義を感じていた。
「落ち着いてくださいプラナちゃん…。」
「…落ち着いていられるものですかっ!!先生を殺した連中がのうのうと生きているんですよ!?
先生だけじゃない、五十嵐事務員にも手をかけたじゃないですかっ!!
アロナ先輩は…悔しくないんですか…!?」
「…っ悔しいに決まっているでしょ!!」
「…っ」
「悔しいですよ、貴女と同じ気持ちですよ…!!」
「なら…」
「でも、」
「っ」
「でも、復讐なんてしても意味なんてないからっ…!」
アロナは踏みとどまることができた。自分の行き場のない怒りを押し殺した。
「…先生が好きでした…生徒さんと真摯に向き合うあの姿勢が格好よくて…!
五十嵐さんも好きでした…先生をただひたすらに支えてくれて…」
「私の世界でも、五十嵐事務員は立派でした…。」
先生も五十嵐も知ることはなかった。
彼女達にとって自分がどれだけ大きな存在だったかを。その在り方にどれだけ影響されたかを。
「復讐なんて意味ないってわかってるんです…。
そんなことしたって先生達は帰ってこない…。わかってはいるんですけど…。」
「はい…」
「やっぱり…悔しいです…!先生…五十嵐さん…!」
真実を知るのは彼女達だけではなかった。
どことも知れぬ暗い部屋の中。
「…先生が…亡くなりました…。」
「…何?どういうことだ黒服。」
先生の死はゲマトリアに衝撃を与えるには十分過ぎた。
「…そのままの意味です。」
「原因は一体…」
「…自殺です。」
「…は?」
先生はゲマトリアにとっても大きな存在だった。
外から来たイレギュラー。仲間であり、メタファーであり、理解者たり得る存在として興味を持っていた。
その力も評価しており、先生の存在はゲマトリアの非道な行いを抑止させる程であった。
「…自殺だと?あの先生がか?」
「…はい。」
黒服は説明する。
五十嵐という生徒が殺害され、後悔の念から自殺したと。
「五十嵐…知らない生徒だ。」
「先生の護衛です。キヴォトスに来た日からずっと一緒でしたよ。先生にとっても大きな存在だったのでしょう。」
「その五十嵐という生徒、何故殺害されたのですか?」
「どうやら、常に先生の側にいたのが反感を買ったようで。」
黒服の吐く真相にマエストロもゴルコンダも思わず口を噤んだ。
あまりにも幼稚が過ぎる。
黒服の話を聞けば聞く程、己の顔が渋くなるのを感じた。
自分はこんな幼稚なものを研究していたのかと呆れ帰る程に。
「…そうですか、先生はもういないと。」
「ええ。」
「ならばもう、躊躇する必要もないだろう。」
「…マエストロ?」
「色彩を呼ぶ。」
「…っ一体何を」
「先生は死んだ。もうこのキヴォトスに用もない。最後に反転の様子だけ確認する。」
マエストロの堂々とした物言いに黒服は慄く。
自分でさえ、そんなこと実行しようとは思わない。
だが、目の前の人形はやるのだろう。木目しか見えない頭からは、確かな意志と、僅かな怒りを感じた。
「マエストロ…貴方…。」
「貴様がどう感じようが知らんが、邪魔はさせんぞ。」
「…私は関与しません。マエストロ、貴方の好きなようになさい。
行きましょうゴルコンダ。」
「そういうこった!」
ゴルコンダとデカルコマニーはそう言うとそそくさと部屋を出た。彼らの声色には、最早どうでもいいという諦めが感じられた。
「…わかりました。私も、さっさとキヴォトスを出ます。」
この男は止まらない、そう判断した黒服は同じように部屋を出た。
だが、例え止められたとしても本当に止めたかと言えば、答えは否だろう。
ゲマトリアは先生の、イレギュラーのいないキヴォトスに興味はなかった。
誰もいない暗い夜の砂漠に1つの人影があった。
「なんで…あんなことに…。」
プラナと同じく別世界から来た生徒、シロコ*テラーだった。
「…先生…五十嵐さん…。なんでまた置いて行くの…!」
シロコ*テラーにとって、五十嵐は先生と同じくらい大切な人の1人だった。
キヴォトスを襲撃した大罪人である己に居場所を用意し、プレナパテスを弔うための墓を作ったのは五十嵐本人だった。
2人のためなら己の命など幾らでも捧げると宣言できる程に彼女にとって2人は大切な人物だった。
「…許さない…!絶対に許さない…!」
そんな2人を殺し、あまつさえ五十嵐に至ってはその亡骸を弄ばれたのだ。
何を許すことができようか。
そして何よりも許せないことが、
「よわシロコ…貴女さえいなければ…!」
この世界における自分自身の存在だった。
そもそも、先生が襲われるようになった要因は砂狼シロコにある。
シロコは幾らアピールしても全く気づかない先生に徐々にイラ立ち、無理やり自分のモノにしてしまおうと考えた。
それが他の生徒に知れ渡り、抜け駆けされるならば手段は選ばぬと先生を襲う生徒が増えたのだ。
シロコ*テラーは苦笑する。
結局は自分も、罪を背負う咎人ではないかと。
先生と五十嵐の死は多くの影響を与えた。
それはやがて大きな渦となり、キヴォトスを飲み込む程に膨れあがった。
ならばせめて、
―残された者としての責務として…
―…あの人を殺した罪人に…報いを与えるために…!
―彼女の死がせめて無駄とならぬように
キヴォトスを…
先生が、五十嵐が残したこのキヴォトスを…!
…最後まで見守りましょう/…滅ぼす/…実験台にする
その後のキヴォトスの命運を知る者はいない。
何もかも、始めからなかったかのようにすっかりと消えてしまったからだ。
という訳で正史のキヴォトスは消滅を迎えましたとさ。
やったねプラナ、クロコ、先生と五十嵐のとこに行けたよ♡
先生達を殺した罪人は報いを受けたし、プラナとクロコは2人と同じ道を辿ったし実質ハッピーエンドなのでは???