月城の迎えが来るまでふたりはゲーセンで時間を潰すことになり……。
ふたりで一緒にスネークデュエルをやる話。
「ハルマサー! おはよーっ!」
大きな朝の挨拶と共に、ドンッという衝撃が腰に響く。
悠真は「ぐえっ」と呻き声を上げながら前に倒れそうになった。
「なな……何!?」
「おはよ!」
見れば蒼角が悠真の腰にしがみつくように抱き着いていた。
「おはよ蒼角ちゃん。あのね、急にこんなことされたら僕出勤してすぐ病院行きになっちゃうよ」
「ごめんなさぁーい」
蒼角は言葉だけで反省する素振りもなくするりと横を通り抜け、先に職場へと入っていく。
悠真はその後ろをついていきながら「おはよーございまーす」と上司へあくびまじりの挨拶をした。
――蒼角と悠真が『毎日ぎゅーする』という約束を交わしてから、数日が過ぎていた。
蒼角は挨拶がてら抱きついてくるようになり、悠真もそれに慣れ始めている。
そしてそのことに、悠真は安堵していた。
(……これくらいなら兄を慕ってる、みたいなもんだよね。もしかしたら蒼角ちゃんが僕のこと好きになっちゃうかも? なーんて自意識過剰なこと考えたりしちゃったけど。ま、一安心ってところ? 僕も蒼角ちゃんのこと変に意識しないように気を付ければ~ま、大丈夫でしょ。いつもどおり、いつもどおり)
ふっ、と一人笑いをし、それからデスクに向かう。
今日はいかにして仕事を抜け出しズル休憩してやろうかと悠真は考え……
それから程なくして傍らにドンと書類の山が置かれる。
見ればそこにはにこりと微笑んだ月城柳副課長。
悠真は青い顔でにこりと笑みを返した。
***
――H.A.N.D.の食堂は比較的長い時間開いている。
職員たちは必ずしも規則的な業務とは限らないからだ。
とはいえランチの時間は決まっており、それを過ぎるとメニューのいくつかは注文が不可になってしまう。
その『本日終了』のシールがいくつか貼られた限られたメニュー表を眺めながら、悠真は目を細めていた。
「くっそ~副課長めぇ……朝っぱらから仕事たんまり持ってきて。僕のこと嫌いすぎるんじゃないのぉ? 『浅羽隊員は隙あらば逃げてしまいますから』なーんて、僕のこと一体なんだと思ってるわけ~?」
悠真は今朝自分が「いかにズル休憩するか」を考えていたことなど頭からすっぽ抜けている。
そして注文するものが決まったのか、受付へと向かった。
彼が頼んだ山菜うどんは比較的早く出てきた。
それを受け取れば近くの席へと座る。
ぱん、と手を合わせ「いただきます」と割り箸を割った。
この時間の食堂は静かだ。
もうランチの時間をとっくに過ぎてるからだろう。
ちらほらと座っている人は見えるものの、お昼の様子とはまた別。
ずるずるとうどんを啜れば、つるりとした触感に満足しごくんと飲み込んだ。
山菜の苦みもちょうどいい。
ちょうどいいというのは、悠真にとってというよりは一般的感覚に寄せた感想ではあるが。
(そういや蒼角ちゃんは課長と一緒に外勤だったっけ。直帰するならもう会えないよねぇ。あーさみしいなー)
可愛い蒼角ちゃんを妹のように愛でたいな、などと悠真は肩をすくませる。
愛でたいというのは、『からかって遊んで職務から一時的に離れたい』という意味だ。
このあとまた定時まで一人資料作成業務と思うと首と肩が痛みを感じ始めてしまう。
一人寂しい昼食を終えた悠真は、ゆっくりと廊下を歩いた。
できれば長い時間をかけて職場まで戻ろうという魂胆だ。
しかしいくら広いH.A.N.D.の建物内といえど、職場はそこにどっしりかまえて彼を待っている。
あっという間に辿り着いた先で、悠真はため息と共に自席へ着いた。
デスクではなく近くのソファに寝転んでしまおうか、などと悠真は考えたが、定時で帰ることの方が重要なためその邪念をどうにか振り払った。
程なくしてカタカタというキーボードを叩く音が室内に響く。
――少しして、スマホの通知音が鳴った。
仕事中の為無視しても構わないのだが、当然のように悠真はこれ幸いとスマホを手に取る。
「あれぇ、プロキシだ。ビデオの返却いつ来るかって?」
六分街のビデオ屋店長アキラからの連絡で悠真は思い出したように鞄の中を確認する。
先日蒼角と一緒に観る為借りたビデオが、まだそこにある。
返却期限にはまだ猶予があるが、どうしたものか。
『面白いビデオを入荷したから、次に来た時にでもどうかなと思って』
『そういえばこないだは蒼角も楽しめたのかい?』
と、アキラからのメッセージを受信した。
「……まー、楽しめたとは言ってたけど」
その日のことを思い出して、乾いた笑いが出る。
「ビデオかぁ……退勤後にでも返してこよっかな。ついでに新しいのも借りて家でのんびり見るとしますか。さ、ちゃっちゃと終わらせよ~っと」
そう呟くと悠真は簡単にメッセージを返して、仕事に戻った。
朝に課された仕事はのんびりやっても定時に間に合いそうで悠真は上機嫌である。
――しかしその数分後、柳が職場に戻ってきて追加の仕事が用意されることになるのだった。
***
――六分街、ビデオ屋。
夜の店内には数名の客がいて、店長であるアキラがカウンターで18と並んで雑務をこなしていた。
いつもどおりの風景だ。
そこへ、ゲッソリとした顔の悠真がやってきた。
「いらっしゃ――悠真、来たんだね。なんだか顔色が悪いようだけど、残業でもしたのかい?」
「まさか……しっかりきっちり定時で上がったよ。ただあの鬼副課長が持ってきた仕事がありえないほどの量で……疲労で吐きそう……うっぷ」
「残業したくなくて急ピッチでやってきたってことかい?」
「それ以外何があるのさ」
「いやぁ、悠真のポテンシャルにはいつも驚かされるよ」
普段はあんなに怠惰なのにねぇ……とアキラは笑った。
「それで、もしかして待ち合わせでここへ?」
「え? 待ち合わせ?」
「うん。……違ったかい?」
アキラは首を傾げる。
それにつられて悠真も首を傾げた。
「……あ、そうだそうだ。これ返しに来たんだよ、ほらビデオ」
そう言って悠真は通勤鞄から借りていたビデオを取り出した。
「まあまあおもしろかったかなー、あ、それで何入荷したって?」
「ああ、これなんだけどね――」
アキラがカウンター下から何か取り出そうとした時だった。
二階へ続く階段から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「――だから、絶対ハマると思うよ!」
「わーい! 帰ったらナギねえとさっそく見てみるね!」
「柳さんはもうこっち向かってるの?」
「んーまだ……あれ? ハルマサ?」
階段から降りてきたのはリンと蒼角だった。
悠真はそれを見てきょとんとする。
「……てっきり蒼角とここで待ち合わせてたんだと思ったんだけど、違ったのかい?」
アキラに訊かれ、悠真は何も言えずに目をぱちくりとさせた。
「ハルマサお仕事お疲れ様! どうしたの? ビデオ借りに来たの?」
蒼角がぱたぱたと駆け寄ってくる。
最近のノリでそのまま抱きつかれそうな気がした為、悠真は近くまで来た蒼角の両肩を軽く掴んだ。
それに一瞬驚いたのか、蒼角は悠真の目を見る。
「蒼角ちゃんこそ、どうしてここに?」
「……わたし? わたしはね、ガイキンが終わったあとさっきまでボスとアイスを食べてたんだけど、ナギねえがお仕事終わったらこっちまで来るって言うからここで待ってるの! でもナギねえ連絡くれなくなっちゃってー……」
しょんぼりとした蒼角に、「あらら」と悠真は返した。
そんなふたりにリンが近寄ってくる。
「蒼角、私たちは全然いてくれて大丈夫だよ?」
「ううー、でも、ふたりはお仕事中だもん。蒼角、メーワクかけたくない」
「気にしなくていいのに~」
ね、とリンがアキラに目を合わせる。
アキラはこくりと頷くと、考えるように顎に手を添えた。
「でも蒼角が気をつかってしまうのなら無理にいさせるのもよくないかもしれないね。そうだ、すぐそこのゲーセンで時間を潰すのなんてどうだい? 今なら1プレイ無料キャンペーンをやってたハズだよ」
「そうなの?」
蒼角は興味をひかれたように目を大きく見開いたが、すぐに肩を落とした。
「でも蒼角、ゲーム下手っぴなんだよぉ。やってもいっぱい負けちゃって楽しくないかもしれないなぁ~」
しょんぼりとした様子の蒼角を見下ろし、悠真はハッとする。
未だ彼の手は蒼角の両肩を掴んだままだった。
慌てて手を下ろし、視線を逸らす。
「……んー、じゃあ僕が一緒に行ってあげよっか」
「ハルマサが?」
蒼角がぱっと顔を上げ、表情を明るくさせる。
それを見て悠真はふっと頬を緩めた。
「うん。二人でやれば少しは楽しいんじゃないかな~ってね」
「そっか、そだよね。ハルマサがいいならわたしゲーセン行きたい!」
「はいはい、それじゃ行こっか。ごめんアキラ、そのビデオはまた今度借りに来るよ。今日は返却だけってことで」
それじゃね、と悠真がカウンターにいる店長二人に手を振る。
蒼角もばいばーい! と満面の笑みで手を振り、ビデオ屋を出ていった。
「……ねぇお兄ちゃ~ん、あの二人ってさぁ~?」
「うん、僕もリンと同じことを考えているよ」
「今度聞いてみよっかな!? 蒼角ならきっと答えてくれるよね!?」
「確かに悠真に訊いてものらりくらりと
「……ねね、今からこっそりゲーセン見に行っちゃう?」
「それはやめておこう、僕らには仕事があるんだ。ほら、これはリンが整理する分のビデオ」
「あー! おにーちゃんが私をいじめるー!」
「人聞きが悪いなぁ……僕が大事な妹をいじめたことなんて一度もないよ」
ふくれっ面をするリンに対し、アキラはにこりと笑った。
***
ゲームセンター<GOD FINGER>は小さな店舗だが、中はたくさんの人で混雑していた。
常連客に加え、アキラが言っていたキャンペーンにつられてやってきた客も半分はいそうだ。
壁に貼られていたキャンペーンのチラシによれば、本日1プレイ無料になるのはスネークデュエルとのこと。
蒼角はあまりの人だかりに緊張するのか、悠真の後ろに隠れながらおずおずと
「……席、一つしか空いてないね?」
「そうだね~。じゃ、蒼角ちゃん座ってよ」
「ええー!?」
「だいじょぶだいじょぶ。僕が後ろから見ててあげるから」
悠真に促され、蒼角はしぶしぶとスネークデュエルの筐体前に置かれた椅子に座る。
近くにいた店員に1プレイ分無料に操作してもらい、ゲームを始める。
「う、わわ……ああー!」
ゲームが始まるなり蒼角は操作に戸惑い、すぐに相手にぶつかり何度も失敗してしまう。
「えっとえっと、こっち、あーこっち! んーうまくよけれないよ~!」
泣き言を言いながらもどうにか蒼角のスネークがダイヤをゲットするが、すぐさま他のプレイヤーにぶつかってしまいまた最初からだ。
あっという間に終わってしまった“無料の1プレイ”は蒼角を撃沈させるのに十分な時間だった。
「うう、うううー……ヘビさん、ムズカシイよぉ……」
泣きそうな顔で筐体に突っ伏す蒼角を見かね、悠真が笑って肩を叩く。
蒼角が振り返ると、「じゃ、僕も一緒にやったげるから」と悠真は言った。
「もうちょっと前に座って」
「え? えーと、こう?」
「そーそ」
蒼角が少し前にずれて座ると、椅子の後ろの空いた部分に悠真は腰を下ろした。
まるで蒼角を抱きかかえるような座り方をすると、ディニーを筐体へ一枚入れる。
「じゃ、僕がやってんの見てて。って言っても、僕もそんな上手くないけどね~」
「う、うん!」
蒼角は背中にぴたりと悠真がくっつく感覚に少しどきりとする。
どくどくと心臓が早まり始めたが、目の前のゲームが始まるとそちらに集中した。
悠真の動かすヘビはぐねぐねと動き、あっという間に近くの魔メやダイヤを飲み込んでいく。
「すごいすごーい!」
蒼角が歓声を上げると、「アハハッ!」と悠真は幼い子どものように笑った。
その声がすぐ耳元で聴こえ、蒼角はまた心臓が飛び上がる。
(……ハルマサの声、いつもより近い)
蒼角がどきどきとしたまま画面を見つめていると、制限時間が迫り、そして悠真が操っていたヘビは他のプレイヤーに阻まれせっかく長くなった体は一瞬にして消えてしまった。
「あーーー!!」
「あちゃ~」
残り時間は数秒。
どうにか操作するものの、結局悠真はビリになってしまった。
「あーらら。途中まで良かったのにね」
「もっかい! ハルマサもっかいやって!」
「ええ~? 次は蒼角ちゃんがやったらいいよ」
「わたしハルマサがやるのもっかい見たい!」
「仕方ないな~」
そう言ってもう一枚ディニーを筐体へと入れる。
他のプレイヤーは別の客と交代したのか、少しマッチングに時間がかかっていた。
蒼角はわくわくとした表情でそれを待っている。
「……蒼角ちゃん、たのし?」
耳元でぼそりと囁かれた声。
「っ……うん! たのし!」
どっと心臓が波打ったのをかき消すように、蒼角は大きな声を上げた。
「そっか、それはよかった」
「ハルマサは!?」
店内BGMに負けないよう蒼角は更に声を張り上げて訊く。
少しだけ振り返ろうとすると、すぐ横にあった悠真の顔に頬同士が触れ、蒼角は「ひゃぅ」と小さな悲鳴を上げた。
「ごめん」
「う、ううん、蒼角もごめんね! あはは、思ったよりハルマサ近かった~」
「ん、どうやらマッチングできたみたいだよ」
悠真がそう言うと蒼角ももう一度前を向く。
次のバトルが始まる。
悠真が手元をカチャカチャと動かすと、
ヘビはぐねぐねと動き、
魔メを飲み込む。
上手くいく度蒼角は「すごいすごい!」「スピードアップ~!」と楽しそうに声を上げた。
「次は蒼角ちゃんね」
「ええ~、蒼角上手くできるかな~……」
「上手くなくてもいーの。頑張ってやってみてよ」
「はぁーい」
そう言っていると、そのバトルは悠真が1位で終了した。
蒼角は自分のお財布を取り出そうとしたが、悠真の右手がそれをやんわりと止めさせた。
「ディニーは僕が入れておくからさ、蒼角ちゃんは月城さんから連絡ないか見てみなよ」
「あ、うん。ありがと! ナギねえからは~……」
蒼角はスマホを確認すると、メッセージが届いていたことに気が付いた。
「あ、今向かってるみたい!」
「じゃああと2回くらいやったらやめておこうか。その後はビデオ屋でちょっと待たせてもらえばいいんじゃない?」
「うーん、そうだね! 少しくらいなら……メーワクにはならないよね」
そう話していると、あっという間に開始のカウントダウンが始まる。
蒼角は慌ててボタンへ手を伸ばした。
***
――蒼角の最後のプレイは2位で終了した。
悠真が最後にやった1回は1位を独走していたものの、ちょっとしたミスで3位に転落だ。
蒼角はそれを残念そうに見ていた。
「もう終わっちゃったー」
「だねー。ん、お客さんだいぶ少なくなったねぇ。待ってる人もいないし」
「ほんとだぁ」
蒼角が当たりを見回すと、スネークデュエルの筐体の周りには人がいない。
ソウルハウンドⅢの方にはまだ人がいくらかいるが、比較的客足は落ち着いたようだ。
「月城さんはあとどんくらいかな?」
「もうちょっとで六分街の駅に着くみたい!」
「すぐだね。それじゃー僕もそろそろ帰るかぁ」
「あれ、ハルマサは一緒に帰らないの?」
蒼角が振り返る。
悠真は「んー」と考えるように唸った。
「君のママに会ったら、あれこれ言われちゃう気がするしぃ~。さっさと帰るが吉ってね」
「……そっかぁ」
少し残念そうな蒼角の声が聞こえる。
悠真は筐体に手を置いたまま、まだぴたりと蒼角にくっついて座っていた。
彼女の背中、肩、二の腕、太もも――部分的に接触しているところからわずかに熱を感じる。
抱きしめたい衝動を抑えながら、悠真は蒼角の肩に顎を置いた。
「……ハルマサ?」
「……ちょっとだけ、こーしててもいい?」
「え? いいけど……どしたの? もしかして、疲れちゃった!?」
「んーん。蒼角ちゃんにくっついてると、変な気を起こしちゃいそうで」
「へんなき?」
蒼角が振り返ろうとしたが、悠真は俯き前髪で顔を隠した。
「ごめん、今のは気にしないで」
「? ……うん」
「………」
「……え、っと」
「?」
蒼角は少し迷ったようにしてから、肩にのっかった悠真の頭にすりすりとした。
悠真の髪が蒼角の頬にこすれ、気持ちがいいのか蒼角は無意識に笑顔になった。
「わたしばっかりハルマサにぎゅーしてるけど」
「うん」
「ハルマサからぎゅー、していいんだよ?」
「………」
「ハルマサも、したいって言ってた、よね? ちがった?」
蒼角の問いに悠真はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「んーん、でも僕からはしないでおく」
「どして? もしかしてぎゅーはもうしたくなくなっちゃった?」
「そーじゃないけど」
「じゃない、けど?」
「……持って帰りたくなるから、だめ」
「もって……?」
蒼角はきょとんとする。
“持って帰る”という単語に食べ物のテイクアウトを思い出すが、多分そういうこととは違うんじゃないかと蒼角は頭を悩ませた。
そんな彼女の頭の中がわかるのか、悠真はくすっと笑う。
「ごめん、もう少しだけここに座っててくれる? あと数秒でいいから」
「う、うん」
「……僕って、考えてることとやってること真逆だなぁ」
「えっ?」
蒼角はそれが一体どういうことなのか聞き直したが、悠真は答えなかった。
数秒して、悠真が椅子から立ち上がる。
「んじゃ、いこっか」
差し伸べられた手を蒼角は掴み、立ち上がった。
そしてもう一度スネークデュエルの筐体を振り返り、悠真を見る。
「また、一緒にゲーセン来てくれる?」
「え?」
「ハルマサとゲーセン、楽しかった! 次は蒼角も1位とる!」
「あははっ、そっか。それはいい目標だね~。うんうん、僕も蒼角ちゃんが1位取るとこ見たいから一緒に来てあげるよ」
「次は他のゲームもできる?」
「そーだねー、いろいろやってみよっか」
ふたりはそんな話をしながらゲームセンターから出る。
そして蒼角はビデオ屋へと向かい、悠真はそんな彼女に手を振りその場を後にした。
(月城さんにばったり会っちゃわないように気を付けないと)
悠真は自分の顔を右手でそっと覆い隠した。
――頬が熱を帯びている。
ゲームセンターの中が暑かったからではないことくらい彼にもわかっていた。
思わずにやけそうになる顔を右手でむぎゅっと押しつぶした。
(こんな顔、見られたらたまったもんじゃないや)
(あーあ、やっぱ抱きしめといた方がよかったかな。なーんて、やめやめ。早く帰ろ)
自分を
晴れた夜空に浮かぶ月に照らされながら、悠真は小走りで駅へと向かった――。