ダンジョンロボ(仮)   作:トシアキウス

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テクニカリペア

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 手持ち用の主兵装は以前と同じくヒゴノガード社製近接ブレードとヒリューズ機関杖だ。前に愛用していたヒリューズはエアマンティスにぶった切られて喪失し、ブレードはエビルブレードに進化してしまい厄介払い中のため、今あるのは予備の新品である。ウェポンラックの配置を右手側へ片寄せるように組み替えて収納している。ナイフシースの配置はそのまま、右手が届くので変更していないが、今回は試しに四本分あったナイフシースのうち右側二箇所をトマホークのそれに変更してある。

 米国コールドメタル社の手投げ斧だ。ストッピングパワーのある飛び道具が欲しいと思って装備した。ナイフより重量があるものの、ウェポンラックの片寄りと合わせてディアブロロッソの左腕に対するカウンターウエイトとしても一応機能している。フル装備状態なら歩行が幾分か楽になるだろう。

 とはいえそれでもまだ左側の方が重く、手提げを持った下校中の小学生のように身体が傾げてしまうだろうが、探索機に筋肉痛はない。左右非対称の違和感はパイロットが我慢すればいいだけである。

 

 ディアブロロッソよし、ブレードよし、ヒリューズよし、ナイフ二本とトマホーク二本よしと武装確認を終えた後、

「相葉勝、テクニカ出ます!」

 俺はそう気合いを入れて叫びながら駐機場から機体を発進させた。徒歩である。舗装を傷めたり接触事故を起こしたりしないよう徐行する。初日と違い今回はちゃんと外部スピーカーを切ってある。

 けれども係員に二度見され、三度見された。魔改造な上に過剰武装のテクニカだ。なんだありゃという顔をされるのも当然といえるだろう。

 

 

 洞窟を早歩きで進んで行く。やはり左側が重い。昨日左腕に重りをつけて体操をしたりと素振りをしたりパルクールをしたりと色々試したが、その時とほぼ同じ感覚だ。左右非対称の身体感覚には慣れがいるだろうが、体幹の重心位置そのものを変更すればいいだけだ。それ自体はあらゆる探索機パイロットが無意識的に行っていることである。

 

 人型ロボットである探索機はなるべくその重心を人体に寄せて設計してあるが、人体に個人差があるように機体差がある。トミタ・テクニカは少年でゲイエム・フリゲートはお相撲さんというふうに、その体格に合わせた身体操作をパイロットは行っている。別な機体に慣れるということは別な身体感覚に慣れるということで、たまに歩き方が少し変な探索者がいるのは生身でもその感覚を引きずってしまったからであり、これも機体酔いの一種といえる。

 そして生身での動きに出た機体酔いの影響を観察することで、その探索者が普段どのような機体に乗っているかある程度推察することも可能である。ルーキーなんかは特に分かりやすい。

 待合室でプロ探索者が暇つぶしにルーキーを眺めて、

『あいつはテクニカ乗りだろう』『あっちはガンヘッド野郎か』

 というふうに当てっこするのはよく見られる光景である。二択なので賭けにもしやすい。

 そこから転じて道行く異性を値踏みして、

『やっば、イクリプスちゃんおったべ。ナンパしてぇ』

『あんなんガチなテクニカやんけ。お前ロリコンか?』

『うへぇ、フリゲートさんだ』

『おれ、フリゲート(しゅ)き』

『セイバーホスト発見伝』

『どうしてガンヘッドは現実(リアル)に存在しないんだ』

 などと機種名で言い表すのもダンジョン村文化の一つであった。

 

 やや逸れた考えを振り払い、スラスターを起動する。推力重量比を確認するため足を使わない跳躍だ。天井すれすれで滞空してバランスを保つのは、中々に神経を使う。

「重くなって使いにくくもなってるが、機動性は許容範囲だ」

 テクニカの固定装備の腰部スラスターはステータスが反映されるタイプである。機体本体の膂力ほどではないが、力と魔攻の上昇に応じて推力も増加する。このトミタ純正スラスターは傑作ともいえる装備であり、二層までならスラスター回りの改装は必要ないともいわれていて、ガンヘッドも同じ物を採用しているくらいである。ちなみにコピー品の小鬼子(シャオゲイズ)についているのはステータスが反映されないタイプのもので、レベル0時点の推力だけでいうならテクニカのそれを上回っている。高価で成長性を重視するか、安価で手っ取り早くスペックを確保するか、この辺りは国民性というものだろう。

 ともあれ重量の増加したテクニカリペアの推力重量比はといえば、レベル11でのエビルガンヘッド戦のそれと比較してやや劣るといった感じである。とはいえあのときはバックパックパージと左脚欠損で軽量化した状態だ。縦横無尽の空戦機動をやれたのも、機体のマナをほぼ無限に確保できたという点が大いに影響している。あんな戦いは例外だ。

 今の俺が心掛けるべきは極限状態でのパフォーマンスなどではなく、

「マナ管理の重要性だな」

 と、呟きながら計器を見た。

 

機体MP 1239/1300

 

 推力が増した分スラスターのマナ消費も増えている。着地してじっとしていても以前ほど機体のマナが回復しない。ディアブロロッソと機体HPの増えた新たなサブフレームの影響で、機体の稼働(アイドリング)消費が増えているのが原因である。新しいマナエンジンもそうだ。いくら燃費重視とはいえ二層向けのものなので、元の一層向けのものと比較すれば、稼働消費マナはずっと大きい。基本的にマナエンジンの性能と稼働消費マナはトレードオフといえる。

 兵器として見た探索機の最大の長所とはその継戦能力だが、二層仕様のテクニカリペアは一層にいる今現在、それを最大限に発揮できない。

 息切れをする前に二層ゲートへの最短ルート、新たに設定されたメインルートを通ってさっさと抜けてしまうべきだろう。

 

 やや狭くなった洞窟をスラスターを使わずに小走りで進んで行く。腕は振らない。長大な左腕はものをすくい上げるように肘を曲げ、右腕はヒリューズを構えている。三層探索者の中探索機のように飛ばすこともやれなくもないが、あれは集団移動だ。先導機の掃討により、出会い頭にゴブリンや地形変動で生じた岩壁に激突するといった危険がないからしていることである。それにメインルートには逆走する機体もいればゆっくり進む機体もいる。いくら先を急ぐとはいえ不幸にも黒塗りの高級機に追突しまっては目も当てられない。相手の嗜好いかんによっては、示談の条件に如何わしいことを要求される事態もあり得るのである。

 黒ではなく白いものが目に入った。

「っと、白アリだな」

 ホワイトアント三匹である。新品のヒリューズの調子を確かめるにはちょうど良い。ディアブロロッソの前腕にハンドガードを乗せるように保持してから、ヒリューズのトリガーを絞った。セミオートでの精密射撃が触角だけを六本分吹き飛ばす。六百円の射撃訓練だ。

 今度は前腕を下げて、片手撃ちで発射する。混乱したように動き回るホワイトアントの首の付け根を続けざまに撃ち抜いて行く。頭が取れただけなので、白濁した体液の飛び散り具合も控え目だ。

 今の機体の腕力なら、片手での精密射撃も問題ない。アタレ表記のセレクターを爪の背で挟むようにしてつまみ、連射のレに切り替えた。今後はこのままでいいだろう。

 死体が淡く光って消えて魔石が残る。ドロップ品収納小箱、通称弁当箱をバックパックから右手で取り出す。弁当箱の蓋の開閉は持ったまま片手でできる構造だが、物を拾って入れるにはもう片手の働きが必要だ。

 俺は慎重に爪を動かして、その先端で魔石をつまみ上げた。力加減を間違えれば取り落とすか割ってしまうかするだろう。爪の先は刃物としてしっかり尖らせてある。人間が箸で豆をつまむどころか、探索機が生卵をつまむ以上の精密動作が要求される。

 どうにか弁当箱に放り込めたが、

「これは駄目、面倒すぎる」

 と左手での物拾いに見切りをつけた。

 魔石は凹凸があるからまだいいが、ポーションアンプルなんかはほぼ無理だろう。つるつるした表面で取り損なったり落とすまいとして力を込めすぎたりで、ぱっきんぱっきんとへし折れるのが容易に想像つく。

 今度はディアブロロッソの手の平に弁当箱を乗せてみる。手の平が大きすぎて固定できない。ただ乗せているだけといった感じだが、物拾いは右手でできるのでスムーズだ。

 二つの魔石拾いを終え、三つ目は、

「おやっさんの推奨する仕方はたしか」

 ディアブロロッソの肘を曲げてその内側に弁当箱を挟んで持つ。挟んで固定しやすいように形状が工夫され、滑り止め加工もされている。弁当箱もしっかり保持され、歩いたり軽く跳ねたりしようが問題なかった。

 魔石回収の後はヒリューズの弾倉脱着操作を、同じように肘を使って試してみる。こちらもスムーズに行えた。使い手のことを想った職人芸かもしれないが、

「このやりにくさは駄目だろう。探索機は戦うだけじゃないんだぞ」

 戦闘以外のあらゆる作業に片腕動作を要求する。人型ロボットである利点を半分以上損なっているといっても過言ではない。

 

 

 

 

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 隻腕の不便や機体バランスの劣悪さに内心で散々に文句を言いつつ進んでいると、ゴブリン三体がたむろしているのが見えた。おあつらえ向きだ。

「不便を強いるだけあるか、試させてもらう」

 重心に気を遣うついでに足音を忍ばせていたので、ゴブリンたちはこちらにまだ気付いていない。手にした棍棒を見せ合って何やら喚いている。『俺の棍棒は形が良い』『いや俺の棍棒の方が立派だ』『いやいや俺のコンパクトな棍棒こそが実戦的だ』と、棍棒比べで序列付けでもしているのだろう。大浴場の子供のようなものである。

 そこに大人のデカさ、ディアブロロッソの巨腕で割り込むべく、ユニコーンヘッドの角を突き出すように機体を前傾に沈ませた。

 

 膝を抜いた落下力を前進力に転換する。巨腕による重量増加は左右非対称だが、人が地を蹴る姿勢自体が左右非対称である。いわゆるナンバ歩法、体を捻らぬ体幹運用においてはこちらの方が具合が良い。

 ぬるりと地を滑るように踏み込んだ。畳まれていた巨腕の肘は踏み込んだ時点で流すように伸ばされている。居合で腰を切るように最小動作での()()だ。

 そしてその動作と同時に()圏内、振り抜いた。悲鳴はない。発する暇も発する機能も残さない。交通事故のような接触音に続いて岩壁に叩きつけられる音が響いた。

 五本の斬線がその五体を八割方切り裂いたのであろう。慣性で岩壁に打ち付けられた衝撃でばらけて飛び散り肉片と化して辺りを汚した。腸が岩の段差で引っかかるのを見届ける間も無く、次の動作へ移行する。モーメントは今の一撃で解消した。全身運動の叩きつけの次は小技である。位置取りは想定通り、間合いの調整は必要ない。スナップを利かすように素早くさっと巨腕を払う。ゴブリンの首が飛んだ。振り切った異形の手は中指を立てている。爪をナイフのように用いて切り裂いたのである。巨腕の持つ質量の集束した斬撃は鋭い。技名をF*CKスクラッチ、とつけるのはさすがに下品なので止めておく。

 

 瞬く間に仲間二人を殺されたゴブリンは明らかに怯んでいた。モンスター以上にモンスターめいた異形の人型に通り魔されたので仕方ないともいえる。俺は大きく飛び退って間合いを空けた。仕切り直しさせてやろうというのではない。別な仕方を試すだけだ。

 その場で正拳突きをするように左腕を突き出す。大質量の慣性で機体が流れ、その勢いに上乗せるかのごとく地を蹴った。左腕を分銅に見立てての慣性機動である。ハンマー投げや分銅鎖の遠心力、それを前進力に転換する。超人的な膂力ゆえに可能となった質量利用である。自分が投げた柱に乗って移動するといった漫画的手法を実現した。

 自ら突き出した巨腕に引っ張られるように加速すると、そのままゴブリンへと組み付いた。ディアブロロッソの手は大きい。小柄な胴体なら容易に丸ごとつかめてしまう。

 ゴブリンがもがくが意に介さずに持ち上げて、握力をかけてゆく。爪が食い込む。鎖骨胸骨背骨に頸椎と刃を入れつつ圧迫する。苦悶の顔は目玉が飛び出しそうなほど見開かれていた。

「通常ならここまでだろうが」

 もはや既に致命傷であるが、完全には握りつぶせない。中探索機並みの膂力を余すことなく活かせる締め上げとはいえ、スペック通りならこれくらいが限界だろう。

 だがその限界を、超える手段が俺にはある。

「オーバーライド」

 声とともに感応増幅レバーを押し込むと、瞬時に増した握力により、握りつぶして破裂させた。

 湿った音が辺りに散る。赤い装甲を赤黒い血が上書きする。肉片とともに広がる飛沫がユニコーンヘッドを赤々と穢していた。

 

フレームHP 2082/2100

機体MP 1183/1300

 

「相性よろし、良い腕だ」

 おやっさんの見立て通りだ。このディアブロロッソは超過駆動、オーバーライドと相性が良い。瞬間的かつ部分的なら負担少なく発動できる。一撃ごとにフレームHPを20前後消費するが、中探索機の数段上の攻撃力を発揮することが可能なのである。義経ゴブリンの甲冑はもちろん、エアマンティスにも通用するだろう。格上を相手にできる攻撃力を手に入れたというわけだ。

「とはいえ、見た目は少しよろしくないか」

 一体はスマートに首を刎ねたとはいえ、もう二体はバラバラ死体と握りつぶした死体である。文字通り悪魔が暴れ回ったかのような惨劇の様相を呈している。

 光とともに血肉が消えて、スタミナポーションのアンプルが残される。

「受肉していたらぞっとしないな」

 血まみれテクニカで薄暗がりを彷徨えば、ただでさえ異形である、他の探索者にモンスターと勘違いされるかもわからない。洗浄用に水玉を確保しておくべきだろう。

 

 

 

 

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 抜き手で胴を貫き戻す。その勢いのまま放たれた裏拳のなぎ払いは辛うじて躱されるが、本命は右手に抜いたブレードだ。身体を回して踏み込み振るい、手首を利かせた斬撃が首を刎ね上げた。

「こいつの使い方もだんだんわかってきたな」

 と、何度目かに遭遇したゴブリンを片付けて俺は呟く。

 ディアブロロッソの運用にあたっては手癖足癖が大事である。その凶悪な見た目と攻撃力を囮として使い、そこにブレードや足払いを差し込む。巨腕の慣性による回転力を上乗せするので威力も出る。

 爪攻撃は大味でどうにも危うい感じがしたが、隙を潰す工夫の余地は充分ある。二層の対集団戦でも通用するだろう。

「っと、ルート変更か」

 マップではあったはずの道が瓦礫によって塞がっていた。おそらく今日起きたであろう地形変動だ。モニターのマッピングアプリを操作して迂回コースを検討する。

「最短で行くか」

 選んだのは洞窟の曲がりくねったルートでなく、幾つもの広間を通るルートであった。距離でいうなら最短だが、ウォーターワームの出現しやすい地形といえる。

「スキルの方を試すにはちょうどいい」

 ダイブ初日に激戦を繰り広げた相手である。水玉補充も兼ねて今の自分とテクニカがどれだけやれるか試金石にもなる。

 

 

 果たしてウォーターワームはいた。二つ目の広間である。一つ目は空だった。誰かがこのルートを進んで倒して、たまたまこちらが先に再出現したのであろう。巨大ミミズはのっそりと蠕動し、地べたを撫でるように頭と尻尾を伸び縮みさせていた。

 機体を前進させる。真正面から行く。感知範囲に入るや否や、環帯(ハチマキ)付きの頭部をもたげた。こっちを見たのではない。ミミズに目はなく表皮の感光細胞、ようは皮膚で感知している。つまりは頭を動かすその時点で、攻撃動作を始めているということだ。

 

 魔法陣が展開されて放水砲が放たれる。地を削り続ける水柱を半身で避けつつ前進する。左右非対称の重心とスラスターの併用によるカニのようなナンバ機動だ。とはいえ紙一重の回避術はウォーターワームにとってカモでもある。回頭によるなぎ払いが来る。

「見切れているさ!」

 回頭速度は把握している。節々の事前動作から回頭方向も予測出来る。左腕の振りによる姿勢制御も合わせて切り返す。水柱を縫い針と見立てて巻き付く糸のような機動を描いて振り切った。そして急上昇しつつロールで反転、ウォーターワームの姿は機体の真下、コックピットから見て真正面に来る。左腕を突き出しながらの垂直降下を繰り出した。

 巨腕による姿勢制御を駆使したとはいえスラスターのみ、天井を蹴ったわけでもないので出足は遅い。ゆえにウォーターワームの反応速度なら回避が間に合う。巨爪による一撃は環帯をえぐり取るに留まった。そして回避と同時に反撃も行なわれる。尻尾によるはたき落としだ。爪を振り抜いて機体が空中で停滞したその一拍、鞭のようにひゅるんと振るわれる尻尾の影がペリスコープを横切った。

「それも見切った!」

 反転しつつ後ろ蹴りで受ける、というよりも足裏で受け流しつつ足場にする。体表の剛毛の引っかかりはこういうときには都合が良い。以前とくらべて機体のパワーも行動回数も上昇している。もはやウォーターワームの体当たりは避けにくい攻撃ではなく第二の足場に過ぎない。

 

 二度三度と体当たりする巨体を蹴って姿勢を変え、再び頭部へむけて左腕を突き出した。環帯の()に爪が食い込む。頭部の心臓ごと握りつぶすには爪の長さが足りずに位置が悪い。

「今は違う――フォトンバレット」

 ディアブロロッソが光を放つ。フォトンバレットの接触発動、格好良く誤用すればゼロ距離フォトンバレットである。増幅発動体により強化された魔法スキルが炸裂した。

 

 以前使ったときも直撃すれば一撃であった。その時点での魔攻の値は158、今は実質283だ。光が収まったとき、ウォーターワームの頭部は環帯ごと消失していた。

 巨体を蹴って飛び退れば、ウォーターワームはびくびくと震えながら倒れ込む。ルーキー殺しというだけあって、やはり戦うと面白い。棍棒持ちのゴブリンとは違いそれなりに工夫が要る。いわばウォーターワーム先生だ。彼とのかつての激戦は俺の血肉となっている。

 ドロップの水玉を回収すると、ぺこりと一度頭を下げてから先へ進んだ。

 

 洞窟を抜けて次の広間に着いた。何もいない。次の次の広間に着いても、また何もいない。留守が続いて『先生……どこぉ?』と言いたくなる。

「先客のしわざか」

 俺の先生をよくも、なんて言う権利は当然ない。獲物の取り合いなど探索者にとっては日常茶飯事だ。今までは運がよかっただけで、来週の新卒ルーキー解禁日が過ぎれば、一層ではそれこそ探し回る羽目になるだろう。

 通路にゴブリンさえ見当たらず、がらんどうの広間を抜けて行く。もうすぐメインルートとの合流地点だ。最後の広間に続く洞窟に差し掛かったときに音が聞こえた。ウォーターワームの砂浴びのずりずりとのんびりした音ではない。巨体を打ち付ける戦闘の轟音だ。近付くにつれ人の声も聞こえてきた。

『ふっ、はっ、くらえいっ! ほわぁっ!? やるではないか!』

 外部スピーカーを切り忘れたのであろう。大声の独り言が漏れている。

『三体がかりとはな! ダンジョンに愛されるとはこういうことか! だが私は負けん! 引きもせん! この程度の試練など乗り越えてみせる! なぜなら私は俺様はっ、田中次郎を超える男であるからだッ!』

 これまた強烈な感じの先客であった。

 俺はかつて柿本さんがしていたように、広間入り口の物陰からそっと機体を乗り出した。

 

 

 

 

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 白い手足に赤青黄色の胴体というトリコロールカラーのテクニカが、ウォーターワーム三匹に囲まれて、飛び交う放水砲や間欠泉魔法をどうにか躱し続けている。動きを見るに同調率は60弱で、そこから逆算してステータスが平均値だと仮定するとレベルは5以上はあるだろう。

 戦いぶり自体はそう悪くない。ウォーターワームの予備動作もしっかりと認識している様子である。一対一であれば問題なく倒せるであろう。けれども一対三となれば勝てるかどうかは半々といったところだ。

 手を貸すか貸すまいか、ひとまず見守ることにした。良い具合に白熱している戦いだ。お節介な介入によってあっさり終わってしまったら、俺ならば感謝しつつも残念がる。田中次郎を超えると豪語するくらいだから、彼も似たようなものだろう。

 

 トリコロールの武装は服部製作所製の三式軽大剣――本来中探索機向けの装備であるが、肉抜き構造による軽量化のおかげで軽探索機でも使えなくもない――のみである。単機(ソロ)でありながらヒリューズ持ちでないのを見るに、アイテムボックススキル持ちの可能性がある。

 魔法を使い続けて息切れしたのか時折水柱の包囲に隙が生じる。機会を見計らい、幾度目かのその隙でスラスターを全開して間合いを詰める。スラスター光は腰部メインスラスターからのみでなく、肩アーマーに増設されたサブスラスターからも二条伸びている。魔法での同士討ちを嫌ったのか放水が止んだ。至近距離に寄られたウォーターワームの巨体が裏返った後跳躍する。のしかかりつつの振り回しだ。慣れぬ者はこのダイナミックな暴れぶりに圧倒されて逃げ回るが、トリコロールは冷静であった。蠕動する体節を飛び越えて潜り抜け、土埃を引きながら大きく頭上へと跳躍し、その大剣は蜻蛉に構えられていた。翼のように噴出するスラスター光に照らされて刃がきらりと輝いた。

『受けよ我が必殺けキァェエエエエエィ!』

 必殺剣と言おうとしたがタイミングがずれたのか猿叫に重なった。

 切り抜ける。頭部を幹竹割りされたウォーターワームが轟音とともに倒れ込む。

『我が名は一郎、山田一郎。冥土の土産に知るがぬぅッ!?』

 血振るいの動作をしたところに放水砲が差し込まれた。モンスターは決め台詞を待ってはくれない。咄嗟に大剣で受けるものの、放水の圧力に負けて手放してしまう。

『おのれ我が剣……ならばっ!』

 手ぶらとなり軽量化した機動性で水を振り切る。振り切って構えをとる。二匹の頭部が直線上となる位置取りで、手首を合わせて両手の平を突き出す構えである。

『刮目せよ我が奥義――フレアバスター!』

 灼熱の熱線が放たれて、洞窟内を赤く照らした。

 

 

 土埃の漂うなか、トリコロールが膝をつく。スラスターの頻用とスキル行使によりマナが危険域に入ったのであろう。

 パイロットは息を切らして呟いた。

『……やったか?』

 否、やっていない。

 俺は足で地を蹴ると同時に左手でも地を蹴って機体を加速させた。エアマンティス戦で実行した過剰適合身体操作の応用だ。多重並列関節加速とスラスターの合力によりスペック以上の加速力を発揮する。とはいえ反動ダメージを受けぬようかなり加減している。今回の三本足での超加速はマナ効率模索の一環だ。

 満身創痍相手の据物斬りである。真正面から飛び込んでも問題ない。

「フォトンセイバー」

 スキル名を呟きながら空中で身を翻して左腕を振るう。大剣ほどに間合いの伸びた光の剣が、巨体の頭を切り落とした。

 

MP 174/215

 

 ステータスを確認する。フォトンセイバーの実用的な消費MPは20といったところであろう。咄嗟に大剣代わりに振るえるものの、フォトンバレットの四倍消費だ。やはりロマンスキルでしかない。真価を発揮するのは強敵相手と、

『……おお、なんと(ふつく)しい』

 今のように外連を見せるときくらいだろう。

 

 残心し、増援の現れる気配がないのを確認すると、トリコロールテクニカへと向き直った。

「横入り失礼しました」

『光のか……否、光の君よ。危ういところを救ってくれて感謝する』

 今お前カニって言おうとしたなと思いつつ、光の君というけったいな呼び名に気後れする。

「いえ、そちらの腕前なら倒せていたでしょうに、経験値泥棒でした」

 二層への道中である。激闘が終わるのを待つ時間がもったいないと考えたのも、介入理由の一つであった。

『たとえそうであったとしても我が愛機は損なわれていたろう。命のみならず経済的にも救われたのだ。重ね重ね感謝する』

 トリコロールは大仰な仕草で礼をして見せた。

『私の名前は山田一郎。光の君よ、貴方の名前を聞かせてはくれまいか』

 芝居がかった言動かつ赤面するような呼び方で、どうにも個性的な人物だ。名を知られて良いか悩む。ダンジョンリテラシーというやつだ。花沢さんはあんなことになってしまった。

 他の知り合いを思い浮かべる。柿本さん、蒼也さん、古志野ちゃん様、ロクヨンさんに百二十三郎さん、セクハラ全開のお姉さん方、俺の名を知る探索者は誰しも個性的であった。今さらこの山田一郎氏に知られたところで、誤差のようなものだろう。

「……相葉勝です。マナが回復するまでしばらく護衛しましょう」

『願ってもないが、いいのか? 私は見ての通りルーキーだ。差し出せるものなど、この水玉くらいだぞ?』

「礼などいりませんよ。探索者は助け合いでしょう?」

『感謝しよう相葉殿。この恩は一生忘れん』

 探索者の殴り合いのハードルは低いが助け合いも同様だ。モンスターとの戦いで手助けするたびにいちいちお助け料一億万円などと言ってはいられない。

 こうも繰り返し礼を言われてはこそばゆい。俺を助けた柿本さんもこんな気持ちであったのかもしれない。己からしてみれば大した労力でもない行為でも、相手にとっては返礼に困るほどの重大事となってしまう。ダンジョンにおいて武力とは、地上社会での金と地位に相当する。行使した影響の大きさで階級社会が成り立つわけだ。善かれ悪しかれ慣れて行かねばならぬだろう。

 

 

 マナ回復を待つ間、山田一郎氏は問わず語りに身の上話をした。彼は探索者学園の去年の卒業生だが、すぐには奨ダン金に手を付けず、マナ奴隷や歩兵探索者の荷物持ちで下積みをしたという。

『ルーキーの破産原因の大半は機体の維持費だ。ならば勇んで買わねば良い。金を稼ぐだけならばマナ奴隷の仕事がある。学園の卒業資格はこういうときにこそ活きる、いうなればダンジョン村への入村資格でもあるのだ。幸い私はアイテムボックス持ちであった故、歩兵探索者の方々にも稼がせてもらえた』

 それで一年弱低リスクでの金策に勤しんだ。丸一年でなかったのは一年間探索者としての活動実態がないと奨ダン金を取り消されるからで、ぎりぎりまで伸ばした十日前にいよいよ探索者としてデビューした。ダンジョン一層留年生ならぬ浪人生といったところだろう。

 実のところ奨ダン金自体は足りていた。彼が下積みを続けたのは活動資金を稼ぐためではなく、

『私には家族がいる。六人兄妹の長男だ。探索者はいつ死ぬともわからぬ仕事故、当面の蓄えは作ってやらねばならなかった』

 家族の生活費のためであった。

『幸いにもこの一年間でどうにか目処がついた。一番上の妹が来年学園を卒業する。探索者ではなく整備士としてだが、どうやら才能があったらしく、既に財団に就職が決まっている。財団整備士は修理ロボを個人購入できるほどの高給取りだ。私が道半ばで倒れようと、大黒柱を務めてくれるであろう。死ぬ危険もない』

 戦闘中の言動とは裏腹に堅実な考えをしていた。

『ともあれこれにて後顧の憂いは消え去った。夢に向かって邁進する、その資格を得たのである。田中次郎を超える探索者に私はなりたい。なってみせる。世界の田中次郎を世界の山田一郎で塗り替えたいのだ』

 ありふれた名前をありふれた名前で上書きする。それが夢だと彼は語った。

『とはいえその夢も危ういところであったがな。こうも長々と手前勝手に自分語りをやったのは相葉殿、貴方のような強者に私のことを、覚えておいてもらいたかった』

 たしかに、雑談というには立ち入った独り語りだと感じていた。

『たとえ我が身が朽ちるとも、せめて名だけは残したい。覚えておいて欲しいのだ。山田一郎という夢追い人がいたことを』

 こういう探索者もいるのかと俺は思った。

 

 トリコロールテクニカのマナ回復が済み、メインルートとの合流地点に着いたので、ここで別れることにした。

『相葉殿はその出で立ちを見るに二層探索者か。今回は断念するが、レベルは既に足りている。次には私も追い付いてみせるさ』

 先ほど聞いた話によれば、今回は二層行きに挑戦したところを運悪くウォーターワーム三匹に囲まれたらしい。

『二層には妹もいることだしな』

「妹さん? 整備士の?」

『ベースキャンプで学生バイトをやっている。さっさと顔を見せて証明してやらねばなるまい。貴様の兄は探索者をやれていると』

 まさかはぐれオーガのときに見た口答えの達者な少女ではあるまいが、一応気に留めておくことにした。

『それでは、いずれまた会おう相葉殿。この借りはいつか必ず返してみせる』

「そもそもそんな事態に陥りたくはありませんが」

『それもそうか』

 フハハハと芝居がかった笑い声を残して山田一郎氏は去って行った。

 

 

 

 

97

 進むにつれてマナ濃度が薄くなり、機体のマナ残量がじわじわと減ってくる。機体を静止させてもマナ残量の減少は止まない。回復が稼働(アイドリング)消費にすら追い付かないのだろう。

 広間に出た。広間の真ん中には黒々とした巨大な渦があり、左右の奥にはこことは別な入り口が開いている。分かれ道を兼ねたゲート部屋だ。今現在は最短ルートでここに来られるが、この通路が地形変動で塞がれば遠回りすることになる。メインルートとしてはあまり長持ちしないタイプといえる。

 黒い渦、階層ゲートに機体を近づける。横から見ると平べったく、ブレードを伸ばしてみると素通りした。

 色々と試してみたくはあるが、あまり悪戯するのは良くないだろう。他の人も通るのである。道路に空き缶を置くようなものだ。マナ残量の減りも早まっている。さっさと通り抜けた方が良い。

 俺は意を決して踏み出した。

「ええい、ままよ」

 ゲートに足を踏み入れながら、そういえばママなんて言葉は一度も使ったことがなかったなと、どうでもよい考えが頭をよぎった。

 

 闇の中を進む。距離でいえば百メートルくらいしかないだろうが、出口から差し込む光は微かである。モニターのバックライトと計器の夜光がコックピットをぼんやり照らす。

「っと、ゲート内で無灯火は駄目だった」

 自転車や自動車と一緒だ。切符は切られないが事故防止のために点けるよう義務化されている。スイッチを入れて頭部ライトを点灯した。通常のテクニカはダイブレコーダー用カメラのバイザーの上、額部分ともいえる庇の中央にライトがあるが、俺のテクニカはユニコーンの角が邪魔になっているので庇の両サイドにライトがある。

 幾分か明るくなったコックピットで横を見る。追従して機体の頭も横を向くが、ライトの光で照らしても暗闇がひたすら続くばかりである。この空間がどれだけ広いか確かめた者は誰もいない。道を逸れ奥へと奥へと進むとマナばかりでなく空気と重力も薄くなるらしく、更に奥へ進めば三層のエリアオーバーのように死滅空間が広がっているともいわれている。

 遭難した機体の残骸があるとか、パイロットの死体がずっと腐らずにいるとか、死者の声が聞こえるだとか、リトルグレイ形の未知のモンスターがいきなり現れて生命力を吸い取るだとか、ゲート内空間にまつわる都市伝説は色々ある。暗闇を見つめているうちふらふらと道を逸れてしまう。一緒にゲートを抜けたはずの仲間がいない。後ろ弾を浴びせながら『楽しかったぜお前との友情ごっこ』と、最後のは少し毛色が違うが、モンスター相手のドンパチとは別なジャンルのホラーといえる。

 心霊現象相手の戦いも興味があるが、そういうのは別の機会にやるべきだろう。今はダンジョン探索中だ。幽霊よりもマナ管理の方が怖い。真っ暗闇の誘惑を振り切って進むことにした。

 

 ゲートを抜けると地下世界が広がっていた。巨大なドームというよりも、でこぼこした天蓋の下に岩だけの山脈があるといった感じだろう。星空というより染みのようなヒカリゴケの光源が、色違いの宵闇を全体にもたらしている。モンスター相手に目立つのでライトを切る。戦闘に必要な光源は近場のヒカリゴケの塊で確保できる。

 マナ濃度が低いこともあって周囲に敵影はない。マップを見ると、ベースキャンプはこの山脈の五合目くらいだ。ゲートからだいぶ離れているが、一層の地形変動を考慮したのであろう。いくつかの別なゲートとの中間あたりに位置している。そこならばこのゲートが駄目になったとしてもベースキャンプ移動の必要はない。

「さて行くか。二層攻略の始まりだ」

 巡回ルートなので集団に遭遇する可能性は低いだろうが、油断せずに行く。

 

 軽いスラスター跳躍を繰り返す巡航機動で山を登る。どうせベースキャンプで休めるのだから一息に飛んでいけないかと思ったが、それはできなかった。どうも高度を上げる、地面から離れるにつれマナ濃度が下がるのである。いわゆる空戦非推奨エリアというやつだ。

 どうやら前回経験した地下空洞やパイプ洞窟とは勝手がだいぶ違うらしい。上空ばかりでなく地上のマナ濃度にも()()があるので、匍匐飛行もあまり良くない。知らず知らずのうちにマナ回復が滞るだろう。

 法面のようになった急勾配の下に敵を発見した。陣笠で槍持ちの足軽ゴブリン四体と、輪袈裟をかけたゴブリン一向宗である。コブリン一向宗の頭部は磨いたようにつるりとしていた。輪袈裟ということは一番弱いタイプだろう。

 ちなみにゴブリン一向宗はランクが上がると畳袈裟、五条袈裟と服装が変化して髪も生えたりする。最高位は派手な七条袈裟かつ禿頭なので分かりやすいが、ネームドクラスの戦闘力を持つので要注意である。

 

 

 向こうもこちらに気付いた。足軽ゴブリンたちが槍を構えて突撃するのに合わせ、輪袈裟ゴブリンは右手の平を優しく立ててこちらへ向けた。施無畏印(せむいいん)という印相だ。柔らかな手つきと同様、穏やかな顔を浮かべている。

 が、次の瞬間その手が光る。俺が左手を振りつつ横っ跳びするのとほぼ同時に、光弾が発射された。

「フォトンバレットか!」

 地面を抉って弾けた光がペリスコープ越しにコックピットを照らした数瞬後、先頭の足軽ゴブリンと接敵した。

 走りながら突き出して揺れる槍の間合いに入る直前、機体を右下に沈ませる。前傾姿勢で流すように伸びた左腕が槍の下を潜り抜け、すれ違いざま下半身をすくい上げるように振るわれる。足をちぎられ撥ね飛ばされた足軽ゴブリンが地面に落ちるより早く、後続のゴブリンたちの突き出す槍を、切り返しで振られた左腕がまとめて薙ぎ払って破壊する。払いながら踏み込んでブレードも閃かせ、袈裟懸けに両断した。残り二体、武器は破壊済みだ。ブレードで一体の喉を突く、と同時に左手を伸ばしてもう一体を爪でつかむと、

「援護射撃されるのならっ」

 勢いよく腰をひねって持ち上げた。

「味方殺しをさせるに限る!」

 輪袈裟ゴブリンの放った次弾、フォトンバレットの盾にしたのである。己の放った光弾により足軽ゴブリンの胸元と顔半分が抉れてしまい、輪袈裟ゴブリンは見るからに狼狽した。施無畏印の手も丸めてしまう。

 盾に使った足軽ゴブリンは遮蔽物でもあった。輪袈裟ゴブリンから見えぬようブレードを手放してトマホークを手に取る動作は既に終えていた。投擲する。縦回転する投げ斧が善良そうな顔面に突き立った。

 その後はブレードを拾って盾や撥ね飛ばしたゴブリンにとどめを刺して回った。

 

 

 ドロップ品を回収する。足軽ゴブリン四体はスタミナポーション二本に槍の穂先二本、輪袈裟ゴブリンは数珠を一つドロップした。

 穂先はダンジョン鋼と呼ばれる特殊な鉄くずで、数珠は魔石などと同じくマナカーボンを始めとした素材の原料になるらしい。とはいえ現在の相場だと換金額はそれほど高くない。穂先が五千円、数珠が八千円といったところである。一方スタミナポーションは七千円だ。

 これでは毎回スタミナポーションをドロップする一層の雑魚ゴブリンのほうが楽に稼げるのではないか、という当然の疑問が生じるが、一層と二層では数が違う。戦闘の負担を別にすれば時間あたりの稼ぎは二層の方が格段に上である。ダンジョンダイブの大半は移動や探索時間だ。一層の洞窟を彷徨って数体のゴブリンを倒すのと同じ時間で、二層ではゴブリン集団と数回戦うことができる。アント系についても同様だ。とにかく数をこなすのが、二層での金稼ぎのセオリーといわれている。

 とはいえ俺の目的はあくまで探索なので、大物狙いを繰り返しでもしないかぎりそこまで稼げないだろう。パーティを組む気もない。金策効率が良くても経験値効率が悪くなる。

「この山はゴブリンの縄張りなんだな」

 その後は似たようなゴブリン集団ともう一回戦ったが、アント系の群れに出会すことはなく、P文字看板の前にたどり着いた。この先ベースキャンプと示す高速道路標識もどきである。

 

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