ダンジョンロボ(仮)   作:トシアキウス

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二層見物

28

 土石流を振り切って闇の中を突き抜けると広々とした空間に出た。

 天井が高い。空気の流れも違う。地面のあちこちには水溜まりのように群生したヒカリゴケがあるものの、その頼りない光源では遠くの方はぼんやりとしか見通せず、岩壁の有無がなんとかわかるくらいであった。

 ヴェルサスの減速に合わせてこちらもスラスターを緩める。背後には白い渦、一層から見るか二層から見るかで色が違う、元来たゲートが見えていたが、機体に続けて土砂を勢いよく吐きだしたかと思えば、間もなくそれが堆積し、山に埋もれて隠れてしまった。

 ゆるゆると減速し、足裏で地面を削りながら着陸する。姿勢制御がかみ合いすぎて、手を握ったまま離すタイミングを逃していた。止まってそれに気が付くと、同時にぱっと手を離す。身長差があるので手を繋いだ親子のような格好だった。互いに気まずいので言及はしない。

『……思わぬトラブルだったね。まさか部屋ごとゲートが埋まるなんて』

「今みたいなことはよくあるんですか」

『さすがのボクもこんなドンピシャ初めてだよ』

 二層である。来てしまった。予定変更だ。旅行中は困るがダンジョンでのそれは、むしろ己の糧になる。

 計器を見ながら言う。

「マナ濃度がじわじわ上がっていってます」

『ゲート封鎖直後のぶり返しだね。二層だからしばらくすればゲームのモンスターハウスみたいになる。移動しよう。アプリに二層のマップは入れてあるかい?』

「はい。二層までは自動更新にしてあります」

 マップデータは有料であり、こちらが新たに入力したデータも収集される。更新用のマップは無数のユーザーのデータからのAI生成である。かなり足下を見た利用料で、もし一般用のアプリのセールスランキングに載ればそれなりの順位になるだろう。自動更新の料金は割引無しのそのまま×(かける)日数なので一回一回更新したほうが安くつくが、大抵の探索者は更新しそびれるのを警戒して自動更新契約をしている。ちなみに三層以降のマップデータは非常に高額なうえ、学習データの不足からかAIが独創性を発揮しているので信憑性も微妙である。

『目指すのはベースキャンプだ。キャンプスタッフのレベル維持用巡回ルートだから、今ならエンカウントはない。気楽に行こう。二層は初めてだろう? まずは空気感に慣れるといい』

 

 デビュー二日目にして二層の地を踏む。

 機体MP回復量はほぼ倍だが、眼に映る景色はそれ以上に大きかった。地図上の広間は実際に通ってみれば地下空洞というよりも空の無い丘陵というような感じであった。広間の突き当たりは壁というより崖であり、その一角にぽっかりと大空洞が開いている。一層の通路と違い、その直径はウォーターワームが好き勝手に暴れたとしても十分な余裕がある。

 ホバー滑走するヴェルサスに、スラスター跳躍を繰り返してついて行く。二層でのテクニカの巡航機動はこれになる。移動速度だけならマナ消費が倍以上ありそうに見えるが、自由落下中はスラスターを噴かさないので、その分マナを回復している。通路の天井が低い一層ではできない移動方法であった。

 着地の際、時折、ヴェルサスの背中から視線を感じた。

 探索機は基本的に、後方確認のため背面の一部が透過装甲になっている。機体の真後ろはバックパックなどで塞がるため位置関係上、前面キャノピーと違って直接視認はできないが、ペリスコープ伝いにコックピットの背部や上部に後方を映し出してくれる。俺のテクニカはコストの都合で上部ペリスコープのみだが、柿本さんのヴェルサスのグレードならコックピット背部とバックミラーの併用だろう。自動車と同じような感覚で後方確認ができる。

 ちらちらという視線の感じからして、柿本さんはこちらを心配しているらしい。なにせ二層デビューの操縦者だ。空中でひっくり返ったり足を挫いたりはしないかと、危なっかしく思われても仕方ない。

 滑空距離を伸ばして横並びに一時(いっとき)なって、声をかける。

「もっと飛ばしても大丈夫ですよ」

 次の着地の時に返事があった。

『それは事故るフラグだからね?』

 なるほどもっともである。慎重に行く。

 

 大空洞を抜けてしばらく進むと、丘というより山が見えた。そのふもとには探索機サイズの看板が立っている。看板には大文字でPとあり、矢印の他、コーヒーカップと給油機のマークなんかも書いてあった。高速道路の標識のあれである。

『ここの山頂がベースキャンプだ。見通し重視だね。マナ濃度は結界装置だろう』

 修理ロボの専用追加装備に、モンスター避けの結界スキルを再現してマナ濃度を下げるものがある。販売価格も維持価格も非常に高額だが、ダンジョン内ベースキャンプの維持は探索者協会ではなく、田中次郎財団が主体なので多少の無茶は効くのだろう。田中次郎の遺言に従って探索者業界に、協会以上に貢献している。

 ベースキャンプのかなり手前でヴェルサスが重力低減ホバーを切った。俺も飛び跳ねるのを止めて歩き出す。ちょうど周波数の看板があったので、無線を合わせておく。

 一番近い警備の機体は、一目でわかるカスタムの施されたテクニカであった。二層探索者が副業にやっているのだろう。線の多い装甲は中国製であろうモールディング装甲だ。情報量の多いデザインという見た目の派手さばかりでなく、表面積の増加に伴うマナバインダー効果で実質的な装甲強度が上昇する。俺は好みではないが、廉価なので二層における定番改造でもある。

 その機体に柿本さんが無線を入れた。

『すみません。メインゲート崩落です。報告したいので責任者の方を呼んでいただけますか』

『えっ?』

『一層側のメインゲートが地形変動で崩落しました。つい先ほどです』

『うっそマジ? ああはい、今連絡入れるんで、ちょっち待って下さい』

 俺も驚いた。敬語の口調にしただけだろうが、元々の声質のせいかお嬢様めいた声色になっていた。

 ヴェルサスが寄ってきた。

『違うんだよ、少年。別に清純派を気取るとか、そういうんじゃないんだ。知らない相手に敬語を使うのは、礼儀だろう?』

 内緒話のためか無線ではなく外部スピーカーでの小声である。

「まるで深窓の令嬢でした」

『深層探索者なだけに? ってやかましいわ』

 警備のテクニカから無線が入る。

『報告しました。一応あの、ライセンス確認なんかもあるんで、駐機場のほう案内します』

 誘導に従ってたどり着いた駐機場は軽く整地はされていたが、カラーコーンを置いただけの簡易的なものであった。

『さて降りようか。今の時期、馬鹿はいないと思うが念のため、ハッチの施錠は忘れぬようにね』

 コックピットハッチを閉めて鍵をかける。このまま飛び降りてもいいが、着地時の関節負荷がまだ気になる。格好付けるにはレベルが少し足りないだろう。装甲の段差伝いにするする降りた。

 ヴェルサスを見ると、柿本さんはまだ降りず、機体の胸の部分に立ったままだ。既にハッチは閉じてあるにもかかわらず、機体の足下を覗き込んで何やらきょろきょろしている。

「ああ、スカートだからか」

 押さえながらジャンプする前の、最終確認なのだろう。俺の位置からは見えないが、マナーとして背中を向けた。

 

 

 

29

 ベースキャンプの責任者は三十代くらいの細身の男性で、ベルトだらけのインバネスコートに制帽という悪の秘密結社みたいな格好をしていた。

「いやあどもどもすいませんね、わざわざ報告してくださって。いやほんとすいません」

 服装とは裏腹に仕草のほうは腰が低い。ぺこぺこ頭を下げるほどであるが、俺は思わず後ずさった。

 柿本さんが前に出てライセンスを提示した。

「柿本紫、四層探索者です。確認願います」

 俺も同じようにする。

「相葉勝、一層探索者です」

「あーはいはいすいません、少々お待ちを」

 男性はタブレットを取り出して操作し、その画面とライセンスを見比べると、にっこりと頷いた。

「はい確認とれました、すいません。あーその、できればなんですが、崩落時の状況のほうを、すいません、教えていただけないでしょうか? 大まかでも結構なんですが詳細を教えていただけたらこちらも非常にすいません、助かるんです。ダンジョン解明の一助となりますので。なんせ我が財団の理念ですから」

 柿本さんはこちらを見て頷くと、メインゲートで起きた出来事を説明し始めた。

 

 報告が終わった。

「念のためこちらの現場確認が完了するまで、ほんとすいませんが、キャンプ内待機のほうお願いします。確認がとれましたら係員が参ります。ですのでそれまでいやほんと、すいません、よろしくお願いします。それでは報奨金のほうは後日振り込みという形にさせていただきますのでご了承願います。いやすいません」

 男性が御辞儀して去って行く。インバネスの背には『I♥ JT』の大文字があった。愛煙家という意味ではない。JTは田中次郎のイニシャルである。正気を疑うようなデザインだが、この格好は田中次郎財団正規職員のユニフォームであった。

 俺は緊張をほぐすために、大きく息を吐いた。

「口癖なのかな、すいますいませんって言っちゃいそうな勢いだったけど、今の人のやばさ、少年も気付いたんだね?」

 へりくだりながらも目だけはぎらぎらしているような、その人柄のことではないだろう。

「あれ、五層探索者だよ。レベルが40以上ある」

 一挙手一投足に身体が反応するわけだ。40レベルは軽探索機相手なら生身で殴り合えるといわれている。俺のテクニカといざやり合えばスキルの分、向こうのほうが有利だろう。

「なんで二層なんかにいるんです? というか、いれるんです?」

 ベースキャンプの責任者なんかをしていれば確実にレベルダウンするだろう。

「レベル固定薬を使ったんだろう。五層でもめったに出ないが効果は一年きっかりだ。期間中は上がらなくもなるけどね」

 ブランクのデメリットを軽減できるとはいえ、たかが二層のベースキャンプである。役不足にもほどがある。

「あれにとっては財団の仕事は、バカンスより優先すべきことなのだろうさ」

「知り合いなんです?」

「ああいや、たまたま調べて知ってるだけさ。顔写真も財団のホームページに掲載されてる。サラリーマン面したあの男は田中六十四郎。ジロウチルドレンの二桁ナンバー、がちがちゴリゴリ、パワー系狂信者ってやつさ」

「あれが噂の……」

 俺がにわかジロリアンなら、六十四郎氏は後方腕組みどころか、田中次郎教の高位司祭といった立場だろう。ジロウチルドレンとは田中次郎氏が国内外から保護して育てた無数の養子のことである。日本ではふざけた呼び名に聞こえるが、海外では定着している。彼彼女らは救い主の田中次郎氏を尊崇している。し過ぎている。そして現在の田中次郎財団を運営する主要メンバーでもある。

 ちなみに田中次郎氏は生涯純潔を公言しているので、実子はいないとされている。未だに年に数回、田中次郎の隠し子だと名乗り出る者が表れるが物理的に排除されている。なんとなればジロウチルドレン上位者は深層探索者であると同時に上級国民である。

 ジロウチルドレンの序列は名前の番号そのままなのでわかりやすい。番号が若いほど序列が高い。彼らは己の何々郎という名前を、序列に変更があるたび、通名ではなく本名としていちいち役所に届出している。家庭裁判所への申し立ては特例でフリーパスだ。現在の序列一位は田中三郎(32歳女性)であるが、顔写真や探索階層は公表されていない。

「あの六十四郎も上級国民だ。おいたをしたら『すいませんが君は探索者に相応しくない』なんて言われて転生させら(ポアさ)れちゃうから気を付けなきゃだね。少年なら大丈夫だとは思うが」

 恐るべき人々だが、生の田中次郎、生次郎と接していた人々でもある。話を聞きたいという気持ちが少しある。

 

「待ち時間にちょっと何か入れてこうか」

 と言われて向かったのは、自販機の立ち並んだ飲食ゾーンである。椅子とテーブルがあって給茶機なんかも置いてある。地べたに直接ではなく、全体が十メートル四方の高床式であり、おそらくアイテムボックスで丸ごと運べるようユニット化されているのであろう。水のタンクや発電機らしきものがあった。水平をとるためか支持脚が建築ジャッキのように高さ調整可能になっている。

 飲み物の自販機は一台だけで、あとはホットスナックやらうどんそばやらハンバーガーやらと、食べ物ばかりが並んでいる。ダンジョンの薄暗さを照明で照らしているのも相まって、親父との旅行で訪れた真夜中のサービスエリアが思い出された。

 飲み物は一律五百円で、ホットスナックも同様だ。いわゆる山小屋価格であるが、採算が取れているかは怪しいものだ。両替機は万札用だけが置いてある。

 俺は無難に缶コーヒーでも選ぼうかと思ったが、柿本さんの様子を見て取りやめた。彼女はうどんそばのボタンを押したと思えば、隣のハンバーガー自販機に移り、続けてトーストサンドも購入した。おつりをそのまま次の自販機に投入するあたり、いかにも手慣れた様子である。この手の自販機は実際に商品が出るまで加熱調理で時間がかかる。なのでまとめ注文で時間を節約するという、いわば大人買いであった。

 大人ってかしこいと感心したものの、その量は小腹を満たすどころでない。がっつり食事するつもりである。調理中のランプを機嫌良さげに見比べている。俺もお付き合いで何か食べないといけないだろう。

 千円札を出してホットスナック自販機の前に立つ。冷凍食品メーカーが展開しているものだからか、他のレトロな自販機と違って真新しい。ちなみに探索機メーカーのニッセンはこのメーカーと同じ企業グループに属している。ホットドッグや焼きおにぎりなど色々あり、計九つのラインナップだが、なぜかフライドポテトだけ二つあった。

 俺はたこ焼きとフライドポテトを購入した。一つきりでは却って気まずい。いずれもちまちま食べられるので、向こうが沢山食べきるまで間を持たすこともできる。

 熱々になった小箱をテーブルに置いて待っていると、はす向かいの席に柿本さんが腰掛けた。

 柿本さんは俺の小箱と自分の丼を見比べて、なにやら慌てだした。

「ほら、パイロットは沢山カロリーを消費するから。探索者は体が資本だ。別にボクの食い意地が張ってるとか、そういうんじゃないんだよ?」

 釈明めいたことを言う。

「自衛隊でもパイロットには加給食があると聞きますしね」

「だよね。むしろ沢山食べなきゃだよね。少年こそ、それだけで足りるのかい?」

「行動食をちょくちょくとってますので」

 逆にその分カロリー過多でダイエットに勤しむ自衛隊パイロットがいないわけではないとも聞くが、言わぬが花だろう。

 

 二人揃って「いただきます」をした。

 点線に沿って小箱を開ける。付属の爪楊枝でたこ焼きをひっくり返して青のりを散らし、フライドポテトにも塩をかける。柿本さんは一足先に、うどんのふわふわの天ぷらを箸で割り裂いていた。

 俺もたこ焼きを口に運ぶ。日頃ソイレントプレートばかり食べているせいか、ソースのジャンクな塩っ気は脳が痺れるようであった。

 ふとひらめいた。これは探索者としての己の調教、もといトレーニングに役立つかもしれない。ダンジョンへ行く=美味いものが食える、という条件付けだ。親父と行った道場の帰り道でフードコートに寄るのが楽しみだったように、普段はソイレントプレート(ヒトの餌)でダンジョンにいる間だけまともなものが食えるとすれば、ダンジョンへ行くのが楽しみになる。

 我ながら中々の思い付きだが、所詮は中卒の頭で考えたこと、やはり先駆者はいるだろう。話の種に、探索者学園卒業者であろう柿本さんに、学園でこのような条件付け教育はしていないのか聞いてみた。

「頭おかしい発想だね。学園がディストピア呼ばわりされてるのは知ってるけど、さすがにそこまではしてなかったよ」

 味覚が急に満たされたせいか、俺も平静ではなかったようだ。

 

 

 

30

 柿本さんが最後に残したトーストサンドの銀紙をぺりぺりめくっていたときに、現場確認が済んだのを係員が知らせに来た。

「少年が二層に来てしまったのはボクにも責任がある。ゲートまで送って行くよ。少年の実力なら必要ないとは思うがね、ルーキーはルーキーだ。先輩としての義理を果たさせてくれ」

 と、俺が一層へ戻るまでの道中、柿本さんに護衛してもらえることになった。二層の探索はできなくなったが、したければいつでも一人で来られるのだ。深層探索者の戦いぶりを見られるかもしれない、その機会のほうが貴重だろう。

「補給と修理は大丈夫かい?」

「テクニカなら問題ありません。HPは九割以上です」

 機体MPは結構減少しているが、二層のマナ濃度なら許容範囲だ。ベースキャンプの修理ロボの世話になるほどではない。何せ二層ではフル回復で10万円かかる。それなりの消耗でもなくては、ルーキーがおいそれと出せる金額ではない。

「そちらのヴェルサスは? ホバーもありますし、深層仕様は浅層だと息切れするという話ですが」

「一層では後ろから見てるだけだったからね、なんやかんやで温存できたさ。いざとなればアイテムボックスに予備機もある」

「軽探索機ですかね、移動用の」

 ルーキー時代に使用した機体を、脱出用にカスタムして予備機として持っておく。乗り換えをする三層以降の探索者はそうしていると聞いている。

「いんやゼフィロス」

「シラサギですか……」

 中探索機シラサギ・ゼフィロス、カスタム性に優れたロングセラー機種である。枯れた技術(白鷺重工基準)が用いられていて、最新モデルならそのスペックは半世代前のハイエンド機に匹敵し、シラサギ愛好者以外からはシラサギの良心と呼ばれてもいる。

「買ったばかりでノーマルだけどね。これから育てていくつもりだよ……シラサギはいいぞ、少年」

 シラサギおじさんの定型文であった。

 

 柿本さんのシラサギ布教に「なるほど」「すごいですね」「悪いのはシラサギじゃありません」と相槌を打ちながら駐機場へ向かって歩いていると、サイレンが鳴った。

『オーガ接近中! トレイン報告です! オーガです!』

 スピーカーから焦った声も聞こえてきた。

『近いです! 迎撃願います! オーガです!』

「オーガはたしか、三層のモンスターでしたか」

 異常行動であったりうっかりゲートを潜ったりと、他の層のモンスターが迷い込むのは実は珍しいことではない。大半がマナ枯渇で自滅してドロップ品だけ残すので、それを狙う探索者にとってはありがたいことである。

 だがしかし例外はやはりいる。受肉によるスキル取得や呼吸法の学習など、低濃度のマナに適応したモンスターである。その強さや性質はまちまちだ。階層相応に弱体化する個体もあれば、スタミナだけ落ちる個体もいる。元の層以上に強い個体や、逃げ回ったり闇討ちしたりする厄介な個体もいる。後者二つはその階層で活動する職業探索者にとっては脅威に他ならないので、協会が討伐依頼を出すこともある。

 しかし今回のこれは、それらの例外より更に珍しいケースといえた。ここは二層の前半、一層ゲートにほど近い場所である。()()()がうろついているのは大抵、三層ゲートのある後半だ。

「はぐれが二層を横断するなんてこと、あるんですね」

「オーガのマラソンランナーかな? でもそういう賞金首(ネームド)がいるとは聞いてない。もしかしたら三層で大規模な地形変動があったのかもしれないね」

「ダンジョンのバグというやつですか」

「だね。ランダムで短時間ゲートが出現するんだ。二層探索者に見つからないでいたよりもそっちの方が可能性ある」

「二層探索者といえば、これもトレイン行為にあたりますが、問題にはならないんでしょうか」

「ああそうか少年はルーキーだから知らないか。普通は駄目だがベースキャンプへの誘導はむしろ推奨されてるのさ。暗黙の了解だがね」

 協会と財団の関係は複雑である。協会側から説明がないのはトレイン行為自体が厳禁という以外に、それが理由でもあるかもしれない。

「なにせはぐれを確実に撃破できる戦力がベースキャンプには常にいる」

「ジロウチルドレン」

 まじめくさって呟くにはどうにも照れくさい単語だが、そのうち馴染むだろう。

「慌ただしくなってるがこのトレイン行為を責めてはいけないよ。むしろこの探索者は良い判断をした。事前警報があるということは、仲間を報告によこしたんだろう。前半でのはぐれ遭遇という滅多にない状況に、冷静な対処ができている」

「自分なら挑んでいたかもしれません」

 独りで行って独りで死んで、はぐれの存在を他の探索者に知らせることすらできないというのもあり得る。

「君はそれでいい。利他精神に引きずられて大成できない者は沢山いる」

 河合青年のことが思い出された。柿本さんが彼にしたお説教は、その場で言い負かすためばかりでなく、本当に後輩を案ずる気持ちがあったのかもわからない。

「ともあれ、ボクらがこうして悠長に喋っていられる今、切羽詰まった状況じゃないわけだ。高みの見物といこうじゃないか。放送は新人なのか慌てているがね」

 と言ったあたりで、整備用と思わしき格納庫を横切った。

「おい! ロクヨンさんのMSXはどこやった!」

「これです! 整備は終わってます! これ、アイテムボックスです!」

「こんのお馬鹿! 緊急出撃があるから収納すんなと言っただろうが!」

「でも整備待ちが、他の機体があったんですよ! どかすにも、勝手に乗って動かしたら駄目でしょう! 急ぎって言われたし!」

「そういうときは俺を呼べと言ったはずだ! 報・連・相! これだから学生バイトは畜生め。無駄に口答えばっか達者でよ、オラさっさとよこせ! この場で展開する」

「パワハラですよ!」

「俺たちの命がかかっているんだぞ!」

 何やらスタッフ同士で揉めている。俺と柿本さんは顔を見合わせた。

「このベースキャンプに今現在、三層以降の探索者は」

「一層ゲートはボクらが最後だ。帰還者にしろ中継点だから、とっくに去っているだろう」

「アイテムボックスの展開時間は」

「普及品なら334(さんさんよん)、五分以上かかるねえ」

 迎撃に間に合うかどうか、怪しいところである。

「だが問題ない。なぜならここにはボクがいる」

 そういえばそうだった。

 ふふふのふんと柿本さんが胸を張る。フリフリのゴスロリドレスがわずかに揺れた。

「ここいらで少年にも、ボクがただの残念美人お姉さんではないことを、見せつけてあげようじゃないか。さあ行くぞ少年、出撃だ!」

 と駆け出そうとしたところで、上空に気配を感じて振り返った。

「――おやおやすいません。どうやらトラブルのようですね」

 田中六十四郎氏であった。砲弾のように飛来して、格納庫前に着地したのである。

 

 

 

31

 学園生アルバイトと思わしき少女を叱っていた中年男性が、深々と繰り返し頭を下げる。腰を痛めそうな勢いであった。

「ひぃっ……申し訳ありませんロクヨンさん! 本当申し訳ない。こいつまだ学生なんです。責任者は自分です。ギルティするなら俺ひとりでお願いします。願います」

「ですよね、説明不足だったんだし」

「ばっ、お前も頭を下げろやオラァン!」

「それセクハ――へぶっ」

 少女の頭をがしとつかみ、土下座させるように地面に押し付ける。

「すいませんすいません! こいつアホなんですいません! 堪忍したってください」

 ロクヨンさんこと六十四郎氏は微笑んでいた。

「いやどうも何か勘違いしているようですがすいません。あなたは貴重な技術者でわが財団の人材なんです。軽々しくギルティ(処分)などするわけがないでしょう?」

「な、ならこいつは……」

「すいませんが深読みはいけませんね。学生は間違えるのが仕事ですよ。えーとその、そもそもです。間に合わせの機体とはいえ本来は己でやるべき整備を丸投げした、私自身が悪いんですがね、ほんとすいません」

 探索者の常識でいえばそうなる。中古機販売大手ビッグエンジンの不祥事があって以来、整備トラブルに関しては立ち合うなりして自衛するのが探索者の常識となった。探索機はモンスターと直接ぶつかり合うので自動車よりも頻繁な整備が要る。人間がミスをするのは変えられないし、魔が差すこともやはりある。母数が多ければ整備不良が頻出するのは当然のことであった。

「しかしまあ困りましたねすいません。MSXが間に合うかわからないとなると……」

「で、でしたら自分の機体を」

「いやいやすいません。たかがオーガにあなたの修理ロボを痛めるリスクは犯せません。ローンだってまだあるでしょう?」

 柿本さんがそわそわしながら六十四郎氏の背に近付いた。協力を申し出るつもりなのだろう。

「あのっ」

「我らが父はおっしゃいました。機体が無いならステゴロだと――このまま出ます」

 田中次郎言行録、第三巻の一節だった。

「すいませんが時間が無いので失礼します」

 垂直跳びで十メートルほど跳び上がったと思えば、空中を蹴って水平移動で、ベースキャンプの外へと向けて飛び去った。

「あの動き、空歩のスキルか」

「スルーされた……少年! ボクらも行って待機するぞ。大物ぶってやられるなんてざらにあるから、念のためさ!」

 声をかけそびれた気恥ずかしさもあるのか、駐機場へと走りながら柿本さんが俺を引き離していく。高レベルで力が強いおかげなのか、スカートなのに足が速い。俺は全力疾走したがたどり着く頃には何馬身差もつけられていた。いくら陸上部とやり合えようと、ステータス差には敵わなかった。

 

 ベースキャンプ防衛か、あるいはいざというとき脱出するためか、駐機場にあったほとんどの機体が慌ただしく出撃していく。

『テクニカ、いきまーす』

『テクニカ改、発進する』

『テクニカ改改、出る』

『ガンヘッドです、ノーマルです。先に出ます』

『ガンヘッドレッドショルダーだ! 道開けろ!』

『こんなとこでスラスター噴かすな馬鹿!』

『並べ並べ! 発進ごっこじゃねえんだぞ!』

 オープン回線が喧しい。

『はいはいはいはい! そこな軽探索機(ちび)ども! 分を弁えて退きたまえ!』

 柿本さんの声である。

『シラサギ・ヴェルサス? 金のかけ具合からして四層か』

『囮になって下さる深層探索者様だ、お前らそこをどいてやれ』

『シラサギか……』

『シラサギか……』

『シラサギか……』

『シラサギの何が悪い!』

『シラサギはなぁ?』

『ねぇ?』

『一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし』

『なんだとぉ! ……いいもん。なんせボクには理解者がいるからね』

 ヴェルサスの手が俺のテクニカの肩に置かれた。

『ひそひそ、なるほど』

『ひそひそ、たしかに』

『シラサギ臭いユニコーン頭』

 俺は無線のボリュームを下げた。

 

 雪国のスノーポールをそのまま流用したであろう、地面に立てられた紅白のポールを通り過ぎるとマナ濃度がぐっと上がった。ここまでが結界ということだろう。

 警備のテクニカの指差す場所に、他の機体が移動して行く。密集はせず、なるべく間を開けて待機している。

 俺もそちらへ行こうとしたが、ヴェルサスがちょいちょいと手招きした。後詰めの主力となる配置、特等席でお供させてくれるらしい。親指と小指を立てて耳に当てるポーズを取ったので、パーティ用無線機の電源を入れた。周波数は教えられたものに設定してある。

『物見遊山にしろ思ったよりも数が出てる。新卒がいないからかな、二層探索者の質もそれなりで、逃げ出すようなのはいなかったわけだ。ボクは必要なかったかもしれないね』

「オーガにスキルの引き撃ちがはまればですよ。機動性で翻弄されたら犠牲が出るかもしれません」

『それもそうか。オーガは三層では中の下とはいえ、軽探索機が殴り合うにはフルチューンが必要だったね』

「六十四郎氏はどうなんでしょう。レベル40台のステータスは軽探索機に匹敵するとは聞きますが、あくまでそれはノーマルな機体の数値で、スペックでは劣っていますよね」

『スキルと戦術、あとは小回りかな。レベルで得られるステータスというのは傾向の違いはあれど、基本的には平等だ。上位者は上位者となれるだけの技術がある。あえて極論するがね、少年。探索者というのは、スペックで上回る相手を倒せなければお話にはならないんだ。二層までならともかく、三層以降はね』

 三層探索者がプロと呼ばれ、二層探索者がアマチュアとされているのはそれが理由である。

『まあ探索機の基本性能も年々上がって行っている。現時点でも三層なら性能任せのプロもどきが増えているくらいさ。十年後には四層探索者だろうと今の万年二層みたいに扱われるかもね』

 返答に困る。その物寂しさに同意するには、俺はまだ幼すぎる。

 

 望遠鏡を構える。中探索機のコックピットにはオプションとしてロボットアニメの射撃用スコープみたいなアーム付きの望遠鏡があるが、俺のテクニカには付いていない。なので手持ちだ。

 黎明期には長距離視認用に潜水艦のものに似た本来の意味での潜望鏡(ペリスコープ)が搭載されたこともあったが、透過装甲キャノピーなのだからパイロットが直接望遠鏡を使えば良いという結論になったらしい。一方ロシアは鉛筆を使ったというジョークと似たような落ちである。

『来たね。接敵だ』

 スラスター跳躍を繰り返すテクニカの姿が見えた。発煙筒を手にした六十四郎氏の横を通り過ぎる。

『今の生身のロクヨンさん? えっいやマジ?』

『すいません』

『まいいや報告! このオーガ強いかもっす! 動画で見たのとなんか違う。なんか違うんす。見た目一緒で、俺戦ったことないけど。んじゃま下がります!』

『すいませんありがとうございます。これよりオーガの排除を開始します』

 オープン回線から聞こえるのはテクニカのパイロットと六十四郎氏の声だけであった。他のパイロットは邪魔にならぬようマイクを切っているのだろう。

 

 

 

32

 

 間もなく丘の向こうからオーガが表れた。モンスターにしては以外とシャープなランニングフォームだ。上半身が安定している。

 日本昔話の鬼というよりも、ゴブリンを思い切り逞しくして角を生やしたという、いわば和洋折衷な見た目である。ダンジョン創造者の配慮であろうかパンツはちゃんと履いている。ゴブリンのぼろきれよりも生地が良い。筋骨隆々なおかげで結構ぴっちりしているので、急所は狙いやすいかもしれない。性別は男性である。

 浅黒い体のあちこちに虫さされのような傷があった。ヒリューズの弾痕だ。日本の鬼ではないせいか、豆鉄砲は効いていない。しかし挑発にはなったようで、鋭い目はテクニカの尻をずっと追い続けている。発煙筒の煙も目に入らぬといわんばかりであった。

『異常行動だね。変態さんかな?』

 六十四郎氏がインバネスを翻した。その数瞬後、彼はオーガの斜め後方から、アキレス腱を切りつけるべくナイフを逆手に構えていた。逆手持ちは邪道だが、切り抜けを多用する機動剣術には使いやすい。

「速い」

『はっや』

 空歩による多段加速であろう。

 空歩は空中に足場を一瞬生み出すだけのスキルであり、探索機はスラスターで飛行できるため、人によっては死にスキルとされている。しかし一方で、高機動近接戦闘を得意とする探索者にとっては、必須スキルであるともいわれている。

 実際目にしてわかったが多段加速はその応用だ。地面で走るのと違い、重力落下を待つ必要なく、踏み込み方を工夫すれば瞬時に連続加速ができ、しかも方向転換も自在である。

 空歩のMP消費は2と、低レベルでも多用できるくらいには少ないが、六十四郎氏は一息で四五回連続して使っている。空気抵抗も考慮すれば、瞬間的な出力はともかく、ブースト系スキルに比べて効率は非常に悪いだろう。進んで曲がるだけでMPを20は使う。40レベルでのHPMPの合計値は多くて600くらいなので、うちMPが300あったとしても15回、あっというまに使い切ってしまう。

 オーガの足下を銀光をなびかせた黒い影が通り抜ける。オーガの身長は9m弱、六十四郎氏の五倍だが、アキレス腱は浅くて細いので、ナイフの刃渡りでも深めに切り込めば足りるだろう。

 オーガがぎゃっと声をあげて転倒した。サッカー選手のように足を抱えるが、ここには審判はいない。黒い影が絡み抜けるように追撃した。狙いはもう一方のアキレス腱である。襲撃者に気付いたオーガが虫を潰すように腕を振った。しかし反応が遅い。六十四郎氏はその時既に間合いを離れ、ボクサーのようにステップを刻んでいる。

『両足を潰した?』

「いえ、片方は浅い」

 位置が悪くて刃筋が()()た。今のこれは力より技術に頼る斬り方だ。薄皮をなぞったようになったろう。とはいえ片足が利かなくては走れないので、機動力自体は潰せている。

 六十四郎氏がホルスターから銃のようなものを抜いて首筋に当てた。ポーションハイジェッター、いわゆる鉄砲注射器である。アンプル開封から注入まで一動作でやってくれる優れもので、しかも効きが早い。一般には出回っていない財団専用装備であった。

 MPを100以上消費したはずなので上級あるいは高濃度のMPポーションを使用したのだろう。ガンマンのようにくるりと回してホルスターに収めると、再び彼は(くう)を駆けた。

 5、6、6、3、4、6、4、3、4、4、6、6、決め手となる一撃の放たれるまで、その数秒間に使用された空歩スキルの回数だ。視線誘導、牽制、痛みへの反応と、様々な要素を組み立てて弱点への道を割り開いた。人体の急所、すなわちパンツの中心部である。

 すさまじい絶叫が響き渡った。

『うひゃっ』

 柿本さんが半笑いじみた声をあげる。女性ならそうだろう。見物機に目をやれば、三分の二が内股になっている。女性パイロットが意外と多いのは、ここ数年、学園卒業生の奨ダン金の定員が男女半々に定められたためであろう。そのうち受付嬢ならぬ受付坊が生まれるかもしれない。

 オーガが脂汗を流して縮こまる。硬直している。絶好の隙である。えげつないが人型モンスターには有効な手だ。覚えておこう。

 ナイフが逆手から順手へと持ち替えられる。狙いは首筋だろう。逆さまに空中を走って直上へ至ると、その直下へと踏み込んで、空気の壁を突き破った。俺がゴブリンから覚えた逆さ斬りと同じ仕方である。彼の場合は空歩の多段加速も乗せている。武器のリーチが十分なら、首ごと断ち切ることもできたろう。

『やったか?』

「やってません」

 派手に血肉は抉れたが、頸動脈には至っていない。そうなることは逆さ斬りを放つ前にわかっていた。おそらく当人も博打のつもりだったろう。

『ふむん、やはり市販品は駄目ですか』

 ナイフが刃こぼれしていたために、引っかかりで刃を通しきれなかった。刃こぼれの原因は牽制に斬り付けた際、体に埋まったヒリューズの弾丸と接触したせいである。

 深層探索者に似つかわしくない市販品を用いているのは、二層探索者たちによからぬ考えを起こさせないためかもしれない。高級装備を見せびらかされれば、魔が差すこともなくはない。謝罪を多用する腰の低さを見るに、相当に気を遣っているのであろう。強者の気配も表面上は抑えられていた。

『ならば』

 と、ナイフをシースに収納して、拳法の構えをとる。しかしそれと同時に、オーガを中心に魔法陣が展開された。

『まずい。ファイアピラーだ。回復されるぞ』

 その名の通り炎の柱を生み出す空間指定系の火属性魔法である。ウォーターワームの間欠泉魔法と似ているが、こちらにはきちんと攻撃力が乗っていて、人間用のスキルでもある。

 オーガの用いるファイアピラーはたちが悪い。オーガは火属性魔法吸収というファンタジーな特性を備えているのである。それによりスキルに己を巻き込もうが自傷ダメージを受けないどころか、むしろ傷が回復する。火達磨になりながらの抱き付き攻撃はdieしゅきホールドなどと呼ばれ忌み嫌われている。

 ファイアピラーの効果範囲にいる六十四郎氏はその場を離脱、しなかった。

『ここで決めます』

 圧縮空気の音が連続で響く。禁断のポーションハイジェッター二度打ちである。一瞬で全快まで回復するが副作用があるといわれている。

 丸まったオーガの背へと、六十四郎氏は空歩を使わず踏み込んだ。

 無手である。構えたのは手刀であった。その刀身が光を帯びた一瞬後、

『フォトンセイバー』

 虚空から長大な光の剣が抜き放たれ、同時に発動した炎柱ごと、オーガの肉体を正中線沿いに両断した。

 

 戦闘は終わった。オーガは受肉モンスターだったようで、その死体の見聞が行なわれていて、オープン回線では見物人たちが戦闘の感想を言い合っている。

「空歩スキルって、あんなに重ねられるものなんですね」

『へぇ……何回使われたかわかるかい』

「暗算は苦手なので合計数はわかりません。一度の蹴り出しで三回から六回と、ばらつきがありましたから」

(こわ)ぁ……いや、田中六十四郎がね、通常オーガとの強さの違いなんて、わからないくらい一方的だったね』

「とどめはフォトンセイバーでしたが、たしかあれは」

『うん。ロマンスキルだね。見た目と最大威力にほぼ全振り。ライトなサーベルはめちゃんこカッコイイけれど、コスパが悪すぎて使い勝手はパイルバンカー並みだ』

 威力調整できるので、威力を減らせば消費も減るが、それなら普通に剣を使ったほうが良いということになる。

『ぶっぱはぶっぱでも近接ぶっぱはねえ。リスクが高すぎてほとんど特攻みたいなものさ』

 一撃必殺を狙うとなれば、パイロットのMPに伴い、機体MP(マナ)も恐ろしく消耗する。ダンジョンを長時間探索する探索者にとって継戦能力は重要である。強敵相手、それも一か八かの特攻以外には使い道がないとすれば、普段は死にスキルとなるだろう。それでいてちょくちょく使用してスキルレベルを維持しなければならない。スキルは使わないでいるとスキルレベルが下がり、スキルレベル0から更に下がると消失してしまうからである。

『けれど、なんやかんやで取得者はみんなスキルロストは避けてるらしいよ。素敵性能を重視する男の子ってやつだね。フォトンセイバー使いの集いなんてのもあるらしい。セイバー系魔法はフォトンセイバーしか存在しない光属性限定スキルだから、特別感もあるんだろう。正直ボクもちょっと欲しいし』

 人によっては取得スキルの属性が隔たることがあるらしい。俺が最初に覚えたスキルはフォトンバレット、光属性スキルである。

「まさかな」

 ちょっといやな予感がした。

 

 望遠鏡を向けると、ベースキャンプから来たスタッフたちが真っ二つに切り分けられたオーガの死体をつつきながら、六十四郎氏と何やら話し合っている。

「あの死体、なにか変じゃないですか? スキルで消滅したにしても、内蔵の質量が明らかに足りていない。腹の中が空洞みたいになっています」

『胃腸が人間ぶっ殺しゾーンとかじゃなくて、真面目な話かい?』

「何かが反応して爆散したならもっと汚くなってます。太刀筋は綺麗でしたし、戦闘中の重心に違和感はありませんでした。中身は詰まっていたはずなんです」

『だったら消失したのかな、それこそ、普通のモンスターみたいに?』

「共生と寄生とか、そういうモンスターは三層に?」

『四層ならいるね。三層はどうだろう? けれどモンスターの変化や進化はしょっちゅうだ。ありえない話じゃないね。まあやることは変わらない。そこらへんの探求は学者先生方におまかせして、ボクら探索者はモンスターをひたすら倒して行くだけさ』

 モンスターのお腹に別なモンスターが巣くっているというのは、三層以降のモンスターの多彩さからして十分ありえることであり、専門家でもなければ取り立てて気にする必要はないらしい。それはわかっている。しかしどうにも気になってしまった。先ほどフォトンセイバーへ感じたのに似た、第六感の疼きである。

 

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