トンカッチたちが必死にオリジナルハイヴで戦っている間に、ジェームズたち居残り組がトンカッチたちが帰る場所を守るための戦いをします。
2001年編の簡易登場人物説明(2001年時点)
ジェームズ・スミス:少佐。今回のメインキャラ。
零:大尉。帝国軍第21戦術機甲部隊所属。
その他ヴァルキリーズ:速瀬、宗像、涼宮遙。
沙霧尚哉:大尉。帝都第1守備連隊第1大隊
アルフレッド・ウォーケン:少佐。米国陸軍第66戦術機甲大隊所属。
トンカッチ:中佐。桜花作戦実行部隊指揮官。
2001/12/31 18:00 国連軍横浜基地
この瞬間、人類の運命を変えるべく勇者たちが空へと旅立った。そして、その他大勢の地上に横浜に残された兵はその姿を見送った。ジェームズもその一人だった。
「トンカッチの野郎、美味しいところばっか持っていきやがって…」
トンカッチはこの作戦の隊長になっている男だ。そして、ジェームズたちの所属しているA-01部隊の臨時隊長でもある。A-01で横浜に残ったのは、ジェームズと速瀬、宗像と遙の4名だった。彼らはトンカッチたちの帰る場所を守るために残ったのだ。現状、BETAの大規模反攻作戦により幾重にも張られた防衛網は突破されつつあった。防衛戦闘には在日米軍も参加しているが、それでも苦戦しているらしい。ジェームズたちは見送りを済ませたのち、すぐに仮設格納庫に向かった。
元々この横浜基地は極東の国連軍施設としてはかなり大規模なものだった。だが、先日のレーザー照射により、基地の地上部分は更地も同然の状況だった。基地要員や、地上に待機していた大勢の部隊もその光によって焼き尽くされた。つまり、基地機能と保有戦力は著しく低下しているのだ。それを補うために、仮設施設が急ピッチで建てられ、手の空いている地方からの部隊が次々と参戦している。
仮設格納庫につくと、慌ただしく人々が行き交っていた。普段の機体整備に要する人員より明らかに多いのは目に見えて分かる。実は仮設格納庫は本来の正式な設備など無く、何とか工面できた設備だけで構成されている。そのため、足りない部分をマンパワーでゴリ押ししているのだ。一応補給と応急処置はできるが、本格整備はできない。仮に主碗が壊れれば、付け直すのは難しいのだ。
そんな格納庫には、ジェームズたちにとっては懐かしい機体が何機か置いてあった。それが94式戦術歩行戦闘機『不知火』だった。本来は日本人にしか渡されない機体だったが、この情勢だ。そう言ったことは言っていられないのだ。だが、一つ問題があった。それは、まともに戦える衛士がほぼ残っていないということだ。
実は戦術機はそれなりに用意できていたが、乗り手たる衛士が不足していたのだ。ジェームズたち居残り組も衛士だが、彼らはレーザー照射攻撃の際に体にダメージを負っている。まともな戦闘はあまり期待できない。
「速瀬、宗像。お前らってどっか怪我してたっけ?」
「私と宗像は全身に軽い打撲です。ワ・タ・シは問題ないですけどね!」
速瀬はそう言って強がって痛みを隠していたが、明らかに動きが変だった。宗像はそれを隠すことなく見せびらかしている。ジェームズも同じように怪我をしていた。こんな怪我人だらけだった。しかし、この程度の怪我で戦線を離脱できるほど状況は甘くはない。
「少佐、ジェームズ少佐はどこにいますか!」
遙がジェームズを必死に探していた。右手にはメモ用紙と思われる紙切れを持っていた。
「涼宮か?こっちこ~い!」
ジェームズは遙を呼び止めた。どうやら現状の報告を伝えるために、地下司令部から地上まで上がってきたそうだ。というのも、基地全域で通信機が壊れてしまっているため、地上と地下の連絡は伝達要員が必要になっているのだ。そんな伝言内容は、悲痛なものだった。
米軍主導の第4防衛線が突破寸前というものだった。そして、横浜基地の絶対防衛というアバウトな命令も書いてあった。ジェームズは命令を受領したことを伝えるように遙に言った。そして、再び3人だけになった。3人は小声で会議を始めた。
「少佐、この場合って私たちは動いちゃダメですよね?」
「まあ、そうなるわな…」
しかし、ジェームズは決断した。現状突破されてしまえば帝国が終わる第4防衛線、絶対死守の横浜基地、圧倒的に不足している戦力。ここから導き出された答えはたった一つだった。
「…俺たち居残り組は、第4防衛線に合流する!」
2002/1/1 0:30
日付の変わったこの時間、基地の格納庫の光が落ちた。一旦業務終了ということだ。だが、この時間でも遠くから銃声がしていた。この音が大きくなればなるほど、死が近づいている証だ。そんなことを誰もが考えながら、ほとんどの者が仮眠をとっていた。起きているのはせいぜい夜間警備の兵くらいだった。もちろん、彼ら警備員も疲れていた。酷いものは今日で3徹に突入しているそうだ。だから、こっそりと動いていたジェームズたちに一切気づいていなかった。
「よし、全員搭乗したか?」
「こちら速瀬、燃料弾薬ともに満載です!」
「こちら宗像、みんなぐっすりおねんねの時間のようです。いつでも発進できますよ」
準備の完了を確認したのち、すぐに不知火を起動した。まだ国連軍の塗装にされておらず、帝国軍の灰色塗装のままだった。だが、OSは最新鋭のXM3に変わっていた。ジェームズにとっては不知火は馴染みのない機体だった。そもそも、帝国製の戦術機は使ったことは皆無と言っても差し支えない。一応トンカッチの乗機である村雨に試乗したことはある。その感覚で大丈夫だと直感した。そして乗りなれている速瀬たちに操縦のコツを軽く聞いておく。最低限は戦えるはずだ。
「よし、ヴァルキリーズ出撃!」
『了解!』
不知火の跳躍ユニットが唸り上げ始める。その音に警備兵だけでなく、寝ていた兵士たちも気づき始めた。
「おいそこの不知火!誰が乗っている!この時間の出撃命令は出ていないはずだぞ!?」
「誰か、誰か基地司令を叩き起こせ!何者かが不知火を強奪しようとしている!」
「バズーカだ!バズーカ砲を持ってこい!ジャベリンでもグスタフでもRPGでも何でもいいからさっさと持ってこい!」
すぐにサーチライトが光り始める。すぐに光の矛先は不知火に向けられる。歩兵は必死に止めようと、意味のない小銃を構える始末だった。
「少佐、少し派手にやり過ぎましたかね?」
「こうでもしなければ、コイツらずっと寝てただろ。いい目覚まし代わりだと思ってくれ!」
そう言い放ち、ジェームズたちは横浜から飛び去った。飛び立ってすぐに横浜HQから通信が入る。
「こちら横浜HQ、速やかに基地に戻れ。今すぐに戻れば罪には問わない。速やかに帰還せよ!」
「命令違反は俺たちの❘中佐殿《トンカッチ》の直伝でね、ちょっとその指示には従えないかな!」
そして、ジェームズは無線を切った。そして周波数を第4防衛線司令部に合わせる。若干無線も繋がりにくくなっていた。重金属はまだ使用していないらしいが、無線の混線が原因だろう。防衛線に到達するまで全く通信ができなかった。
25分後 第4防衛線第13区画 川越市
ようやく第4防衛線まで合流することに成功した。第4防衛線は様々な区画で分けられていたが、この第13区画が最も被害甚大かつ重要な区画だった。匍匐飛行による行軍のため、少し時間こそかかったが戦線はまだ崩壊していないことは分かった。すぐに司令部との通信を試みる。
「こちら国連軍横浜基地所属A-01部隊所属のジェームズ少佐だ!救援に来たが、どこに向かえばいい!?」
「あぁん!?そんなこと知るか!テメエの判断で何とかしろ!」
素っ気なくあしらわれた。それほどの戦況はひっ迫しているということだ。匍匐飛行でずっと飛んでいたが、光線級の存在が分からなかった。こうなると戦術も組みようがない。すぐに、目の前にいた補給中のF-15Eに対して通信回線を開く。
「俺は国連軍から援軍で来たんだが、状況は?」
「国連軍ってなると、アンタたち横浜から来たのか!?ちょうど良かった、コイツの使い方を教えてくれ!」
そう米軍衛士は言った。そこにあったのは、突撃砲にしてはロングバレルのものだった。すぐに武装の照合するが、一件も該当しなかった。秘密兵器と言っても差し支えないものだ。使用方法など知るわけがない。だが、米軍衛士曰く『横浜製』だということだ。機体に入っているデータリストをくまなく調べる。すると、一つだけロックのかかったファイルが見つかった。国連軍の少佐以上の階級があれば閲覧できるようになっていた。
「たぶんこのデータファイルにあるんだろうさ……試製99型電磁投射砲?まさか、レールガンってやつか!?」
試製99型電磁投射砲、平たく言えばレールガンだ。120㎜砲弾を毎分800発の発射間隔で撃つバケモノじみた武器だ。弾丸自体の飛翔速度も速く、通常の120㎜とは比較にならないほどの火力だ。使用履歴もあり、その時にはBETA撃破数世界最大をマークしている。だが、この兵装がなぜかこの前線に一丁だけ配備されていた。いろいろ思うところがあったが、それを米軍衛士が遮る。
「とにかくアンタたちも俺たち米軍と一緒に防衛戦闘に加わってもらいたい!頼めるか?」
答えはYESしかない。すぐに電磁投射砲のデータシミュレーションを開始する。カタログスペックではかなりの射撃反動と、準備する時間が必要だそうだ。この不知火に機体固定装置など無い。だが、跳躍ユニットを使った反動制御が可能になっている。それを活用すれば一気にBETAを殲滅することも夢じゃない。
それをするためには、米軍の協力が不可欠だった。最低電力でもかなりの待機時間を要する。それまでの時間稼ぎを米軍にはして欲しかったのだ。最前線指揮官をすぐに探し出す。その指揮官はYF-22Xに乗っていた。
「アンタが最前線指揮官だな?」
「ん?ああ、そうなるな。私は米国陸軍第66戦術機甲大隊のアルフレッド・ウォーケン少佐だ。現在の実質的な最前線指揮官になっている」
アルフレッド・ウォーケン、この名前を少し前にも聞いたことがある。直近だと12・5事件の際で、なんだかんだ同じ戦場にいることがあった。
「俺は国連軍のA-01部隊所属、ジェームズ少佐だ!部隊単位では前にお世話になったことがあるはずだ!」
「A-01……あの伊隅中佐の部隊か!?」
「そうそう!ま、中佐はもういねえけどな!」
そう言いながら電力をチャージし始める。最低出力まではかなりの時間を要する。カタログスペックの約1.2倍の遅さだ。ジェームズはすぐにウォーケンに援護要請をする。彼は快諾してくれた。すぐにジェームズの直掩部隊を編成し、周りにはF-15Eが4機もついていた。
速瀬と宗像は直掩ではなく、ウォーケンと共に前線防衛戦闘を開始することになった。最大で1月2日までは耐えなければならない。少なくとも、このペースだと横浜に到達してしまうだろう。だが、それは電磁投射砲がない場合だ。これさえあれば、多少の時間稼ぎは絶対にできる。バッテリーへの電力は十分に溜まっていた。次は出力に変換する。それと同時に、背中に背負った弾倉から砲弾が給弾され始める。交戦距離は近すぎず遠すぎずの最適な距離間隔だった。そして、全ての準備が完了する。
「ウォーケン少佐、こっちの準備は完了した!いつでも撃てるぞ!」
「了解した!戦闘中の全機に通達、先ほど指定した範囲内にいる部隊は10秒以内に退避せよ!」
すると、戦術マップに扇形の赤色エリアが出た。これからジェームズが撃つ範囲内だった。退避が完了するまでの間、もう一度電磁投射砲の状況を確認する。一通りチェックを終えて、最終セーフティーを解除する。その時、ジェームズはエラーが2つ小さく書かれていたことを見逃していた。発射の前後にセーフティーがかかるようなエラーではなかったからだ。
「よし、これで一気に殲滅してやるぜ!」
「退避完了!少佐、やってくれ!」
「………電磁投射砲、発射ぁ!」
ジェームズはトリガーを引いた。反動制御プログラムが作動し、跳躍ユニットが噴射を開始する。そして、小刻みに砲が震えたのち、一条の光のように砲弾が発射された。ほぼ地平線に向けて撃っているようなものだった。だが、命中とほぼ同時にBETAは跡形もなく消えていく。あの頑丈な突撃級でさえ紙のように溶けていく。一点集中照射しても意味がない。ゆっくりと不知火の向きを変えて、射線を変えていく。徐々に機体関節部の負荷があがっていく。だが、気にすることは無い。この程度ならすぐに直せるレベルだ。そして、射撃範囲内全てのBETAが溶けた。血の雨も降る。辺り一帯は赤く血で染まった。
「……ふぅ、これで正面のBETAは全滅したな!?」
「あ、ああ。BETAがいない今のうちに各部隊は補給を開始しろ!奴らはまだ来るはずだからな!」
ジェームズも一息つこうとした。だが、ブザーが鳴り響く。
「CPより各隊に通達、BETAの増援を確認した。会敵予想時刻は現時刻より10分後!」
あれほどのBETAを撃破したというのに、もうすぐそばまで来ているのだ。とりあえず、残りの砲弾を確認する。先ほどの射撃で弾倉内の90%を使用していた。連続射撃が売りの武器で、残弾が少ないのでは意味がない。弾倉を投棄し、予備弾倉を探す。電磁投射砲の入っていたコンテナに予備弾倉が3つもあった。補助バッテリーもあった。そのため、ジェームズはコンテナごと射撃地点に持っていくことにした。
「なるほど、この弾倉はさっきのと違うのか……ならこれを繋げれば、よし、連続弾倉が完成したぜ!」
ジェームズは仕様書に書いていたやり方で即席の大型マガジンを構成した。しかし、これだけの弾丸を連続斉射するには冷却材が心もとない。そのため、戦術機の各所に使われている冷却材を転用することにした。あくまでも足りなくなった時の保険だった。また、砲身が耐久限界を迎えないように気を付けていた。仮に限界を超えようものなら、砲身爆発によりどうなるか分かったものではない。
「さて、このまま俺が撃ち続けてもいいが……宗像!お前代わりに撃ってくれ!」
ジェームズは宗像に射手を変わってもらうことにした。射手などロックオンしてトリガーを引くだけだ。そこに細かな機体制御が必要になるが、それくらいなら彼女はやってのけるはずだと信じていた。宗像はそれを了承し、装備をジェームズに渡したのちに電磁投射砲の射撃準備をした。ジェームズは宗像にデータを渡しておいた。機密保持の観点から、データは1時間後には消去されるようにセットしておいた。
「さて、ウォーケン少佐。今度は俺も前線担当になったから、よろしく頼むぜ!」
「了解だ、ジェームズ少佐。少なくとも宗像中尉よりは活躍してくれることを期待していいんだな?」
「もちろんさ、アイツらよりはキルマークを付けれるVIPだぜ?少佐こそ急に不調を訴えて撤退とかしないでくれよ?」
「無論だ、私は合衆国軍人として恥の無い戦いをするだけだ!」
そして、ついに機体のレーダーにBETA群を捉える。今回は既に電磁投射砲の準備ができていた。引き付けるだけ引き付けたら、宗像がぶっ放してくれるのを待つだけだった。先ほどより簡単な作業だ。
「目標との距離、2000まで接近!」
「いいか宗像。目の前の入間川があるだろ?あそこに差し掛かる前に斉射を開始するんだ。川底には大量の地雷が仕掛けてあるからな、取り逃がしたBETAはそれで綺麗サッパリって寸法さ!」
「了解ですジェームズ少佐!」
そして、BETAの先頭集団が入間川に差し掛かった。
「宗像、今だ撃て!」
宗像はロックオンをし、即座にトリガーを引く。だが、電磁投射砲は動かなかった。
「……?どうした宗像、早く撃て!もう川に奴ら入り始めたぞ!」
「今やってます!……くそっ、こんな時に故障か!?」
すぐにシステムチェックを開始する。急場で作った弾倉の影響を真っ先に確認したが、異常はなかった。砲身もまだ使える。冷却材も異常はない。様々な方法を試しても、装弾と同時冷却の準備は可能だったが発射だけができていなかった。
「ダメです少佐!撃てません!」
「ええい、俺と交代しろ!お前はもう一回前線で戦闘だ!」
ジェームズは再び確認する。今はエラーメッセージが出ていない。トリガーを引くと、『不明なエラーが発生しました』としか言われない。急いで砲身を取り換える。だが、それでも発砲できない。必ず問題点がどこかにあるはずだと思い、最初から立ち上げ始める。
「少佐、早く直してくれ!この数は、我々戦術機だけでは持たないぞ!」
再起動をして、再び射撃準備を開始するとエラーが2つ出ていた。
『この兵装は本機:94式戦術歩行戦闘機『不知火』に対応していません。OSを書き換えるか、兵装の使用を中止してください』
『未確認の兵装を使用することにより、機体に対し深刻なエラーが発生する可能性があります。速やかに使用を中止してください』
「……すまん、ウォーケン少佐。電磁投射砲は…もう使えない!」
既にBETAは川を渡り始めて、防衛線に近づきつつあった。支援突撃砲を装備した機体が狙撃を開始し、後方にいる砲撃部隊も砲撃を開始し始めた。だが、電磁投射砲頼みの戦線はすぐに瓦解の様相を見せ始めた。
起死回生となるはずの一撃は、窮地を呼び込む悪魔になり替わっていた。