呪術じゃねぇって!念能力だろ!   作:nyasu

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ゾーンかもしれない

一見手数が減ったように見えるが、手段が減るという不利な状況はクロへのバフとなる。

具体的には筋力や俊敏性、防御力の向上だ。

校庭の騒ぎを聞きつけ、学長やパンダ、窓の人達が集まってくるが良いところなので邪魔しないでほしい。

 

「おぉ、やってるねぇ」

「楽しそうにしないで下さい。虫酸が走る」

「キレてて草、後でスーツ買ったげるからさ」

 

遅れてなんかやってきた五条が煽ったせいで、一瞬七海の呪力が揺れる。

ブチギレたんだろな、可哀想に。

 

「お互い近接格闘型、先に術式の開示と行きましょう。私の術式は十劃呪法、対象を十分割し、7対3の内分した地点に弱点を生み出します。君に分かりやすく言うなら、クリティカルが出る場所を生み出す術式です。これは無生物にも適用されます」

「俺の術式は知ってるな?知ってる相手には意味がないから術式開示は不利だ、致命的だぜ」

 

結局のところ、普段のように巨大化したクロの中から攻撃する。

これは術式の都合上、的がデカくなって不利。

ならば逆にもっと的を小さくしないといけない。

 

「ちっちぇなぁ……」

「誰だ!」

 

そこには逆光に照らされる全裸の男がいた。

 

「結局、人は争いが好きなんだな」

「お前は……ハオ!」

「クロとの合体は理解してるか?」

「勿論だ、だから今こうして」

「なぜ形に拘るんだ?だって元は影も形もないだろ。いや、影に形はないとでも言おうか」

 

た、確かに元々影から生まれているんだ。

だったら別に巨大な状態にしないと合体できない訳じゃない。

何なら、俺の身体と合体したっていい。

 

「なら……答えは1つだろ」

「あぁ、分かったぜ!」

 

この間、0.01秒。

気付けばハオの姿はなく、眼の前には警戒する七海がいた。

 

「ッ!?何かする前に倒します!」

「行くぞ、憑依合体!」

 

クロが溶け、まるでマントのように俺の身体の周りを流動する。

そこに七海の鉈がぶつかる、少し攻撃するには遅かったな。

術式の開示は術式効果の底上げをするがタネが割れているから効果を発動出来なくなる。

常に対象が不定形なら、どこが7対3か分かっても当てれないよな。

 

「式神を纏ったのか!拡張術式!」

「ステゴロだ!」

 

俺の身体の周りには、黒い鎧のようになったクロがいた。

まるで聖闘士星矢だぜ、負ける気がしない。

 

「聖闘士星矢か!しかも暗黒聖衣!」

「知ってるのか、五条!」

「聖闘士の力を私利私欲に使ったり、掟を守れなかったその存在はアテナからも見放され、他の聖闘士たちからも忌み嫌われている」

「待て、そもそも聖闘士ってなんだ!」

 

ええい、外野がうるさい!

しかもそんな序盤じゃなくてハーデス編の方にしてくれ!

 

「そういえば聞いてなかったな。ナナミン、好きな漫画は?」

「孤独のグルメですが」

「食べ物が好きなのか……」

 

意外である。

好きな漫画には個人の好み、価値観、思想が反映される。

食にこだわりがあるとは、食事に幸せを感じるタイプなのかもしれない。

 

「まぁいいでしょう。姿形は関係ありませんから」

 

片手に鉈、片手に拳の戦闘スタイルで七海が構える。

そこに向かって、鈎爪の付いた拳を握って地面を蹴り抜いた。

俺とクロの脚力が合わさっているのだろう、その加速は俺の想像以上に早い。

 

「オラァ!」

「体幹がズレてますね、感覚の慣れがない」

 

俺の繰り出した拳を下から鉈が払う。

しまった!?

 

「だから隙が大きい」

「ぐっ!」

 

一瞬だ。

身体の前面が激痛に襲われる。

何発殴られたか分からない、だが何発も一瞬で入れられたのは確かだ。

俺の身体は地面を転がるようにして、殴り捨てられる。

 

「新しい力で逆境を跳ね除ける。素晴らしい、ですが現実はクソです。そんな手に入れたばかりの力で覆る地力ではない」

「クソ……まだだ!」

 

鉈が振るわれ、地面が津波のように襲い来る。

俺の身体よりも大きい土砂のようなそれが身体を飲み込む。

 

「そして」

「ウラァ!」

 

影の世界を経由して、七海の影から飛び出し背後から蹴りを仕掛ける。

 

「積み重ねた経験は、予測の精度を上げます」

 

が、それは容易く避けられ俺の身体は蹴りの大勢のまま無防備にも前に出る。

空中で蹴りの体勢、真横には半歩下がって拳を引いてる七海。

 

「沈め」

「グハッ!?」

 

拳が、振り下ろされる。

慣性に従って進んでいた俺の身体、その胴体に拳が叩き込まれ、地面に叩き落される。

クソ、ダメだ。何もかもお見通しだ。

 

「だけど、掴んだぜ」

「ッ!?」

 

七海の腕にしがみつき、鵺が持っていたであろう帯電の能力を発動する。

呪力が電気になって、俺達を包む。

だが、七海は拳を振り上げ、俺を殴る。

コイツ、効いてない?

 

「がッ!?」

「ぬぅ……」

 

意識が飛びかけ、帯電が解けてしまう。

掴んでいた七海の腕を離して、転がるように距離を取った。

 

「ハァハァ……なんで……」

「限界が来ても……動かないといけない時がある……それが、大人というものです」

「つまり、痩せ我慢かよ」

 

七海も俺も肩で息をしていた。

帯電は呪力の特性を変えている。

つまり、俺の念を変化させてるみたいなもんだ。

キルアだって充電するって制約で可能にしてたが、何もしなければ実現は難しい物なのだ。

つまり、めっちゃ使い続ける事が出来ない。

何なら式神の維持とかでガンガン俺の念が使われてる実感もある。

 

「それ、維持するのも一苦労では?」

「明日の朝までやれるぜ」

「嘘が下手ですね、呪力が揺らいでますよ」

「マジで!?」

「嘘ですけど」

 

騙された!

なんて卑劣な、畜生ハメられた!

まぁいい、短期決戦で殴れば終わりだ。

 

「うぉぉぉ!」

「悪いですが、時間を稼がせてもらいます。ハァ……」

「逃げるな!卑怯者!」

「大人なんてそんなものです」

 

俺が迫れば、七海は逃げた。

逃げて、止まって、地面を分割して、それを飛ばしてくる。

こっちが避け、また迫れば逃げ始める。

イタチごっこ。

 

基本的に攻撃時しか呪力を消費しない七海、使いすぎとパワードスーツみたいになってるクロの維持に通常時よりも少し消費量が増えてる俺、何か感覚的な物だが抜けてる気がする。

自分の呪力量を意識する、限界を知るなんてのは五条が言ってたが、実際に経験するとヤバさが分かる。

これ、尽きたら疲れて倒れる気がする。

それくらい死力を、あるいは気力を振り絞ってんだろ。

 

「休んでる暇はありませんよ」

「ッ!オラオラオラ!」

 

飛んでくるブロックとなった地面、殴れば崩れて土砂になる。

そのため軽くじゃなく、とんでもない勢いで殴らないと返せない。

強制的に拳に念を込めさせられる。

温存のために殴るタイミングは直前にしないといけない。

流と堅を使わされてる。

 

「ハァハァ……」

「貴方の敗因は呪力の無駄が多いということです。縛りによって呪力を増やしても無限にある訳ではありません」

 

七海がなんか言ってるが、どうやったら逆転できる。

考えろ、答えはジャンプにある。

迫る地面、ブロック状の土の塊、時間が足りない。

 

「だったら作ればいいだろう!」

「その技は呪力の消費が激しいと――」

 

七海の声が遠退く、迫る土塊がゆっくりになる。

俺の息は遅く、身体は重く、周りから音が聞こえなくなる。

迫ってくる土塊に接触する瞬間、打撃に呪力を乗せる。

いつか言っていたな、打撃と同時に呪力を使うってな。

どこか冷静な自分が、黒子のバスケのゾーンって奴だと言っている。

 

目の前が真っ暗になる。

正確には真っ黒な火花が散ってる。

呪力が黒い炎だとしたら、それが束ねられて激しく拡散してるような物だ。

駆け巡る快感。

今までの疲労が吹っ飛ぶような、寝起きのダルさがシャワーを浴びたあとのスッキリさのような。

頭の中はサウナで整うようにグワングワンと良くないものが何か出てる気がする。

そして、分かる。

如何に今まで雑に使っていたのかが、コップに水を入れるのに蛇口を全開にしてたり、水を飲むのに顔をビチャビチャにするような物だと、感覚的に理解できる。

 

「フハハ、勝った!」

「いえ、負けです」

「あれ……」

 

あれ、なんで地面が、あっ……呪力切れてる。

 

「一気に呪力を使うからです」

「ちょ、待って!今、クロもいないか、らぁ!?」

 

痛ったぁぁぁ!

余りの痛みに暫く悶絶した。

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