「やぁ、恵」
足を思い切り地面に振り下ろす、影に沈んだそれが逆さまになって五条の足元から出るが、寸での所で止まっていた。
チッ、コイツ直感的に足を離したか。
「すごいな、出口の設定を変えれるようになったのか。今のは危なかったね」
「よく言うぜ、防いでおきながらさ」
「いや、シンプルに解釈だけで無下限を突破したのは誇っていいよ」
仕組みは単純だ。
五条の無下限は無限を設定する。
距離を無限にしているから届きませんが原理だ。
だから、距離を無視する攻撃に弱いと考えた。
そして、影と肉体は繋がっていると解釈して、ゼロ距離からの攻撃を試みたのだが、結果は少しでも距離が生まれたら防がれるというものだった。
術式を中和しないとするなら、何か異次元空間に落とすとか封印とかそういう方法しかないか。
「まぁ、除外するか効果を無効化するとか対象を取らないとか発想が遊戯王だよね」
ケラケラ笑う五条の顔に土壇場で領域展延出来ないかと思ったが、出来ないので普通に防がれた。
殴る直前に明らかに遅くなってピタッて止まるのムカつく。
「緑の赤ちゃんがよぉ……」
「えっと、あぁ!あれは小さくなってるからでしょ、僕のは距離だから違うよ」
「えっ、急に殴って……怖っ」
誰だ、貴様見ているな!と指差せば、五条の後ろにビクッとする学生がいた。
あぁ、たまにあるスカウトだな。
珍しいな、今年は豊作じゃないか。
「お前、好きな漫画は?」
「えっ、あんまり漫画とか、その、分かんないかな」
「つまんねぇ男、死ねよ」
「初対面に暴言酷過ぎない!?」
漫画読まねぇとか何のために生きてんだよ、アニメもラノベも触れてこなかったとか?ぺっ、エロ本読んだことありませんとかいうようなもんだぞ、男子高校生が!生きる目的ないなんて……あぁ、そういうことか。
「お前、生きてるんじゃなくて。ただ死んでないだけかよ」
「ッ…………」
「彼は乙骨、転校生。こっちは恵、ただのオタクだから話半分でいいよ。面倒だから」
「こんな時期に転校生とか超能力者かよ!」
「見ての通り現実とサブカルの境目がおかしいんだ。自分のこと漫画の世界の住民だとか思ってたし」
その説明は狂人扱いされるでしょうが!
ほら、乙骨とやらも引いてるやないの。
こちとら不思議パワー授かって前世の知識使って未来が分かって転生経験者ですことよ!俺、主人公かもしれないって言うことあるかもじゃん、中2の頃のこと引き出すなや!
「ちなみに恵は2級、乙骨は特級だから、自信持っていいよ」
「はぁ?お前が主人公だったのか……」
「あはは、特級ってなんだろ」
多分、何も知らされてないんだろうけど教室の方に行くようだからいつものことだし放っておこう。
それにしても、すげぇ呪霊の匂いを漂わせてるし、もしかしたら二重人格とかの戦闘狂なのかもしれない。
いつもの教室を開けると、ドアを挟んで中は真っ暗だった。
真っ暗というか、黒い壁があった。
結界だ、教室の形に整えられた領域。
通常、自身を中心に安定した形となろうと球体に形成されやすい領域、その結界の形を自由自在に出来るのは、なんだかんだ馬鹿だけど秤パイセンの力量のすごさを出している。
まぁ、普通に中に入れるけど。
別に入れないような設定じゃないしな。
「うぉ、今日はエヴァか」
眼の前で巨大ロボットが謎の異星人と戦っている。
騒音と同時に半透明の絵柄が上から下へと流れていく。
その教室の間では綺羅羅パイセンと秤パイセンが戦っていた。
まぁ、お互い軽くなので模擬戦だろう。
「来たか、恵!」
「聞いてよ!転校生に興味津々なの!あり得なくない?」
「んだよ、ダブって同級生シメてる野郎だぜ。札付きの悪だ、興味あるだろ!」
「別っにー!ワルとか興味なーい」
嘘つけ、秤パイセンなんか悪い男の典型例だろ。
リボ払いさせて貢がせてるって窓から聞いたぞ。
ただ、言ったら痴話喧嘩に巻き込まれるから黙ってることにした。
「でっかいおっぱいだ!セカンドインパクトだ!タイトルロゴがドーン!」
「当たり演出だ!」
「あっ、ずるい!」
秤パイセンの後ろで映像がずっと流れて爆音で私に帰れと聞こえてくる。
後ろからエヴァが出てきて殴ろうとして、綺羅羅パイセンがマーキングしたことで直前で近づけなくなっていた。
まるでATフィールドで攻撃を防いだカヲルくんみたいだ、すごい。
「台への理解が必須だが遊んでりゃ覚えるから楽勝だ」
「巨大ロボとか怪異とかこっちは困るんですけど!」
「うるせぇ、ユニコーンは男のロマンなんだよ!」
俺が知らないところでユニコーンガンダム見れたのかよ!
秤パイセンの術式最高だな!
「ふぅ、終わりにしてシャワーにすっぞ!」
「もー、金ちゃんいつも自分勝手!」
「いいだろ、当たり見れたんだから。それでどんな奴だった?」
あぁ、乙骨のことか。
なんだろなぁ。
「すげぇ臭かった。呪われてるってくらい呪霊の匂いがした」
「あぁ、呪力を匂いで捉えられるようになったんだっけな」
「質も濃度もヤバい。でもイジメられてそう、あっ、シンジくんみたいな」
「なるほどな……おい、主人公なんじゃないか?」
やはり、秤パイセンは天才か。
恐らく術式は巨大ロボ、それが乙骨パイセンの術式。
わくわくアーゼウスみたいな感じで呪霊薙ぎ払ってる、とかかな?
「あと、特級だって」
「何ぃ!やっぱり主人公じゃねぇか?」
今度あったら術式について聞いてみよう。
そんなことより、俺もエヴァと戦いたい。
「えいっ」
「あっ、汚ねぇ!近付けねぇ!」
「教室内から出たければ山羊座を攻略するといいよ」
「山羊座ってどのルートだよ!分かんねぇって!」
あの野郎、一緒にシャワー行くの邪魔されたくないからって、おのれぇぇぇ!
トイレに行きたくなる前にゴリ押しで解決した。
綺羅羅の術式を攻略して、結局やることなくなったから教室に顔出しすることにした。
教室には自習している、パンダと棘がいる。
あれ、マキマキおらんやんけ。あと、乙骨。
「恵、遊びに来たのか?」
『ゆっくりしていってね』
「乙骨は?あの根暗」
「恵、ちゃんとさん付けしろ年上だぞ、人間社会は厳しいんだ」
『野生を忘れたか』
パンダに人間社会を解かれるとは、聞いたらデートらしい。
親戚のお姉ちゃん取られちゃった……これを理由に模擬戦出来ないだろうか?
どうやら教室に連れてくるなりヤバそうだったかシメてやろうとして返り討ちにあったらしい、草。
術式は幼馴染を持霊にして戦うシャーマンキングみたいな術式だそうだ。
「とんでもねぇバケモンだったぜ」
「マジかよ……」
『あの巫力、只者ではない』
巨大な二の腕が黒板から出てきて殴ってくるらしい。
一部しか出さないスタイルか、俺に似ているかもしれない。
「でも、アイツ漫画読まないらしい」
「漫画なんか読んでるような状況じゃなかったんだろ。真希が地雷踏んでたがイジメられてたらしい」
『不良の恵とは相性悪い』
何か先輩達の中で俺は不良扱いらしい。
解せない、素行の悪い奴らと遊んで授業は受けないで夜遊びに出かけては奇声を発する奴を殴ったりしてるだけだぞ。
ちなみに棘はSKETDANCEが好きで、パンダはアニマル横町が好きな漫画だ。
「まぁ、マキマキも実家じゃネグレクト気味で漫画とか家になかったしって言ってたもんな」
「そう考えるとアイツら……ポッ」
『ラブコメの波動を感じる』
俺達が二人のイチャコラについて話していたその頃、呪霊に飲み込まれて死にかけてたと聞いたのは後日だった。