1日目はあっという間に終わった。
何を言ってるのか分からないと思う、俺も分からない。先生達が用意した式神を倒した数で競う団体戦が始まろうとしたときに、それは起きた。
「聞こう、乙骨。好きな女のタイプはなんだ?」
「えっ、好きなタイプ……ひ、人並みに大きい子かな」
「失望したよ、乙骨……お前の好みは実につまらん。趣味が悪いな」
「あ゛ぁ?」
んだテメェー、みたいな聞いたこともないガラの悪い声が乙骨パイセンから漏れたと思ったらいきなり空が真っ暗になって雷雲と嵐とともにリカちゃんが降臨して京都校にタックル。
全員を巻き込んで衝撃波が発生して団体戦どころか式神が全滅した。
判定的に東京校の圧勝である。
幸い、命に別状はないが当の乙骨パイセンは、なんか出ちゃったとのことで、出ちゃったでクレーターを作るのパネェっす。
「飲み物買ってきたぞ、憂太さんどうぞ」
「おぉ、ありがとう。秘薬使うぞ、憂太さんどうぞ」
「おかか、すじこ、こんぶ!こんぶぅぅぅ!」
「あぁ、棘が死んだ!この人でなし、ブッ殺すぞ!憂太さんが!」
「ねぇ!なんでみんな距離あるの!引いてるよね!そうだよね!」
そうだよ、だってお前のリカちゃんヤベーじゃん。
やーい、お前のリカちゃん戦術核兵器!全然悪口じゃなくて事実である。
「し、仕方ないじゃないか……気付いたら、出てきたんだもん」
「こえーよ、キレる若者こえーよ。それでクレーター出来てんだもん」
「おい、バカやめろ、死にたいのか!」
「あーあ、死んだなコイツ。パンダはクールに去るぜ」
「ツナ!ツナぁぁぁ!ツナマヨぉぉぉ!」
あっ、おい!何を2乙してるんだ!棘、お前船を降りろ!
変わりに俺は憂太さんを出すぜ!オトモのリカちゃんは悪魔ネコみたいにチートだぜ。
「まぁ、禁止カード扱いで個人戦に出れない憂太さんは置いといて」
「置かないでよ!乙骨でいいよ、さん付けやめてよ!」
「個人戦、東堂の相手は勿論俺が行く」
「流れるように私情を挟む。なんて卑劣な話術だ」
「俺の作った話術だ。自分でやったのは初めてだがな」
「そういう言い方はよせと言っただろ、伏黒ォ!」
パンダと千手兄弟ごっこに興じる。
今回の個人戦は互いに先攻後攻を決め、後攻側は戦う選手を自分達の中から選んで勝負する。
なお、勝った場合は負けた側が好きに選手を出す。
お互いに勝ち残り、最後に勝ったほうが勝ち。
個人戦と団体戦を兼ねてるわけだな。
そして始まる個人戦、1回戦目に意気揚々と出る。
「来いよ東堂!」
「君の相手は私だ」
なん……だと……!?
馬鹿な、あり得ない!そうか先攻だから向こうが誰を出すか決めるのか!
「逃げるなぁ!戦え!」
「悪いが高田ちゃんのゲスト出演があるんでな!」
「そんなの録画しろ!」
「舐めてるのか!リアタイと録画は両方見るんだよ!」
いや、その理屈はおかしい。
一回見たら同じやろがい。
悲しいかな、可哀想な加茂さんが相手である。
切り替えていこう。
「同じ御三家だ。君には期待しているよ」
「俺からアンタに一つ問う。好きな漫画はなんだ?」
「生憎、低俗な物は読まなくてね。それがどうしたんだい?」
「ハァ……やめだ、退屈だよ」
「君……東堂と同じタイプの人間か!」
俺は血を操ると聞いて、すごい期待してたんだぜ。
血液は色んなバリエーションがあるからな、だがそれすら知らない漫画を低俗な物としている加茂ちゃんにはガッカリだよ。
「変身!」
「させるか!」
「無駄ァ!」
俺は改造している制服を着ている。
それは学生服の上に羽織を着ているような格好だった。
影が作れるように布が付いた服を着ているのだ。
そして、影からシロが現れて体表を覆うのと血液がすごい速さで飛んてくるのは同時だった。
だが、ニチアサ履修の俺は変身中に攻撃されても弾きながら変身することで普通に防ぐぜ。
「中々やるな」
「DARKER THAN BLACKというアニメを知らないだろうから教えてやろう。契約の代価で能力をペチャクチャ喋るマジシャンがいるんだよ」
「何の話をしている、何だそれは……」
「MI6のオーガスト7の事だよ!」
俺は鎧のように身体を覆うシロの上から着ている羽織、その内側に手を伸ばす。
羽織の内側には影がある。
ならばそこから物を取り出すのも容易なのだ。
そして、取り出したるは米軍基地から盗んだ武器。
「銃だと!」
「袴の内側にある影から取り出したんだ。やれやれ、マジックの種を明かさないといけないなんて、本当にマジシャン泣かせなキャラだぜ。ということで、俺の片手はマシンガン!」
呪力で強化したところでバズーカを防げるのは強化系くらい。
普通に銃弾は当たれば死ぬ、呪力で強化した肉体でも捻挫するくらいにはダメージが入る。
強化済みの身体で銃弾受けたら、バッドで殴られるくらい痛い、そして強化しないと防げない。
「くっ……赤鱗躍動!」
「憑神の間違いだろ?ケンガンアシュラを履修している俺は弱点も網羅している」
二丁目の銃を懐から取り出し、両手にマシンガンを持って迎撃する。
蛇行するようにして、両腕を盾に突撃してくる加茂先輩。
集中砲火に、動きが鈍る。
それは細かい怪我が原因だ。
赤鱗躍動は有名な技で、その効果は肉体の操作だ。
心拍数の上昇や脳内麻薬の精製、発熱から凝固作用など多岐にわたる。
だが主な使い方は動体視力の強化や心拍数の増加による血液の循環を早めることによる行動速度の増加だ。
早く血液を動かすから、早く動ける、故に怪我をしたら流血も早くなる。
裂傷による傷口からの流出も早める、失血死のリスクが高まる弱点があるのだ。
「よく知ってるな、だが!」
高速移動により、俺へと迫っていた加茂先輩は蛇行をやめてまっすぐ突撃してくる。
その両腕は赤い篭手に覆われている。
血液の凝固による物だ。
「今度はソウルイーターか!だが所詮は血液の凝固、一時的な防御力しかないだろ!」
「さっきから何を、苅祓!」
「低俗なサブカルの話だよ!デッドマン!ズッパシ来るじゃねぇか!」
篭手が沸き立ち、すぐに曲線と金属光沢を帯びる。
両腕に血液の刃を形成したのだ。
そして、それが俺の身体を切り裂き、加茂先輩の両腕が俺の腹部に半分以上埋まる。
「ど、どうなって!?」
「ハッ!神威だよ!」
タネを明かせば、あるいはネタを明らかにすれば。
影を式神に、影を異空間の入口にしていることから、式神を異空間の入口と解釈して、確証して、拡張して、俺は無敵を手に入れた。
触れた相手は問答無用で異空間送りにするのだ。
両腕が俺の身体の中に貫通してしまい、慌てて腕を抜く加茂先輩。
その隙を狙って、顔面を目掛けて攻撃する。
急所狙い、だが、咄嗟の判断か回避ではなく頭突きで迎撃を先輩は選んだ。
ガツン、と硬いものを殴った衝撃が来る。
なるほど、皮膚の下で血でも固めたか。
「油断した、多芸だな」
「次はどうする、炎か?毒か?爆発か?それとも剃刀でも作るか?電気や氷だって良いぞ!呪力の性質を変えれば可能だもんな!」
「そんな風に血液を拡張する発想がなかったな」
「今更言うか、半世紀は遅いぞ」
加茂先輩から血液が飛んでくる。
早すぎて食らってしまうくらいには早い。
そのまま俺が手を向ければ、出口に設定された手先から血液の弾丸が発射される。
「くっ……私は、負ける訳にはいかないんだ!」
「いや、終わりだよ」
俺は自分の羽織を空に向かって放り投げる。
加茂先輩が警戒して上を見上げるが、狙いは違う。
「下だよ」
「なっ!?」
俺の腕の一部が、普通の腕になっていた。
そして、加茂先輩の身体を這うように、足元から黒い影が線となって蛇のように巻き付き、手の形をした影が首を絞める。
「私の影から自分の影を伸ばしたのか」
「テマリ戦を見てないからだ」
「フッ、私の知らない世界だな……」
一回戦目、俺が勝った。