見慣れぬ天井があった。
これは、あれを言うしかない。
「知らない天井だ」
「ん~、起きたか」
寝起きに硝子先生が顔を覗き込んでくる。
ちょっと長くて艶のある髪が鼻に当たってくすぐったい。
「先生……結婚して」
「やーだよー、バカ言えるなら元気だね」
「あ、痛ッ!」
先生はクスッと笑って細い指で俺の額をデコピンする。
クソ、思わず求婚したが、俺の顔は親父譲りのイケメンで、何なら前世じゃなかったモテ体験をしてるくらいには選り取り見取りなのに、靡かない。
うーん、謎。
普通に痛くて、目が覚めた。
「勝負はどうなったんです?」
「なんやかんやあって、東京校が勝ったって歌姫先輩が愚痴ってたわー」
回転する椅子で、くるっと背中を向けた先生がシロを見ながらそんなことを言ってくる。
なんやかんやが聞きたいけど、この反応は知らなさそうだな。
それにしても、普通に疲労感も取れてるし反転術式って便利だな。
「硝子、腹減った」
「おーよしよし、チョコ……はダメだから、ナッツあるぞー」
「良かろう、好きなだけモフっていいぞ」
なんかシロが食い物で買収されてたが、そんな姿見とうなかった。
つうか、俺もモフりたい!いーなー!
俺がジッと見ていたら、シロのついでに髪の毛撫で回された……解せぬ。
京都校の保健室から出て、みんながいるであろう場所へ向かう。
どうせ校庭とか、演習施設とか武道場とかやろ、誰かあったら聞けば分かりそう。
まぁ、歴史が云々でマウント取ってくるのが京都校で、天元いますけど江戸ですけど、とか言うのが東京校らしくて仲が悪いらしい。
「おやぁ、学業するんが学生の本分ちゃうんか?」
「ん?」
「頭の回転も悪いとは救いようもないなぁ」
「誰だお前」
さっそく、なんか成人式にでもいそうな金髪に和服の男が絡んできた。
何だ学生か?開幕罵倒とは、やはりマウント取りたいお年頃か?
「はぁ、これだから……おい、どこ行く」
「自分で学業とか言ってただろ、馬鹿なの?」
「あ゛?」
何でキレてんの、余裕ないな。
カルシウム不足って本当にキレやすくなるんだろうか。
乳酸菌とってるぅ?とか言ってた水銀燈様は腸活してるわけだし、未来に生きてるな。
「なんか言えやダボハゼが!」
「はぁ?」
金髪がキレて瞬きの間に眼の前に来る。
早いな、まぁ早いだけ――
「ガハッ!?」
「雑魚、こんなんが相伝持ちかいな」
気付けば、俺はいつの間にか殴られていた。
確かに防御したはずなのに、何が起きたか分からない。
「よく分からんが、ガキのおいたにしては度が過ぎてねぇか?」
「年下が何ほざいとんねん!」
また一瞬で移動、構えて防ぐ、別の場所に衝撃が走り、ブッ飛ばされる。
分からない、確かに防いだはずなのに……
「変身!」
「触れられなくするつもりかいな、まぁ僕には関係あらへんが」
また一瞬の移動、攻撃を避ける。
男はすぐさま軌道修正をして、また瞬間移動、連続で瞬間移動は使えないのか?
「どれ、稽古や。軽くシバいたる」
「…………」
廊下でやることでは無いだろ。
男が消えたタイミングで、影の壁を作る。
シロの一部を部分展開させる盾のようなものだ。
接触を厭わないのは、接触しても問題ないからだろう。
触れて、突っ込んで、そのまま影の異空間に飛ばされるかと思ったが実際は違う。
「チッ!」
「ガラスフィルム?」
黒い壁が奴の手のひらの前で、黒い板のように象られた。
そしてそれが割れると同時に、俺の身体に衝撃が走る。
まるで殴られたような、いやそうか。
「投射呪法か、空間ごとフリーズさせたんだな」
「今更気付いたんか、ボケェ!」
五条から聞いてるクソ親戚の術式だ。
最速の呪術師とか言われてるらしいが、爺じゃなかったのか?
若返ったのか?いや、そんな術式聞いたことないし、シンプルガキの誰かかな。
俺が分からなかったのは防いでいる間の意識が飛んでたからか、キングクリムゾンに時を飛ばされたポルナレフ状態だった理由だな。
「格上殺しのピーキーな術式だな」
写真が出来たのは薩摩とかあった頃くらいじゃなかったか、それより前はなかったはず。
平安からあったにしては元は違う術式なんだろうな、相伝だから歴史はあるはずだし。
元々はイメージ通りに動くくらいので、今は視覚を画角とかフレーム処理とかうんたらで運用してるんかな。
シンプル頭使うしダルい術式だな。
「まぁ、攻略できそうだけど」
影から閃光手榴弾を取り出し、ピンを外す。
変身解除して、俺とシロの独立した状態で対峙する。
視覚依存の能力だ、突かない道理はない。
「なっ、ぐっ!?」
「はい!」
視界が一瞬ブレる、だが眼の前には廊下で転がるヤンキーのような男の姿。
目を潰されたがこっちに動きを強制してフリーズはさせたみたいだな。
まぁ、その後にシロに追撃されたみたいだけど。
「術式が間に合っても攻撃加えられる時間制限があるもんなぁ、間に合わないとか遅くね?」
「舐めんなや!ガキ!」
「相伝使いこなせてないとか、宝の持ち腐れだな。自分で術式について見つめ直したら?」
「もっぺん言ってみろや、半殺しじゃすまさんぞ!」
俺の精神年齢からしたらキレてる奴とか怖くねぇんだよな。
むしろ、不良狩りとか得意な方だし。
視覚に依存してるから目線さえ終えれば次の移動先が……おっ、加速してる?
なるほど、加速した自分を更に加速したイメージを重ねてるのか。
ホライゾンで立花とか本多がやってた、分かりやすいな。
まぁ、だとしても視覚から方向は追えるけどね。
視界を潰す閃光手榴弾、それに普通の手榴弾も混ぜる。
廊下が木製の校舎だから火事になるね、知らんけど。
爆発、飛び込んだら危険なそれに動きのキャンセルが出来なかったために煤だらけになりながら金髪が出てくる。
決めた行動しか取れない、加速してもカウンター決められちゃうもんな。
「じゃあの」
「なっ!待たんかい!」
なんか喚いてるけど手榴弾ばら撒いて影に潜る。
やだよ、殴られたらフリーズするんだし勝手に自滅しろよ。
しかし、空間ごと固めてくるとか面倒な術式だな。
影を移動して逃げたら、なんか火災があったらしくて校内放送で呼び出しされた。
プライドないんかぁ?何ゲロってんだよ、はぁークソの禪院って分かんだね。
「あっ、いたいた。恵、ダメじゃないか。放火は普通に犯罪だよ」
「証拠あんのかよ、五条」
「うん、ばっちし。手榴弾なんて恵くらいしか持ってないしね」
「現代兵器に頼るなんで伝統的保守派な俺が使うわけ無いじゃん。陰謀だな、これは呪詛師の仕業に違いない」
「誰に似たのか、禪院直哉も証言してくれたよ」
やろう、やっぱりチクってやがったのか。
サーセンと謝ったけど許してもらえなかったので、一緒に学長とやらのとこに行く。
なんかおじいちゃん先生が京都の学長らしいよ。
「やっと来たか、恵くん。おいたのこと謝らなアカンなぁ」
「年下に負けて大人に泣きついてダッセェ奴がなんか言ってるわ」
「口の聞き方がなってないなぁ、育ちが悪いんちゃうかぁ?」
「斬新な自己紹介っすね、碌でも無い血筋なもんで……あっ、同じ血が流れてますやん」
「殺す」
五条の後ろに隠れる。
やだなぁ、怖いなぁ、殺害予告してきたよ。
「なぁ、公然と殺害予告してくるし呪詛師やろ」
「悟くん、そこのガキはウチの身内や。庇い立てせんで貰えますか?」
「聞いたかよ五条、僕とか悟君とかジャニーズ被れだぜ。普通細めの関西弁は余裕ある黒幕キャラって相場が決まってるのに、ヤベッ!」
「待てやぁぁぁ!」
ブチ切れ発狂パラダイスしてきたので煽ってから逃げた。
後日、なんかマキマキから飯奢ってもらえた。
昔虐めてきた奴なんだって、確かに女殴ってそうなクズだったなぁ。