「反転術式が使える奴の倒し方?」
それはある日の午後、窓から差し込む日差しの下で、ダウナーな硝子先生が首を傾げる。
保健室で傷を直して貰っていた時の雑談の思い出だ。
「まぁ、手っ取り早いのは頭を潰す事だね。どうしても呪力を練るのに意識が必要だからね」
「頭潰されたら即死だろ」
「あー、でも意識無くても勝手に治るって奴もいたな。呪力が溢れて勝手に治すって……まぁ、そいつは例外だけど。基本的には呪力切れかな」
反転術式を行うために変換する機能を司る脳かエネルギーであるガソリンの呪力を無くすというのが反転術式使いの倒し方らしかった。
「後は毒だね。毒は除去するのも分析するのも大変だからね、手が回らないって感じ」
「毒使いか、一番それが楽かもなぁ」
それは、俺が子供の時の一幕だった。
下半身だけしかなかったのに、瞬時に骨が生えてきて、その周りに内臓が発生して、覆うように筋肉が生まれ、隠すように皮膚が出来上がる。
平然にして歴然にして依然とした呪詛師、夏油傑が無傷の状態で復活した。
「あり得ない……頭がなかったんだぞ」
「あり得ないことなどあり得ないさ。そうだろ、呪術師」
「お前……人間と呪霊どっちだ?」
「呪霊のような人間か、人間のような呪霊か、面白い問いかけだね」
呪霊であるならば、肉体の再構成が呪力のみで可能ではある。
であれば、肉体があればそれだけで再生が出来る。
だが、だとしたら、余りにも人間過ぎる。
「どうやらお仲間のようだね」
「うぉぉぉぉ!」
夏油の背後、学校の外郭に当たる塀が爆発するように吹き飛ぶ。
そこには、拳で壁を壊すパンダ、いやパンダのようなゴリラの姿があった。
「オーバーソウル!パンダ、ゴリラ、トリケラトプス!」
「変身か!それも甲縛式O.S!超・占事略決から巫門遁甲も学んだのか?」
「訳わかんねぇよ!どっちかって言うとオーズだよ!」
「ニワカが……」
パンダの腕に鋼鉄の腕が覆うように展開される。
下半身は太腿が肥大し、分厚く、そして尻尾が生えた。
なんか前よりパワーアップしてる!
「行くぞ、棘!」
『パンダ、強くあれ!』
パンダの身体から呪力が溢れ出る。
後ろから飛んできた棘パイセンの呪言だ。
先輩、空から学友が!東京にいたんじゃなかったのかよ!
『我が肉体よ、強くあれ!』
「バフか、だが」
そのまま棘パイセンが飛び蹴りを見舞うが、夏油がその足を片手で掴む。
掴んで、そのまま地面に叩きつける。
『う、動くな!』
「……ッ!逃げたか」
とどめを刺すそのタイミング、そこで夏油が動きを止める。
その隙に転がり逃げる棘パイセン、援護するようにパンダが飛びかかる。
「俺のパンチを受けてみろ!」
『喰らえ!』
動きが止まる夏油の顔に、ガントレット付きの拳が叩き込まれる。
呪言によるバフとの連携、そこに無言で忍び寄った乙骨パイセンが心臓目掛けて不意打ちで刺し貫く。
独りだけ戦い方がエゲつない。
「終わりか?」
『ッ、逃げ――』
「うわぁぁぁ!」
一体何が起きたのか、突然パンダが悲鳴を上げながら引き裂かれる。
いつの間にか刀を折られた状態で乙骨パイセンがふっ飛ばされ、逃げるように命じようとした棘パイセンは首を掴まれていた。
「なん……だと……」
「今のは名前を付けるのも烏滸がましい、ただ超スピードで動いただけに過ぎない」
「棘くん!」
「呪言使いも喉が使えなければ、なんの意味もない」
無造作に、パンダの方へと投げられる棘パイセン。
この短期間で、真希とパンダと棘パイセンが脱落した。
馬鹿な、呆気なさすぎる。
「よくもみんなを……」
「おいおい今更か乙骨、力を出し渋るから後悔する。そんな漫画みたいに怒りで覚醒出来るとでも」
「出来るさ……答えを僕は知ってる」
乙骨パイセンの呪力が跳ね上がる。
いつもの数倍、黒い炎の柱のように巨大な呪力が肉体から溢れている。
さっきから展開が早すぎて、ただ見てるだけしかしてない。
「何をするつもりだ、乙骨憂太」
「これが最期でいい……僕の全てをあげるからありったけの力を」
「呪力の制限解除か!だが、それは予想済みだ」
地面に亀裂が走る。
音を起き去りにして、懐にまで潜り込む。
それを夏油がニヤリと笑って迎え撃つ。
「先輩!逃げろ!」
「もう遅い」
拳を握り、今にも殴り掛かろうとした乙骨パイセンへと夏油の手が伸びる。
そして、その中心には黒い玉がある。
そこから出てくる呪力量は尋常ではない。
「うずまき」
黒い閃光が、乙骨パイセンを飲み込む。
どう考えても虚閃やないかい!
「先輩!」
「うぅ……ぐっ、ぞぉ……」
「ほぉ、咄嗟に呪力で守ったか。存外硬いな」
黒い光に飲み込まれたのに、乙骨パイセンは生きていた。
服もボロボロで動けなくなってはいるが、消し飛んでいないところを見ると身体全体を呪力で守ったのだろう。
「お前、完全に呪霊になったのか」
「どうしてそう思うのかな?」
「あぁ、今のは完全に虚の力だった。お前が人間なら黒棺だろう」
「フッ、今のは虚閃ではない。私の肉体の一部を圧縮し使い捨てにすることで出力する術式・極の番うずまきだ」
「つまり、王虚の閃光か」
俺の前に反転術式で回復した乙骨パイセンが立ち上がる。
コイツ……この短期間で反転術式を会得した……だと!?
「下がって恵くん、僕の全力で奴を祓う」
「ほぉ、うずまきを模倣するつもりか」
跳ね上がる呪力出力、乙骨パイセンもビームを放つつもりなのか。
それに対して余裕の夏油、何かが、何かがおかしい。
「だが言ったはずだ、私の肉体の一部を使っていると」
「何?……ガハッ!」
『憂太!?』
突然吐血する乙骨パイセン、その身体をいくつもの黒い閃光が貫いていく。
どうして、あの呪力出力を止めたんだ……それに吐血するなんて……
「呪霊……それも極小……植え付けた……」
「ほぉ、気付いたか。私の肉体は呪霊が溶け合って血液すら細胞レベルで呪霊の集合体だ。故にうずまきの呪力出力に紛れて傷口から侵入した。体内に入った呪霊は君の呪力を食べて増殖し、体内に毒物を生成する。反転術式で消し去るまで、君は動けない」
コイツ、さては働く細胞BLACKを読んでるに違いない。
やり方が汚過ぎる。
いつしか、俺しか残っていない。
「こんなものか……私が目指した最強なんてものは」
「構えろよ夏油、やろうぜ。それとも油断か?」
「構えなんて必要ないさ。それに、これは余裕って奴だ」
手のひらに水を発生させ、それを呪力で強化して一気に放つ。
新しい二体の式神の力である。
「撃水!」
「ほぉ、水か!」
コンクリートを穿つ威力も決定打にはなり得ない、牽制であることは互いに分かっていた。
故に、前に出る。
夏油は煩わしそうに片手で払い、俺を迎え撃つ。
「影分身!」
「そうか!十種の脱兎の力か!」
俺の身体が分裂するようにして増えていく。
実際、衝撃で消えてしまうし、打撃を放てばそれでも消える脆弱な分身だ。
ただ、実態はある割れやすい風船のような分身だ。
陽動、撹拌にはもってこいである。
「だが言ったはずだ、呪霊の集合体だと!」
「ッ!?」
俺の分身達が一斉に倒れ、ドロリとした影となって崩壊する。
何が起きたかは分からないが、何かしたのは分かる。
だが、夏油なら此方を追い込んでくると予想していた。
「ッ!?いないだと」
「…………」
影の世界から、夏油を狙う。
倒せないなら、倒さないでしまえばいい。
影の世界に沈めてやる。
「はぁ?」
「やはり下か」
俺の奇襲は、足を掴む瞬間に頓挫した。
夏油が空に浮いていたからだ。
「どうやら時間切れのようだな」
その時、空から銀髪の男がクレーターを作りながら高専に現れた。
「お前……傑か?」
「呪霊なんだから飛んでるくらい普通だろ、待ってたよ悟!」
「飛んでる理由なんて聞いてねぇよ、傑!」
片手を地面に着けながら、五条悟がスーパーヒーロー着地で現れた。