立ち上がって五条が両手を広げて相対する。
「どういう状況?」
「夏油が崩玉を作って超融合した」
「ハハッ、意味わかんねー」
何で分からないか分からない。
これほど的確な言葉はないだろう。
「俺の目には呪霊にしか見えないけど、意識は傑なんだな」
「呪霊操術は呪霊が対象だ。それは私自身も含まれる」
「鬼舞辻無惨かよ、気持ち悪い身体してるな」
「どっちかって言うと、血鬼術紛いの悟の方が鬼だろ。ほら、私のはシンプルな肉体強化だし、呼吸法みたいな」
「「…………」」
互いに黙って、浮かび上がる。
なんかドラゴンボールみたいになってる。
今のうちにみんな仕舞ってしまおうね、はい移動するぞ。
影の中に入れて……乙骨パイセンはリカちゃんが威嚇してくるからいいや。
「人間辞めた雑魚に言われたくないんだよ!」
「違う、人間を超越したのだ!」
互いに衝突する夏油と五条。
夏油の身体からたくさんの棘が生えてきて、それが射出されて周りを飛び、そして黒い呪力の閃光を放つ。
ファンネルだ、ファンネルだよ!
「絶えず無下限で身を護る。自己補完では賄えきれまい」
「俺の呪力切れ狙いかよ、弱者の発想だな!」
「だが、ジリ貧だ。接触すれば、君でもただではすまない」
「誰がジリ貧だって言った」
五条の左手に炎が灯り、右手に氷が煌めく。
なんだあれ、ヒロアカやってる!?
「何だそれは、お前の術式は無下限のはず」
「ボイルシャルルの法則だよ」
「圧力と温度……なるほど!そういうことか」
何がなるほどなのか、俺には分からない。
そんな俺の横にいつの間にか復活した乙骨パイセンが立つ。
「ボイルシャルルの法則。温度と圧力は比例するという考えだよ」
「知ってるのか、パイセン!」
「恐らく五条先生は極小レベルで圧縮することで高温を、膨張することで低温を実現してるんだろ……溶媒はどうしてるんだろ」
「よく分からないが、科学の力ってすげー!」
突然の解説により状況は分かったが、だからどうなのか。
五条が左手を振るった瞬間、炎が迸る。
すごい、炎使いになっている!
「ならばコチラは、パワーだ!100%!」
「ッ!?戸愚呂かよ!」
夏油の身体が一気に肥大する。
そうか肉体である呪霊を細胞レベルで操作することであんなことが出来るのか。
「筋骨発条化、瞬発力強化、膂力増強、肥大化、筋繊維増殖、硬質化」
「ただ強化しただけだろ!」
「呪力頼りの強化ではない、肉体の素の力だ!」
「だが無下限は破れない」
「耐え切ればの話だろ」
五条が右手を振るう。
氷柱が夏油に向かって飛んでいく。
それを避けようとする夏油、だが五条が右手をクイッと動かした瞬間。
氷柱に向かって身体が引っ張られる。
「ぐわぁぁ!こんなもの!」
「燃えろ!」
右手の炎が放たれ、同時に夏油が吹っ飛んでいく。
うわぁ、引力と斥力、炎と氷、無敵バリアー、無法すぎるだろコイツ。
落とされた夏油、それを余裕を持って地面に着地する五条。
まだ死んでなさそうだからか警戒している。
「立てよ、雑魚。格の違いを教えてやるよ!」
「150%!フハハ、素晴らしいそうでなくては」
「何笑ってんだ、マゾかよ」
「だが、そこは私の間合いだ!」
突如、地面から何かが飛び、五条の周りで静止する。
意外、それは血液!俺の分身を倒した正体だった。
「自分の血液を操ってるのかよ、だが無駄だ」
「いいや、無駄ではない!」
「何?」
「燃えろ!」
突如五条の周りが燃える。
血液が自然発火したのか!
「こんな物」
「吹き飛ばすか?だが周りは私の血液が生成した毒物が充満し、君の周りの酸素は燃焼された」
「無駄だよ。毒物の自動選別は――」
「自動選別、空気の取り込み、無下限の維持、そして私のパワー!」
夏油が殴る。
それを五条が無下限で防ぎ、斥力で吹き飛ばそうとするが……吹き飛ばない。
「足だ!奴め、地面に足を突き刺してる」
「そんな力技で!」
殴る殴る殴る、無駄だと分かっていてもラッシュし続ける。
周りでは血液が斥力に対抗して迫る、燃える。
術式反転を使い続ける間、順転である引力は使えない。
つまり、周囲の酸素不足の層の外、そこにある毒物紛れの空気を取り込めない。
無下限の内側にある正常な空気が尽きたら、殴られるのを覚悟で取り込むしかない。
「ッ!離れろ!」
「ガハッ……い、嫌だね!」
夏油の肉体に穴が開く。
五条が斥力を圧縮して放つ、術式反転赫だ。
俺の親父を殺した技らしい、だが夏油は倒れない。
倒れないどころか、空いた穴が塞がっていく。
「届くさ、届いてみせるさ、男には意地があるだろ!」
「なんて呪力だ、このままじゃ本当に……」
「いや、勝つよ」
焦る乙骨先輩。
だが、俺は勝ち筋を知っている。
五条がスッと片手を上げて印を結ぶ。
あぁ、やはりそれを使うのか。
「領域展開!」
「なっ、簡易――」
「無量空処」
五条と夏油が黒い球体に覆われる。
そう、それは術式の極致、領域展開だ。
術式の焼き切れと共に逆転する一手。
そして、領域展開が解除され……防御した態勢で膝を着く五条がいた。
「五条先生!?」
「ぐっ……」
夏油の身体が更に肥大し、まるで巨人のようになっていた。
10メートルはあるであろうか、そんな巨体が上から拳を押し付けている。
全身を呪力で迸りながら、ゆっくりとだが五条に迫っていく。
無下限が……削れている?そもそも術式が焼ききれてない?
「進化には恐怖が必要とは本当らしい。ありがとう悟、君のお陰で私は新しいステージへと至った」
「領域の中和くらいではしゃぐなよ」
「崩玉が私に答えてくれた。無秩序な意志が、全細胞が死という危機に一つの意思でつながった。生き残りたいと、私は今まで以上に肉体を操作できる」
拳が迫る、ゴリゴリと中和される。
負けるのか、五条悟が?
「生徒の前なんでね、負けないよ」
「防御を解くとは、諦めたか」
交差していた腕を開いて立ち上がる五条。
無下限の出力を上げて少し均衡を戻したのか?
だが、このままでは負ける。
「限界の向こう側だろ、ジャンプ見てねぇのかよ」
「根性論で覆せる状況じゃ!」
五条の右手に青い玉が、左手に赤い玉が現れる。
アイツ、身体の半分で術式順転と術式反転を使っているのか?
「なんだそれは……どれほどの綿密な呪力操作を――」
「相反する2つの力を一つに……虚式・茈」
赤い玉と青い玉が合わさり、紫色の謎のエネルギーとなって夏油の肉体を貫く。
上半身と下半身、真っ二つに巨大な穴を開けて、高専すら抉っていく。
「メドローアか!」
「引力と斥力って合わせたら何もないんじゃ」
「馬鹿だな、無を取得したんだろ。多分」
「無を取得……僕が悪いのか?」
だが、帳は落ちず夏油の呪力は健在だ。
その時、辺りが真っ白に包まれた。
「うわっ!?」
気付けば、俺達の前に五条がおり、周囲一帯が更地になっていた。
夏油の笑い声、倒れていた下半身はなくなっていた。
「そうすると思ったよ悟。今は引くとしよう」
「自爆して逃げるのかよ」
「あぁ、今はね……また会おう、次こそ死力を尽くして」
下半身を爆発させていたことが後からになってわかった。
生き汚さが奈落とか無惨の影響を受けてやがる。
というか上半身だけで浮いて逃げれる謎の生命力ヤバすぎだろ。
「夏油傑、なんて奴だ……」
「あっ」
「あっ」
俺と五条が慄く乙骨パイセンの後ろを指差す。
パイセン、後ろ後ろ!
「えっ、何が」
「憂太!」
振り向くパイセン、その後ろにはリカちゃんという化物の上から飛び込んでくる折本里香の姿があった。
っていうか幼女が化物を足蹴にして、乙骨パイセンに抱き着いた。
「り、りかちゃん?」
「ずっと一緒だよ」
なんか増えてるんですけど、どういうこと?
「解呪されてる。それに、あっちは残留思念と器か?本体は幼女の方」
「えっ、どういう」
「むぅー、余所見しない!」
よく分からんけど、ハッピーエンドってことなのか?