呪術じゃねぇって!念能力だろ!   作:nyasu

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何とかなるかもしれない

悠仁が辺りを見回してからこっちを見る。

何だよ、なんでそんな顔で俺を見る。

 

「伏黒、どうなってんだこれ!入口ねぇーじゃん!」

「生得領域を展開されたんだ。術式が付与されてたら俺達は即死だった」

「おおい、つまりマジでやべーじゃん」

 

やべーよ、だから警戒してんだろ。

まぁ、大丈夫だ。出入り口はシロが分かってる。

 

「今、私達入ってきたのになくなってるわよ!」

「匂い覚えてるから大丈夫だよ」

「おぉー!ジャーキーよ!ありったけのジャーキーを持ってきなさい!」

「よーしよーし!お前は良い子だ――」

 

悠仁の手をシロがパンッ!と手で叩き落とす。

えっ、と固まる悠仁。

 

「触るんじゃねぇ、小僧!ペッ!」

「「キャァァァ、シャベッタァァァ!?」」

「もっと緊張感を持て、バウバウ!」

 

シロさんや、それくらいにして索敵して下さいな。

それにしても領域を展開してくるとか、もう活動してるんじゃねぇだろうな。

 

「恵、匂いが2つ。1つは知ってる」

「知り合いか?」

「ゲトー」

「…………」

 

ゲトーって誰だよと呑気な声が後ろから聞こえる。

おい、マジで言ってんのか。

今回のこれにアイツが絡んでんのか、生存者を探してる余裕なんてねぇぞ。

 

「悠仁、釘崎、警戒度を上げろ。油断したら、死ぬぞ」

「ダメじゃないか、目を離しちゃ……」

「ッ!?」

 

衝撃、視界の端で悠仁が蹴り飛ばされる姿が見える。

あの声は、夏油!接近に気付けなかった。

 

「ぐぁぁぁ!?」

 

心臓が爆発したように大きく跳ねる。

ドクンと激痛と一緒に内側から熱が走る。

頭が平衡感覚を失い、寒気と痛みを孕んだ感覚が全身を貫く。

気付けば俺は口からドロっとした赤黒い血を吐き出しながら、倒れていた。

何が起きた、夏油にやられたのか、シロがいても接近に気付けなかった。

 

「ケヒッ」

「仲間を失いたくはないだろ」

「う、うわぁぁぁ!」

 

霞む視界で、状況が分かる。

何が自分に起きたか、半身の喪失であると遅ればせながらに理解する。

特級呪霊、ソイツの片手にシロの生首があったからだ。

そして、和服に身を包んだ人の姿をしている元人間の呪霊、夏油傑。

奴は悠仁の前で特級呪霊の片腕を掴んでいる。

悠仁を守ったのか?

 

「えっ……」

「呪力を纏う事すら出来ない学生に特級か。相変わらず腐っているな」

「あぁぁぁ!?俺の腕がぁぁぁ!」

 

蹴飛ばされた悠仁が自分の腕を押さえながら蹲る。

見れば、その腕は手首から先が切断されており、離れた場所に呪具を握った状態で落ちている。

呪霊が切断したのか、やはり夏油が守った?

 

「悠仁……逃げろ……」

「えっ、えっ……」

「逃げろ!」

 

どういうことか分からねぇが、俺は生きてる。

なら、まだなんとでもなるはずだ。

 

 

 

伏黒恵の縛り。

それは二体の玉犬を対象に、昼と夜のどちらかしか召喚しない事で個体の強化を行うという物。

玉犬2体の能力をそれぞれ100%とした場合、片方しか出さないことで余ったリソースを強化に使い、玉犬1体の能力を200%に引き出すという物であった。

失っても問題ない個体の消失に命の共有という、極めてリスキーな命を対価にした呪力のブーストは凄まじい強化を行っていた。

 

しかし、その縛りは得たものを失うだけの己に課した物とは違い、他者間との縛り、伏黒恵と玉犬達との縛りとなっていた。

他者間の縛り、その厄介な所は片方が破ってないと思っていても相手の解釈次第で破っている場合があることや、有効に縛りが成立しているか本人も分からないという物。

それが不幸中の幸いな事に、良いように働いた。

 

伏黒恵の認識において、玉犬とは1体の式神という認識であった。

故に、有効に縛りが成立すれば絶命するリスクを対価に強化されると言うものだった。

だが、そうではなかった。

玉犬達自身の認識は、二対一体の式神であったからだ。

 

呪術において、一卵性双生児とは同一人物として扱われるため、本来1人に与えられるべきリソースが半減してしまい、能力が中途半端な状態になる。

同様に二対一体の式神は同一存在として扱われるため、本来1体に与えられる強化は半減してしまい、能力は中途半端となる。

唯一の誤算は、昼と夜の制約によって強化されている状態を十全に強化されていると誤認していたことだ。

 

中途半端な強化によるメリットは、中途半端なペナルティによるデメリットとなる。

命を共有するという縛りが想定したように作用していなかったことで、本来想定されていた個体喪失時の絶命は発生しなかった。

ダメージフィードバックは想定した100%ではなく50%、絶命ではなく瀕死であったのだ。

 

 

 

一方その頃、伏黒から離れた場所で血を噴出しながら虎杖悠仁は吠えていた。

それは痛みからか、それとも怒りか、憎悪に塗れたのかは分からない。

少なくとも自分の内にいる頼ってはいけない存在を頼るという選択をする程には追い詰められていた。

 

「宿儺!俺が死んだら、お前も死ぬんだろ!だったら、助けてくれよ!」

「だが断る!小僧が死んだとしても、分割した魂はまだ18本分ある。無様に命乞いして、惨たらしく死ね!」

「やれやれ、弱者に随分と厳しいじゃないか。君が宿儺の器だったとはね……まぁ、関係ないけど」

 

夏油はそう言って、特級呪霊に向かって片手を向けて莫大な呪力を出力した。レーザーのような呪力のそれは特級呪霊を吹き飛ばす。

 

「悪いけど、君の指は私が頂くよ」

「なんだと?盗人猛々しいとはこのことか、良いだろうこの俺様が手ずから葬ってやる」

「おいおい死人は寝ていたまえよ、生者の足を引っ張るな」

 

虎杖悠仁の中にいる宿儺と対話する夏油に向かって、膨大な呪力が迫りくる。 

ただの呪力放出、だがその膨大な力は身を削るような威力を誇る。

だが、それだけだ。

吹き飛ばされ、壁に減り込む虎杖悠仁と違い、前へ、前へ前へと夏油は進んでいく。

身に纏う呪力は、迫り来る呪力と拮抗して、夏油自身に何もダメージを与えていない。

 

「仕返しのつもりかい、存外子供染みた事をするものだ」

「ケヒッ、クヒヒ!」

「所詮は受肉体か、主導権は呪霊のようだ。おや?」

 

夏油は、自らの身体を覆う呪力を増やす。

その夏油の肉体に傷を付ける見えない斬撃、特級呪霊を前にしていながら振り返らずにはいられない、圧倒的な圧力。

 

「忌々しい小僧め、まぁいい。まずは貴様からだ」

「宿儺か、随分と弱体化していると見える」

「防げた事が余程嬉しいと見える、呪術の何たるかを教えてやろう」

「ッ、簡易領域!」

「領域展開……伏魔御廚子」

 

見えない斬撃が夏油と特級呪霊を襲う。

それは全盛期の1割、更に少年院に展開された術式の付与されてない生得領域を利用する形での領域展開、また虎杖自身の呪力を用いたもの。

何もかもが脆弱なそれは、それですら宿儺の指によって手に入れた呪力と宿儺自身の技量によって特級呪霊を祓えるレベルとなる。

ただし、最強と言うには烏滸がましいレベルだ。

 

「こんなものか」

「三枚に降ろすつもりが、何?」

 

バラバラに崩れ落ちる特級呪霊、しかし夏油傑は立っていた。

呪術の極地とも言える領域展開、だがそれは弱体化しており、夏油にダメージを与えるような物ではなかった。

 

「私はね、そこの呪霊と同じ特級に分類される」

 

夏油は死体となった呪霊から指を回収しながら、宿儺を見る。

その身体から溢れる呪力は宿儺を圧倒する。

 

「だが、だからと言って同じ扱いをされては困る」

「貴様……がッ!?」

 

凄まじい速度で動いたのは夏油であった。

夏油の拳が虎杖の腹へと叩き込まれたのだ。

せっかく起きて立ち上がった宿儺は、またしても壁にめり込む。

 

「悪いが、教わる側は君の方だ」

「なん……だと……」

 

両面宿儺と夏油傑、立場が逆転した。

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