気付けば俺は、黒と白の混じった毛の中で眠っていた。
見れば随分と顔付きの変わったクロがいる。
いいや、今じゃ別の個体になったんだったか。
式神で言ったら、混ざるという意味合いの渾か。
シロとクロで、グレイなんてどうだろうか。
グレイウルフなんてカッコいい響きだろ、なんて……クソが!
「うわぁぁぁぁぁ!」
「恵!?」
っざけんなよ、クソが!畜生、死ねよ!何でだよ、俺だけ死ねば良かったのに、俺だけ生き残って……何の意味があんだよ!
身体に痛みはない、傷もなく、グレイの身体から光が出ている。
感覚で分かる、反転術式だ。
俺の呪力が吸われて、そのまま反転されて使われている。
アイツ、居なくなったくせにまだ俺を助けてやがる。
七番目の式神、円鹿の力だろう。
作り方も能力も分かる、今まで命の共有の縛りが有効でなかったのも分かった。
今の呪力量や式神単体の階級のような物も上がってる。
「行くぞクロ……いや、グレイ」
「仇討ちね、気張らなくていいわ」
「えっ?」
「アイツの記憶じゃ、別に恨んでないもの」
そうか、記憶も引き継いでるのか。
ハハハ、最後くらい恨めよ。
取り敢えず、特級呪霊は祓う。あと、特級呪詛師夏油もぶっ倒す。
両方やらなきゃいけないのが、呪術師の辛いところだな。
悠仁は、宿儺がいるし何とか生きてんだろ。
何かしらねぇーけど主人公みたいな星の下に生きてるし、ジャンプ的に考えて。
「さぁ、行くぞ!変身!」
渾の身体が溶けて俺の身体を包み込む。
灰色の騎士鎧のようなそれは、まるでフロムゲーのオーンスタインのようだ。
影を使って槍を作り、呪力を鵺の力で電気に変えればまさに竜狩りオーンスタインだ。
影の世界を潜って、匂いを頼りに悠仁の元に行く。
だが随分と宿儺の呪力から発せられる焦げたような匂いが強い。
ゲロみたいな匂いは夏油か?何食ったらこんな匂いに何だよ、ゲロを拭いた雑巾みたいな匂いだぞ。
「そういう君は、呪霊のくせに人間染みたミスをするね」
「舐めるなよ小僧、俺は呪いだ」
近付くと、どうやら両面宿儺と入れ替わっていいたらしい。
マジかよ、あの両面宿儺ですら夏油を倒せないのか。
胸に穴が空いてるが、呪力で酸素を供給してるのか?
心臓が止まった場合、10秒で意識を失い、3分くらいで死にかける。
いくら頑丈な悠仁でも人間の枠は捨ててないはずだ。
じゃあ、殺すか。
死ね、夏油!
「ッ!?そこか!」
「チッ……勘の良い奴め」
背後からの不意打ちに、夏油は切り裂かれながら反撃してきやがった。
特級呪霊は、いない?
なんでか知らんが夏油から匂いがしやがる。
「死なねぇのかよ」
「そっちこそ、勝手に吐血してたのに生きてたのか」
戸愚呂兄のように、俺の作った影の槍の周りで肉を再生させる。
呪霊だからか化物並な回復力だ。
だが、それがお前の敗因だ。
「伏黒!助けに来てくれたのか!」
「悠仁は二人きりの時は恵と呼ぶんだよ」
「貴様ら、そんな仲ではなかったはずだ!」
「嘘だよ」
お前らの会話を聞いてたから騙される訳ないだろ。
それはそうと、さっさと心臓を治せ。
俺が治してやる。
「喰らえ!」
俺を中心に光が溢れ出る。
その光に当たった夏油の身体が焼け爛れるようにして溶ける。
反転した呪力によるダメージだ。
ゾンビが回復魔法でダメージを喰らうように、呪霊特攻だからな!
「まずい!」
「おせぇ!」
俺の攻撃で、夏油が左半身と右半身で別れる。
流石に死ん……でない!?
夏油が再生し、二人になる。
「アンデッドアンラックかよ」
「何だそれは、ラノベか?」
そうか、まだ連載されてないのか。
なら、指を飛ばしてそこから再生しまくったりしないな。
不死身の使い方から対処法まで分かってないようだ。
「動くな!動けば、そこの宿儺は死ぬ!」
「知るか!」
「何!?」
死ぬわけ無いだろ、平安最強の化物だぞ。
なんとか抵抗してくれるはずだ。
そんな脅しには屈しない、テロリストに屈してやるものか、死ね!
「脅しだと思うなよ!」
「何!?」
夏油が悠仁に襲い掛かる。
どっちが本体か分からんが、助けるべく反転術式の光を射出する。
悠仁と夏油を光が包み、夏油は溶けて崩れていく。
「目的は果たした、今回はここまでだ!」
「逃げるな!戦え!煉獄さんは逃げなかったぞ!」
「私は間違えない!私が決めたのだから問題ない」
なんだコイツ、パワハラ上司かよ。
頭、鬼舞辻無惨かよ。
自分の分身を囮に夏油は逃げる。
夏油の背後、空間に何やら亀裂が走り、そこに入ってだ。
何だその、俺の影空間みたいな奴。
それはそれとして、両面宿儺である。
「チッ……終わったぞ小僧。小僧?」
「なるほど、代われなくなったか」
恐らく、NARUTOで言うところの守鶴に乗っ取られた感じなんだろ。
ほな、殴れば起きるな。
「そうか、フフ、フハハ!」
「おっと、油断も隙もないな」
突如笑った宿儺が、此方に向かって攻撃をしかけてくる。
奴の念能力は何だ?周りの切り刻まれた跡からして、斬撃か?
肉体の強化、血液の武器化、触れたものを刻むなんてあるかもしれない。
「治せよ、心臓」
「断る。小僧は死ぬが、俺は死なんからな」
「いや、お前も普通は死ぬだろ」
現実的に考えて心臓なかったら酸素供給絶たれて死ぬんだよ。
それなら各臓器が死にかけるのを反転術式で無理矢理維持してるのか?
俺は自分の影から作った槍を宿儺に叩きつける。
宿儺はそれを防ぐが、その瞬間に影が柔らかくなって腕に巻き付く。
元々は影だ、式神の一部と定義して形作ってるだけなので、鞭にもなる。
「影を媒体に使った術式か、おもしろい」
「お前の時代にも十種影法術あっただろ」
「式神との同一化とは、応用も効く。良い事を思い付いた、見逃してやる変わりに貴様、俺の器となれ」
あぁ?何言ってんだテメェ、死にかけのくせによ。
俺の返答は影を強く締め付けて、拘束するという物だった。
「チッ、格の違いも分からぬ凡愚め」
「速い!?だが、そこォ!」
いつの間にか拘束は解かれ、宿儺が逃げる。
お前は速いが、俺は疾いだ!
同じ速さでも俺の方が動ける。
瞬間、呪力を電気信号に切り替え、思考速度を上げていく。
出来るかどうかではなく、呪力はイメージ、念能力だと思うだけで全身から呪力を出せる。
だったら脳の細胞が呪力を出し、その呪力は脳細胞を強化して活性化し、そしてニューロンの情報交換は電気の性質を帯びた呪力が行えるはずだ!時間や空間を弄れるなら、それくらいの物理法則くらい出来る!
疾風迅雷、と言う奴である。
世界が、ゆっくりと流れる。
駆けて、俺を殴ろうとする宿儺の攻撃を水の中にいるような緩慢な俺の身体を動かして避ける。
避けて、驚く宿儺の顔に拳を叩き込んだ。
「オラァ!格の違いが何だよ、ド三流!」
「くっ……貴様、小僧が死んでもいいのか」
「死ぬ訳ねぇだろ、お前殴って治して五条に拘束して貰うんだよ」
「ならば……」
宿儺の身体から力が抜ける。
なんか変な紋様的なのも消えていく。
意識が戻ってきたのか?
「悠仁か?」
「悪い、伏黒……迷惑掛けた」
「喋るな、反転術式がなくなって時間がない。10秒でお前は意識を失う」
宿儺の策略か知らないが、両手を向けて光を放ち、反転術式で心臓を治す。
まだ俺は出来ないが、グレイ経由で式神の力を使って慣れてくればこの状態でも出来るようになるだろ。
あぁ?ちょっと待て、全然治るのが遅い。
「伏黒はさ」
「喋んな!まだ間に合う!クソ、他人だから治りが遅いのか」
「最期くらい、聞けよ……」
「最期とか言うな!半分くらい出来てきてんだ、何とか――」
悠仁の身体が俺の方へと倒れてくる。
宿儺が意識を取り戻して殴ってくる可能性もお構いなく、咄嗟に俺は抱える。
「やべぇ、えっと……」
「心臓出来た!おい、なんで動かねぇ!握れば行けるか!」
「伏黒、釘崎、あと五条先生」
「やめろ!死ぬな!お前まで死ぬんじゃねぇよ!」
「長生き……しろ……よ……」
「おい、寝るな!心臓が止まったくらいで死ぬんじゃねぇ!おい!」
肉体は完全に修復された。
なのに、心臓は動かないし、どんどん体温がなくなっていく。
お前、主人公じゃねぇのかよ!こんなとこで死ぬのかよ!ナルトなら死なないぞ!一護だって、ルフィだって……
「宿儺!どうにかしろ!クソ、こんなときにすら出てこないだと!」
俺の腕の中で、死ぬはずないと思ってた奴が冷たくなっていた。