「九相図兄弟!ファイヤー!」
「はぁ?」
俺が、なんか叫びながら俺に向かって飛んでいった。
周りは何かの骨と血溜まりで出来ていて、でっかい化物の腹の中にいる感じだった。
あれだ、錬金術師の……ハガレン!そう、あれの真理の扉の中のやつだ!革靴食うあれ!
「大丈夫か、弟よ!」
「お、弟?」
俺の周りに、俺と似た見た目の色んな髪型の俺が3人くらいいた。
いや、なんか和服の俺の方にはもっといるけど。
「落ち着いて聞いてくれ、ここはお前の身体の中、宿儺の生得領域の中だ」
「俺、馬鹿だから分かんねぇ!」
「つまり、心の世界、精神世界だ!」
なるほど!あー、なんか伏黒が言ってたな。
所でコイツら、この人?人なのか、っていうかもう一人の俺みたいなのは何なんだ。
「しつこい!縛りはどうした」
「状況が変わったのだ!貴様、弟を良くも!」
「くっ、本気で弟と認識しているのか。縛りに抵触した故の弱体化か」
あの声は、と和服の俺を見るとツインテの俺がなんか戦っている。
いや、ダサい!その髪型はダサい!学祭でしかしたことないよ、俺!
「アレは両面宿儺だ!我々兄弟を害さない代わりに自分に危害を加えないと互いに縛りを結んでいたが、アチラから破った事でどうやら領域展開が出来ないらしい」
「待って、情報が多い!兄弟って何!」
「何言ってんだ、お前が飲み込んだ九相図兄弟が私達でお前は父親を同じとした末っ子じゃないか、絆で分かるぞ」
分かんない!分かんないよ!九相図兄弟って何!呪物の呪胎九相図が腹の中で人になってたってこと!生得領域って何、心の世界って宿儺の心どうなってるの!末っ子って何、俺の人畜無害そうな父親って実は呪術に関係があったってこと!領域展開って何!もう既に領域の中じゃないの!分かんない、分かんない、分かんないよ!顔がみんな一緒でどうにかなりそうだよ!
「ソイッ!」
「痛ッ……えっ、なんでぶたれた」
「聞け、弟よ!」
「あっ、ハイ」
「今!お前の肉体は魂が生得領域に捕らわれてるせいで動いてない!心配するな、肉体の維持は私達兄弟がしている!恐らく、宿儺の目的はお前の肉体だ。縛りを用いて奪う気なんだろ」
そ、そうなのか?
てか、俺生きてるの?死んでないの?
「私達の目的は、宿儺の支配力を弱めてお前を現実に戻す事だ」
「つまり、どういうことだってばよ……」
「宿儺を倒すか、ダメージを与えて領域の奪い合いに勝つ!」
「領域の奪い合い?つまりどういうことだってばよ……」
俺の周りの俺が頭を抱えだした。
仕方ねぇーじゃん!呪術とかまだ良く分かんねぇんだもん!
「喰らえ、赤血操術!超新星!」
「くだらん、捌!」
すごい速さの血液を放つツインテの俺、それをなんか拮抗する見えない何かで防ぐ宿儺の俺。
「あれは俺達の長兄、脹相!では行くぞ!」
「来たか、壊相」
「私の蝕爛腐術!それは血液を介した分解!腐敗させて皮膚を破く!」
俺の方を見ながら、さっきまで説明してくれていたモヒカンの俺が術式の説明をしながら戦いを挑む。
術式開示って奴だ、でも知ってる相手には意味がないはずじゃ。
「俺達も行くぞ、俺、血塗!」
「えっ、俺、悠仁」
「俺の術式も兄者と一緒なんだ、方向性は腐らせるんじゃなくて溶かすだけど」
「腐食と溶解ってことか」
「悠仁は賢いな!じゃあ行くぞ!」
そう言ってアホっぽい、歯抜けの俺が転びながら駆けていく。
「私は膿爛、術式は伝染術式!血液の周囲に病毒を撒き散らす!」
ポニテの俺が横ピースで駆けて行った、ギャル?
「えぇ、変な流れ……青瘀です。凝血術式で、触れた物を停止させます」
貞子みたいなロン毛の俺が頭を下げながら駆けていく。
「噉相!獣血術式!血で虫や獣を生み出す!」
坊主の俺が押忍!と気合を入れながら駆けていく。
「散相だぜ。血を爆発させる散血術式だ。よろしくな」
リーゼントの俺が足元を爆発させて飛んでいく。
「骨相です。僕のは役立たずで骸操術式って言って、血液の触れた死骸を操ります」
オールバックの俺が、足元から現れた蠢く巨大な骨の塊に乗っていく。
「焼相だよ、よ、よろしく……熱血術式、も、燃えるよ……」
前髪目隠れな俺が、よたよた走っていく。
遅い、すっごい遅い。
あと、何だがモジモジしてた。
「俺、虎杖悠仁……急に兄弟が出来た才能なし」
「あ、あう……お、重いよ」
「気にすんな、俺よりすげーんだから胸張れって!」
よく分かんねぇけどよ、兄弟なんだろ。
遅い、焼相を抱えてダッシュする。
同じ背格好だけど、同じ見た目だけど、中身は何か違う兄弟だ。
助け合うんだろ、俺って馬鹿だけどよ!それくらい分かるぜ!
「来たか、悠仁!行くぞ、我ら九相図……フッ、十相図兄弟だ!ファイヤー!」
「邪魔ばかりしおって!散れ、雑魚どもが!」
見えない斬撃らしき宿儺の攻撃、多分術式が飛んでくる。
それを、足元とかにあった骨が壁となって防いで宿儺の俺を包み込む。
切り刻まれる骨、粉塵のようになって崩れていく。
「行くぞ!血塗」
「うん、兄者!」
挟み込むように、モヒカンとアホの俺が宿儺に飛び込む。
その身体はバラバラに引き裂かれ血が散乱、しかし散乱した血に触れたところが溶けていく。
えっ……死んだ!?
「チッ、骨の後ろに……しまった!?」
崩れていた骨が、そのまま壁のようになって宿儺を押し潰そうとする。
粉塵だった骨が血液と混ざって固まったのだ。
それを見るだけの宿儺。
「解!」
いや、正確には動けなくなってたんだ。
そんな宿儺の足元から虫が湧き上がり、周りには血で出来た烏が突撃していく。
周りの血の池から、どんどん飛び出してるのだ。
それを一切合切、宿儺に近付いた瞬間に弾けていく。
術式か!それで切り裂いたか!
「爆!」
宿儺の周りが真っ赤に染まり、膨れ上がる。
切り裂かれた虫や鳥が一斉に爆発したからだ。
焦げた匂い、骨の焼けた事による煙、その煙が一部膨らんで破裂する。
煙の中から飛び出す形で宿儺の俺が跳躍したのだ。
「焼相!今だ!」
「燃えちゃえ!」
周囲一帯が一気に明るくなり、急激に熱くなる。
足元の血の池も、天井の肉の壁も、俺達の立っている骨の塊も、全部が真っ赤に燃えていく。
血の池の方に逃げた宿儺の影が燃え盛る炎の中に見えている。
「あ、熱い!てか、さっき仲間が」
「その心配はいらない、私達は復活する」
「死んでも死なないから」
俺の横に死んだはずのモヒカンと歯抜けの俺がいた。
どういうことだよ、バラバラになったんじゃないのかよ。
「以前追い込んだ際は、変身してきた。皆、油断するなよ」
「変身!?」
「あぁ、四つの腕に腹部にも口を持つ、複眼の化物だ」
ツインテの俺が近付いてくる、この人が俺の兄弟。
「脹相だ!全力でお兄ちゃんを遂行する」
「バチ殺してやりましょう!」
警戒せず、炎の海から見える影を睨み続ける俺の兄弟。
死んでも死なないって、こんな戦いをずっと続けていたのか。
死んで殺されて、恨みや苦しみを、呪いだけを残して、繰り返して。
なんてそれは……救いのない、生き地獄なんだ。
「ぐうぅぅ!」
「様子が可笑しい。何故、炎を防がない?何故、完全体にならない」
「ならないんじゃない、なれないんだ」
アイツは飯の邪魔だからって縛りを結んだんだ。
それを破った、他者との縛りを破ったら確実に不利益が出るって伏黒が言ってた。
そんな凡ミス、アイツがする筈がない。
なら、想定外の縛りの罰則を食らってるんだ。
「焼相、術式を止めてくれ」
「悠仁!何をする気だ、何を考えてる!」
「この戦いを、終わらせる」
燃えている血の池の中に踏み入れる。
味わったこともない熱気、肌を、肉を、骨を焼かれる感覚が襲い掛かる。
熱い、痛い、辛い、苦しい、でも死なない、死ねない。
ここは精神世界だから、死は終わりじゃない。
炎の中を進んでいく、なんでこんなことしてるかも分からないくらい狂いそうだ。
でも、狂えない精神世界ってのはそういうもんだからだ。
焼相が術式を解除してくれてるんだろう、残り火のある血の池で蹲るような黒い塊がある。
聞いたことある、焼死体は身体が変形して丸まった形になるって。
「おい、生きてるか」
「何の……用だ……」
「もう、やめようぜ」
ポロポロと、焼死体のような宿儺の身体から新しい皮膚が出来上がっていく。
反転術式って奴だろう。
「悠仁!危険だ、どけ!トドメを」
「フン、憐れむなよ……たまたま弱体化しただけで……俺は呪いの王だぞ」
俺の後ろからやってきた兄弟達を片手を向けて、停止させる。
絆で俺達が兄弟だって分かるんだろ、だからか知らないけど何となく俺も宿儺の事が分かる気がする。
生得領域の中にいるからだろうか。
「いいや、お前は人間だよ」
「何?」
「死にたくないし、痛いのも辛いのも嫌なはずだ」
俺の眼の前で、胡座をかいて座る宿儺。
俺はそんな宿儺に手を差し出す。
「もういいじゃねぇか、戦わなくたって」
「……失せろ、目障りだ」
宿儺が俺の手を叩き払った瞬間、周りが真っ暗になっていく。
本能的に、ここから追い出されると理解する。
そうか、生得領域は宿儺の物だから、アイツ自身が拒んだってことかよ。
「俺は、絶対諦めないからな!あと、喧嘩すんなよ!」
聞こえてるか分からない闇の向こうに向かって、俺は叫んだ。