スーパーの帰り道、俺の足元の影が疼く。
波打つように形が揺らぐ影は、部分召喚と名付けた影と実態の中間地点で存在するクロだ。
クロから小さく吠える音を聞く、警戒の合図だ。
凝をすると見えてくる足跡のような薄い念。
振り向くが、しかし、何も見えない。
「伏黒恵くんだね」
「ッ!?」
振り返った状態から、後ろに飛ぶようにして顔を正面に持ってくる。
白い髪に長身の男がいつの間にかいた。
身体を流れるように念が薄く揺らいでいる。
無駄のない、垂れ流しでない念、いたのか俺以外にも念能力者。
「誰だテメェ」
「うわ、ソックリな顔」
さっきまでいなかったのに急に現れた。
洗練された念、余裕がある、実力者。
なら、まずは逃げる。
「僕の名前は五条――」
ドプンと身体が落下する。
影の世界に沈んだのだ。
何か言ってたが知らん、奴の足元は見えている。
このまま、影に沈めてやる。
「よし、掴んだ!」
「なにそれ、すごいね。もう使いこなしてるんだ」
「なっ、なんで……」
確かに足を掴んだ。
そして、それを引っ張っている。
だが、影に足が沈まない。
不意に身体が引っ張られる。
しまった!捕まった!
「クロ!」
「おっと」
影から上半身の出ていた俺、その服を掴んで引っ張り上げている腕に向かって、襟の影から口だけ出したクロが噛みつく。
だが、その牙が腕を噛むことはなかった。
依然変わりなく、奴は腕を掴んでいるのだ。
「クソが!」
ならば、とクロを引っ込めて服の内側の影をクロの爪に、刃に見立てた影に変えて服を切り裂く。
あぁ、最悪だ。上半身裸だぞ、くそったれ!
ズタズタの服が破け、俺は影にまた沈む。
奴はボロ切れになった服を持った状態で固まっていた。
俺は離れた地点に影から出て、傍らにクロを呼び出す。
手数がいる、津美紀の側にいるシロも解除して手元に呼び出した。
「ハァハァ……」
「もう呪力が使えるのか、術式も使えるなんてすごいな」
「何なんだ、アンタ」
手を合わせて白髪の男に向ける。
今は時間を稼げ、その間影の中に水を落下させ続けろ。
「だから、五条悟だって。いきなり襲ってくるなんて行儀がなってないな」
「生憎、不審者に話し掛けられたら逃げるように教わっててね」
「ハハハ、ウケる。まずは話をしようか」
「いや、その必要はない」
十分な時間があった。
だから、手の影から落下し続けた水が放たれる。
加速した水だ、銃弾みたいなものだ、強化系でも防げまい。
「いいや話を聞いてもらうよ」
「はぁ?」
水は、男の前で留まっていた。
それは男の腹の前で水玉となって浮いていたのだ。
止められた?どういうことだ?
「改めて僕は五条悟。最強の呪術師だよ」
「五条悟ね、どういった能力なんだ?」
「君見えるし持ってる側だね、術式の理解も出来てる。才能大好き禪院家に売買するなら最高だね」
「人攫いか?」
水がびしゃりと地面に落ちた。
男の足を濡らさず、その周りにだけ染みてだ。
そうか!斥力だ、多分斥力を操る放出系だ。
「違う違う、売ったのは君のお父さん。ムカつくでしょ」
「どうでもいいな、話は分かったぜ。そんでアンタの目的は?」
「……恵くんはさ、禪院家に行きたい?」
「ハッ、ゴメンだね。金で人を買うようなとこだ、終わってんだろ」
人攫いではないならコイツの目的は俺の排除だろ。
その禪院家とやらと敵対しているのかもしれない。
俺と五条とやらの間に沈黙が生まれる。
長い沈黙のあと、急に威圧感のような物が五条から消える。
「オッケー、後は任せなさい、痛って」
「触んな」
無遠慮に伸ばされた手を払った。
コイツ、俺をガキ扱いしてきやがったな。
「まぁでも、恵くんには無茶してもらうかもね」
「おいどこ行く、どういうことだよ」
「強くなってよ、僕に置いてかれないくらいに」
BLEACHみたいなこと言ってんじやねぇよ。
何だったんだ、あの白髪。
てか呪術師ってなんだよ念能力者だろ。
最近読んだ奴みたいに斥力操るやつだと思うんだよな。
流石に6体はいないと思うけど、引力も使えたりするんだろうか。
「まぁいいや、クソ疲れた」
「あっ、恵帰って……なんで裸なの!」
「変質者に剥がされたんだよ!」
まずは心配する姉貴を静かにさせることから始めなきゃな。
1週間くらいして、家に帰ったら白髪頭の五条が居間でお茶を飲んでた。
「あっ、恵お帰り!お客さん来てるよ」
「やっほー!」
「テメェ!なんでいんだよ!あと、姉ちゃん!良く分かんねぇ奴を家に招き入れるなよ、まだ小学生なんだぞ!」
「えぇ、だって知り合いなんでしょ?」
何が悪いか分かってない姉貴に頭が痛くなる。
ロリコンだったらどうするんだ、いやシロを付けてるとはいえ不用意に男を、それも知らない大人を弟の知り合いとか言うだけで信用するなよ。
「いや、苦労してるね」
「お前のせいだからな!」
「恵!お前だなんて言葉、良くないんだよ」
「あぁ、うん、そうだな。いや違くて」
何を楽しそうに見てやがる、見せもんじゃねぇんだぞ。
しかし、何しにきたのか。
マジで意味が分かんねぇ、本当に何しに来た。
「で、何を説明してほしい?」
「全部だよ!全部!何、俺が聞きたいことだけにしようとしてんだよ」
「えー、仕方ないなぁ」
殺してやろうか、この野郎……性格クソ過ぎるだろ。
人の姉貴を顎で使って新しいお茶を入れて貰いながら五条が説明を始める。
まず、世の中には知られてないが呪術師という念能力者の集団がいて、自然発生する呪霊とか言う念獣を退治することを生業としてるらしい。
秘密結社か、最近やってるジャンプの超能力者の漫画みたいな話だな。
特殊なテレホンカードでも使いそうだ。
「あっ、これ振込用の口座ね。色々と僕の方で揉み消したけど一般人に呪力はダメだからね。じゃないと僕が殺す事になるから」
「いや、情報量が多い。まぁ、よくある秘匿の義務は分かったよ。魔術師も念能力者も隠したりするもんな」
「いや、呪術師ね」
俺が扱っているエネルギーは人の負の感情から生まれる呪力というもので、念ではないらしい。
いや、精神の影響受けてるし念だろ。
でもって俺の身体には回路的な術式というのがあり、そこに電気みたいに流して式神とかを出してるらしい。
おい、術式とか回路とか何だよ、魔術師なのか?トレースオンとかするのか?
「代々続くと魔術回路とか魔術刻印とか強くなるから、その呪術師同士で結婚してる家とかありそうだな、いや禪院家がそれか」
「君は話を聞かないね」
ユグドミレニアみたいな家なんだな禪院家って、はえーやっぱクソ。
魔術師以外は下等とか言ってた感じの家やしな。
「恵にはね、これから僕と呪霊を倒したりしてほしいんだ。そしたらバイト代上げるから」
「10万からだ、それ以下はやらねぇ」
「ホント、言い方とか親父そっくりだよ」
そういえばコイツ、親父の知り合いなんだっけ。
今の俺はゴンみたいに話は知ってるがよくわかんねみたいな感じ何だけどな。
「親父ってどんな?」
「筋肉モリモリマッチョマンのロクデナシ」
「お前、友達だったの?」
「いや普通に殺しに来たから殺した」
あー、そういう。
うんうん、あるよね、バトル物ならなんかやむにやまれぬ理由で悪ぶってる奴とかいるしな。
あれかな倒した奴の精神を奪いに来る的な奴と戦ったのかな。
禪院って事は呪術師だと思うし、仲間だったんだろ。
「親父に面倒見るように頼まれたのか?」
「いや、好きにしろとしか」
「死に際だろ、それ」
はいはい、わかった。
俺はそういうシチュに詳しいんだ、ジャンプに書いてあるからな。
「分かったよ、俺も協専ハンターになって戦うよ」
「HUNTERXHUNTERじゃねぇって、呪力な」
「どう考えても呪術師とやらじゃねぇって!念能力者だろ!」
このあと単行本を全部読ませた。