ヤンキー共を集めて色々聞き出したら、どうも根性試しとして八十八橋からのバンジーが流行ってるらしい。
と言っても、相当あくどい奴を懲罰として突き落とすって事らしいのだが。
始めたのは俺らしい……なんかGTO見てやらせた事あったな、あれか。
で、言われた橋に来たのだが残穢などはまったくない。
グレイの嗅覚では確かに呪霊の匂いがするんだけどな。
「隠蔽……となると、結界か?」
天元様が得意とするのがそう言った結界関係である。
進展はなし、時刻は夕方となっていた。
一度、悠仁達と合流することにした俺が踵を返した時、橋の上に人影があった。
ゴスロリ服の女とバンダナの男、微かに臭う呪力特有の香りだ。
「よぉ……」
「な、なんですの!?」
ゴスロリ女は、分かりやすいくらいエセお嬢様口調だった。
野良の呪詛師か?
「高専の人間、伏黒恵だな」
「チッ、関係者か」
「フリーでやってる、祢木利久だ。窓の人間から聞いてないか?」
バンダナの男が女の前に出ながら庇うように女を隠しながら言ってくる。
生憎、単独行動だったから知らない。
ただ、確認することは出来る。
「動かないで貰おうか、この人手不足の業界で顔を知らないほうが珍しい。まずは確認させて」
「逃げろ、西園寺!邪眼!」
「ッ!?」
スマホを耳に近付けた瞬間、男が突如叫んだ。
全身に呪力を漲らせたのは同時だった。
「弱気でなくって!」
「馬鹿!コイツはヤバい!」
眼の前に女の髪が伸びてくる。
金属特有の光沢、髪を金属化できるのか?
俺の意志とは別に影が髪の前にやって来て壁となる。
ギリリリと削るような引っ掻くような音が響いた。
「影、式神!十種か!」
「正解ッ!」
反転術式により、何らかの術式を解除する。
お前、俺に攻撃したってことは呪詛師だよな!
だったらやってもいいよな!
「チッ!」
女の髪がとぐろを巻き、そしてバネのスプリングのように弾性にて女を後方へと吹っ飛ばす。
ついでと言わんばかりに、男が髪に掴まれていた。
逃がすかよ!
「行け!」
追撃する影、それは犬の形を型取り、グレイが顕現して追い掛ける。
滞空している女よりも駆ける速度は早い。
「俺の邪視術式は対象を見ることで動きを停止する。ただし、縛りとして見ている間だけに限る」
「術式開示か!」
ピタッと、グレイが動きを止めて慣性のままに転倒する。
なるほど、見たら動けなくなるそういう術式か。
女は相変わらず髪を器用に使って、どんどん逃げていく。
チッ、逃がしたか。
「こちら伏黒、呪詛師と会敵した」
「えぇ!?どういうことッス!呪霊の仕業じゃなかったッスか?」
「それは分からないが一度合流しましょう、俺は八十八橋ってとこにいます」
位置情報を送って、到着を待つ。
恐らくここに何かがある。
呪詛師が関わるような、そんな何かがあるのだ。
「アイツら、追い掛ける?」
「いや、いい。必要なら、どうせまた来るだろ」
奴等の目的が何なのか分からないが、また会うことにはなるはずだ。
夜になってやって来た悠仁達も、どうやら八十八橋の事を掴んだらしい。
どうやら俺の後輩から、同じようなバンジーの話を聞いたそうだ。
で、そんな後輩のヤンキーの姉が肝試しをした事があるそうで、それが被害者の共通点だってことらしい。
「なるほど、答えは橋の下か」
「橋の下?」
「川を跨ぐ行為がトリガーだろ。恐らく縄張りを持ってる呪霊で本来なら関わり合いがないタイプだ。だからここまで来ても居場所が分からない」
「川って跨ぐの駄目なのか?畳みたいなやつ?」
「三途の川があんだろ、彼岸とか、川ってのは地図でもそうだが昔から境界として扱われてたんだ。呪術的に行為が意味を持ってる」
恐らくだが、川を跨いで渡ろうとすると呪霊のテリトリーに侵入することだろう。
被呪者が多いなら等級は見直される、1級以上と見るべきか。
「呪霊が強すぎるな。今回は俺一人で行く」
「何でだよ!なおさら一人で行くなよ!」
「はぁ……足手まといって言っても来るよな」
「はぁ、アンタね!見下し過ぎでしょ」
「いや、普通に等級的に判断しただけなんだが」
俺の説得虚しく、三人で川下に来ることになった。
庇い切れる気がしないんだが、嫌な予感するんだよな。
そして、同時に跨いだ瞬間に予想は正解をだったと分かった。
『ギュルルル』
「伏黒!感じる、指だ!」
「何だと!?」
そこは鍾乳洞のような場所だった。
天井や床にはフジツボのような穴凹があり、そこからディグダかよお前と言いたくなるような呪霊が飛び出してくる。
そして、その中央で何やら人型の呪霊と戦う2名の姿が見える。
「チッ、新手か!」
「何ですって、やってられませんわ!」
それは夕方にあった、あの時の呪詛師だ。
そして、それが相手してるのは何時かに見た特級呪霊の姿。
宿儺の指が受肉してやがる。
「拙すぎる、これは俺でも庇いきれない」
「オラァ!つまり、元凶はあの呪霊って事か!」
「悠仁は援護、釘崎はそこらの呪霊から呪殺出来るか狙ってくれ、行くぞ!」
俺達はそれぞれ散開するように展開する。
露払いは悠仁、俺は本体と呪詛師を叩く。
「ちょっと!来ましてよ!」
「くっ!撤退だ!高専まで相手してられん!」
特級呪霊の動きが鈍る。
停止というよりもギギギと僅かに動いている。
実力差と言った所か。
どうする、呪詛師か特級か。
いや、ここは特級だ。
「くたばれ!」
思考、肉体速度を電力化した呪力で強化して突き進む。
受肉してる指がどこにあるか分からないが、人型なら弱点は同じ。
その心臓を貰い受ける。
「キヒィ」
「ッ!?」
貫手を放つ俺の身体を不可視の衝撃が吹き飛ばす。
クソ呪詛師が、術式を解除しやがった。
「キャア!?」
「釘崎!?」
「んっ、このぉ……アイツらブッ殺す!」
見れば、釘崎の身体に金髪が纏わりついて結界の外へと引きずり出そうとしていた。
クソ、呪詛師どもめ。
「悠仁!2対1はまずい、援護に!」
「でも!」
「安心しろ、後で追いつく」
「……死ぬなよ」
「死なねぇよ」
釘崎を追うように外に出ていく悠仁。
ちょうど試してみたい事があったんだ。
「ケヒヒ」
「笑ってるのは今のうちだぜ、領域展開!」
頭の中に言葉が浮かぶ。
出来るという確信、どういうものかというイメージが湧く。
「嵌合暗翳庭!」
その瞬間、俺の身体から影が溢れ出して周囲に墨汁を叩きつけるかのように広がっていく。
触れたところから液状化した、垂れるような影がこびり付く。
俺の背後には脊髄骨のような物が、水中から飛び出したかのように液体のような影を撒き散らしながら下から上に飛び出してきた。
そして、俺の脳は光の奔流に飲まれるような幻覚を見せてくる。
圧倒的な情報、知覚の拡張だ。
何となく、手に取るように呪霊の位置が分かる。
「ゲッ!?」
「ハハッ!」
駆けだす、呪霊は底なし沼に片足を突っ込んだかのように体勢を崩していた。
呪力で弾かないと、影の世界に落ちるからだ。
気付いて足を出しても、一瞬の隙は致命的だ。
呪霊は慌てて、俺に指を向ける。
その指先からは、炎の矢のようなものが出来てる。
「だからどうした!」
「ハァ!?」
物凄い速度で炎が飛んできて、俺の身体を中心に捉えて穴を穿つ。
俺の身体に穴が開くが、その穴を影が集まって塞いでいく。
黒い穴は、そのまま肌色に変化した。
影が無傷なのに本体が影と形が違うのは可笑しい、なら影に合わせて本体が損傷を治すのは何ら可笑しくはない。
ロギアみたいなもんだ、覇気で殴ってこい。
「ヒィ!ヒィ!」
不可視の斬撃が俺の身体を穿つが、俺は瞬時に奴の背後に移動する。
この領域は必中効果も必殺効果も付与されていない。
だが、影で埋め尽くされており、俺の術式効果を底上げしてるのが分かる。
呪霊の背後に影分身を作って、そいつと位置を入れ替える事も、今なら簡単に出来る。
「グハァ!?」
「さぁ、全力全開だ!」
グレイは纏っていなくても、この領域自体がグレイみたいな物だ。
だから、俺の意思で領域全体が帯電して呪霊を襲い掛かる。
そして、影自体である俺は帯電を無効化して一方的に殴れる。
影が感電する理由ないからだ、実態があろうと自分の呪力による電力で感電なんかするかよ。
「オラオラオラオラ!」
感電して痙攣する呪霊を殴り続ける。
肉を裂き、骨を砕き、内臓を潰し、急所を抉る。
そして、心臓部分に肉の纏わりついた指を見つけたのでそれを引き千切った。
「アァ……アッ……」
呪霊はその指に手を伸びして、そしてそのまま弾けるようにして紫の血を撒き散らしながら絶命した。
「ハァハァ……ヤベ、呪力しか練れねぇ」
今は術式が使えない、何故かそういう感覚があった。
そして、結界が崩れていく。
第2ラウンドの始まりだ。
「えっ……誰もいない」