駅を駆ける。
作戦目標は五条の救出、次点で特級の排除。
祓うことは難しくても、逃げる事は出来る。
俺じゃ勝てないから特級は逃げる前提で、それ以下は倒す。
両面宿儺にするって言ってたから夏油は殺しはしないはず、その間に乙骨先輩か親父を呼ぶ。
「ハァハァ……」
「遅かったじゃねぇか、恵」
俺が辿り着いた駅構内、井之頭線と書かれたエントランス。
そこに、結界術と思われる黒い球体がある。
間違いない、領域展開だ。
「親父、これは」
「さてな、周りに乾いてない血があることから今さっきってとこだろ。アルコールと香水、女もいるな」
「そんなの分かるのかよ、真希と七海の匂いだ」
知ってる呪力の匂いに混じってイカ臭い海産物の匂いもする。
この領域と同じ、一番匂いが濃い。
「まぁいいさ、強い奴がいそうだから入るぞ」
「おい、クソ!入りやがった」
こっちは引き返して悠仁を助けに行きたいのに、いや数はこっちの方が多いし最適解なのか?
分からないが、もうやるしかない。
意を決して結界へと侵入する。
中は、海中だった。
「領域展開!」
咄嗟に領域を展開する。
まさか踏み入れた瞬間、下に落ちると思わなかった。
足から影が広がり、沈む身体がしっかりと現実世界の床を踏み締める。
「恵!と、誰だ!」
「甚爾か……」
周りは海だった。
なんか近海の主みたいな巨大なウミヘビみたいな呪霊もいる。
そして一番匂いの強い人型の呪霊が奥にいた。
「おい、何か武器寄越せ。持ってんだろ」
「ほらよ」
投げ渡したのは真希の持ってる呪具、遊雲。
効果はただ硬い、それだけだ。
それを受け取った親父は懐かしいなと振り回す、使ったことあんのか?
「真希さん、直毘人さん!集合!」
声と同時にみんながこちらに向かってくる。
その後ろを呪霊の群れが追いかけてくる。
ついでと言わんばかりに、親父へと呪霊が襲い掛かってくる。
それに向かって親父が武器を一振りしたら、巨大なウミヘビの呪霊が爆発四散した。
いや、待て、殴ってそうはならんやろ。
「呪力がない、雑魚か」
「なんかいやがるな、まぁどうせ雑魚だろ」
親父が武器を持ったまま、影の領域から飛び出してみんなとすれ違う。
そのまま海面に着地して、そして沈まずに駆けていく。
いや待て、なんで海の上を歩けんだよ!
「本当に見えてねぇのか!」
的確に、迫りくる呪霊達を薙ぎ払っていく親父、見えてないとは思えない動き。
どうなってんだ、何で対応できんだよ。
「恵!誰だよあれ!」
「俺の、親父」
「はぁ、禪院甚爾は死んでんだろ!」
参考にしていたから勿論、真希も知っている。
顔は初めて見ただろうが、デタラメ具合は知っていた。
いや、つもりだった。
恐らく特級だと思われる呪霊が防戦一方だ。
武器を振るったら、海が割れて海底が見えるんだもん。
漫画みたいなことしてやがる。
「死者蘇生、降霊術か?しかし、うぅむ。穢土転生というところか」
「おい、何言ってんだ!?」
「あぁ、エドテンでマダラ状態だ」
「なるほど、ならば納得だ」
「お前ら、分かるように話せ!」
俺と爺の会話に、真希が困惑していた。
なんで分からねぇんだよ、勉強しとけよ。
「よく分かりませんが、味方ということですか」
「領域の維持しか今は無理」
「任せるしか、ありませんか」
任せるって言っても、あんな一方的に殴ってるし、無法が過ぎるんだが。
なんで殴ったらクレーター出来て島に穴が空いたりするんだよ。
「おのれ!ぐっ!」
「なかなか死なねぇサンドバッグだな!」
親父が空中に飛ばしたと思ったら、ジャンプで更に上空に移動して武器を振るって地面に呪霊を叩き落とす。
そんでそのままマウントを取って、ラッシュを叩き込み始めた。
「ぬぅぅぅ!?」
「テメェが死ぬまで殴ればいいんだろ」
親父の攻撃が入る度に、呪霊が削れていく。
もう勝ったと、端から見ても分かる光景だ。
マジで強いな、親父。
「弱ってきたか?」
「ガハァ……」
親父は呪霊がグッタリしても呪具で殴り続けている。
あぁ、そうか。そのままじゃ呪霊を祓えないからか。領域の取り合いをしていたから分かるが弱っているな。
完全に相手の力が抜けた。
つまり、死んだのだ。
死んでも殴り続けてるのは見えない弊害か?
「あぁ?多分死んだか」
領域が溶けていく。
上から崩れるようにして、一瞬で駅構内に移動した。
マジで強いな、なんで冷遇したんだよ。
「ふぅ……いや、まだいるな」
「えっ?」
親父の姿が消えて、何かを殴った。
それはまたしても人型の呪霊、特級だ。
駅構内の壁に叩きつけられる呪霊、それは火山のような頭をしていた。
「新たな呪霊だと!?」
「一番まずい、逃げますよ。恐らく火山の呪霊です」
七海の言葉の直後、離れた場所にいた呪霊が炎に包まれる。
親父はその攻撃を避けたが、周りが燃え盛り建物自体が溶け始める。
「貴様らは!貴様らはァァァ!」
「まずい!」
突如膨れ上がる呪力に、俺は咄嗟に万象の能力で水を生み出し周りを囲む。
俺を中心に全員を囲んだら周囲から火炎放射のように火が吹き荒れた。
一気に蒸発し、サウナのような熱気が肌を焼く。
そして、気付けば俺達は窓ガラスを割って外に落ちていた。
「はぁ?」
「見えなかった、これは」
「チッ」
全員が空中で体勢を整えて地面に着地する。
水蒸気爆発?いや、違う。
「チッ……」
「親父……腕が……」
「割に合わねぇなぁ、慣れないことはしないもんだ」
俺達の前に、親父が現れる。
片腕を炭化させて、半身が焼け焦げた姿でだ。
「やろう、殴ったら燃えやがる。まぁ生きたい理由はねぇけどよ」
「火山の呪霊なんだ!逃げんぞ!」
「なるほどな……おい爺!」
親父が何やら俺達に向かって叫ぶ。
「お前が見下した猿が、お前らを救ってやる。ざまぁみろ」
「おい、まさかアンタ」
「あのガキに言っとけ、デリカシー覚えろってな」
そう言って親父の姿が消える。
正確には消えるような速度で特級呪霊に向かっていった。
「クソ、早く」
「待て、我々は奴に任せて撤退するぞ」
「おい爺、何言ってんだ!」
俺がそういった爺に掴みかかると、いつの間にか地面に転がされていた。
一瞬、身動きが取れなかった……術式か。
「熱くなるところは、まだ子供か。あの呪霊、奴でさえ手こずる手合だ。なにせ相性が最悪だからな。対応出来るとしたら膨大な呪力で火力を無視できる乙骨特級術師だろ」
「チッ、恵。爺の言う通りだ」
確かにその言葉を否定することは出来ないが、だからと言って見切りをつけろというのか。
「行きたければ行け、ただその時は犬死だろうがな」
「伏黒くん、行きましょう。行かなければ、彼の行動に意味がなくなる」
またそれかよ、今度は友達じゃなくて親父を見捨てろってのか。
会って数分かもしれねぇが、そう簡単に割り切れねぇよ。
「あぁ、撤退する」
元は死人だ。
アレは親父と同じような振る舞いをする降霊された何かだ。
だから……諦めるしかない。
「逃がすと思うか、人間ども」
「遅かったか……」
渋谷の街が燃える。
それを背に、呪霊が歩いてくる。
それは親父の敗北を意味する。
「死ぬが良い、極の番・隕」
それは絶望だった。
人間が太刀打ちできない自然の脅威、その畏れが生んだ呪霊はまさにそれを体現していた。
巨大な隕石が、大きさを推測するのも馬鹿らしいそれが、空を真っ赤にして埋め尽くしていたからだ。
「これは、詰んだか」
「さぁ、無様を晒して……ぬぅ!?」
俺達を絶望に追い込んだ火山の呪霊が何かを察して後退する。
そこに空から飛んでくる黒い影。
「やぁ、派手にやってるね」
「夏油!貴様、やはり裏切ったか!縛りはどうした!」
「おいおい、ちゃんと両面宿儺にするべく指は食わせたさ。ただ、5本じゃ数が足りなかっただけで」
そこには、先程まで戦っていた夏油傑が筋肉を隆起させて上半身裸に和装で立っていた。
そして、そこから溢れる呪力は空まで登っている。
「戯言を、貴様も葬ってくれる」
「それだけどさ、上を見てご覧よ」
夏油が指を向けた瞬間だった。
どこからか黒い光が天に向かって伸びていく。
それは隕石に激突すると、隕石を内側から破壊した。
惑星とも言えるそれを、黒い呪力砲が壊したのだ。
「なっ……極の番だぞ!」
「乙骨憂太さ、派手だと言っただろ。目立つんだよ、あのデカい的」
巨大な隕石が粉々に砕けて落ちていく。
まるで流星のように軌跡を描いて、散り散りとなっていく。
「伏黒!大丈夫か!」
「悠仁……お前、生きてたんか」
「ひでぇ、死んだら殺すってブチ切れてたじゃん」
俺の眼の前には、無傷の悠仁がいた。
何がしたいんだよ、夏油傑。
「ホントは悪い奴じゃなかったんだよ!」
「詳しい話は後で聞くが、悪い奴だろ」
なんで仲間割れしてるかまでは知らないけどな。
「おのれ!」
「人間が支配する世界には賛成さ、最も呪霊如きが人間みたいに喚くなよ」
「殺してやる!殺してやるぞ!領域展開!」