呪術じゃねぇって!念能力だろ!   作:nyasu

64 / 76
実は賢いかもしれない

互いに相手の動きを待つ、一瞬の油断が危険だと分かっているからだ。

レジィはジリジリとゆっくり移動する。

戦いにおいては無駄な挙動だ。

様子見、だがタネは割れた。

レシートを呪力で焼き切ることが制約、ならば濡らせばいい。

 

「万象!」

「濡らしに来るのは分かっていたさ」

 

俺の腕から水流がジェットのように飛び出し、それを転がるようにレジィが避ける。

さっきまでいた場所、そこへ突き抜ける水流、それを割って大根が飛んでくる。

 

「はぁ?」

「油断、したな」

 

咄嗟に振り払おうとして、大根が爆ぜた。

いきなり現れる巨大トラック。

やろう、大根にレシートを隠して……どうやったか知らんが隠してたか!

しかも器用なことに、俺に見えないように背後で、そのための緩慢な移動。

逃げの一手、影の世界潜るしかない。

俺は迫るトラックを前に、真下に落ちる。

 

……クソッタレ、よく俺のことが分かってやがる。

スナックバス江好きは伊達ではない、着眼点がすごいと見るべきか。

影から出ようとしたら、外につながる影が一気に閉じる。

内側から外を見えないということは、照らされて影が散らされたということだ。

なんだ、工事現場に置いてるような強烈な外灯でも使ったのか?

 

「クソが」

「悪いね、相性が悪そうなんで」

 

ようやく出れるようになって、外に飛び出せば原付きに乗ったレジィ・スターが原付に乗って逃げていた。

レジィの野郎、俺を影にぶち込んで時間稼ぎをしてたか。

 

どこに行こうというのか、後を追跡する。

そんな俺の方へと大量の車が無人にも関わらず突っ込んでくる。

 

「なぁ、辞めにしないか?羂索はゲームする気なんてないぞ」

「戯言を」

「いや、明らかに破綻してるんだよ。このゲームはいつしか強者だけで硬直するように出来てる。アイツは爆弾でも落として終わらせるんじゃねぇかな。それ聞いて協力しようとかは」

「思わねぇな」

 

こっちを殺す気満々の奴が何を言ってるのやら。

それに多少のポイントだとしても、後々面倒になりそうなこいつは始末したほうがいい。

外に出れるようになって、羂索と合流されたくないしな。

つうか、知ってるって事はやっぱり知り合いか。

平安術師の時点で怪しいと思ってたんだ。

 

「連れないなぁ」

「どこまで行く気だ」

 

絶えず車や重機が向かってくる。

平安時代よりも物がデカいから厄介な術式になってやがる。

しかも、購入しただけのレシートと運転は別なのに式神のように操るなんてな。

近くに軍施設がないのが救いだろうか。

奴が俺を誘導して行ったのは総合体育館だった。

なんで総合体育館なんかに誘導してんだ、何か考えがあるのか?

そのまま体育館に入ったレジィの後を追った。

 

 

 

総合体育館は二階建ての建造物だった。

2階は体育館としてのフロア、1階は市民プールや筋トレジムを併用している。

そこで、奴は2階で陣取って俺を待ち構えていた。

 

「さぁ、術式の開示だ。俺の術式は再契象。レシートを初めとした契約書の契約内容を再現する術式」

「お前……ゴツく、いやなんかツルツルしてないか?」

「フフフ気付いたか。そう、今の俺はパーソナルトレーナーによる1ヶ月モニタリング付きトレーニングと、三泊四日露天温泉とマッサージ付きアジアンオイルリンパマッサージを併用したのだ」

「長いよ……長い」

「つまり、パワーアップして疲労ゼロということだ!」

 

契約の再現、とはよく言ったものだ。

ジムに通う契約や泊まるだけなら確かに変化はない。

だが実際に効果が出ているのは、それを契約遂行した結果としてどうなるかまでを反映しているのだろう。

例えばビルを建てる契約書があれば、建て終わって初めて契約は遂行されたことになる。

だから、その場合はビルが出てくる可能性がある。

つまり……入口を限定できない領域展開は寧ろ悪手。

 

「お前、恐らく領域展開出来るステージの人間だろ」

「さてね」

「まぁいいさ。もし展開しても、恐らく影に関わる領域。デメリットは把握してるつもりさ」

 

チッ、こっちの方もバレてるか。

やはり見た目に反して、なかなか頭は回りそうだ。

奴の背後にはドローンが何台か飛んでいる。

そんなのもありなのかよ。

 

「なるほど、屋根か」

「目敏いね……」

 

屋根の内側、天井部分の照明の後ろにレシートが見えた。

レシート自体も遠隔で操作が出来るのか。

突然発生すると考えていいだろう。

 

「蝦蟇!」

「伸びるか、再契象!」

 

俺が奴に向かって腕を数倍に伸ばして掴みに掛かった瞬間、ドローンから液体が降ってくる。

これは、匂いからして灯油か!

掴むと同時に具現化された灯油、それを避けるために透過する。

俺の身体に触れた瞬間、影の鎧を通っていく灯油。

同時に襟を掴んだ俺の手も透過してしまい、逃げられる。

 

「おっと、やはり部分的には出来ないか。でも一部取り込んだら抉れそうだな」

「匂いがキツイな」

「犬と合体してたもんな、鼻は封じさせて貰ったよ」

 

一定の間合いでもって戦いを挑まれている。

お互いに決め手に欠ける、近づけば巨大な建造物、離れたら遠距離から透過されること前提の攻撃。

 

「なら」

「来るか!水や変形の次は何だ、式神の力はまだいくつかあるんだろ」

「あぁ!」

「見せて!」

「やるよ!」

 

俺がレジィの方へと向かいながら、3人に分身する。

脱兎の力で影の分身を生み出したのだ。

領域展開中と違い実体はないため、触れたり殴られたら消えてしまうが目眩ましにはちょうどいい。

 

「分身か!」

 

ドローンが此方へと突っ込んでくる。

もう見掛け倒しと気づいたのか、いや実体があっても妨害になると判断したか。

 

「再契象!」

 

奴の前に一列をなすようにレシートが並び、端から順に刃物が現れる。

頭上からも、いくつかの刃物が落ちてきて、奴自身も刃物を手に取る。

手に取ったのは日本刀だ。

 

「無意味だ」

「おっと、だろうなぁ」

 

バシャと左右の分身体が墨汁のように崩れて消える。

幾つかの刃物も通過と同時に消えていき、同時に迫っていた本体への刃物は鎧に弾かれて消えた。

後に残るは迫る俺と、今かと刀を構えるレジィの姿。

奴は上段に刀を構えている。

正面から来るか……いや!

 

「上か!」

「新築戸建て20年ローンだ!」

 

巨大質量の物体、だが影に逃れれば難なく回避出来る。

だが、影がない!足元が一気に発火したのだ。

 

「何だと!?灯油か!」

「ダメ押しのライトもあるぜ、影に入るには身体が入れる大きさが必要だもんな!」

 

家の影は、俺の周りだけ明るくなってるせいで使えなかった。

不定形な足元の影も入口にしては狭く入ることも叶わない。

 

「終わりだ!」

「勘違いしてるようだが、俺は影だ」

 

確かに下に潜ることは出来ないが、俺の前面から影の世界にぶち込んでそのまま背面から出せば少なくとも質量を無視出来る。

使わなかったのは、その間すべてを遮断しているのに近いため呼吸ができないからだ。

だから、俺の身体を通過した戸建てを避けることはできる。

そして、戸建てはそのまま床を突き破っていた。

 

「いいや、終わりだね!」

「足元が!?」

 

身体が、プールに叩き込まれる。

しまった透過を解除しない限り呼吸ができない。

一度だけ解除して地面を蹴る、そして透過で上まで逃げる。

それしかない!

足元を解除し、そして推進力を得て戸建てを通過していく。

戸建ての端、壁の終りが見えた、よしこのまま!

 

「再契象」

「クソがぁぁぁ!」

 

出た瞬間、不敵に笑うレジィと燃えるレシート。

読まれていたことから透過は諦めてレジィに腕を伸ばして掴む。

そして、2個目の戸建てが落ちてくる。

建造物にすべて当たらない為の透過は、もう外界と遮断して呼吸出来ないから使えない。

ならお前を巻き込んで解除させるまで!

俺の腕が数倍に伸びて奴を掴みに掛かる。

 

「掴んだな」

「はぁ?がッ!?」

 

総合体育館の1階と2階を埋め尽くしていた戸建てが消えて、上からタンク車が落ちてくる。

新しく出した戸建ての裏、天井のレシートか!

引き寄せようとした腕、身体へと、タンク車が落ちた。

レジィは、抜けた床から此方を見下ろす。

だが、一度透過を解除した今なら呼吸が……ッ!?

 

「ゲホッ!ゲホッ!?」

「術師は嘘ついてなんぼでしょ」

 

プールの中に、洗剤が浮かんでいた。

それも、大量の空き容器。

最初に灯油をブチ撒いたのは、鼻をダメにして下の作業を誤魔化すため、しかも塩素ガスは空気より重いから下に留まる。

 

「じゃあな伏黒恵」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。