温かい。
頭に熱が伝わってくる。
誰かが俺の髪を触っている。
重い瞼を開けていく。
身体の気怠さのせいで、酷く億劫だ。
「起きました?運命の人」
あっ、夢だこれ。
なんか知らんメンヘラが運命の人とか言ってる。
「えっ、二度寝!?」
俺は瞼を閉じた。
今は酷く疲れてるんだ。
いや、一応もう一回見とくか。
何かの間違いかもしれないしな。
「うーん!サービス!サービス!」
「眩しくて見えねぇぜ!おぉ、伏黒!」
白いワンピースを来たオッサンが、スカートを広げながらパンツを見せつけていた。
謎の光によってパンツは完全には見えない。
それを悠仁が嬉々としてローアングルで覗いていた。
やっぱ、夢か。
「二度寝!?いや、三度寝だ!」
「寝るな少年!寝なーい!」
「いや寝てるって、寝ーる!」
うるせぇぞ、バカ二人。
「ネナーイ」
「ネール」
「ネナーイネナーイ」
「ネールネール」
やめろ、頭おかしくなる。
「ネルネルネルネル」
「はぁ、何言ってるんですか?私の恵が寝れないでしょ」
「虎杖お前何言ってんだ、頭おかしいんじゃね?」
「……ハッ!?えっ、俺が悪いのか……俺は何を……」
何なんだよお前ら、うるせぇよ。
現実クソ過ぎだろ、あとお前のじゃねぇよ。
「うぜぇ」
目を開けると港区女子みたいな翼の生えた女とバスローブの悠仁と白いワンピースを着たアフロの高羽がいた。
「俺はどのくらい寝ていた」
「2日も寝てましたよ」
「お前に聞いてるんだぞ、悠仁」
「はうっ!」
説明してくれ、頼むから。
「ふぅ……やれやれ、俺はアンチルールにより烏龍茶を被るぜ。領収書を切りな」
「高羽……さん、頼むから黙ってくれ」
「酷いわ恵!私との関係も、このご飯のように冷めてしまったのね」
「黙れ、殺すぞ」
お前のせいで訳が分からなくなるし、気付いたら世界観ごとなんか変わってる領域内包型の術式を使ってくんじゃねぇ。
あと、お前もバスローブ着てるな!何だここ……ホテルか?
電気も水道も生きてるのは幸いか。
「もういい、助けてくれたことは感謝するがどういう経緯だ」
「俺が高羽さんを見つけて」
「俺が空飛ぶ女を見つけて」
「私が運命の恵を見つけました」
「警戒心ゼロか」
何なんだ、全く意味が分からねぇ。
なんで逆にコイツらは分かってんだよ。
「コガネ、コイツはプレイヤーか?」
「来栖華、泳者です」
そうか、羽根が生えてるがもしかして天使か?天使だろ、頭に円盤あるしな。
術式の無効化、なら結界も無効化して移動も可能か?
「お前、天使と呼ばれるプレイヤーか?なぜ俺を助けた」
「天使とは私だよ」
来栖の顔に、唇が出てきた。
これは……受肉して意識があるパターン、宿儺のような状態か。
「そもそも、来栖は以前から君の」
「わ、わぁ!人助け!倒れてたら、助けるじゃないですか!」
「いい奴だなー」
「いい奴だなー」
いや、お前ら素直か。
明らかに言ってること怪しいだろ。
何も言わせないように、自分で頬の口を塞いでるんだぞ。
たが、そんな疑問も無視して来栖の手に口が発生する。
「まぁ、見ての通り私は共生している」
「目的は何だ?」
「受肉した泳者の一掃だ。彼らは器の自我を殺している。これは神の理に反する」
「神……なるほど、教義か」
「個人的な信条さ……聞き流していい」
殺人を忌避する宗教は多くあるが、それだけでは特定出来ないな。
たが、天使か。天使という概念は一神教で三つくらいがメジャーだ。
「全部殺すつもりか?」
「そこまで多くは望まない。一人だ、堕天さえ始末できればそれでいい」
「堕天……」
堕天使、やはり一神教か。
だが、そもそもの話だと平安時代は仏教が広まり始めて神道と混ざり始めた時代だ。
一神教などと言うのは広まってない。
「堕天が何か分からないが、お前の発言は時代背景との相違がありすぎる。信用に値しない」
「私が羂索と契約した時代が違うというだけさ」
「なるほど、なら堕天とやらは平安の術師ではないのか?」
「いや、平安に生きた術師だよ」
ならば、それは呪具となった術師ということか。
それが、天使とやらが呪物にまでなって殺したくなるような事をしたと……考えにくいな。
呪物に誘発された呪霊の仕業か?
「それよりも何故私を探していたんだい?」
「聞きたいことがある。受肉したプレイヤーから呪物を切り離せるか?」
「9割9分助からない。呪物の人格と融合している状態だからね。誰か助けたいのかね?」
「いや、獄門彊を壊してもらいたい。頼めるか?」
「そのためにはまず堕天を討伐しなくてはならない、協力出来るかね?」
また問題が、どのプレイヤーか分からないのがな。
探してる間に死滅回游が終わったり、両面宿儺が動き出したら面倒だ。
「なぁ、質問に質問ばっかでよく分かんねぇんだけど」
「虎杖、あのやり取りがなければ俺達は即死だった。ふぅ、サングラスを掛けるぜ」
「そうなの!?そんな高度なやり取りが」
してねぇよ。
一人だけボーボボみたいな世界観で生きてる奴がいるが、まともに相手すると頭おかしくなるぞ。
何、ハッて顔してるんだ。
お前のことだぞ?
「俺が……っていうか堕天らしい」
「何言ってんだお前!?」
「何だと、それは本当なのか!?」
悠仁の言葉に、俺と来栖に受肉した天使が驚き席を立つ。
堕天とは、両面宿儺の事なのか!
「だが、なぜ君の自我が残っている。堕天なら、そんなはずは……」
「天使、両面宿儺が堕天という認識でいいのなら、堕天は別にいる」
「どういうことだ……いや、そうか、複数体いるのか?そんなことが可能なのか」
なぜ、このタイミングで堕天が宿儺であると言ったのかは分からないが、これでヘイトは移せたはずだ。
だが、賭けに近い。
どうなる、このまま協力を結べればいいが。
「だが、私のやることは変わらない。君も、その別の堕天も葬るだけだ」
「待て!悠仁は完全に両面宿儺を封じている!危険でも何でもない」
「関係ないことだ。いつ暴走するか分からない、そういう代物だ」
「ふざけるな、そっちがその気なら――」
お前を半殺しにして乙骨先輩のコピー術式でと言おうとしたタイミングで悠仁が俺の腕を掴む。
そして、来栖もとい天使に向かって口を開く。
「なぁ、どうして堕天を殺そうとするんだ」
「それは神と理に反するからだ」
「馬鹿だから俺分かんねぇけど、神様は人を殺せなんか言わないんじゃねぇの?」
「汝、人を殺すなかれか……だがそれは神との契約を守り、救われる者だけが当てはまる。堕天とは神に見放された敵であり、討伐せねば多くの命が失われるのだ」
まるで、何も知らない子供に教えるように天使が説明する。
だが悠仁は、なおも食い下がる。
「俺の方の宿儺は何もしてない」
「視座の問題だね。奴は過去に罪を犯している」
「それは……でも、死んでから今まで何もしてないぞ」
「これから多くの命を奪うかもしれない」
もしかして、悠仁は両面宿儺を擁護してるのか?
あんな化物を何考えてるんだ?
「なら、他の人と何が違う。かもしれないで考えたら、誰でもそうじゃん」
「生まれたことが罪なのだ、奴は生まれからして人ではない」
「そうやって決めつけるのか?なら……」
「待て……コガネ、直近で参加したプレイヤーを表示しろ!」
議論が白熱したと思った矢先の事だった。
天使が何かに気付いた様子でコガネに指示を出す。
指示を出されたコガネが、その身体をもってしてプレイヤー数を表示する。 その数は、軽く800を超えている。
「新規プレイヤーが増えてる。羂索の爆弾とやらか」
「どうやら軍隊みたいですね、外にヘリが見えます」
「恐らく羂索だ。呪霊達の贄として呪力を満たす為の保険だろう」
チッ、何も問題が解決してないのに次から次へとトラブルが発生しやがる。
「とにかく逃げるぞ、話はまた後だ」