全身を甲冑のような、グレイを纏った状態でホテルの廊下を進んでいくと、廊下の端から金属の塊が投げられる。
それはポチャンと影の空間へと沈んでいた。
「Grenade!?」
「よぉ、アメリカ兵諸君。ご苦労」
ムーブという声と共に、廊下の端から銃を持った兵士が構えた状態で出てくる。
閃光、硝煙の香り、そして爆音。
だが、俺の身体に当たる側から水面を揺らすように銃弾が消えていく。
波打つ鎧、それは影の世界への入口だ。
「No way!?」
「なに、種も仕掛けもないマジックさ」
俺が地面に手を向ければ、そこから慣性を失った銃弾が落ちていく。
銃は無駄だと悟ったのか、米兵は何故かナイフと徒手空拳で挑んで来た。
「Go!」
「人体切断マジックのタネは知ってるか?実はアレは床が空洞になっていたりして、切断している時には中に人がいなかったりするんだ」
「術式開示と言うやつか!?気をつけろ」
「日本人もいるのか、捕まえよう」
五条に比べると随分と動きは単調で、遅く、シンプルだ。
そりゃ、人間の可動域を超えた動きやパワーの化物との格闘技だ。
問題があれば死に、生き残ったのは技術として優れている物だけだ。
よって、こちらの方が強い。
触れたら終わりな攻撃を避けることを重点とし、人間よりも硬い化物を削るべく急所に一撃を入れることを前提とした格闘技術。
軍隊式なのかナイフを片手に突っ込んでくる、それを腕で弾いて喉と胸へと攻撃を加える。
呪霊も人間の負の感情を元にしているからか、人間に近い構造をしている事がある。
大体、共通して口と胸はある。そんな化物を相手にした殺意の高い格闘技術だ、相手は死ぬ。
まぁ、なければ特級呪霊とか術式開示とか出来ないもんな。
「がッ!?」
「術式開示じゃない。だが、マジックのタネを明かさないといけないのはマジシャンからしたら拷問だよ」
「縛りという奴か!奴を黙らせろ!何らかの不利益を与えられる!」
いや、その前に終わるんだがな。
1人、2人、急所にぶち込むだけで首の骨が折れて倒れていく。
呪力のない奴らだ。
前世のオッサンのような一般人じゃ勝てなくても、俺のような呪術師には遠く及ばない。
「伏黒!何も殺すなんて!」
「手加減できるか、向こうは殺しに来てるんだぞ」
俺の行動を咎めるような声が聞こえると同時に、捨て身で此方に米兵がタックルしてくる。
両手足に二人がかりで絡みつき、一人がナイフ片手に突っ込んできた。
「ぐぁぁぁぁ!?」
「ぬぁぁぁぁ!?」
「くっ……Jesus……」
それを呪力を電気の性質に鵺の力で変化させ、感電させることで拘束を解く。
そのままナイフを持って突撃してきた米兵は貫手で胸を貫通しておいた。
無力化しないと、他の二人が危ないしな。
高羽さんは何か生き残るだろ、ギャグ時空に生きてるみたいな謎の術式だしな。
「さて、残るはお前だけだ」
「なんで!なんで身体が!」
俺の身体から伸びた影が日本人の米兵の足を掴んでいた。
しかし、それに気付かず慌てる日本人。
いや、見えてないのか?非術師だから俺の影の鎧も見えてなさそう。
「こうなったら、喰らえ!」
カランと、パイナップルに似た鉄の塊が足元に落ちる。
それを高羽が掴み、口の中に入れた。
「パイナプゥゥゥ!」
「ぐぁぁぁ!?」
全く持って原理は不明だが、自爆覚悟のグレネードはケツから出る爆風となって無効化された。
意味が分からないが、そういうものだ。
「ば、馬鹿な……くっ、くさ!」
「この売国奴が!」
「言いたいだけで……くさ!?」
「ガス兵器なんて卑怯だぞ!」
いや、お前のケツから出たんだが……クサ!
まぁいい、一人は捕まえたぞ。
「くっ……分かった。喋ればいいんだろ」
「信用出来るか、喰らえ」
「待て、何をす、ぐぁぁぁあ!?」
「安心しろ、テーザー銃と同じ程度の電流だ。さぁ、答えろ」
「分かった。だから、ぐぁぁぁあ!?」
何度かの質問と何度かの電流を流すことで、一応の情報は得られた。
同じことを繰り返していたし嘘はないと思われる。
そして、もたらされた情報はアメリカによる拉致と人体実験の全貌であった。
「馬鹿な事だ。呪霊の贄にされる為に騙されてやがる」
「羂索の目的は、やっぱり天元様なのかな?」
「天元の読みが正しければ、死滅回遊の結界を残したままゲームを終了させ、日本国民の同化だろうな」
その為に呪力を結界内に満たすための米兵だろう。
そして、その言葉に天使が反応する。
「ちょっと待ってくれ、奴は何を企んでいる!それでは、この国の人間が脅かされているというのか」
「お前が知らないのも無理はないが、堕天である両面宿儺は受肉しているとさっき話したな?奴は羂索の近くにいて既に活動状態だ」
「にわかには信じがたいが、虎杖悠仁のように封じ込められた状態ではないということか」
「あぁ、だからお前には対抗できる五条悟の封印を解除する手伝いをして欲しい。手荒な真似はしたくない」
こうなったら、あとは拷問して無理矢理術式を使わせるしかない。
どちらに主導権があるかは分からないが、肉体の主導権的に来栖華の心を折れば可能なはずだ。
「手荒な……真似……」
「あぁ、少し激しくなるぞ」
「は、激しい!?そ、そうなんですね」
今も想像したのか、恐怖に震えている。
先程、米兵の拷問を見せたからな。
無理もないぜ。
逃げれないように壁際に追い詰め、両手で逃げ道を塞ぐ。
縛りを結べば此方の物だ。
「おい」
「ひゃい!」
「どうする天使、俺達に協力するか死ぬか。こちらは死体さえあれば術式を複製出来る術師がいる」
「嘘だ、そんな訳がない」
「ブラフだと思うか?」
嘘である。
乙骨先輩は死体から術式をコピー出来るかどうかなんてのは分からない。
だが、向こうも分からないので勝機はある。
「ち、ちか……」
「ちか?おい、こっち見ろよ!」
「ぁ……ぅ……」
「逃げられないぞ、分かってるのか?」
顔を掴み、いつでも電撃を浴びせれるように準備する。
命に手を掛けられた状況、流石の天使も危機感を覚えたのか呼吸が荒い。
これは、上手く脅迫出来てる気がする。
『ルール追加!死滅回游への参加を現時点2018年11月15日1時をもって打ち切る』
俺が追い詰めている時、まさかのタイミングでコガネが鳴く。
「伏黒!?」
「あぁ、どうやら天元は落ちたらしい。時間がない、選べ天使!」
俺は影から獄門彊・裏を取り出す。
仕方ない、このまま攻撃を加えて防ぐ際に使う術式で無理矢理にでも封印を解除するしかない!
「ッ!?……ゃぁ……」
「おい!……おい……どうした?」
気を失ったのか?
何も反応しない、固まってやがる!?
『ルール追加!虎杖香織 真人を除く全泳者の死亡をもって死滅回游を終了する』
「おい!」
「や、邪去侮の梯子ぉぉぉ!」
「あっ……」
コガネのアナウンスに、俺が視線を反らした瞬間、胸を突き飛ばすように押された。
天使は、此方に両手を向けたまま術式を叫んでいた。
そして、突如俺の身体が光りに包まれる。
「おい、おいおいおい!」
「伏黒、ヤバいって!おい、ヤバいって!」
「…………」
「わ、私!悪くないもん!」
俺の手にあった獄門彊は、何処かに消えた。
消えてしまったのだった。
「五条悟が死んだ!この人でなし!」
「知らないもん!きっと魔の者だったんだもん!」
「おい、どうすんだよ!えっ、消えたの!?」
「待て、今考えてるところだから」
聞いてないぞ。
天元は術式を無効化にしたら平気みたいなこと言ってたはずだ。
もろとも消えるはず……ない……と思う。
いや、アイツは確かに傍若無人だが魔の者とか言う奴なんだろうか。
いやいや、受肉体じゃあるまいし、あれでも一応人間……人間だよな?
「祈ろう、俺達に出来ることはそれだけだ」
「諦めちゃったよ!?」