年末に行われる最終局面、その猶予期間。
俺達は五条の指導と憂憂の術式による魂の入れ替えを用いて修行していた。
だが、それも限られた人数に絞ってだ。
「宿儺の器である真人の術式は触れたら終わりだよ。あれ、魂の輪郭を弄るからね」
「それって触れなきゃ良いんじゃねぇの?」
「そっ、悠仁の言う通り触れなければいい。言うは易く行うは難しって奴だね」
恐らく、領域展開は使えるという想定で数の利があっても無駄だと五条は言う。
そして、戦うならば対策が出来てる者だけでが望ましいという事になった。
後は死んでもいい、有志だけだ。
最初から死ぬ前提の死兵である。
「宿儺がいるからか干渉されない悠仁、触れさせない僕、式神と一体化してる恵、あと群体である傑、この四人しか真人の術式には対応出来てないね」
「俺の術式で裁判に持ち込むのはどうだ?術式の剥奪も可能だ」
「待て、アイツが俺みたいに呪具を使ってる場合はどうなる」
「そうか、日下部の言う通りそうなれば呪具の没収という可能性もあるか」
鋭い指摘が日下部さんから飛んでくる。
流石だ、その発想はなかった。
「それに没収された直後に狙い撃ちされたら、流石に死ぬだろ」
「いや、奇襲は良いんじゃねぇか?俺が術式終了と同時に領域を展開する」
「何だと?」
「展開と同時に即時終了して位置をズラす」
「そうか、秤の一体型術式を回避のために利用するのか」
秤パイセンから上がった案は奇襲の後のフォローとしての領域展開だった。
日下部さんの指摘をフォローする、空間を結界で区切る領域の応用だった。
「待て、それは前提に邪魔が入らなかったらだろ。アイツの側にいた術師や羂索の妨害を視野に入れるべきだ」
「そりゃ、真希。お前が足止めすりゃ良いだろ」
「金次、エヴァに乗れ」
「鹿紫雲、お前は後でにしろ。話が進まなくなる」
なら、羂索と他の術師の妨害班が必要かという話になった。
だが、羂索レベルだとすると生半可なレベルではマズイ。
「じゃあ僕が」
「いや乙骨は残れ。ただでさえ遠距離攻撃出来るやつが少ないんだ。羂索は私がやる」
「相撲か?なら俺もやるぞ」
「刀か?なら儂もやるぞ」
「出張ライブか?なら俺もやるぞ」
カッパと侍とアフロが真希に蹴られて転がされる。
色物すぎる、あれで来られたら羂索も困惑しそう。
「俺の出番か」
「メカ丸か、確かにお前なら触れられても影響はないか」
「あぁ、範囲は狭まったが遠隔操作は可能だ」
「それなら私の烏も使えそうだね」
作戦として、まず羂索は真希や色物組が奇襲するらしい。
ただ、奴がどこにいるか分からないため先に仕掛けられるかは謎だ。
次に、日車と秤パイセンによる領域展開での奇襲。
防ぐために領域を使わせられたら、大幅な負荷をかけれるだろう。
「いやぁ、みんなさ……馬鹿でしょ」
「はぁ?」
「僕、最強だよ。僕が勝っちゃえば、そんな作戦無駄だよ」
纏まりかけた中で、五条の言った言葉は人の気に障る発言すぎた。
総力戦だって言ってんのに、何一人で戦おうとしてるんだよ。
「ダメじゃないか悟、正論なんて弱い者イジメして」
「強い奴イジメる奴がどこにいんだよ」
「それにいつまで最強気取りだい、君負けてるじゃないか」
「負けてないが?」
「封印されてたじゃないか」
「されただけで負けてないが?」
そんな五条にしれっと仲間面した夏油が嗜める。
いや、共闘する感じ出してるけど元々敵だったよね?
ベジータか何かなの?
「また足元を掬われかねないだろ」
「逆だよ、足手纏いがいると全力が出せない」
「負けた時の言い訳かな?」
「巻き込んでも知らねぇぞ」
しばらく黙りあった二人だったが何か二人の中で通じるものがあったらしい。
「最初は俺達がやる。そこで祓えればよし、祓えなければ……恵、悠仁頼んだよ」
「押忍!」
「あぁ、だが本当に勝てるのか?」
俺は両面宿儺と五条の強さを比較した上で答えを出せていなかった。
「勝てるさ、俺、最強だから」
「僕達、だろ」
いや、あの、サラッと混じるの辞めてもらって良いですか。
テロリストやろ、お前。
確かに対抗出来る人材としては優秀だけど、仲間面はどうかと思うんですけど。
ほら、みんな何か言いたげだよ。
「夏油さんも戦うの分かったけど、色んな人に迷惑かけて来たんだから謝った方が良くない?特に夜蛾先生とか」
「…………」
「あれ、俺なんか変なこと言った?何この空気」
「……すまなかったよ」
虎杖、行ったー!虎杖悠仁の素直な疑問が夏油傑に襲い掛かる。
空気読めてないけど、今回はいいぞ悠仁!
「悠仁以外は集まってくれる、作戦があるんだ」
「えー!何でだよ先生、仲間外れなの!」
「今の悠仁はハリーなの、ハリー・ポッター、魂で繋がってるわけ」
「俺、分霊箱なのかよ」
「ナントカカントカパトローナーム!」
全員の視線が高羽に注がれる。
今、シリアスな場面だから、お話聞こうか……
「まぁ、置いといて。そういう訳だから、我慢してね」
「了解。じゃあ寝たら居場所とか分かんのかな……」
「明日からビシバシしごくから、そのつもりで」
「はーい」
そして、離れた場所に集まる俺達。
いるのは夏油、五条、俺、歌姫先生、爺ちゃん、伊地知さん。
「当日の作戦だけど、開幕でブッパする」
「まぁ、このメンツ見たら分かるけど」
「そして、ここぞという時に野薔薇には僕が隠していた指に術式を使って貰う」
「隠し持ってたのかよ」
「恵達は上空で待機、奇襲は九十九さんの術式で高高度からの突撃を頼むよ」
五条は事も無げに言っていたが、それは勝てるかどうかは怪しいという考えの現れのように感じた。
そこは真っ暗な闇が広がる場所。
何も無い、ただの闇が広がる場所。
そこに、不自然な程にはっきり見える人影。
「やぁ、宿儺」
「貴様は、会うのは三度目か?」
継ぎ接ぎの人、真人と呼ばれる呪霊がそこにいた。
そして、反対方向には複腕と複眼の鬼がいた。
「俺の術式は魂に干渉する術式。ここは魂の交差路みたいなもんなんだろ」
「ふむ……」
自らの手を見る。
細く頼りない手足だ。
顔を上げる、見れば不機嫌そうなかつての自分がいる。
「アンタ前に言ったよな、自分の身の丈で生きてるって」
「そうだったか?」
「アンタ、周りにも自分にも嘘ついてやがる。復讐だろ、アンタの人生って」
楽しそうに、そう言った真人の上半身が吹き飛ぶ。
真横に立っていた自分が切り刻んで処理したからだ。
「無駄だよ、宿儺!図星でイラついてんのか?」
「黙れ三下が、不愉快だ」
「ヒヒッ、こっちの宿儺は惨めだねぇ」
すぐさま再生して元通りになった真人が、再び切断された。
サイコロステーキのように、バラバラだった。
さて、それを行ったであろう自分は此方を見る。
両腕を組んだまま、不機嫌そうにだ。
「無様だな」
「何?」
「誰かに満たして貰おうなどと、施しを受けるなんてな」
「貴様……何が言いたい」
自分ではあるはずだ。
自分だった物が此方を見て、侮蔑の視線を向けてくる。
苛立たしい、不愉快な視線だ。
「俺は両面宿儺だぞ」
「名乗らねば自己の定義すら儘ならぬか、堕ちたな」
「黙れ!」
「搾り滓らしく指を加えて見ていろ。あんな小僧なんぞに絆されおって」
話は終わりだとばかりに、かつての自分は踵を返し、背中を向けて歩みだす。
この俺が搾り滓だと、俺は両面宿儺だ。
そんな言葉を吐く時点で、言葉から存在が剥離していく。
アレが両面宿儺で、俺が搾り滓ならば、両面宿儺でない俺とは一体なんなのか……