眼の前に現れたのは1個か2個上の小学生。
だが溢れる念は立ち昇るように出ていて、まるでゴンさんのようだ。
鍛え抜かれた肉体、ユピーかな?
つか誰だよ、お前の知り合いか五条。
「フッフッフッ、久しぶりだね五条くん」
「うわ、デッ!?」
何だあのパツキンの姉ちゃん、エロすぎやろ。
お前の知り合いかよ五条。
「九十九……何の真似だい」
「私は何もしてないよ、私はね」
と思ったけど、なんかシリアスな雰囲気が大人達の間に流れてる。
なんか闇落ちした敵キャラか何かだったりするのか?
五条の周りそういうのありそうやな。
「余所見してる暇はないぞ、伏黒恵」
「ッ!早いな!」
迫りくるパンチ、迎撃するべく踏み込む。
そして拳が当たる瞬間、眼の前で柏手の音が響く。
空振る拳、そして迫りくる敵の拳、はぁ?
「ふごぉ!?」
「いかなる理由があろうと、貴様は一方的に倒される。仕方がないことなんだ」
顔を抑え、鼻血を手で受け止めながら奴を見る。
なんだ、今、確かに当たる間合いだった。
「悲しいが、忌憚のない意見というやつだ」
「ハハハ、煽りおる。俺を怒らせたお馬鹿さんは久しぶりですよ」
凝を怠るな、奴は念能力者に違いない。
見れば、残穢と呼ばれる念が辺り一帯に散らばるガラス片に付着してる。
何かある、その確信が俺にはある。
カストロとヒソカ戦並の何かだ、勘だ。
「ところでお前の名前は何だクソゴリラ」
「人の話は聞くことだ、伏黒恵。俺の名前は東堂葵!好きなタイプはケツとタッパのデカい女です!」
「伏黒恵、好きな女は姉系の世話焼きな女だ!」
お互いに拳を握り構える。
奇しくも同じ構え、性癖の開示。
何か習ったな、さっき。
説明することで弱点を晒して強くなるんだろ。
つまり制約と誓約、性癖の開示、本気だね。
一歩、踏み出す。
すると、また柏手の音が聞こえた。
俺は静止したまま、元の場所にいた。
「どうした、後ろに下がっているぞ」
「あ、あり得ない……俺は確かに前に進んだ。なのに後退しているだと」
ポ、ポルナレフじゃあるまいし、どうなってやがる。
一歩、だが柏手と共に景色が後退する。
音だ、幻術か?いや、奴は動いていない。
正確には拍手はしている。
「感謝の正拳突きか」
「ほぉ……聞かせてもらおう」
「超高速による拍手を制約に俺を移動させている。力技でないところを見ると瞬間移動か」
「及第点だ、術式開示など不粋な真似はしないぞ」
その瞬間、俺は空を見ていた。
「はぁ?」
「同じ負の感情を使う者同士、お前も鬱屈した感情を抱えているんだろ!伏黒ォ!」
声、見れば校舎から飛び出る東堂。
俺は地面に寝ている?
「そうか!俺と扉の入れ替え、拍手は条件か!」
「フッ、その通り」
横に転がる俺、さっきまでいた地点に教室から落下してきた東堂の拳が叩き込まれる。
砂煙、それを払って飛び出してくる東堂。
拍手、何と入れ替わる、いや違う。
「くっ!」
「そうだ、必ずしも入れ替えがある訳ではない。一瞬の硬直、瞬時の判断が求められる」
「厄介な」
どうしても身構えてしまうがそれも不発の場合がある。
シンプルながらテクニカルな能力、シンプルな奴ほど強い。
それに放出かと思ったらゴリゴリの強化系みたいな奴だ。
ゴリラしてやがる。
「お前と俺の違いを教えてやろう。互いの呪力容量はお前の方が上と見た。互いの潜在呪力は今はお前が上回っているだろう。そして、顕在呪力の多さは俺の方が術式の分だけ上回り、今は不利な状況だ。だが、これからお前が術式を使うごとに維持顕在呪力量が加算され、顕在呪力の分だけ潜在呪力量は逆転する。何故なら呪力消費効率が黒閃を経験してないお前は無駄が多過ぎるからだ。ここまでは分かるな?」
「分かんねぇ!」
「つまり、実力不足ということだ」
良く分からない言葉で殴ってくるな!肉体で殴ってこい!
さてはお前頭は良い方なのか?
東堂が、砂を掴んで放り投げる。
目潰し、にしては無駄な動き。
いや、よく見れば全てに念が込められている。
「ハンデに教えてやろう。俺の術式効果は一度交換した物は一定期間は交換できない。安心しろすぐにはお前を交換出来ないさ」
「それは良い事を聞いたね、玉犬!」
完全召喚された白い犬と、不完全に召喚された黒い影の犬が俺の傍に現れる。
互いに術式ありきの戦いだ、ここからが本番だ。
「この力に一番戸惑ってるのは俺なんだ……」
「急にスンとするなぁ!」
「お前もそうだろ!全力を出せない、退屈してるんだろぉ!伏黒ォ!」
ニィと笑みを深める東堂。
笑顔が威嚇とはよく言ったものだ。
だが、奴の制約は恐らく拍手と一定の念が込められていないといけないものだと思われる。
つまり、ばら撒かれた砂ならどれとでも入れ替え可能ということだ。
そんな簡単なことが出来るだろうか、それを可能にする誓い、即ち誓約が一定期間交換出来ないとやらだろ。
ならば、一度距離を取る。
「暗い道(オフロード)!」
「そして、お前には明確な弱点がある、それは!」
東堂が石を持って、投げてくる。
入れ替えか、囮か、2択。
入れ替えた方が距離が近い。
石と東堂の交換による攻撃、砂と俺の交換による攻撃、どっちだ……どっちになる。
「なっ!?」
柏手は二回、眼の前には東堂がいて俺が飛んでいる。
どういうことだ、交換は一定期間出来ないはず!
「技名を言う縛りと呪力の起こりによる予測が可能という行動の固定化だ」
「がはッ!?」
東堂の太い二の腕が、俺の喉を捉える。
待ち構え、横に振り向くそれは、まさにラリアット。
そして石の慣性で飛び込む俺は、まるでロープの反動で誘導されたような物だった。
「所詮、黒閃を経験していないお前など、こんなものか」
「テメェ……騙しやがった……なぁ……」
「期待外れだよ伏黒、お前にはがっかりだ。敵の情報に踊らされ、縛りを誤認するなんてな」
あの瞬間、まず俺と石が入れ替わった。
そして飛んでくる俺と止まってる石。
石と東堂が入れ替わる。
つまり、一定期間の交換が出来ないは嘘の情報、ブラフだ。
あの砂を撒く行為、何か意味があるように思わせて、そして簡単な条件達成による制約と誓約の重さを意識させて信じ込ませた。
おそらく、砂のような小さい物は交換できないか……いや、ドアと石の残穢、込められた念の量からして、一定以上の念が込められている事が条件と見た。
「舐めんじゃねぇ、縛りだ?そんなのお前の専売特許じゃねぇ」
「ほぉ、ならば見せてもらおうか。お前の覚悟と言うやつを」
「この俺に覚悟を問うたな。この、俺に!覚悟さえあれば人は絶望を吹き飛ばせる!例えば暗闇の荒野だろうと切り開く事が出来る!それを知らない俺じゃねぇぞ!覚悟は良いか、俺は出来てる!テメェに出来ることは覚悟することだけだ!」
ここから一発逆転、そんな簡単な方法はある訳が無い。
ならばより困難な方法を突き進むしかない!
つうか、ドタマに来てんだよォ!こっちはよォ!
「ッ!?素晴らしい!なんて呪力量、やれば出来るじゃないか!」
「これほどの呪力……彼はいったい、何を縛りに」
「決まってんだろ!リスクはバネ!制約と覚悟が大きい程、念は強く働く!」
「その台詞、恵!まさか命に関わる縛りか!」
シロが巨大に膨れ上がる。
影が媒体である故に大きさは込められた念に比例するからだ。
「黒い犬が消えたことから使役できる式神の制限と、そして呪力量の増加は命の共有か!」
「昼間はシロしか使わねぇ、シロが死んだら俺も死ぬ!第二ラウンドだ、エセゴレイヌ!」
「来い伏黒ォ!ステゴロだぁ!犬なんか捨てて掛かってこい!」
「東堂ォ!野郎ブッ殺してやる!」
シロが俺の身体に鼻を押し付け、一気に頭を振り抜く。
それによって加速が乗った俺が東堂に向かっていく、一発殴らせろクソゴリラ!
俺の拳が東堂の顔に入ると同時に東堂の拳が腹に入った。
「クソ……が……」
「いい拳だ……惜しかったな……」
畜生、全然効いて……ねぇじゃねぇ……か……