「見つけた」
それは、俺達が修行している間に聞こえた夏油というテロリストの言葉だった。
夏油は瞑っていた目を開き、あぐらの状態から立ち上がる。
「羂索の居場所が分かった。奴め、どうやら受肉したらしい術師を狩ってるらしい」
「場所さえ分かれば奇襲できる。新幹線を使えば半日で行けるだろ」
「正直、宿儺と関係ないからね。奴は先に始末してもいいだろ」
夏油がやっていたことは、自分の一部を切り離して各コロニーに送ることだった。
やっていることは影分身みたいな物で、リアルタイムに情報を共有するという物。
人間辞めてるなと思ったが、そもそも受肉した呪霊だった。
羂索を見つけたらやる事といえば、真希や色物集団を使っての奇襲である。
バカみたいな身体能力、魂すら斬る剣術、意味不明な術式、緊急回避として使える相撲の領域、相手するにはやり辛い奴らだ。
誘拐された天元もいるだろうが、恐らくそっちは両面宿儺の方が持っていると思われるので気兼ねなく奴を始末できる。
「どうやら奴の術式は重力のようだね。五条の話だと、他にも身体を用意してそうだけど」
「予想があってれば、魂を切り裂けば予備の身体があっても殺せるはずだよ」
「魂以外を知覚することで、魂を攻撃する。正直意味が分からないけど、やってるからなぁ」
奇襲に成功しても、それがメカ丸のように遠隔で操作された肉体の可能性もある。
そのため、今回の奇襲には真希達が採用された。
さて、こっちはというと憂憂の術式を使って、魂の入れ替え修行を行っていた。
俺は五条や日下部さんと入れ替わり、呪力のコントロールや結界術の感覚を学ぶ。
「でっか……身体の目線とか違和感が、あと気持ち悪いな」
「慣れないうちは見え過ぎて酔うんじゃないかな、まぁ、なったことないけど分家で制御出来ない子にはよくある事だよ」
五条の身体に入り、六眼を使って呪力を使う。
より見える眼によって、いかに自分が垂れ流したり無駄に動かしていたかが分かる。
ロスも軽減し、流動性も上がる、この六眼というのはチート過ぎる。
「五条、本当にお前勝てるのか?」
「どうしたんだい、急に」
「こんな目で呪力を扱ってるお前と同じ、それだけで俺は両面宿儺を再評価した。その上で言う、アンタも両面宿儺も化物だよ」
「それ、よく言われる。まぁ、でも、僕が本気出したのなんて数えるくらいだよ」
だから、余裕でしょと五条は言った。
決戦当日、見事羂索を始末した報告を受けた俺達は年末に両面宿儺を東京コロニーで捕捉した。
「なんだあの化物は」
「実に合理的だ。なるほど、あれが伝承に謳われる両面宿儺か」
「おい、いつになったら俺はあれと戦える。その間、エヴァには乗らないのか?」
若干1名、頭がおかしい奴がいたが、冥冥さんのカラスが撮影した映像をモニター越しに見ていた。
両腕を組み、待ち構える宿儺。
しかし、その周りには空いた手がある。
腹には大きく空いた口があり、目は四つもある。
腕が4つ、口が2つ、目が4つの異形の化物。
だが、呪術的には手印と祝詞を絶えず行える理想形とも言える形だ。
「さて、始めるとしようか」
五条の周りを伊地知さんが結界で覆う。
歌姫先生が、音に合わせて舞いながら術式を用いる。
引き算の呪術において、正式に祝詞や舞、音楽の奉納などを行い、その上で他人の術式にバフを掛ける歌姫先生の術式が使われた。
「200%って所かね……虚式・茈」
以前、五条が放った虚式・茈を科学的に分析した事がある。
31万tもの岩石を消し飛ばしたそれ。
それの速度はマッハ7と推定され、一瞬で吹き飛ばしたのだと思われる。
これに必要なエネルギーは、877兆J=TNT爆薬22万t分。
長崎に落とされ7万人の命を奪った核爆弾が23万tと、ほぼ同等だ。
「個人が1人で核弾頭、まるでメタルギアだな」
五条の放ったそれが、両面宿儺という個人に向かって放たれる。
そして、最強の二人である五条悟と夏油傑が両面宿儺討伐の為に飛び降りた。
そう、モニターがある俺達のいるリカちゃんの中から、九十九による仮想の重力で弾き飛ばされて、人間砲弾として両面宿儺に突撃した。
「やったか!」
「何やってんだ日下部!フラグだぞ!」
「フラ……よく分からんが、すまんパンダ!」
映像は砂煙で両面宿儺の姿が見えなくなっていた。
一部の映像が途切れたのは、カラスが死んでしまったのだろう。
生き残ってたカメラ、カラスの映す映像の砂煙が晴れる。
そこには腕を4つの両腕を炭化させた両面宿儺の姿があった。
「嘘だろ、核と同等なのに腕しか奪えなかったのか!」
「恐らく領域展延を使って術式を中和したんだろ。それでも迫りくる仮想の質量を防ぎ切れなかったみたいだがな」
「よく分かるな、日下部!」
なるほど、すぐに両腕が反転術式で治されていくが両面宿儺の呪力を消費させたのなら先手を取ったかいがあるか。
「まずは小手調べ」
「面白い。まずはその鱗を剥がしてやろう」
「僕を忘れないで欲しいな、領域展延!」
上空から勢いよく突撃してきた五条が膝蹴りを繰り出す。
それを復活した腕、2つで宿儺は防ぎ、残った2つの腕で掴みに掛かる。
だが、そこに後から来た筋肉が膨張した夏油が割り込む。
五条の攻撃を防ぎ、掴みに掛かったガラ空きの腹部に向かって拳を叩き込んだ。
「何ッ!?チッ!」
「ゲテモノは美味いと相場が決まってるものだがな」
しかし、その拳は待ち構えるように大きく開いた腹部の口に向かって叩き込まれ、そして挟まれるように噛みつかれる。
術式を使われたのか、泡立つように皮膚が膨張した夏油の腕、夏油は片方の手を手刀にして、腕を半ばから断ち切った。
腹にある口腔に咀嚼される夏油の腕、夏油は背後に飛び退き切断面から新しい腕を生やして様子を見る。
「余所見か!」
「フンッ!」
五条が掴まれた膝と反対側の足で蹴りを顔に向けて見舞う。
両面宿儺はそれを身構え、顔面で受けた。
両面宿儺の頭部に叩き込まれる蹴り、その反動で五条も飛び退く。
「次はどうする、領域展開」
「ッ、領域展開!」
「簡易領域」
突如発生する黒い球体、そして地上に現れる骨と門。
領域は一瞬、五条の領域が崩壊する。
「閉じない領域か!」
「どういう事だ?」
「領域は内から出さないために強度を保証する上で外からの干渉に弱いんだ。そして範囲で言えば閉じない領域の方が広い、結果破られたってことだろうな」
地上に現れた五条、そこに斬撃が襲い掛かる。
しかし、襲われる直前に肉の塊が五条の前に飛び出す。
「油断大敵だよ、悟」
「肉の壁に顔だけ出てくるとか、ビジュ気持ち悪いだろ」
それは、夏油が身体を変化させた物だった。
その壁から飛んで、五条が指先を向けて赫を放った。
崩壊する両面宿儺の骨の門、領域の象徴とも呼べるそれが壊れると同時に見えない斬撃が消え去る。
「術式弱っ!」
「ならばこれはどうだ?」
突如、両面宿儺の背後に巨大な人の手が複数発生する。
二回目の、閉じない領域だ。
「馬鹿な、術式の焼き切れが起きてないだと!?」
「傑、来るぞ!」
巨大な手が、そのまま指を使って蜘蛛のような躍動で動き出す。
あれは、まさか、真人の術式だろうか。
手と同時に五条に迫る宿儺。
「さぁ、どうする」
「決まってんじゃん、領域展開」
「何?ッ!」
瞬間、周辺一体を五条の領域が包み込む。
どういうことだ!術式は焼き切れたはず。
「馬鹿な、早すぎる!日下部さん!」
「待て待て乙骨、流石の俺も分からんぞ」
「夏油が何かやったのか?一体どうやって、なんで……」