発生したのはバスケットボール程の領域。
それが宿儺の領域の外郭すら包んで、圧縮して、結界の強度を底上げしていた。
俺のできない、現実のスケールを無視した荒業。
出来るという確信がなければ、出来ようもない技術。
「有り得ねぇな」
「伏黒どういうことなんだよ、日下部は分かるか?」
「人一人閉じ込められない外見、体積の結界に自分も相手も閉じ込めるイメージは破綻して当然なんだ。それをなんだ、コーラを飲んだらゲップが出るや強く曲げたら鉛筆が折れるような、まるで当たり前のようにイメージ出来るんだ!」
戦場には、新たな動きがあった。
領域の崩壊、互いに満身創痍な五条と宿儺と夏油が現れる。
そして、全員が反転術式で回復していく。
『どういう事だ、何が起きている』
「宿儺?」
横で、宿儺と悠仁の声が聞こえる。
何かがおかしい。
満身創痍の肉体が、煙のような物を上げながら再生していく。
熱を孕みながら高速で再構成されているのだろう。
だが、ここにきて五条が鼻血を出しながら崩れる。
「悟!?」
「クックックッ、お前のカラクリは分かったぞ。もう、領域展開は出来ないだろ。さらばだ、領域展開!」
両面宿儺が手印を作り、閉じない領域が展開される。
そして現れる、骨と肉の門、領域のイメージの象徴、それが現れ……勝手に崩壊した。
「くっ!?」
「ハハハ、しっかり効いてるじゃねぇか!」
それはダメージが入っていた事の証明。
周りの観戦している奴らも、うおおおと興奮の声を上げる。
だが、違和感。
「悠仁」
「あぁ」
「いつでも行ける準備はしておけ」
画面の向こうでは、反転を互いに使った宿儺と五条が立っていた。
そして、術式開示のごとくカラクリを説明し始める。
「そうだよ、一度呪力で破壊して反転をかけた。ここに大体あるからね」
「六眼があるだけでは精密な操作も必要なそれは修得も容易ではないだろうな。誇っていいぞ、凡夫と言う評価は改めてやろう」
「そうかい、六眼なしで真似されたら素直に喜べないけどな」
そうか!と後ろで乙骨先輩の声が聞こえた。
五条の奴、自分で自分の脳を壊して治していたのか。
馬鹿すぎる、どれだけ危険なことか分かってないのか。
「いつから六眼がないと言った?」
「あぁ゛!?」
「なん……だと……」
五条と夏油が固まる、その視線の先で宿儺の瞳が光を放つ。
それはまるで宇宙のような、青い光を孕んだ星々のように煌めく瞳。
アレは、間違いなく六眼だ。
「本物……なのか……」
「ククク、それは隣の男が詳しいんじゃないか?」
「本物だよ。少なくとも、呪力の流れや俺の眼はそう認識している」
なんで宿儺に六眼が、と声が上がる。
移植、いや五条しかない眼をどうやってやるのかという話だ。
ならば、自分で作り出したのか?
『奴はもはや両面宿儺ではない』
「宿儺、どういうことだよ!?」
『元は同一存在であったが分かるが、どうやら自らの魂を変質させたようだな』
変質……真人か、真人の術式によって肉体の構成を再構成したのか。
だが、どうやって六眼の構造を知った。
『違和感はあった。だが、奴との戦いの中で理解したのだろう』
「何言ってんだよ……おいおい勘弁してくれよ、見ただけで分かるだと?パソコンを見て中身の部品が分かるような荒業じゃねぇか」
「閉じない領域。宿儺のセンスなら出来なくない、かもしれない」
現実的な日下部さんの驚きを、乙骨先輩が否定する。
あり得ないを行なっている実績がある両面宿儺が、あり得ないことを出来ないとは言えなかったのだ。
スケールの小さい領域だってありえない、ならそれを出来る五条に比肩する存在ならば出来なくない。
「だからどうした!眼がよくなって、ハンデがなくなったくらいだろ」
「領域は互いに使えずとも、呪力操作ではこっちが有利だ。行くぞ、悟!」
「フン、負け惜しみを」
駆ける。
五条と夏油が挟むように両面宿儺に迫る。
肉弾戦をしながら、宿儺が術式を発動。
五条は防ぐか、夏油は出血をしながら殴り掛かる。
「貴様では釣り合わん」
「傑!」
「塵芥が、去ね」
宿儺の手が、夏油の腹に刺さる。
刺さった瞬間、内側から夏油が弾け飛んだ。
周辺のコンクリートやアスファルトが半球状に消失、その光景から術式による細分化ではないかと推測できる。
恐らく、突き刺すと同時に解か捌のどちらかを発生させたのだろう。
一瞬の硬直、五条の隙を宿儺が突く。
だが、それは空振りに終わる。
五条は拳を避け、そのまま宿儺の頭を掴み、近くのビルに押し付けてビルにヒビを入れる。
「がっ!?」
「ハッ!ざけんな!」
そのまま、五条が駆ける。
ビルに、宿儺を押し付けたまま、顔面を削りながら駆けていく。
「ぐうぅぅぅ!離せ!」
「うらぁ!」
領域展延による中和と反撃、それを行われた瞬間に五条は宿儺を放り投げた。
ビルに叩きつけられる宿儺、防戦一方だ。
「貴様、あの男とは友ではないのか」
「あんなんで死ぬかよ!動揺狙いなんて狡いマネすんなよ!術式順転・極ノ番」
「くっ!?」
「蒼星」
それは、通常の術式順転・蒼ではなかった。
ビー玉程の極小の蒼い呪力の渦が、散らばるように、夜空を彩る星のように、大量に発生して放たれたのだ。
流星群、まさに星のように蒼い軌跡を残しながら放たれた散弾が、宿儺の全身を穿つ。
避けようとしても、それは引力を伴い、自ら当たりにこさせる。
「ガハッ!?」
「終わりだ!」
「……クハッ!」
五条の拳が叩き込まれる。
黒閃。
黒い閃光が、雷が、宿儺の腹部を貫くように走り去っていく。
そして、そんな攻撃を受けた宿儺は笑っていた。
「捕らえたぞ」
「…………」
二度目の黒閃が宿儺の頭部へと叩き込まれ、頭部が弾け飛ぶ。
死んだのか、あの両面宿儺があっけなく、今ので……いや!まだだ!
頭部と腹部に穴の空いた肉体が、細かく揺れる。
揺れると同時に、宿儺の頭部が新しく生えるように下から再生され、腹部には巨大な口腔のような物が再生される。
三度目、黒閃が再生し始めた頭部を破壊する。
「領域展開!」
「なっ……」
だがそれは腹部の口、その口腔内に生えた腕による手印によって詠唱によって発生する領域展開によって無駄となった。
閉じる領域、五条の肉体ごと捉えたそれは数秒展開され、空中にて崩壊する。
「ぐっ……」
「堕ちるがいい」
傷だらけの五条が、切り刻まれた身体のままビル数階の高さから落ちていく。
その光景を、背中に虫のような羽の生えた宿儺が2つの腕を組み、2つの腕を下ろしたまま、見下ろしていた。
「術式反転……」
「まだやるか」
「赫!」
落ちながら、五条は呪力による防御よりも攻撃を選択した。
放たれたのは真っ赤な斥力の渦、自身すら包めるほどの巨大なそれが宿儺に迫る。
だが、苦し紛れの1発は難なくスライド移動するかのような動きで避けられた。
「悟!」
「おせぇよ」
地上に落ちる瞬間、どこからか肉片が集まってきて、それが夏油傑の上半身となった。
その状態で、まるで上半身のついたミミズのような見た目で夏油は五条を空中で抱き留める。
やはり生きていたかと、宿儺が見下ろしたまま呟いた。
「何故だ、なんで領域展開が使えるんだ!」
「簡単なことだ」
宿儺の身体が変形していく。
3つの顔、6つの腕、全身が硬質化して鋭いブレードのような腕が追加された。
肉体の、魂の、変質。
「もう一つの脳を作り出し、術式が焼き切れた場合に片方が治す。いわば、自己補完の極致よ」
「無法過ぎるだろ、その術式」
真人の術式による、二度目の変身。
変身しまくってた夏油が言うと皮肉が過ぎるな。
そして、その姿はまるで阿修羅のようだった。