「薄く、細く、見えづらくしているが、確かにある」
「何?何の話だ……」
「だが、無意味だ」
突如、宿儺の背後に巨大な赤い塊が現れる。
それは、五条悟の放った術式反転・赫。
五条と宿儺の背後に聳え立つビルを迂回して、背後から迫っていたのだ。
「どうかな」
術式順転・蒼。
その言葉が、戦場に響く。
宿儺を挟む、赫と蒼の星、それは衝突し、混ざり合う。
架空の質量を生成し、虚式・茈となったそれは、宿儺を飲み込む。
中心から押し潰しつつ、内側に圧縮するのか。
中心に引き寄せながら、内側から膨張するのか。
よく分からないけど質量がある、とだけ認識されてるそれは余波で五条と夏油を吹き飛ばす。
確信。
あれを受けてなお、両面宿儺は死んでいないという確信が俺達にあった。
「ゲームセットだ」
拍手の音と共に、俺の視線は空から地上を見下ろしていた。
砂煙の中に人影が見える。
それは、立っている人影、それは、鬼神と見紛う姿形をした呪術師。
「無意味と言ったはずだ」
両腕を組み、広げ、脱力した、六腕がそこにはある。
衣服はボロボロだが、無傷で立っている両面宿儺がいる。
「ッ!?避けろ、傑!」
五条の慌てる声と同時に夏油の上半身と下半身が切断されて吹っ飛んでいく。
だが、その切断面からは肉の蔓が伸びて、互いの上半身と下半身を無理矢理くっつけ復元する。
「はぁ?」
「危ない危ない、私でなければ致命傷だった」
「えっ、気持ち悪っ……」
それはそう。
本当に気持ち悪かった。
まぉ、呪霊の集合体だから、そんな事も出来るのだろう。
お陰で、その一部は上空にて俺達の移動用のマーカーになったしな。
「有象無象か」
「宿儺、お前は美しい」
見上げる両面宿儺、そして見下ろす俺達。
東堂の術式によって上空にいる呪霊と入れ替え、俺らは高高度からの落下をしていた。
そして空から、俺より先に落ちていく鹿紫雲の声が響く。
「だが、その身は孤独だろう」
「フンッ、元より王とは孤高である」
「ならばこそ、人の弱さを、人の強さを教えてやる」
鹿紫雲の身体が光り輝く。
なんだアレ、アイツ確か一回きりの術式って言ってなかったか!?
「初めて会った頃は、もっとストイックだったんだがな」
「パイセン……」
「とは言えだ、総力戦と行こうぜ」
鹿紫雲の身体に、光の輪が発生する。
背中には羽根のようなもの、その姿は天使のそれだ。
だが、体表は雷光のように眩い発光をし、見るのも困難だ。
全身がピカピカしている、ピカピカ人間か?
「ほぉ、肉体変化の術式か。面白い、遊んでやろう」
「余所見は油断大敵よ!」
「油断ではない、これは余裕というのだ」
背後から、オカマが出てくる。
なんだ、なんでアイツは手を向けて……なんか出た!?
宿儺の身体を、半透明の手のようなものが掴み、握り潰そうとする。
「シャイターンの腕、ザバーニヤ!?」
「違う、ハートキャッチよ!」
「プリキュアだと!?」
「ヌッ!」
半透明の腕が、宿儺を握り潰し、サイコロ状に切断される。
ぐぁぁぁ、と声が聞こえたと思えばオカマの腕から出血があった。
ダメージフィードバックの縛りか。
そして、宿儺の術式による切断か。
「細切れにするつもりだったが、妙だな……貴様の仕業か」
「おっと、バレてしまったか」
「鬱陶しい蝿が、術式の弱体化か」
「おいおい、黒人差別かよ。これだから、過去の人間は」
物陰から、なんか黒人ダンサーが現れる。
ねぇ、なんで踊ってんの?歌姫先生みたいな術式?
「面白い、総力戦か」
「シン・幻獣琥珀!4分11秒、限定で俺は肉体を電気の性質を帯びた呪力で最適化し続ける!」
「術式開示!奇しくも、似たような術式か!」
鹿紫雲が駆ける。
宿儺へと近づき、宿儺が逃げるように背後に飛んだ。
何故、そんな疑問が湧く前に宿儺の周囲にあるガレキが飛んでいく。
どういうことだ、何をしているんだ!?
離れていく鹿紫雲達を見ながら、悠仁や日車、乙骨先輩達と地面に降り立った。
いかん、追わなくては……誰だ!
走り出そうとした俺を乙骨先輩が止める。
「近付いちゃダメだ」
「何言ってるんですか、鹿紫雲1人にやらせるなら、全員で降りてきた意味がない」
「乙骨の言う通りよ……」
「お前は、オカマ!」
ミゲルに支えられながら、オカマが歩いてくる。
確か、名前はラルゥ……夏油を王にするとかいう、よく分からんオカマだ。
オカマは右手を掲げて見せる。
少し、水膨れの出来たそれだ。
「見なさい。宿儺を掴んでた腕、あの子が近付いただけでフィードバックで焼け爛れたわ」
「焼け爛れた……」
「アレは雷そのものよ、近付いただけできっと焼き焦がす」
「いや、普通に電磁波の影響だよ。電子レンジみたいな」
おっす、と夏油に支えられながら五条が歩いてくる。
生きてたんかワレェ!自爆技みたいなので吹っ飛んで姿見えてなかったけど。
「どうやら肉体を望む形に変化させる術式みたいだね。でも肉体を呪力にすべて変えた瞬間、終了と同時に消えてなくなるみたいだ」
「電磁波ってのはどういう事なんだ?」
「鹿紫雲の身体から放たれるマイクロ波が水分子を振動させて熱を発生させてるんだ。他にも宿儺に磁場を帯びさせて、鉄筋コンクリートがぶつかるようにしている」
オカマは両手で顔を覆って、横になっていた。
黒人がオロオロしてる、恥ずかしかったんだね。
ドヤ顔であんなこと言ってたもんね。
「宿儺が動いたぞ!」
「日下部さん、それにパンダ達も!」
後退していた宿儺が前に出る。
宿儺の周りには、籠のような形の呪力。
彌虚葛籠か!そうか、使えるのか。
「やろう……手強い手を使ってやがる」
「どういうことだ!?」
「簡易領域と違って、あれは平安に流行った彌虚葛籠だ。あれで術式を中和してるのだが、簡易領域と違って動き続けられるし、構えている間は出力が強く安定する」
「うおおお!ってことは、あの腕を使って使い続けると強いってことか!?残り四本もあるのにズルじゃねぇか!」
解説の日下部と実況のパンダと化した奴らから聞こえてくる情報に、なるほどと納得する。
つまり、カエルと融合した蝦蟇仙人みたいなもんか。
中和しながら戦ってるわけだ。
「ザ、ザケルだ!バオウザケルガだ!」
「おいおいマジか、龍を作ったのか!?」
鹿紫雲の身体から巨大な龍が飛び出してくる。
そして、鹿紫雲が空を駆ける。
まるで空中に道があるかのように、スライド移動の如き速さで駆けていく。
速すぎる、人間やめてるだろ。
「ガレキが浮いたぞ!うお、飛んでった!レールガンだ!」
「宿儺に穴が、あぁくそ!すぐに再生して……おい、アレは砂鉄か?」
「合体した!?でっかい剣だ!でっかい剣になって……ゲートオブバビロンだ!」
四方八方からビームのような閃光が宿儺を貫き、その上で周囲から砂のような黒い砂煙が剣を模っては飛んでいく。
柄はない、あるのは剣の刀身だけ、それが鹿紫雲の周りを旋回しながら宿儺にぶつかる。
キンッと、金属同士が当たるような音と火花が散る。
「つくづくこの世は、俺を飽きさせぬな」
「フシュルルル!」
「人の言葉すら忘れて畜生と成り果てたか」
その問いへの、鹿紫雲の返答は口からの放電であった。
それを、宿儺は手を向けて防ぐ。
その手の前から、鹿紫雲と宿儺の間を企てる骨の門にて。
「領域展開?いや、その象徴だけの召喚?」
「分かんねぇのか日下部!口寄せ羅生門だ!」
「何言ってんだオメェ!」
俺もそう思う、パンダの言ってる意味が……ジャンプか!分かったぞ!
まさか、アイツら悠仁からジャンプの記憶を読みとり戦いの中で強くなったのか?
そんな、少年漫画の世界じゃあるまいし……いや、似たようなもんか。
だが、鹿紫雲は既に動いていた。
防がれるのがわかっていたのか、宿儺の懐、門の裏側にいつの間にか移動し、肉弾戦を挑む。
触れられない制約も、肉体がなければ問題ないと言わんばかりにだ。
「宿儺が、押されている?」
「違う、鹿紫雲が先に動いてるんだ!?」
「思考の先読み、そうか電気信号!なんだアイツ、なんでもありか!」
鹿紫雲が手を掲げると、そこに向かって宿儺が殴る。
殴れば、自ら身体を引き、顎下を拳の真上に持ってく始末。
逃げる先は待ち構える鹿紫雲の前。
「なかなかやる、だが!」
鹿紫雲が背後に飛ぶ、何かを察して逃げようとした。
しかし、それよりも早く、宿儺の身体から周囲に格子状の線が走る。
斬撃だ!自分を中心に、斬撃の檻を作ったか!
鹿紫雲が、全身を切り刻まれて霧散する。
「か、鹿紫雲ー!」
「くっ……時間切れだ」
「い、生きてたー!?えっ、なんで、さっきまであそこに居たのに!」
「バラバラにされたが、全身が雷だったからな。強制終了の縛りが来る前に逃げてきた」
「一度使ったら戻れないはずじゃ……」
「つまり、アンチATフィールドから自身を確立することで復元出来るってことだ、わかったかパンダ!」
「俺、パンダだけどその理屈がおかしいのは分かる……」