呪術じゃねぇって!念能力だろ!   作:nyasu

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呪術じゃねぇって!念能力かもしれない

赤い光が消え失せると同時に、嵐が一気に静止した。

止まった血液は、霧のような形から雨のように集まり、地面に落ちていく。

その血の雨に打たれながら、宿儺が膝を着く。

立ったまま、宿儺を見下ろす悠仁。

身体が崩壊し始める両面宿儺の姿がそこにあった。

 

「俺は、臓腑に蠢く呪詛を吐き出さずにはいられなかった……」   

「そっか……」

「次こそは、生き方を変えてもいいかもしれん……」

 

ただ、悠仁は見ているだけだった。

そして、身体の半分が塵芥のようになっていく宿儺。

呪いとして、呪力で構成された肉体が、世界に還っていく。

終わったのだと皆が思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは駅のホームだった。

 

「よぉ……」

「なんだこれは……」

 

宿儺の前に、崩壊する前の街並みが広がる。

否、それは今までいた場所ではない。

別の、何処か、宿儺の脳に情報が叩き込まれる。

それは虎杖悠仁が生まれた地元の駅であった。

知ろうとした瞬間、既に知っている状態になっていた。

 

「失せろ!」

 

術式の発動、それにより目の前にいた虎杖悠仁が粉微塵に切り裂かれる。

戦いの中で宿儺が会得した、限定範囲における超高速術式展開、それに伴う一瞬での鏖殺。

伏黒恵の腕を削り、何なら命を奪いに来た三人の刺客すら容易く葬った一撃。

閉じない領域、その範囲を門によって狭める事での威力の増幅。

それの簡易版とはいえ、今の一撃で虎杖悠仁は死んだ。

 

「無駄だよ」

「……はぁ?」

 

はずだった。

少し離れた駅のホームに虎杖悠仁が立っていた。

 

「ならば」

 

刻む、刻む、刻む。

これが虎杖悠仁の領域ならば、奴と共にいる己の領域展開と同じと考えられる。

ならば、己は領域展開をしているが故に縛りに抵触せず使える。

その多対一で使えるという縛りを、対象を1人に絞ることでより威力を上げる縛りに縛り直す。

 

「竈」

 

炎が灯る。

切り刻んだ粉塵に爆発性の呪力を帯びさせる。

 

「開」

 

竈の熱により爆轟遷移、刹那の高温、衝撃波、減圧を超加圧で領域内の生物を死に至らせるそれは、現代のサーモバリック爆薬、燃料気化爆弾の次世代型に当たる気体爆薬と同等の破壊力を齎す。

自らが立っていた駅事、大爆発を起こして全てを消し去った。

 

「だから無駄だって」

「なん……だと……」

 

だが、気付けば全てが元に戻っていた。

ただの無人の駅、佇む自分、そして憐れみの目を向ける虎杖悠仁。

 

「なんだこれは……感情由来の呪力による精神感応?貴様の精神世界とでも言うのか」

「正真正銘の領域だよ」

「分からぬ。なんだこの領域は、何も術式など付与されてないはずだ」

「いやされてるよ。ただ、デカすぎて六眼でも見きれないだけさ。何もないだろ?」

 

宿儺の目には、肉体を変じて同じ時代に複数存在出来ないであろう六眼を再現したことで呪力の流れが見える。

だが、領域内を見ていても何も分からない。

ならば、術式開示となるが説明を聞かざるを得ない。

 

「俺の領域、呪術廻戦はシンプルな効果しかない」

「呪術廻戦……」

「呪いが関わる、あらゆる術の否定。この世界では呪術、呪力や術式で起きた事はなかったことにされる。俺が発動させれば、全部なかったことになるんだ」

「ならば死ね」

 

頭を切断する。

どんな術師も、術式がある脳が切断されたら術式を発動できないはずだ。

反転術式など頭で呪力を掛け合わせるからだ。

 

「痛ってぇなぁ……話してる途中だろうが!」

「馬鹿な……術式の中和という次元ではないぞ!?」

 

にも関わらず、無傷の状態で虎杖悠仁が立っている。

ということは、目の前にいる虎杖悠仁は本体ではないということか。

ならば痛みを感じるのは縛りとでも言うのか。

 

それは、なんと非効率で無意味な縛りだ。

心が折れた時、この領域が崩壊すると同義ではないか。

 

「話しながら行こうぜ」

「待て、どこに行く」

 

何処かに歩き出す虎杖悠仁を宿儺は追い掛ける。

確かに術は発動するし、呪力は練られる。

 

領域内であるから、領域の発動主が再構成しているというなら分かる。

だが、それには呪力を消費しているはずであり、そしていつかは領域の維持が出来なくなるはずなのだ。

 

「フン、時間稼ぎか。領域内で貴様を殺せないのは分かった。だが、いつか貴様の呪力が使い切られたなら――」

「あー、それも無理」

「何?」

「この領域内じゃ、よく分かんねぇけど維持に必要な呪力は宿儺からも徴収されてるらしい。なんか、そういう知識が入ってる」

 

徴収だと?

ならば、俺の呪力が奪われているということだろうか。

そんな馬鹿な、それだけで説明できるような事ではないぞ。

 

「よく分かんねぇけどさ、俺が諦めない限りずっと戦い続ける。それが俺の領域展開って奴さ」

「ふざけたことを、ならば貴様を殺し続けて心を折れば良いだけよ」

「お前も分かんねぇ奴だな。呪術じゃ何も出来ないし、俺が諦める訳ないだろ。何度も殺されるだけで、何で諦める理由になるんだよ」

「お前……」

 

虎杖悠仁の中に自分がいるからか直感的に分かる。

この男は、本気でそのような妄言を吐いている。

当たり前のように死を肯定し、死を繰り返そうと戦う気概がある。

 

呪うという術を否定し、命を廻らせ、戦い続ける。

故に、呪術廻戦。

そんな生き方は、そんなものは、凡そ人の生き方ではない。

まるで、呪いを祓うための歯車のような生き方。

 

「化物め」

「酷いなぁ、今時はコンプライアンスとかあんだぞ。これだから頭が平安の奴はさ」

『ククク、一理ある。お前の生き方は化物地味過ぎている』

「宿儺までそんなこと言うのかよ……アレ、あっちも宿儺か?」

 

なんだアレは、搾り滓とは言え、元は俺であったはずだろう。

そんな俺が、虎杖悠仁の身体と共生している。

あり得ない、そんなあり方は、あってはならない。

 

『あってはならないか?呪いとしか生きれなかった俺よ』

「宿儺?」

『お前が否定した生き方も、存外悪くないもんだぞ……』

「おい、何言ってんだ?おい、あっ、汚ねぇ!狸寝入り決め込みやがった!」

 

それだけ言い残して、眠りにつく己の姿が目に映る。

何故。

 

「まぁいいか、行こうぜ宿儺」

「何を言っている?」

「殺し合うのは飯食ってからでもいいだろ」

 

そう言って、背中を見せて何処かに向かう虎杖悠仁。

腕の一捻りで、その命を奪われるというのに、なんと無防備な。

何故。

 

「来たか、チッ……本当に連れてきたのか」

「みんな待たせたな。ごめんごめん」

「貴様らは……」

 

頭に痛み。

目の前にいる複数の虎杖悠仁。

彼らが呪胎九相図だという知識が叩き込まれる。

虎杖悠仁が説得して、何度も話し合い、食べ物で懐柔しようとしたやり取りまで流れてくる。

ええい、ゴミみたいな情報まで叩き込むな。

 

しかも、領域内だからか本気で嫌悪していることや、本気で此方と仲良くなろうとする意思までが伝わってくる。

感情由来の呪力による副作用か。

本気で、この虎杖悠仁という小僧は俺を改心させようとしている。

 

「やっぱさぁ、焼肉が一番美味いと思うんだよね。この世界、いつの間にか食い物用意されるし」

「こんな奴を飯に呼ぶなど、呼ぶだけならまだしも何で歓待せねばならん」

「兄ちゃん!仲良くするって約束だろ!」

「フン……ほら、焼けたぞ。食え」

 

用意された皿に、肉が盛られる。

少なくとも食卓をぶちまける気は失せている。

今までの俺ならば、此奴らを血祭りに上げていたのに、これもあれも領域効果による感情の共有、感情の感染とでも言えるような現象のせいだ。

 

「寄越せ。それは俺が焼いた肉だ」

「現代のルール教えてやるよ、網の上はみんな自由なんだぜ」

「小僧!表に出ろ、俺が焼いた肉を食いやがったな!」

「おい、肉ばかりでなく野菜を食え!」

「邪魔をするな!おい、野菜ばかりいれるな!オレは肉だけでいい!」

「ご飯あんじゃん!食べたい人、こっち来て!」

 

やめろ。

なんだこの感情は、小僧の感情が俺の物のように振る舞ってくる。

他の九相図の感情も、まるで自分の物のように、我が物顔で誤認させに来る。

こんな感情は、俺の物ではない。

これは、偽りの感情だ。

 

「おい、泣いてんのかよ!兄ちゃん!」

「はぁ!?ふざけるな、俺は何もしてないぞ!」

「何やってんだよ兄ちゃん、悠仁こっち来て!」

 

流れてくる。

今までの一生。

釘崎、伏黒、五条。

 

違う、これは俺ではない。

これは虎杖悠仁の記憶、奴め精神汚染こそが領域効果だったか。

 

パンダ、東堂、乙骨先輩。

呪霊と戦う記憶、羂索や俺の姿が想起される。

そして、それに付随する怒りや悲しみの感情。

他者に満たされる事など考えたこともない、俺にはない弱者の感情。

 

俺が、俺でなくなっていく。

俺は自分が許せなくなっていく。

虎杖悠仁の感情に、存在しない記憶に、自分が塗り替えられていく。

生き方を、歪められる。

 

「燃えてる燃えてる!氷!氷!」

「ホルモンか!脂が多かったから、煙がヤバい!」

「全くだ……貴様らのせいで、煙が目に染みる」

「文句があるなら網を外せ!ええい、赤血操――」

「まずい!兄ちゃんを止めろ!」

 

馬鹿騒ぎする奴らの中に俺がいる。

ずっと昔から付き合いのあるように、錯覚させられる。

そして、そんな生き方も悪くないと思わされてしまう。

 

『まだ、呪いでいたいのか?』

「俺は……」

 

俺は、どうしたらいい。

 

「おい宿儺!火事になったから逃げようぜ!」

「悠仁、ボーリングあるぞ!」

「おっ、血塗ナイス!おーい!ボーリング行くぞ!何してんだよ」

 

そうか、これが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次こそは、生き方を変えてもいいかもしれん……」

 

ただ、悠仁は見ているだけだった。

そして、身体の半分が塵芥のようになっていく宿儺。

呪いとして、呪力で構成された肉体が、世界に還っていく。

終わったのだと皆が思っていた。

 

「グッ!?に、逃げ……」

「宿儺?」

 

宿儺の身体から呪力が溢れる。

肉体が膨れ上がり、歪に広がっていく。

何かが起きていた。

歪な肉体は、それは変形した人の顔だった。

 

「ギャハハハ!虎杖悠仁!バカじゃねぇの、なぁおい!」

「お前……まさか!」

「つまんねーよ!丸くなりやがってよ!」

 

肉体がどんどん広がっていく。

人の形をなしていない、ゲル状の肉の塊が膨れ上がっていく。

有り余る呪力を肉体の構成に振り切っているんだろう。

 

「呪いは呪いらしく生きるしかねぇんだよ!さぁ、やろうぜ!」

『いたな、話すのは何度目だ?』

「そっちにもいたな!今さらクズが変われた気でいるんじゃねぇよ!」

『当然だろう。負けたんだからな』

「ざけんなよチクショー!俺ばっかりガキみてぇじゃねぇか!」

 

それは真人の復活。

綺麗に終わらせるには余りにも蛇足。

宿儺が弱ったからか肉体の支配権を奪った存在。

 

「全員ぶっ殺してやるよ!」

「いいや、それは無理だ」

 

お前は要らない存在だし、最後に殺すのが俺とは皮肉だな。

俺という異物もいらない存在だからだ。

 

「はぁ?」

「退魔の剣は呪霊特攻なんだ」

 

俺の右腕の剣が、正の呪力を纏った剣が肉塊を貫く。

それだけで、呪いとして最も呪いらしい呪霊を祓っていく。

呪力が負のエネルギーなら、正の呪力ってのは生命エネルギーだろうか。

それってまるで、あぁ、やっぱりそうじゃん。

 

「悠仁、やっぱ思ったけどさ」

「ギャァァァ!?ふざけんなぁぁぁ!」

「何?」

「殺す、殺してやぎゃぁぁぁあ!」

 

光が伝播する。

それと同時に復活した真人の身体が崩壊していく。

効きすぎだろ、強すぎるな。

 

「呪術じゃねぇって!念能力だろ!」

「いや、十種影法術だけど!?」

 

いや、やっぱり生命エネルギーだし!

呪術じゃねぇって!念能力だろ!

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