隻眼ウマ娘(中二に非ず)   作:アンノーン

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何故、あんなことを言ったのだろう。
楽しい?
そんなはずはない。
楽しくなんてない。
苦しいだけだ。
これは、私の贖罪。
楽しむ?
そんなこと、ありえない。
あってはならない。
だから、あれは嘘だ。
いつも通りの。
私が、私としてふるまうための、いつもの噓。

…本当に?
分からない。
私には私が、分からない。



6月日。
その日は、特別な日だった。
そして、特別な日に成りもした。
良く晴れた日だった。
私は、今思ってみればだけど、この日初めて。

レースが楽しいと、自覚したんだと思う。


第1R「───Road,」

歓声がうるさい。

トレーナーに送り出されたその"世界"で、私の最初の感想はそれだった。

日陰の、コンクリートの道から抜ける。

誘導され、(パドック)に入る。

歓声で空気が、胎の奥が揺れている。

淡々と、歩く。

歩くのをやめてしまえば、気づいてしまう。

足の震えに。

歩け。

歩け。

 

『1枠1番…』

「ねね、前のレース見た?」「見た見た!あれすごかったよね!?」「今年の短距離はあの子で決まりかな?」「かもねぇ~?」「この後の新バ戦何個だっけ?」「あと三つ、かな?」「なんかドカッと沸かせてくれる娘いるかなぁ」「「楽しみだね!」」「1番…おお!あの子気合入ってるなあ!」「でもなんつーか…ちょっとちんまい子だな」「おい、あいつ見ろよ、まだ上着脱いでないがありゃわかりやすい…」「ああ、既に()()()()()()って感じだな…」

 

ああ。

聞こえる。

此処を歩けば、聞こえてしまう。

見えてしまう。

観客の見定める声。

ワクワクとした顔。

これが、パドック。

 

『5枠5番 フライトハット』

『1番人気のウマ娘です、ぜひ期待に応えてほしいですねぇ』

 

”Waaaaaaaaaaaaaaahhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!!!!!!!!!”

 

歓声がひときわ大きく上がる。

自信満々な顔で上着を脱ぎ棄てる少女は、歓声を全身で受け止めるように両の手を広げた。

この新バ戦の、主人公が決まった。

私は小さく手を握り締めてステージを見る。

まだ誰も、誰がどんな走りをするか知ってはいない。

それでもわかる。

頭一つ抜けたその気配。

身体にまとわりつく、筋肉の束。

ステージを降りてパドックの円に戻るその姿すら、私は眩しく感じた。

 

「あの歩いてる子、身長高いなぁ」

 

「ライブ映えするね!」

 

「お、嬢ちゃんはライブ目当てかい?」

 

「うん!パパと一緒に来たんだー!私もいつかあそこに立ちたいなぁ…おじさんは?」

 

「お、おじさん…うん、おじさんもライブ楽しみだなぁ」

 

誰も私など、見ていない。

期待も、していない。

 

「歩け」

 

私は、私たちは挑戦者。

勝てるのかな。

一勝もできずに終わったらどうしよう。

 

「歩け」

 

ウィニングライブの振り付け、大丈夫かな。

間違えないかな。

恥かかないかな。

 

「歩け」

 

黙れ、私。

歩け。

不安を、圧し潰せ。

 

私の番。

パドックの、小さなステージに上がる。

 

『6枠7番 ニンブルターン』

『7番人気のウマ娘です、少し緊張気味でしょうか?』

 

上着をバッと脱いで、震える拳で強く握り潰す。

さっきのような大きな歓声は上がらない。

流れ作業のような応援の声と、まばらな拍手。

 

この数十の声を、本物の歓声に変えることが、私にできる?

 

キッと前を睨みつける。

ああ。

為さねばならない。

それが彼女への、私の唯一の贖罪なのだから。

 

右目が、痛む。

 

「ねぇねぇおじさん、あれって何のポーズ?」

 

「あっ…あれは、ね…きっと、封印された自分と戦ってるんだよ…」

 

「そうなの!?かっこいい!おじさん詳しいんだね!」

 

「ああ…おじさんにも、あんな時期があったんだ…」

 

…なんだか優しい目線を一定数感じる。

 

再び、円に戻る。

物理的な距離が近くなって、歓声が、拍手がまた近くに寄ってくる。

ああ、もう私を誰も見ていない。

(たーちゃん)を、見ていない。

ごめんね。

きっと私じゃなくて貴女だったら、こうはなってなかった。

でも。

不格好な走りでも、きっと勝ってみせるから。

 

────────そう怖い顔をするんじゃない

 

…?

今、何か。

 

『8枠11番 タップダンスシチー』

『4番人気のウマ娘です、最奥ながらかなり注目されていますね!』

 

”Waaaaaahhhhhhhh....!!!!!!”

 

さっきほどじゃないが、大きな歓声が上がった。

歓声の先、ステージに立つのは、少し大柄なクラスメイトの少女。

いつだって堂々としている少女は、ここでも変わらず胸を張ってみせた。

なんで彼女は、競い合うのを怖がらないんだろう。

潰れることが怖くないのか。

潰してしまうことが怖くないのか。

少し、羨ましい。

大胆不敵なクラスメイトの少女は更なる喝采を煽るように、優雅にくるりと回ってみせた。

軽やかな動きに歓声が上がる。

彼女もまた、主役の一人。

眼が合う。

それと同時に私は理解した。

 

──────ああ、小さく投げかけられた声は、貴女のものか。

 

私は奥歯を少し嚙み締める。

にやりと笑う彼女は、口パクで私にこう言った。

 

 

 

 

 

 

さあ、楽しもうじゃないか。

私たちの、披露宴を。

 

 

 

 

 

 

───── 阪神6R『メイクデビュー』芝1600m 右回り 天気:晴れ バ場:良 ─────

 

『阪神レース場 第6レース メイクデビュー芝1600m!出走ウマ娘は11人、各ウマ娘続々とゲートに向かいます!』

 

”Chak...”

 

後ろで鳴る金属音。

足元の踏みしめられたターフの感触。

日を遮る(ゲート)の影。

ああ、ここには案外、歓声は届かないらしい。

コーナーの向こうの案内放送だけがうっすらと聞こえる。

 

横のウマ娘の息遣い。

 

枠の、金属の冷気。

 

「フゥ………………」

 

さあ。

 

『最後の1人がゲートに入ります!全ウマ娘ゲートイン完了…』

 

走れ。

 

”GaccccchaN!!!!!!!!!!!!”

 

『今スタートしました!』

 

”ddddddddddddd!!!!!!!!!!!!”

 

一瞬頭を振って左右を確認する。

出遅れ、無し。

嗚呼。

不安だ。

選抜レースとは違う。

誰もが、完璧に走る。

私はどうだ。

 

いや、今は違う。

 

それを考える時じゃ、無い。

 

まずは練習通り前に!!!!!

 

得意な走りも何もない私は、トレーナーと話し合ってたったひとつ、シンプルな作戦を決めた。

走りが拙い自分は、周りのペースに確実に引きずられる。

ならまずは先頭に立って、レースのペースメーカーになる。

冷静に、自分のペースで走ること。

まずはそれだけを意識する。

 

『さあまず上がってきたのは3番ブルーピューマ!そのすぐ後ろにニンブルターン、少し離れてタップダンスシチーと続きます!』

『1番人気、5番フライトハットは6番手のポジション!冷静に先団で脚をためます!』

 

タップダンスシチーが最奥だったのは幸運だったな。

ちらりと左後ろを見る。

移動距離に手間取られて最前に入り逃し、実質先行組の先頭。

実質逃げは2頭、敵は前のブルーピューマだけだ。

 

走れ。

 

追い抜け。

 

そこは私の場所だッ!!!!

 

『ニンブルターンどんどんと詰めていく!ブルーピューマと並ぶが…抜け出せない!』

「クソッ!」

 

速い。

追い越したいのに前に出れない。

再び前を譲る形だ。

 

もう一度!

 

(抜かせる?ンなわけないっしょ!)

 

「ぐぅぅッ!」

 

届かないッ!

いけるか?

もう1回?

無理だ、これ以上のアタックは無駄な体力消費。

二番手で進めるしかない。

 

ならせめて、この場所を。

 

(…ターン、君は少し右側がおろそかすぎるね!)

 

(逃げが競ったからかな…?うん、少し全体的に早いな…なら早めにっ!)

 

…?

右に人影…タップダンスシチー!?

どこから!?

貴女はさっき!

 

「左後ろ…いたでしょうが…ッ!」

 

まずい!抜かれる!

体を寄せてルートを…間に合わないッ!

 

『さあ上がってきたタップダンスシチー!ニンブルターンを避け、ブルーピューマに並びます!』

 

「はぁ!?(奥からはるばる上がってきたワケ!?)」

 

私の右を通り抜けたタップダンスシチーはそのまま前のブルーピューマに並ぶ。

早くも溢れ出る汗を拭い、気高くも進んでいく。

 

ブルーピューマが驚きの声を上げ、一瞬体がぶれた。

その隙を逃す彼女のはずもなく。

 

「通らせて貰うよ!」

 

『なんと!11番タップダンスシチー先頭に立ちました!』

『しかし、かなりのペースで上がってきましたね…最後まで持つのでしょうか?』

 

クソッ!()()()()()にペースを取られた!

彼女、タップダンスシチーは所謂"選抜一発組"。

実力の確約された、エリート中のエリート。

ブルーピューマも苦虫を嚙みつぶしたような顔をしていた。

 

(こいつのペースにさせたくなかったんだけどッ!)

 

『さあ、後ろでも動きがありました!四番手は変わらず8番タンザクウル、しかしそのすぐ後ろにフライトハット!少し前に上げてきました、これは早めに仕掛けるという判断か?』

『タップダンスシチーを警戒したかもしれませんね』

『先頭が3コーナーに入ります!』

 

コーナーに入る。

もう、直線が終わってしまった。

ハナ争いはここまで。

三番手の位置でコーナーイン、正直想定の中でも最悪に近い。

こっからは根気勝負、後ろとの追い抜き合戦…ッ!

 

ああ、やっぱりッ!

 

やっぱりここできつくなるッ!

 

「見えないッ…!」

 

右回り。

それはつまり、後方は全員自分の真後ろより右側に来るという事。

後ろを確認したくても、私には右目がない。

左側しか見えない私には、()()()姿()()()()()()

 

さっきもタップダンスシチーに右から抜かれた!

どうする!?

限界まで体を右に寄せる?

いやそれだとダメだ、内に入りすぎると今の私じゃ遠心力に持ってかれる!

 

『最後尾のユメマクラも現在コーナーに入りました!縦に長い隊列ですね?』

『ハナ争いがかなりの勢いでしたし、タップダンスシチーが前に上がるため横を抜いて行きましたからね…それに引っ張られて、全体的に速めのペースになってしまっていますね』

 

2番人気のタンザクウルは今どこだ。

フライトハットは。

最後尾はどこだ?

 

『縦一列、綺麗に並んでいます』

『梅雨に入り最近は重バ場続きでしたがここ数日は晴れ続きでしたからね、安心して内ラチを走れる後続のウマ娘はかなり有利ですね』

 

ブレる身体。

堪えろ。

これ以上外に膨らんだら、内を抜けられる!

 

もう4コーナーだ。

戦況が読めない。

タップダンスシチー、ブルーピューマはいつ下がる?

私は何処にいる。

 

(うーん、ちょっとヤバげ?中団全然()()()()()()し…行っちゃう?行っちゃうか!)

 

(クソ、()()()()()!)

 

『ここで上がってきました!3番人気、6番メイショウワトソン!4コーナーに入ってすぐ中団を抜け出しましたが…ここからロングスパートという算段でしょうか!?』

『4コーナーを曲がりきる前に先団に追いつかないと追いつけないと感じたのでしょうね、9番プラスハート、1番シルクムービーは少しおいて行かれた形になります』

 

下り坂に入った!

4コーナー後半、こっからはすぐに直線、それから上り坂!

音でわかる、後ろはもうほぼくっついてきてる!

前は!?

…!

()()

ブルーピューマはそろそろきつい!

並ぶッ!

後ろが来る前にアドバンテージをッ!

走る。

曲がる。

下る。

無理やり、前に出る。

風よけがいなくなった私の顔に、一気に風が吹きつける。

右側は空いてない。

左、外側から!

大回りは距離の無駄だけど…仕方ないッ!

 

横を通り過ぎるその一瞬。

ちらりと、ブルーピューマがこちらを見て、何かを呟いた気がした。

ごめんね。

 

そっち側(右目)じゃ、わかんないんだ。

 

『ブルーピューマ苦しいか!ニンブルターンここで二番手に出た!…ッブルーピューマ体勢を崩した!?一気に減速していきます!タンザクウル、フライトハット、ブラックハローが抜いて、現在6番手!』

『ニンブルターンは少し外に膨らみながらの追い抜きになってしまっていますね』

 

(なに、それ)

 

(マヂごめんね~?サイスーシエルちゃん、ブルーピューマちゃん、抜いちゃうね?)

 

(いまのは、なに?おかしいでしょ)

 

(はいバイバイ…ブルーピューマちゃん、どったの、その顔…?)

 

『最終直線に入った!メイショウワトソンが2人を超えて6番手に!タンザクウル、フライトハットは変わらず3、4番手!』

『しかしこれは…前のニンブルターンが外にそれているので前が大きく開いていますね!』

『最終直線はなんとほぼ全員フリーの状態!誰が来てもおかしくない!』

 

(なんでなんでなんでなんで?気持ち悪い。何あの目。なんであんななんも写さないような暗い目で走ってるの?おかしいでしょ!それに、それに!)

 

「なんであいつ、一ミリも、汗かいてなかったの?」

 

『さあ!各ウマ娘一気に坂を下って行きます!シルクムービー、プラスハート、ユメマクラもコーナーを曲がり切りました、ここから間に合うか!』

 

”Waaaaaaaaaahhhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!”

 

直線に入った瞬間、左耳に歓声が飛び込んできた。

そうか、もうこんなところまで。

でもこれで後ろがまた見える…ああクソッ、体が左側にブレてるから皆右後ろにっ…!

失敗だった!あそこで無理やり抜くべきじゃなかった!

 

見えない。

 

こんなにも、見えない。

 

片目がない。

私はそれの本当の意味を、分かっていなかったのか?

足と息が苦しくなってきた。

最初に競るのはやっぱり無理があった。

でも。

行くしかない。

もう、過ぎてしまったことだ。

 

足が縺れそうになる。

もうあと何百mもない。

耐えろ。

耐えなきゃ抜かれる。

 

 

「「くそッ」………え?

 

 

ダブった?

誰の声だ。

前から聞こえた。

 

前?

 

前にいるのは。

 

1人しかいない。

 

…。

 

まさか。

 

ああ、やっぱり。

 

体力の限界か。

タップダンスシチーが、下がってくる。

下り坂だというのに。

汗を滴るほど垂らして、苦し気に脚を縺れさせながら、下がってくる。

あんなにも、絶対的に見えた彼女が。

落ちていく。

 

「ぁ…」

 

目が、合った。

 

見たくなかった。

そんな顔。

敵なのに、なぜか彼女には絶対的であってほしいと、そう思っていた。

どこまでもウマ娘らしい、彼女には。

 

でもそれはどこまでも身勝手な。

私の、押しつけがましい理想像でしかなかった。

現実の彼女は私と変わらないただの新人(ポニー)なのだから。

 

彼女は落ちてくる。

苦しい顔で。

私に近づいてきて。

私と並んで。

私に、抜かれた。

悲しいけど、私は前を向いた。

憧れたウマ娘を、追いていくために。

 

『ああーっ!タップダンスシチー、失速していきます!やはり最初に飛ばしすぎたか、苦しげな表情です!ニンブルターンと並んで…抜かれた!そのままウマ込みに呑まれて…』

 

──────しかし、私と並んだ彼女は、一瞬きょとんとして。

 

──────なぜか大きく、笑ってみせた。

 

(嗚呼、やっぱり。前々から思ってたけど)

 

()()()()()()()()()()()()()

 

『いや!下がらない!タップダンスシチー再び加速した!こらえました、タンザクウルに抜かせない!坂を下りきって…残り200m、上り坂に入りました!』

 

ウソだ。

なんでそこから、加速する。

一度抜いた。

落ちたはずだった。

なのに何故。

また来る。

横に、居る!!!!!!!!!

 

ああ、やはり"モノ"が違う。

 

これが。

 

私が見た、魅せられた。

 

『ウマ娘』なんだ。

 

(ウッッッソ!?あー、これ私今行かなきゃまずいかもね!)

 

『来た来た来た来た!上がってきたぞ!一番人気フライトハット、タンザクウルを抜いて上り坂で仕掛けた!ここから差し切れるか!』

『抜かれたとはいえタンザクウルも加速してきてますよ、後ろからはブラックハロー…抜かれた!やってきましたメイショウワトソン!先頭集団に追いつきました!』

 

(イマここでいかなきゃ、ムリそーぢゃん!?気張れアタシー!)

 

来る、来る。

後ろから、来る。

脚をためていた、暗殺者たちが。

まだ、正面の時には見えてない。

視界端、顔傾けて映る。

ってことは、もう真横だ。

誰だ。

タップダンスシチー。

フライトハット。

タンザクウル。

メイショウワトソン。

 

『ユメマクラ上がってきた!プラスハート、シルクムービー、ブルーピューマ抜く!一方先頭は残り100mを切りました!』

 

ユメマクラ、今聞こえた。

実況。

確かにユメマクラと言った。

ユメマクラは確か最後尾?

そう、そうだ。

じゃあ後ろ4人は今固まってる。

前は4、いや自分入れて5人。

あとの二人は?サイスーシエル、ブラックハロー…ブラックハローはさっき聞こえた気が?

分からないがおそらくどちらも中団。

視界端、100の標識、中団は間に合う?

上り坂、ハイペース…間に合わないッ!

後の敵は全員前!

 

『来る!なんて末脚だ!ユメマクラ──────!』

 

坂が終わる。

 

後は短い、平坦の路。

 

「ハァッ…!」

 

苦しい。

 

「ハァッ…!」

 

苦しい!

 

「あああああああああああああああああ!!!!!!」

「こんちくしょおおおおお!!!!!!!!!」

「はああああああああああっ!!!!!!!!!」

「ぐうううううっ…!」

 

負けない。

足の裏が痛い。

負けない。

前を向いた。

右に全員?

左目じゃ見えない。

でも。

関係ない!

 

「負けないっっっっっっっ!!!!!!!!!!!」

 

『5人完全に並んだ!いやニンブルターンは少し苦しいか!…ッフライトハット抜けた!抜け出した!フライトハットが今─────────────、

 

────────────!

 

───────。

 

──…

 

 

路よ、

 

 

 まだ、終わるな。

 

 

足を回す。

声を出す。

嗚呼、お願いだ。

 

路よ、

 まだ、止まるな。

 

視界に見える。

4人、全員が。

私は前を向いてるのに。

さっきまでは、見えなかったというのに。

でも、お願いだ。

路よ。

巻き返して見せる。

私はまだ走れる。

だから、頼む。

 

路よ、

 まだ、途切れないでくれ。

 

 

 

──────その時。

 

──────私の視界の端を、何かが通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────ぁ…、待って…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────ハット今1着でゴールイン!最後に頭一つ分抜け出しました!』

 

─────ダンスシチー、タンザクウル、メイショウワトソンは横並び』

 

──て5着にはなんとギリギリ滑り込みました!』

 

『ユメマクラ!!!』

”Waaaaaaaaaaaaahhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!!!!!!!!!”

 

気づけば、立ち止まって。

私は、ぼうっと立ち尽くして掲示板を見ていた。

レースは。

まだ途中?

ああ、いや。

終わった。

白んでいた脳が、少しずつすっきりしてくる。

歓声が聞こえる。

周りの誰もが、汗を垂らしてお互いを支えあうように座り込んでいた。

掲示板に、数字が映る。

再び、大きな歓声が上がった。

私は緩慢な動きで、自身の体操着に着けたゼッケンを引っ張った。

7番。

掲示板を見る。

1着、5番。

2着、6番。

3着、8番。

4着、11番。

5着、10番。

 

7番は、無い。

 

スタッフが来て、案内が始まる。

ウィニングライブの、準備のために。

1着から順に、呼ばれていく。

通り過ぎるウマ娘の何人かが、けげんな顔で私のほうを見た。

 

「なぁ!」

 

話しかけてくる、ウマ娘もいた。

 

「どうしたの、タップ」

 

「次は君の本気を引き出す走りをして見せよう!楽しみにしていると良い!」

 

「…?」

 

そう言うと高らかに笑い、彼女は去っていく。

何を言いたいのかは、よくわからなかった。

 

「ニンブルターンさん」

 

「…はい」

 

「レースお疲れさまでした、ニンブルターンさんは6着ですので、ウィニングライブでのポジションは…えっと、ニンブルターンさん?大丈夫ですか?」

 

「…6、着」

 

6着。

6着って、あの、着外の?

5着とか。

4着じゃなくて?

俯けば、自分のゼッケンが目に入った。

少し土の付いた、数字の7。

ああ、そういえば。

 

掲示板、7番なかったな。

 

「そっか」

 

私は、負けたのか。

 

───────────────────

 

 第8話 「───Road,(路よ、) 

 

───────────────────




シンデレラグレイ祝アニメ化
少し間が空きました、申し訳ないです。
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