コズミック・イラのシュウ・シラカワ 作:スカウトマニア
もし地球の地下にもう一つ世界があると言ったら、どれだけの人が信じるだろう?
木星で地球外生命体の化石が発見され、受精卵の段階で遺伝子操作された人類が作り出され、月面に都市が建造され、宇宙には人工の大地が作られて、そこで人が生まれ死んでいる時代でも、地球内部に異世界が存在するという説は荒唐無稽の類だ。
けれどその世界の地球には確かに、その世界の人々がラ・ギアスと呼ぶ世界が存在していた。
地上の人々とは異なる文明を築き、進歩を進めた彼らは時に地上と接触し、その痕跡をわずかに残していたが、コズミック・イラと呼ばれるこの時代の地上人達はラ・ギアスを知らずにいる。
その日、ラ・ギアス有数の大国、神聖ラングラン王国の王宮から、禁教とされている破壊神ヴォルクルスを信奉したとして、一組の親子が地上へと追放されたのを、地上人達は知る由も無かった。
母親はかつてラ・ギアスに流れ着いた地上人で、子供はラングランの王族と女性との間に産まれたハーフであった。
夫からの愛を失い、望郷の念に駆られた母親が邪教の信徒にそそのかされ、我が子を儀式に用いて地上へと帰還しようとしたのも。
我が子に向けて刃を振り上げたものの、望郷の念よりも我が子への愛情が勝ったことで儀式は中断されことも、地上人達は知らない。
ことが露見し親子の命こそ助かったものの、邪教に通じたとして親子は王宮から地上へと追放されたのであった。
母親の名前はミサキ・シラカワ、子供の名前はクリストフ・グラン・マクゾート、母に地上人として与えられた名前はシュウ・シラカワという。
着の身着のまま、わずかに地上用の貨幣を持たされた状態で追放されたシラカワ親子にとって幸いだったのは、追放された先が母親の母国であったことだろう。
せめてものラングラン側の温情か、東アジア共和国の旧日本に帰還したシラカワ親子は、ずっとミサキを探し続けていた親族と再会を果たし、ラ・ギアスを忘れて暮らし始める。
地上での新しい生活を始めた彼女らに、ナチュラルとコーディネイターという人種対立による世界規模の大戦争が降りかかるのは、この十数年後の話である。
そしてC.E.70、7月のこと。東アジア共和国の極秘研究所に青年に成長したシュウ・シラカワの姿があった。
遺伝子操作によって生まれながらに一定の底上げと才能の有無を知れるコーディネイターと比較しても、そん色がないどころか人種の差異を超えて、現代の人類最高峰の頭脳の一人として知られるほど、優れた科学者となっていた。
若くして十指に余る博士号を獲得し、「
シュウは手ずから仕上げたとある機動兵器のコックピットで、機体の調整を行っていた。
プラントならびにその軍事組織ザフトの用いる人型機動兵器ジンなどと比べて、一回り以上大きく、その実、まるで別ベクトルの機動兵器はシュウが自らテストパイロットも務める極めて特別な機体だ。
緩くウェーブする紫色の髪とどこか艶のある美貌の青年へと成長したシュウは、自らの半身とも手塩にかけた我が子とも言えるその機体の調整に、それなりに手こずっていた。
「いやあ、いくらご主人様でも重力制御システムには手を焼きますねえ。共和国のお偉方に提出したダミー通りに作れば、ささっと済んだでしょうに」
シュウに話しかけたのはその右肩に停まっている、小さな鳥型のペットロボだ。シュウがチカと名付けたペットロボにはシュウの無意識を反映した特殊なAIが搭載されている。
忌まわしくもあり、気さくに接してくれた従兄弟達との思い出のあるラ・ギアスにおいて、人間の無意識を反映させて魔術などのサポートを行う
シュウがたまたまそれを思い出し、自分の手伝いをさせるサポートメカとして作成した結果が、この俗っぽい口調のチカだった。
「従来のレビテーターを機動兵器サイズにまでダウンサイズさせるだけでは、到底この機体のポテンシャルを発揮できませんよ。そんなものでは他の誰でもなくこの私が許せません」
「妥協を知らないご主人様を持つと使い魔は苦労しますね。でもまあ、お偉方からはせっつかれないでしょうし、いいんじゃないですか?
ご主人様の設計したリオンのおかげで、同じ地球連合でも大西洋連邦やユーラシア連邦よりも東アジア共和国は渡り合えているんですから」
「私の見たビジョンを元にした代物です。本当の意味で私のオリジナルでは無い以上、誇れたものではありませんよ」
「それでもないものをこちらにあるもので工夫して、形にしたのはご主人様じゃないですかあ。もっと軍や国に対価を求めていいと思いますよ。それこそ札束風呂で毎日、ウハウハしたっていいでしょうに」
「チカ、下品ですよ」
この世界のシュウには時折、違う世界を生きた自分の記憶や光景が垣間見える瞬間がある。あるいはふとした拍子に思い出す、と言ってもいい。
コズミック・イラの既存の技術と素材で比較的早く開発が可能だった、アーマードモジュールというカテゴリーの機動兵器リオンを手掛けていた。
このリオンはまだ一部の機体の配備が始まったばかりだが、地球連合軍で主力となっているモビルアーマー・メビウスに比べて、ザフトのMSに対して互角以上に戦える貴重な兵器だった。
それを開発したシュウの存在は東アジア共和国内にて重要視され、上澄みのコーディネイターをも上回る天才的頭脳には、多くの希望と欲望が向けられている。
シュウとしては地球連合には欠片も思い入れはないが、東アジア共和国は母の母国であるし、追放されてから初めて会った母方の親族が良くしてくれたこともあり、思い入れがある。
少なくともニュートロン・ジャマーなんぞぶち込んで、原子力発電を強制的に停止し、地球全体で十億人超の被害者(≒死者)を出しやがったプラントに、好き勝手させるつもりは微塵も無かった。
その後も慎重に愛機となる予定の機体の調整を続けるシュウに、研究所の所員から緊急の通信が入った。
シュウの下に配属されるだけはあり、優秀な人材だが取り乱した様子からよほど緊迫した事態となっているのが分かる。
『シラカワ博士、急いで退避の準備を。ザフトと軍の戦闘範囲が広がって間もなくこのコロニーにも被害が及ぶ危険性があります』
「やれやれ、新星の周りだけで戦っていればいいものを」
現在、東アジア共和国はラグランジュ4に存在する資源衛星『新星』を巡り、ザフトと一か月近い攻防戦を演じていた。
その過程でL4に存在するコロニー群にも戦禍が及んでいたのだが、ついにこのシュウが秘かに開発を進めていたコロニーにも魔の手が伸びてきたのである。
「貴方達はシェルターに避難しなさい。私はこのまま出撃します」
「ご主人様!?」
『し、シラカワ博士。本気ですか? 危険です! キタムラ隊を始め、リオンが配備された部隊が出撃しますし、ザフトを押し返すことは出来るはずです。避難は万が一に備えてのことで』
「そろそろ上層部に進捗を報告しても良い頃合いでしたからね。例え完成度が五十パーセントでも、この機体ならばジンやシグーを相手に後れは取りませんよ」
こうなるとシュウが梃子でも動かないのを、所員はこれまでの付き合いからよく知っていた。そうしてシュウの自信はまず間違いはない。彼は半分しか完成していない機体でも、なにも問題ではないと確信している。
『わ、分かりました。我々は避難を進めます。シラカワ博士、不要かもしれませんがご武運を祈っております』
「ふ、さあ、早くお行きなさい。コロニーを破壊しないように注意はしますが、あまり保証はできませんよ」
冗談なのか本気なのか分からないことを言わないで欲しい、と所員は腹の底から叫びたかった。
シュウが所員の制止を振り切り、機体の出撃準備を進める一方で、コロニーの外ではシュウの護衛の為に配備された東アジア共和国のエースと特別なテストパイロット達が、押し寄せるザフトのMS部隊と交戦していた。
戦争の拡大に伴い、コロニー保護の為に配備された70m近い大型機動兵器ジガンスクードによって、東アジア共和国管理下のコロニーに限ってはほとんど被害を受けずにいる。
このジガンスクードもこの世界のシュウが設計・開発を担っている。東アジア共和国というよりもユーラシア連邦系のネーミングについては、文句の出たジガンスクードだが、そこはシュウが本来の開発者達への敬意と礼儀から押し通している。
そして閃光と爆発が絶えず煌めく宇宙を飛ぶ機影が複数ある。トサカ状の頭部パーツとモノアイ、背中の大型のスラスターが特徴的なザフトのMSジンと、飛行機に手足が着いたような外見のモビルアーマー・リオンだ。
本来、リオンはアーマードモジュールというカテゴリーだが、コズミック・イラにおいてはモビルアーマーとして登録されている。
ジンのメインウェポンである重突撃銃や重斬刀に対して、リオンは主にレールガンとミサイル、マシンキャノンで対抗している。
「そんなMAもどきでMSに対抗しようなんて!」
開戦初期から戦い続けているベテランのザフトパイロットが気炎を吐き、目の前のリオンに向けて重突撃銃をフルオートで叩き込む。
コーディネイターの優れた身体能力が無ければ操縦できないMSは、その運動性や機動性、重装甲によって既存の兵器を時代遅れの代物へと凋落させた。
リオンにしてもザフトパイロットの言う通り、手は棒状のパーツを繋げたような外見だし、脚部もとても歩行が出来るようなものではない。MAモドキ、MSの出来損ないと嘲笑されるのも無理はない。
ただしテスラ・ドライブさえ積んでいなかったなら。テスラ・ドライブは重力制御と慣性質量を個別に変動させられる、外宇宙航行用推進システムのことだ。
今はまだ研究途中だが、やがては推進剤非依存推進機関の実現の可能性もあると、東アジア共和国も力を入れているシステムだ。
このテスラ・ドライブの搭載によって、リオンはMAと同等以上の機動性を備え、MSに匹敵する運動性の獲得に成功している。
それを証明するようにジンから発射された銃弾を、狙われたリオンは稲妻のような動きで回避し、回避と同時に右腕に接続したレールガンの連射をジンの胴体に叩き込む。
地球連合軍のメビウスやリニアタンクの主砲の直撃にも耐えるジンだが、リオンは人型機動兵器との戦闘を想定した機体だ。当然、装備可能な武装は全てジンを撃破可能な火力を有する。
胸部を抉られたジンはそのままスパークを散らしながら機能を停止し、推進剤に引火したのか爆発を起こしてパイロットごと、宇宙の塵となった。ソレを見届けて、リオンのパイロット、キタムラ隊隊長、カイ・キタムラ少佐は現在の戦況を確認する。
「ザフトの攻勢を抑えきれていない。新星が陥落するのも時間の問題か」
キタムラ隊の任務はシュウの安全と彼の研究成果の確保である。新星の攻防については、非情なようだが関与するところではない。
それでもあそこで同じ共和国の兵士が戦っているとなれば、多少は気になるものだ。ましてやその影響で、このコロニー近海にまで戦闘が広がっているのだから。
「キタムラ少佐、新たな敵影の接近を感知しました。友軍の反応も多数あります」
カイに通信を繋げてきたのは、彼の部下であるリョウト・ヒカワだ。カイ同様、まだ数の少ないリオンのパイロットを務める腕利きだ。普段は柔和な青年だが、戦場での腕前は共和国の中でも上から数えた方が圧倒的に早い。
リョウト以外にもタスク・シングウジとその愛機ジガンスクード、キョウスケ・ナンブのリオンが一時的に集合し、戦況の分析と警護対象であるシュウの動きを確認する。
「ひい~、新星の戦闘の影響がこっちまで来るとは、歓迎したくない忙しさだぜ」
整備兵上がりのタスクはバリアの一種であるエネルギー・フィールドと、戦艦の主砲にも耐える重装甲の機体に乗ってはいるが、コロニーへの被害を防ぐ為に神経を張り巡らせている為、心身共に疲労が著しい。
先ほどから友軍の救援を求める通信が届いており、ザフトとの攻防はいよいよもって東アジア共和国の敗色が濃厚になりつつある。
「キタムラ少佐、我々にはまだ余裕がありますが、こちらに後退してくる友軍のフォローはどうしますか? 我々の任務ではありませんが、戦闘区域がここまで広がってきたとなると……」
「俺達が前に出て撤退してくる味方を守りつつ、ザフトに対する防波堤を務める方が、結果的に任務の達成にもつながる。そう言いたいのか、キョウスケ」
「はい。このままここに留まっても、コロニーへの被害が広がるばかり。今は他のジガンスクードの奮闘で被害を防いでいますが、それにも限度があります」
「待つばかりではジリ貧ならば、いよいよ博打の仕掛けどころ、か。各機、推進剤と弾薬、機体の状況を確認後、報せ」
各機のコンディション次第では母艦と連携の上、打って出ると判断したカイの指示が出された直後、接近中のザフトの部隊が増速し、一気にレンジを詰めてきた。
彼らに追われていた友軍のメビウスやドレイク級駆逐艦の反応が、次々と消えて行く。既存の兵器に対抗するべく開発されたMSは、コーディネイターの能力と相まって戦場では圧倒的なパフォーマンスを発揮している。
「ち、足を止めている暇はないか。キタムラ隊、吶喊するぞ。友軍の尻に付きまとうザフトを分断する」
「ゴースト2、了解」
「ゴースト3、了解しました」
「ゴースト4、了解っス」
ゴースト2=キョウスケ、ゴースト3=リョウト、ゴースト4=タスクからの返事を待ち、カイがリオンに加速を命じようとしたその瞬間、コロニー内部から出撃してきた機動兵器からの通信が届く。
「その必要はありませんよ、キタムラ少佐」
「!? シラカワ博士。その機体は、なぜ出撃を」
本来、カイ達が最優先で警護しなければならない相手が、自ら機動兵器に乗って飛び出してきたのだから、キタムラ隊の驚きは小さくなかった。
リオンやジン、シグーとは大きく異なる重厚かつ威圧感のあるデザインで、二十七メートルにもなる大型機だ。重斬刀のような接近戦用の武器も無ければ、レールガンや重突撃銃のような銃火器すら携行していない。
「この機体のテストのついでですよ。それにこのままではコロニーに被害の及ぶ可能性を無視できませんからね。心配は無用です。この私の作り上げたグランゾンは、この程度の戦場で敗れるなどあり得ません」
傲慢なほどの自信を覗かせるシュウをカイが引き留めようとするも、シュウは一顧だにせず接近中のザフトを敵と定めて、愛機──グランゾンの初陣にわずかに心を躍らせる。
「行きますよ、チカ」
「え~、そりゃあご主人様の決めたことですから従いますけどぉ、グラビトロンカノン、ブラックホールクラスターは使用不可能。ワームスマッシャーも広域マルチロックは出来ませんよ?」
「構いません。その程度、なんの問題にもなりはしませんよ。さて、あまり長く待たせては心苦しいですからね。手早く片付けて行きましょう。グランワームソード」
シュウの声に反応してグランゾンの右腕の重力制御装置が稼働し、ワームホールを作り出すとそこから両刃の大剣を引き出す。ジンやリオンなど、いとも簡単に真っ二つに出来るだろう大剣だ。
グランワームソードを右手一本で構えるグランゾンの背中で、二基のブースターが光を発し、全備重量八十五トン越えの機体を瞬時に加速させる。
「は、速えぇ!」
「!」
リオンすら勝負にならない速度にあっという間に達し、その上さらに加速してゆくグランゾンにタスクは驚愕を隠せず、キョウスケはリオンやジガンスクードばかりでなく、あれほどの機体を作り上げたシュウの技術力にある種の警戒の念を抱く。
一方でザフトの側も追撃した東アジア共和国の艦隊だけでなく、コロニーを守っているキタムラ隊を捕捉し、これも殲滅せんと動いていた。
「ナチュラル如きが中途半端なモビルスーツの真似事をして!」
「奴らを殲滅したら新星に戻るぞ」
「ようやく陥落させられるんだ。ついでにあいつらも片づけて戦果にしてやる……え?」
これまで兎狩りのように簡単にメビウスを撃墜し、艦艇を沈めてきた彼らは余裕と自信をもってキタムラ隊に襲い掛かろうとしていたが、信じがたい速度で接近してきたグランゾンへの対処は間に合わなかった。
彼らが遅いのではない。グランゾンがあまりにも速すぎたのだ。すれ違う瞬間にグランワームソードでジンの一機が胴体を泣き別れにされる。
上下に分断されたジンが爆発を起こすよりも前に、グランゾンがくるりと優雅に急旋回して、慌ててこちらを振り返るジンを頭頂から股間まで縦一文字に両断。
ようやく銃口をグランゾンに向けるも、その時には既にグランゾンの左腕がジンへと向けられ、対消滅エンジンの生み出した膨大なエネルギーが発射され、ジンの腰から上を跡形もなく消滅させる。
一分どころか瞬く間に三機のジンが撃墜され、ザフト部隊の動きに動揺と怒りが現れ始めるのを見て、シュウは小さく笑う。
「存分に足掻きなさい。この私とグランゾンを敵に回した者の運命を、思い知らせてあげましょう」
この後、L4コロニー群に接近したザフトの部隊はその全てが殲滅されたものの、資源衛星新星はザフトの手に落ち、後にボアズと改名されてプラント本国を守る防衛ラインの一角を担うこととなる。
一方、不完全ながら従来の機動兵器とは一線を画す性能を発揮したグランゾンは、文字通り全滅する寸前のザフト部隊の発した通信から、後に“蒼き魔神”と呼ばれ、東アジア共和国の開発した恐るべき新兵器としてマークされるのだった。
東アジア共和国ルートです。
本作のシュウは歴代スパロボに出演した自分の記憶を朧気に視ることがある、という設定です。