コズミック・イラのシュウ・シラカワ 作:スカウトマニア
そのザフトパイロットは相手がナチュラルだからと、MAだからと侮ることはしなかった。一対一で、ジンとメビウスなら圧倒的に自分達が有利だと知っていたが、戦場に絶対はない。
無敵と信じたジンが撃破され、味方が死ぬ姿を何度も見てきた経験が、彼にそうさせていた。
新星から撤退する東アジア共和国の艦隊を追ってL4のコロニー群に近付いた時にも、新たに出現したリオンやメビウスを前に彼に油断はなかった。
ザフトのパイロットの中でも水準以上の腕前と冷静さを持つ彼は四人の部下を率いて、次期主力機として開発されたシグーを愛機とするなど、ザフトパイロットの中でも上澄みの人材であるのは間違いない。
だが、部下を全員生還させると意気込んで戦場に飛び込んだ彼は、その強い思いもむなしく姿を見せた蒼き魔神によって、完膚なきまでに蹂躙された。
シグーがノロマに思える速さで加速した蒼き魔神──グランゾンによって、背後からグランワームソードで部下の一人目が機体ごと両断され、やめろと彼の口から叫びが出た時には、二人目と三人目もまた一人目と同じ運命を辿っていた。
「ああ!? き、貴様はなんなんだ!!」
明らかにジンとシグーでは足元にも及ばない機体性能に圧倒されても、彼はシグーに重斬刀を抜かせ、重突撃銃で牽制を仕掛けながらグランゾンへと挑みかかる。
小刻みに機体を動かし照準を絞らせない不規則な機動は、積み重ねた経験値の高さを感じさせるものがあったが、グランゾンの胸部にある球形のパーツが輝いた直後、発射された三つのエネルギーによって跡形もなく消し飛ばされるだけに終わった。
「ワームスマッシャー。威力はまだしも、やはり現状ではこの程度ですか」
本来、無数のワームホールを作り出し、同時に多数の敵ないしは単体の敵に全方位から複数の攻撃を加えるワームスマッシャーだが、現在は広域マルチロック機能の調整が終わっていない為、単純にエネルギーを放出しただけの攻撃だ。
対消滅機関の齎す莫大なエネルギーは、不完全な状態でもすさまじい威力を発揮して、シグーばかりか射線上に居たローラシア級の船体中央部も貫き、見る間に爆散させる。
「あ~らら、ザフトの人達が可哀そうなくらいですけどね。このまま新星に行って、パパっと片づけてもいいんじゃないですか?
負けが確定する直前に駆けつけて、窮地を救った英雄! その名はシュウ・シラカワ! そして彼自らの開発した恐るべきグランゾンの威力!! こんな具合に大絶賛されますよ?
エンデュミオンの鷹しかり負けの込んでいる地球連合は英雄を求めていますし、そうなればさらに予算はウハウハ、ご主人様の名声も高まってやりたい放題できるようになって、ウィンウィンですよ」
「ふ、提出しているダミーデータの性能では、この程度の戦闘が妥当なところですよ。あくまでグランゾンは私の為の機体です。例えダミーでも東アジア共和国や地球連合に、作らせるつもりはありません」
「ダミーのグランゾンでも量産は許さないってわけですね。もう、ご主人様のプライドの高さったら、困ったもんですよ」
「お喋りはそこまでになさい、チカ。残りの敵を掃討しますよ」
MS部隊が瞬く間に撃墜され、ローラシア級が戦艦の主砲を浴びるよりも呆気なく撃沈される光景に、残るザフトの部隊が動揺を沈められない中、シュウとグランゾンは敵対者へ無慈悲にその力を行使した。
結果だけを語るのなら新星はザフトの手に落ち、移設された後に要塞化を施されてボアズと改名され、プラント本国防衛の要となる。
そしてL4コロニー群へと向かったザフト部隊のほとんどは壊滅し、生きて帰れたのはごく少数だったという。
この新星攻防戦終盤に発生した一幕は、プラントはもちろん地球連合にも伝わり、東アジア共和国にその名も高い天才シュウ・シラカワの名声を高め結果に繋がる。
並みのコーディネイターでは話にもならない能力を示し、MSに対抗可能な兵器を次々と開発することから、プラントからは目の敵にされ、戦後世界の主導権を狙う関係から、ユーラシア連邦と大西洋連邦から以前よりも増してその身を狙われることとなる。
シュウ自身は他者からの評価を一顧だにしていなかったが、彼を抱え込んでいる──と信じている──東アジア共和国の首脳部は神経を尖らせなければならなかった。
地球上の東アジア共和国領内のとある都市で、政府並びに軍高官の一部が直接顔を突き合わせて、会談を行っていた。
「新星の件は残念でしたな。リオンの配備が進んでいればあるいは結果が違ったかもしれませんが、製造が容易とはいえ流石に時間が足りなかった」
「幸いと言うべきかコロニー群は被害を免れましたし、そちらに逃げ込んだ艦隊も被害は最小限で済んだ。敗北は敗北だが、まだマシな方ですとも」
東アジア共和国は膨大な人口を抱えており、人口に由来する工業力の高さが長所の国家だ。生産性の高いリオンはフル稼働されている工場で、今も新しい機体が作り続けられており、共和国の軍事力増強の一端を担っている。
「あのジガンスクードという大型機、存外、役に立ちましたな。広域に展開できるEフィールドと重装甲は戦艦が相手でも有用だ。流石に鈍重なのは否定できんが、リオンや既存のメビウスと組み合わせれば然したる問題でもない」
「どちらもシラカワ博士の恩恵ね。彼はまさしく金の卵を産むガチョウだわ。金ではなくダイヤモンドかしら」
「彼の開発した核融合炉のお陰で、NJの投下後も我が国への影響は最小限に抑えられた。各国へのエネルギーや各物資の支援を行えている。地熱発電を有するオーブと我が国がもっともNJの影響を免れた国家であるのは間違いない」
シュウは新西暦世界系列の核融合炉を開発し、東アジア共和国各地で建設が進んでいた。
NJの投下を予見していたわけではないが、各国で核分裂由来の原子力発電が停止し、エネルギーの困窮に至っている中で、東アジア共和国は例外的にその被害を免れていた。
他国の困窮状態に一部の心無い者達は口元が緩むのを止められず、戦後世界の覇権を握る自国の姿を思い浮かべる始末だった。
「リオンについても輸出を望む声が日増しに増えていますよ。艦艇やメビウスを始めとした兵器のように、地球連合全体で共有すべきと。あれは戦闘機やメビウスの延長線上の機体として、扱いやすいと現場からの報告にもありますからな」
「図らずとも我々が地球連合の中で頭一つ抜けた状態にあるのは間違いない。だが、あまりに勝ちすぎてもいかん。大西洋連邦とユーラシア連邦に手を組まれては、流石に分が悪い」
浮かれた様子を見せる一部の参加者に釘を刺すように、ひと際高齢の参加者が厳しい声音で口を出し、また別の者がそれに続いた。
「その通りです。戦後を見据えるなら勝ち方も選ばなければなりません。中立国に対してもこちら側に寄った立場になるよう、今から働きかけなければ。
そしてなにより、我々はまだプラントとの戦争に勝ったわけではありません。新星は陥落し、各地で敗退を重ねている。それもまた紛れもない事実なのです」
「シラカワ博士が決して従順に我々に従うような人物ではない事も、留意しなければなるまい。正当な対価を示し、筋を通す限りにおいてはこちらの要求に耳を傾けるが、アレは己の意思を第一にする類の人種だ」
「コーディネイターを超えるナチュラル。ユーラシアも大西洋も喉から手が出るほど、欲しがっている人材ですからな。プラント以外は彼が亡命を希望すれば、喜んで迎え入れるでしょう」
「彼は紛れもなくジョーカーだが、有能過ぎるが故に扱いには慎重を期さなければな。命令するのではなく、互いに利益の出る取引をする。それくらいの心構えで居るべきだろう」
今のところ、シュウを一方的に利用する方向で動いていないのが、東アジア共和国にシュウが籍を置き続ける理由のひとつだろう。
C.E.71、1月。L4コロニーを離れたシュウの姿は地球にあった。ザフトが次々と地球に降下し、世界各地で戦闘が勃発した反面、宇宙の戦闘は硬直常態に陥っている。
戦闘の激化する地上だったが、東アジア共和国が地球連合各国にリオンの輸出を始めたことにより、本来辿るべき歴史よりも地球連合はザフトを相手に戦えていた。
そんな中でもザフトは局地戦に特化したMSを次々と投入し、地球連合を地球に封じ込めるオペレーション・ウロボロスを完遂するべく、日夜奮闘している。
東アジア共和国の保有するカオシュン宇宙港への攻撃も、その一幕だ。
東アジア共和国を中核とする地球連合軍も防衛態勢を整えて、これを迎え撃ったが、やはり目立ったのはリオンだ。
これまで既存の戦闘機を翻弄してきたザフトの空戦用MSディンに対し、機動力、運動性、火力の全てで上回るリオンはこれまでのうっ憤を晴らすように、カオシュンの空にディンの骸をばら撒いている。
ディンは速度はまだしも人型故に戦闘機を上回る運動性と火力を持ち、宇宙でジンがメビウスを相手にするように、地球連合の戦闘機を血祭りにあげてきた怨敵だ。
NJの効果で従来の誘導兵器や電子戦が行えない事もあり、戦闘機乗り達はディンを相手に苦渋を飲まされてきたが、今まさに彼らの復讐の時が来たのだ。
そしてまたなぜ、東アジア共和国の要人も要人のシュウがこの場にいたかと言えば、新たに戦線に投入された機体の監督の為である。
カオシュン攻防戦において、東アジア共和国は新たなリオンシリーズを戦線に投入し、ザフトに手痛い出血を強いていた。
リオンと既存の戦闘機スピアヘッドからなる編隊を相手に、苦戦を強いられていたディンやザフト側戦闘機インフェストゥス、戦闘ヘリアジャイルは、更に後方から降り注ぐ磁性砲弾の雨に翻弄され、少なくない数の機体が撃墜されている。
「なんだ、MSモドキだけじゃないぞ」
「空飛ぶ砲台、か? あんなふざけた代物で俺達がっ!?」
「駄目だ、ディンの装甲じゃ一撃で落とされる」
ザフト側パイロットの口から次々と悲鳴混じりの叫びや怒りの声が漏れる中、磁性砲弾を発射した機体、バレリオンはパイロットの操作通りに変わらず機体の大部分を占める砲身からビッグヘッド・レールガンを撃ち続ける。
巨大な砲身から簡易な降着脚を生やしたその外見は、ザフトパイロットの言う通り空飛ぶ砲台、空中戦車、浮遊砲台とでも呼ぶのが似合いの姿だ。
接近戦が苦手と言う分かりやすい弱点を抱えるバレリオンだが、リオンやスピアヘッドとの連携で十分にカバーできる範囲だった。
加えてビッグヘッド・レールガン以外にも砲身上部に設置された連装ビームキャノン、腕部を兼ねるミサイルランチャーの火力はすさまじく、列をなしたバレリオンの一斉攻撃はザフト側に悪夢のような被害を齎す。
地上でも新たに投入されたMAとMSによって、ザフト側は事前の想定を大きく上回る被害を受けていた。
リオンの下半身をスティック状のキャタピラ「スティックムーバー」に換装し、陸上戦闘用に強化されたランドリオンも、そのうちの一機だ。
通常のリオンよりも大口径のレールガンを装備し、火力の向上した本機は通常のリオンよりも機動性で劣るものの、ジンを翻弄するには十分な速度と踏破性の獲得に成功している。
ザフトの開発した局地戦用の機体の中でも、こと陸戦において王者の名前と座をほしいままにしているのは、四脚獣型のMSバクゥだ。
大口径のレールガンやミサイルランチャーで武装した本機はキャタピラによる高速機動と、四本脚による高い踏破性と生物的な動きにより、地球連合軍の主力戦車リニアタンクを数えきれないほど鉄くずの山に変えてきた。
このバクゥ対策を求める声は数多く、早急にこれに応じる為にランドリオンが開発され、晴れて実戦に投入されたわけだ。
またシュウの提唱した機動兵器の統一規格ユニバーサルコネクターに対応している為、マニピュレーターやアタッチメントの交換なしに、持ち替えられる武器を手にした機体も見受けられる。
四脚ゆえの安定性と積載可能な重量の増加により、レールガンにマイクロミサイルという基本アセンブリの他に、両手にハンドミサイルユニット、背中にマイクロミサイルというミサイラー、両手にガトリングガン、背中にガトリングガンと四門装備したガトラー、両手にバズーカ、両肩にグレネードランチャーの火力愛好家まで、様々な癖が散見される。
「MSモドキを走らせたとてぇ!!」
「陸戦の王者はバクゥだと、思い知らせてやる!」
息まくバクゥ部隊に対し、ランドリオン隊もまた機体各所に備えて火器を高速で移動しながらばら撒き、空中に続いて地上でも復讐を果たそうと息巻いている。
「鉄の獣なんぞもう時代遅れだと教育してやるぞ、各機、続け!」
「空の連中ばかりにいい顔をさせるなよ。MSが無敵の兵器ではないと証明するぞ」
地上で活躍を見せるのはランドリオンばかりではなかった。本来、空を主戦場とするリオンのバリエーションに過ぎないランドリオンに対し、陸戦を想定して開発された東アジア共和国製のMSもまた、今回の戦いで投入されていたのである。
胸部は赤く、60mmバルカンを内蔵したバイザーアイののっぺりとした頭部や手足はうっすらと緑がかった白色のMSは、左手の赤い盾で正面のほとんどをカバーしつつ、右手のビームライフルを連射し、押し寄せるジンやザウートを相手に光の軌跡を無数に描いている。
「く、くそ、盾の所為で銃弾が弾かれて……」
「嘘だろ、ナチュラルは量産型のMSにビーム兵器を持たせているのか!?」
そのMSの名前はジム。宇宙世紀において地球連邦軍の開発した最初期のMSでありながら、ビーム兵器を標準装備した機体である。
動力や装甲素材はオリジナルとは異なるものの、コズミック・イラ既存の技術とシュウのビジョン由来の知識で再現可能な機体として、シュウが形にしたものだ。
まだまだパイロットの技量が未熟で動きの拙いところが多く、接近戦を挑まれればコーディネイターとナチュラルの身体能力の差もあって大いに不利なのだが、それなら数を揃えてビームを撃てばいい、と東アジア共和国は数で押す戦術を取っていた。
リオンとバレリオンによって制空権は優勢、地上でもランドリオンとジム、リニアガン・タンクを筆頭とする従来兵器の組み合わせにより、東アジア共和国は今次大戦初の勝機を見出している。
グランゾンに乗り込み、全体の戦況を見ていたシュウはリオンの動きを見て、かすかに眉根を寄せる。なにやらご不満があるらしい。
「ご主人様、何が気に入らないんです? リオンがザフトのディン相手に優位に戦っているのに」
「それは事実です。しかしパイロットのほとんどは戦闘機の延長線上としてしか、扱えていません。簡易とはいえ備えている手足を十全に使えていませんし、テスラ・ドライブの恩恵に対する理解も不十分です。リオンは戦闘機ではなくアーマードモジュールなのですよ」
「まあ、この世界だとMA扱いになっちゃってますけど、パイロットの多くが飛行機乗りばっかりだっていいますし、しばらくは仕方ないんじゃないですかね。実戦を積んでいけば、その内に理解を深めてご主人様も認める水準に達するかもですよ」
「それまでの間にどれだけ戦死者が出るでしょうね。授業料と言うには高すぎると思いますよ」
「ご主人様って赤の他人の命まで心配するほど、慈悲深い御方でしたっけ?」
およそ恐れを知らないチカの疑問に、シュウは律義にも答えた。特にすることが無いので暇なのかもしれない。わざわざグランゾンで介入する必要が無いほど、カオシュン攻防戦は順調であった。
「エイプリルフール・クライシスの影響で出た十億人の被害者、そして今も地球圏で燃える戦火によって、人々の絶望と恐怖は高まっています。それらの負念はラ・ギアスにも影響を与えているのですよ。ラ・ギアスに封印されているヴォルクルスの力を高める形でね」
「そのヴォルクルス某って、ご主人様の復讐の相手でしたっけか」
「ええ。大きな借りがありましてね。時が来たならラ・ギアスに赴いて、必ず報いを受けさせますよ」
「ああ、だからこれ以上戦火を広げて、ヴォルクルスの力が高まるのはご主人様的に歓迎し難いってわけですね。な~るほど~。でもそれならもっと強力な機体を東アジアに供与したらよかったのでは?
ご主人様の見たビジョンだとジェガンとか、バルキリーとか、ビルゴとか色々あるじゃないですか?」
「手に余る技術と兵器を与えても、後で悲劇を起こすだけですよ。今のザフト相手なら初期のリオンやジムが妥当でしょう。既に大西洋連邦でガンダムに相当する機体の開発がほとんど完成しているようですから、なおさらです」
「まあ、今でもご主人様がばんばか結果を出すもんだから、要求すればするだけ予算がもらえていますし、今くらいがちょうどいいんですかね~」
予算はあればあるだけ良い。いずれラ・ギアスに殴り込みをかける時に、グランゾンだけでなくゴーストX-9やメカギルギルガンの大群を引き連れて行くには、まだまだ予算は足りていないのだから。
正気のシュウだったらヴァルシオン改は量産しないと思うので、ラ・ギアス殴り込み部隊からは除外しました。