コズミック・イラのシュウ・シラカワ 作:スカウトマニア
カオシュン攻防戦においてシュウがグランゾンに搭乗して、戦場に身を置く以上、彼の警護を任されたキタムラ隊の姿もこの場にあった。
東アジア共和国内において、おそらく最も人型機動兵器に習熟したパイロットが揃うキタムラ隊は、隊員全員が各戦線を支えるか後方で教導にあたるべき人材だったが、シュウの重要度の高さから警護任務を継続していた。
東アジア共和国内でも格別、練度の高い彼らには、シュウがビジョンから再現した別世界の機体や装備をテストする面倒だが有益な任務も与えられている。
グランゾンの傍らに控えるジガンスクードは、特徴的なシーズシールドを外して、70m長の巨体に見合う長大な連装砲身を持つ巨砲を手にしていた。
アガメムノン級宇宙母艦の主砲225cm 2連装高エネルギー収束火線砲「ゴットフリートMk.71」、これを携行式に改造した「シーズカノン」だ。
歪曲フィールドや重力バリアを持つグランゾンを除けば、地球圏最硬の盾であるジガンスクードだが、守るべき対象の無い状況あるいは接敵まで間がある場合、巨体のキャパシティを活かすべく、開発されたものである。
オリジナルのジガンスクードは元々人型ではなく戦闘艇であり、そのころの姿を彷彿とさせるが、このコズミック・イラでは最初から人型だ。
人型ならば手持ちの武器を持ちかえるくのは珍しくもなんともない。ジンもシグーもリオンだって、状況やパイロットの好みに応じて携行武器を持ちかえる。
「狙いはちょい右の……シーズカノン、いけえ!」
タスクは普段、味方の盾になる為に視野を広く持つことを意識しているが、今回の長距離砲撃支援においてもこれまでの経験が役に立っていた。ジガンスクードの巨体と傍らのグランゾンがこれでもかと目立つ為、ザフトを誘蛾灯のように引き付けている。
機体の装甲越しにも殺気を感じられるような状況の中で、タスクはこれまで体と命を張って仲間を守り続けた経験によって、恐怖を乗り越える勇気を絞り出すことに成功していたのだ。
「ジガンは盾以外でもいけるってところを見せてやるぜ!」
NJ散布下で電子機器の機能が著しく低下した戦況でも、赤外線センサーや光学映像の類は問題なく機能している。
前線から送られてくる観測データを頼みにしつつ、文字通り戦艦の主砲がぶっ放される。たとえ命中せずともそれだけザフト兵達の背筋を凍らせるには十分すぎた。
リニアガン・タンクやリオンの武装に機体を破壊されても、遺体の一部くらいは残るかもしれないが、ゴットフリートもといシーズカノンが直撃すれば跡形もなく消滅してしまう。
宇宙空間とは違い大気圏内での使用であるから、大気の影響を受けて威力は減衰しているのだが、少なくとも空を飛べる大型機動兵器が戦艦の主砲をバカスカ撃ち込んでくるのだ。
ザフトのザウートなど比較にならない脅威に、シーズカノンの洗礼を浴びせられているザフト兵達は盛大に不幸を嘆き、悪罵をまき散らしていた。
更にザフトからの注目を集めるグランゾンのコックピットで、いつものように自信に満ちた堂々たる佇まいを維持しているシュウがタスクに助言を与えていた。
「シングウジ少尉、二十三秒後にブラボー5、チャーリー4へシーズカノンを斉射してください。さらに砲身冷却後はポイント7-6-1へ出力を七十パーセントから八十パーセントで砲撃を。
それでちょうどい牽制になります。貴方の運が良ければ、撃墜スコアが増えるかもしれませんね」
「了解っス、シラカワ博士」
グランゾンの収集した各種情報を元に戦況の分析を行ったシュウの指示に従い、タスクが自身の勘も込みでシーズカノンを撃てば、打ち合わせていたように砲撃地点に移動してきたジンや戦闘車両が緑色の光の奔流に飲まれて消し飛ぶ。
「概ね、予測通りに戦況が推移していますか。予測を覆す要因がなければ、このまま何事もなく終わりますね」
「今の地上の技術力じゃあ、ご主人様の予測を覆すような機動兵器は作れないんじゃないですか? あんまり愉快なことにはならないと思いますよう」
「そう馬鹿にしたものではありませんよ。この世界では人型機動兵器は開拓の始まったばかりのカテゴリーですが、他の地球と比べても注目するべき技術はあるのですから」
シュウは自分の予想通りにジガンスクードが戦果を上げる光景に心躍るでもなく、むしろ退屈そうでさえあった。
チカには油断を戒める言葉を告げたものの、今のところ、カオシュン攻防戦は彼の予想を超えることも、外れることもなく推移している。
戦況を一変させるような兵器をザフトが持ち出さない限り、カオシュン攻防戦は東アジア共和国の勝利に終わるだろう。
シーズシールドなしでもEフィールドを展開できるため、万が一の時にはグランゾンの盾になれる位置に留まるジガンスクードと違い、残るキタムラ隊の三名は積極的に前に出て、ザフトMS隊と交戦している。
この戦場に現れた新型機はランドリオン、バレリオンだけでなく、完全な人型として完成したことで、MSにカテゴライズされたガーリオンがデビューを迎えていた。
リオンシリーズがバッテリー駆動であるのに対し、バレリオンとガーリオンには核融合炉が搭載され、継戦能力においてバッテリー機をはるかに上回る。
現状の核融合炉はバッテリーと出力に大きな差はないが、バッテリー機と違ってエネルギーの残量を気にせずに機体を動かし、ビーム系の武装を使えるのは圧倒的な優位性であった。
キタムラ隊でガーリオンを任されたのは隊長のカイ、副隊長のキョウスケの二名。それも二人に合わせたカスタム機だ。ただしリョウトも引き続きノーマルのリオンを任せられたわけではない。
シュウの見たビジョンの中に興味を惹くものがあり、パイロットだけでなく技術者としての才覚を併せ持っていたリョウトに、シュウ自らが誘いをかけ、彼のリオンをカスタマイズしたのだ。
とある世界でリョウトが乗機としていたリオンにパーソナルトルーパーのパーツを組み込み、他者の補佐も受けて完成させたリオン・タイプFの改修機アーマリオン。
そのアーマリオンをシュウの補佐と、このコズミック・イラでシュウが再現を試みた機動兵器のパーツを使ったアーマリオンVer.C.E.が現在のリョウトの乗機となっている。
リオンに、より剛性に優れたフレームを導入し、異世界技術であるマグネット・コーティングを施して関節の駆動性や反応速度を高めている。
核融合炉によって、安定してエネルギーが供給され続ける為、重装甲化による悪影響は小さく、また腕部はより人型に近い形状のものに交換されていた。腕部にはビームサーベル兼用のスプリット・ビームが搭載され、同時に携行武器の運用も可能であった。
脚部にブレードを内蔵し、ブレイクフィールドを展開して突撃するソニック・ブーストキック、両肩に内蔵した多弾頭ミサイルのスクエア・クラスターといった武装はオリジナルと酷似したものとなっている。
ただそれ以外の武装についてはこの世界流の変化が生じている。頭部から伸びる分厚い刃状のハード・ヒートホーンは搭載されず、ガンダムMk-Ⅱやバーザムのように外付けバルカン・ポッドを装備。センサー類を強化しつつ、ミサイルの迎撃や敵機の牽制の為の武器を追加した形だ。
連携の取れた動きでこちらを目指すジンやザフトの戦車、戦闘ヘリの集団を確認したカイはキョウスケ、リョウトへと連絡を告げて、不意を突いて一気に壊乱させるべく動き出す。
「全機、ブレイクフィールドを展開。接近中のザフトMS部隊にパターンASを敢行する!」
「ゴースト2、了解。ブレイクフィールド展開」
「ゴースト3、いつでも行けます!」
カイのガーリオン・インファイトカスタム、キョウスケのガーリオン・アサルトカスタム、リョウトのアーマリオンがブレイクフィールドを展開し、三機を光が包み込む。
光り輝くブレイクフィールドを展開したまま、高速で敵に体当たりして破壊するのが、ガーリオンのソニック・ブレイカーだ。
三機がブレイクフィールドの波長を同期させ、より大きな光の流星となって突っ込んでくるのに気付いたザフト側は、予想だにしなかった光景を前に一瞬の動揺を抑えきれなかったが、それでも無防備に攻撃に晒されたわけではなかった。
「ナチュラルは正気か!? くそ、全機散開!!」
「わざわざ突っ込んでくるんだ。それなら撃ち落してやる!」
「よせ、向こうもそれくらいは分かっている筈だ!」
本能の鳴らす警鐘に従い、回避行動に移る者、血気にはやって撃ち落そうと試みる者と大きくこの二つに分けたが、見事に命運が分かれることとなった。
特機いわゆるスーパーロボットや艦艇への攻撃にも用いられるソニック・ブレイカーは、統制の取れていないまばらな攻撃では、到底撃ち落すことが出来ずに終わる。
「うわああああ!?」
勢いの衰えない青い流星を前に、迎撃を行ったザフトのパイロット達は、自分の命と愛機の粉砕という代償を支払った。
バラバラに砕かれたMSや戦車の破片が周囲に散らばり、推進剤や砲弾が誘爆を引き起こす中、リョウト達はブレイクフィールドの同期を解除し、突撃の勢いをそのままに散開して、回避行動をとった敵に立て直す暇を与えずに撃墜に掛かる。
カイはあらゆる技量が高水準でまとまったオールラウンダーだが、その中でも接近しての格闘戦に秀でたパイロットだ。
ガーリオンが完全な人型であることから、カイの技量を活かすべく関節部と機体フレームを重点的に強化し、インファイトカスタムの名前に相応しく、両腕部にシールドを兼ねたプラズマバックラーが装備され、インテークを兼ねる膝から脛にかけて装甲が追加され、脚部を用いた打突に耐えられるようになっている。
カイはバースト・レールガンで距離の離れた敵機を撃ち落しつつ、距離の近い所にいるジンへと向けて地表スレスレで機体を加速させる。
牽制の射撃に動きを鈍らせたジンへと向けて、敵パイロットの呼吸を見切って、カイが機体をするりと懐まで潜り込ませる。スラスターばかりでなく、機体の足を使ったステップも組み合わせた絶妙な間合いの詰め方だった。
「プラズマバックラー、セット! 実戦データを取らせてもらう」
バースト・レールガンを背中のラックにマウントし、両腕のプラズマバックラーから溢れたエネルギーが青白い稲妻を纏う。相手のパイロットがコーディネイターらしい反応速度で重突撃銃を放り投げ、重斬刀を引き抜く。
重斬刀を振りかぶる暇がないと判断した敵パイロットは、ガーリオン・ICの胴を狙い、勢いよく突きを放った。淀みなく行われる動作は、敵パイロットの練度の高さを物語っていた。
「ふん!」
だがそれよりもガーリオン・ICの速さと、カイの読みが勝る。重斬刀とすれ違うように踏み込んだガーリオン・ICの左裏拳が、重斬刀を握るジンの右手ごと粉砕し、腰だめに構えられた右の下段突きがジンの腹部に突き刺さる。
リニアガンの直撃に耐える分厚い正面装甲を、プラズマバックラーは容易に貫き、ガーリオン・カスタムICの右手首までがジンの腹部に埋まった。ジンの内部で解放されたエネルギーが瞬く間に蹂躙を始め、ジンはすぐさま機能を停止した。
カイは素早く右手を引き抜き、残心を取りながらジンの無力化を確認してから、次の敵へ狙いを定めた。
一対一の戦いでは無類の強さを発揮するカイが、着実に撃墜スコアを増やしてゆく中、実験的な武装を多く持つキョウスケのガーリオン・ACは正面、右正面、左正面の三方向のジンと対峙していた。
東アジア共和国内の軍需企業製の武装を任されたキョウスケの機体は、実にユニークな武装で機体を固めている。
重突撃銃、無反動砲を向ける敵機に向けて、キョウスケは冷静に背中にマウントしたガトリングキャノン・シャオウェイを狙いを定めぬままに発射する。
MSの装甲を貫く威力の銃弾は集束せず、広く散布されるようにばら撒かれた。ジンのパイロット達は、機体に軽やかなステップを踏ませて、被弾を最小限に留める。
地上故に宇宙ほど機敏には動けないものの、三機のジンは回避機動を取りながら重突撃銃と無反動砲を立て続けに発射した。
これに対してキョウスケが取った手段は、通常のガーリオンよりも大幅に強化された推力に物を言わせて、正面のジンに対する突撃であった。
「躱せると思うなよ!」
ガーリオンの右腕並みの大きさを持った黒いパイルバンカーが、唸りを上げて弧を描きながらアッパー気味にジンの腹部へと叩きつけられる。
パイルの先端が腹部装甲に突き刺さった瞬間、キョウスケの指がトリガーを引き絞り、炸薬が炸裂すると同時にパイルが勢いよく撃ち出されて、ジンの背中まで突き抜ける。
そればかりか余りの威力にジンが耐え切れず、機体が上下に分断されて勢いよく吹き飛んで行った。
現在は多種多様なMS用武装が開発される黎明期だ。その中でも異彩を放つパイルバンカー『アッシュヘッド』は、運用の難しさと引き換えに絶大な破壊力を誇る。
直撃させ、適切なタイミングでパイルを激発させれば、戦艦の装甲にも大穴を開けるだろう。欠点はモーションが大きく、複数と対峙している場面では特に運用が難しい点だ。
実際、仲間を討たれた怒りに燃える残りの二機は、足を止めているガーリオン・ACに狙いを集中している。
ガーリオン自体がリオンより重装甲化させた機体ではあるが、二機がかりで火力を集中されれば、流石に耐えることはできない。
「このアサルトカスタム、嵌まれば強いが、キワモノの類だな」
今まさに生死を分ける瞬間に追いやられているにも関わらず、キョウスケの顔に焦りの色は浮かんでいない。無反動砲を構えつつ、左手に重斬刀を抜いて構えるジンへと向けて、左手に持たせた盾のような長方形の物体を勢いよく振り抜いた。
盾のように見えた物体が振り抜かれる中で展開し、内蔵する炸裂弾を広範囲にばら撒いた。盾に見えた装備の正体は炸裂弾投射器『タイヤンショウ』。
こちらに向けて接近してくる敵か施設などに対し、大きな効果を見込まれる武装だ。
「なっ、は!?」
まさか炸裂弾を広範囲にばら撒かれたと頭で分かっても、理解と納得の出来なかったザフトパイロットは機体の全身に炸裂弾を喰らい、機体の爆発に飲まれて三十年も生きていない命を終わらせた。
「アザリー!! こいつ、よくもワイズとアザリーを」
「動きを止めたのは、うかつだったな」
激昂する若いザフトパイロットの声は、キョウスケに届いては居なかったが、機体の動きに精神の動揺が現れていた。思わず足を止めたジンに向けて、キョウスケは冷静にガトリングキャノン二門を浴びせかける。
空になった薬莢を帯のように排出しながら、ガトリングキャノンから発射された銃弾はジンの胸部を中心に命中し続け、見る間に単眼の巨人を風通しの良い姿に変えた。
ガーリオン・ACは癖の強いパイルバンカーにこれまた癖の強い炸裂弾投射器と、キョウスケがキワモノと表現するのも当然のカスタマイズだ。
これでも背中のガトリングキャノンに胸部のマシンキャノンと、射撃戦もそれなりにこなせる武装だから、別世界でキョウスケの搭乗していたアルトアイゼンよりも戦いようはあるだろう。
カイとキョウスケの適性に合わされてカスタマイズされた機体以外にも、指揮官用に少数生産されたガーリオンはカオシュン攻防戦の各地で活躍し、本来あるべき結果とはことなり、東アジア共和国はカオシュンのマスドライバー防衛に成功する。
シュウにとっては予想通りに終わった結果であり、さしたる感慨もなかったが、開戦から敗北を重ね続けていた地球連合軍によっては、大いなる戦果であり、そして三大国の中で東アジア共和国が先んじて成果を上げた事実は、小さな火種となるには十分だった。