【悲報】下江姉、エッチを知らない   作:スラバヤサトゥ

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お疲れ様です。よろしくお願いいたします。


委員長と下江姉

シオリは緊張しながらツルギの横を歩いていた。

平面で舗装された道、何もないはずなのに足が引っかかる。

 

正実のメンバーになってからはや一年と数ヶ月…今、考えてみれば委員長と二人っきりになった事は無かった。

用があって会いに行く事はあるが、必ずと言って良いほどハスミ先輩とセット。

訓練の際も絶対に周りに絶対誰かがいたし…逆に今までが凄かったのかもしれない。

 

まぁ…これを気に仲良く…って言うかもう少し親しくなれればなぁ…なんて。

だけどさぁ…

 

(わぁ…話題が無い!!!!!)

 

な、何を話せばいいんだ?天気の事?朝ごはん?最近ハマってる事?自己紹介かよ…

私の悪い癖だ…一度、親しくなっちゃえばその後の会話は弾むのに最初の慣れ始めが上手くいかない…ひ、人見知りって奴?それか、最近よく聞く『陰キャ』って奴?

こう考えるとイチカちゃんってバケモンだったんだなぁ…流石、外交係。

 

「シオリ」

 

「へいっ!」

 

思ってもいないタイミングで名前を呼ばれ、すし屋みたいに変に返事をしてしまった。

 

「さっきから、唸っているがどうした」

 

「え?あぁ…そのちょっとした考え事です…」

 

「そうか。例えばなんだ」

 

貴女の事です。なんて言えない。

 

「あぁ…その、まぁ仕事の事ですよ」

 

後頭部に手を置き、目を泳がせながらそう短く言う。

口角はかなり緩やかな登り坂。

 

ツルギはそんなシオリの顔をジトっとした目で数秒見つめたが、納得したのか「そうか」とだけ言い、前をむきなおした。

 

シオリは内心、胸を撫でおろす。

う、嘘は言っていない。うんそうだ。

 

――と、そのまま終わるかと思った矢先。

ツルギの歩みがふと止まり、またシオリへと視線を向けた。

 

「……お前が、ハスミに連れられ委員会に来た時…私は正直に言って、少し驚いた」

 

「……へ?」

 

突然の告白に、シオリは瞬きの数を忘れるほど目をぱちぱちさせる。

 

「正義実現委員会は、己の意志で志願し、その正義を貫く者の集まりだ。だが……お前はスカウトだっただろう」

 

その言葉に、シオリは「まぁ…はい」と頷いた。

過去の話――自分から望んで入ったわけではないという事実を、今でも時折引け目に感じている。

一年生…あぁ今ぐらいの季節だったろうか、春の終わり…春さんが「まだだ、まだ終わらんよ」と言ってそうなパッとしない温かさと寒さの時期だった。

 

 

シオリは、何となく、何もしていなかった。

正義実現委員会――名前は聞いた。格好良さそうだと思ったこともある。でも、飛び込むほどの勇気はなかった。

他の部活動にも同じような距離感を保ったまま、手を出さずにいた。

勧誘会?屋台で小さいクレープを食べた記憶しかない。

 

気がつけば、放課後の時間は空白で埋まっていた。

誰かと待ち合わせをすることもなく、部室へ走ることもなく。

淡々と、平坦に、学校から家へ戻る日々。

家の家事があるから…そう自分に言い聞かせるのはいつもの事。

コハルから飛んでくる高校生活に対する質問も、のらりくらりと誤魔化す。

 

そういう日々の中で、ふとした衝動が彼女を動かした。

 

銃を撃ちたい。

 

当たり前のように皆が火器を持つキヴォトスだが全員が射撃が好きかと言えばそうではない。

逆に撃ちたいと思う方が少数派…と言ったデータもあるらしい。クロノスの記事でやっていた。

 

流石に通行人に対して無差別に鉛玉を浴びせる事はしない、そこまで終わってはいない。

手の中の空白を埋めるようにして、学園直営の射撃場に足を運ぶことがあった。

それは「訓練」ではなかった。ただ、「撃ちたかった」のだ。

音と反動に包まれるあの感覚だけが、無意味に続いていく日々に小さな爪痕を残してくれる気がした。

 

そこら辺の鉄パイプを溶接でくっ付けただけに見える安っぽい愛銃…実際、安かった。

的を狙うでもなく、何を競うでもなく。

ただ引き金を引くたび、胸の奥のモヤモヤが少しだけ晴れるような気がしていた。

 

その日もまた、一人だった。

射撃音が反響する空間に、誰の声も混じらない。

誰にも見られていないはずだった。

 

――けれど、その背後には、確かに誰かの視線があった。

 

そして、その日からすべてが少しずつ変わり始めた。

銃を撃つことが、ただの発散から、誰かを守るための「行動」へと変わっていったのは、そう遠くない未来の話だった。

 

 

「……だから、心配だった」

 

静かな声だった。

 

ツルギの語気には、いつものような冷たさも圧力もなく、ただ事実としてそう思っていた、と言うだけのような、柔らかさが含まれていた。

 

「気まぐれで入ったのか。それとも、流されただけなのか。戦う意味を、自分で決めていないのではないか……そう思っていた」

 

「…」

 

「下江コハル…あれを見ていると正実入りたてのお前を思い出す…流石姉妹だ」

 

「"見た目"が…ですよね?確かに、あのころはおどおどしてましたけど…」

 

シオリは少し苦笑しながら、自分の袖をつまんだ。

当時を思い返せば、目を合わせるのもやっとで、報告書一つまともに書けなかったことばかり浮かんでくる。

 

「違う」

 

ツルギは静かに首を横に振った。長い髪がその動きに合わせてわずかに揺れる。 

 

「……芯の話だ。自分の意思をまだ持てていない目。言われたことはするが、それだけの体。そういうところが、似ていた」

 

ツルギは少しだけ顔を横に向け、視線だけでシオリを見る。

淡々とした口調に込められたその言葉は、決して説教ではなかった。

押しつけでもなく、ただひとつの確認のようなもの。委員長として、ひとりの先輩として、戦場に立つ仲間に向ける目だった。

 

その後、お前はコハルの拡大版でコハルはお前の縮小版だと言われた。

やっぱ見た目の事も言ってるじゃん。

まぁ確かに、私が髪を結って帽子被ればコハルに成りすませる気はする……身長は~ハハハ…怪盗とかの変装ってあれどうやって身長の問題を解決してるんだろうね。

 

コハルぐらいの背丈も可愛くていいんだけどやっぱこのままが最高かな、なんせ後ろから抱き着いたら私の顔がちょうどいい感じにコハルの頭頂部にくるんだよね……あの子の髪ったら凄くいい匂いがして……ってなんか話が脱線しすたぎか。

 

シオリは唾を吞みこんで、ツルギに聞く。

 

「芯ですか…なんて言うか、自分では分かりにくいです」

 

「今のお前には目の奥に熱がある。たとえ些細でも、自分で考え、自分で選んだ“何か”を信じている者の目だ。妹の方もいずれ変わるだろう、必ずな。だから見守れ」

 

シオリは目を伏せ、照れ隠しのように髪を耳にかけた。

褒められているのだろうか。それとも、評価されているのだろうか。どちらにせよ、くすぐったくなるような気持ちだった。

 

「それがなければ…お前のような者はとっくに排除している」

 

「あぁ…はい…えぇ?」

 

衝撃すぎる発言に思考が止まり、変に声を出してしまう。

一瞬、レッドウィンターの真っ白な針葉樹の森に投げ込まれたような感覚になった、背筋どころか体中が凍る。

あの二丁ショットガンの威力ときたら…あぁ…また体が震えるよ。

 

「事実を言ったまでだ」

 

ツルギは表情を崩さぬまま、前を向く。

だが、その言葉の裏には確かな信頼があった。シオリにはそれが、はっきりとわかった。

 

「最初は、誰かの期待に応えるだけだったかもしれません。でも……今は、自分がここにいたいから、います」

 

それが、シオリなりに見つけた“正義”だった。

 

ツルギはそれを聞き、ほんのわずかに口元を緩めた。

それが笑顔なのか、ただの気配だったのか、シオリにはわからない。

でも――その場の空気が、少しだけあたたかくなった気がした。

 

「なら、いい」

 

短く、肯定のひと言。

それだけで、十分すぎるほどの答えだった。

 

「……ツルギ先輩って、優しいですね」

 

ぷいっと無言・無表情でシカトされた。

 

「ちなみにココでの話を外部に漏らしたらな」

 

「漏らしたら…?」

 

「殺す」

 

う~ん、あまりにも火力が高すぎる二語。

多分それだけで戦車二個大隊分はある…てことは『殺』で一個、『す』で一個か……流石、戦略兵器…全てが武器になる。

 

「…………流石にこの年でヴァルハラに行くのは勘弁です…」

 

「ヴァルハラか…戦って死ぬ気だな?悪くない」

 

やっぱこえぇぇぇぇ。

内心そんな感じで叫び、ツルギの横顔を見ながら、シオリは少し沈黙を置いてから問いかけた。

 

「……それを、言うために、私を連れてきたんですか?」

 

一瞬、風が吹く。

ツルギの髪がなびき、彼女はわずかに目を細めた。

 

「違う」

 

あっさりとした、即答だった。

そのひと言に拍子抜けしたシオリは、ぽかんとした顔でツルギを見上げる。

 

「じゃあ、何で……?」

 

ツルギはスッと、制服のポケットから何かを取り出した。

それは…ハンバーガーショップのチラシ。

有名な個人店でもなければトリニティにしかないローカルな店でもない……キヴォトス全域、人口減少が目立つアビドス方面から、レッドウィンターの寒冷地…大都会のD.U中央など、どこでも見られるチェーン店のチラシだった。

 

「……クワトロチーズバーガーが美味いらしい。試す」

 

「はぁ…」

 

呆気にとられるシオリ。

一瞬前までの重い雰囲気はどこへやら、ツルギは完全に「昼飯モード」に入っている。

 

「ま、待ってください!じゃあこの真面目な話の流れはなんだったんですか!?」

 

「ついでに、だ」

 

「ついでぇぇぇ!?」

 

ツルギは一切悪びれることなく、方向を変えて歩き出す。

さすが、戦場に嵐をもたらす女だ。

 

「本当はハスミのヤツと昼食をとる予定だったが、あの様子じゃな」

 

あぁそう言えばハスミ先輩結構怒ってたなぁ…というか、委員長でジャンクフード食べるんだ…失礼だけどレーションとかエネルギーバー的な物を食べてるイメージがある。

そもそもツルギ先輩に生活感を感じない。

 

というか…散々暴れた後、処理は任せてのこのこ昼食…中々に自由人…うーん、いや暴れた後だから腹が減るのか?

 

「シオリ、昼食はどうした」

 

「え?あぁ…さっきの事件で食べそびれました…そしてまさかの食べそびれたモノがそのハンバーガーって言う」

 

そういうと、ツルギ先輩は『ならこれで食べれる、良かったな』と…良かった?のか?

 

 

 

チーズバーガーのクーポンを片手に、ツルギとシオリは目当ての店舗を目指していた。

 

キヴォトスの各自治区をまたぐように存在する人気のチェーンだけあって、道すがらはにぎやかだ。

けれどその日、いつもと違う違和感が二人の足を止めた。

 

路地の入口、壁際に立つ数人の影――

制服を崩し、奇抜なヘアスタイルでたむろするその姿は、どう見ても「不良」と呼ばれる生徒たちだった。

 

「……ツルギ先輩」

 

シオリが小声で呼びかける。ツルギは一瞥をくれただけで、足を止めずに進んだ。

 

「問題がなければ通す。だが――」

 

その言葉の続きを告げる前に、不良グループの一人が、彼女たちの姿に気づいた。

 

「あ?何見てんだよ、オバケみてーな顔してよ……って、おい、あれツルギじゃね?」

 

「マジかよ。ヤベーの来たな……!」

 

「…ピンクの子分つきか……流石に逃げるのがいいんじゃ」

 

「ってか隠せ!」

 

明らかにざわつく気配。不良たちはやや距離をとりつつ…さっと手に持っていたナニかをカバンに隠す。

その一瞬の行動を二人は見逃していなかった。

眉をひそめるシオリ、ジトっとした目…かまぼこのような形をした口でぽけっとした顔のツルギ。

両者は数秒間見つめ合った後、すぐさま各々の愛銃を構えた。

 

「ケヒヒッ…!!!」

 

「誰がピンクの子分じゃい…オマケ扱いしやがってさぁ!」

 

いつも通り恐ろしい顔になっているツルギの事を横目で見て、シオリも最大限に怖い顔をしてみようかと歯を食いしばってみるが…鏡を見ていなくても無理だと確信した。

 

 

 

数分後。

 

その路地裏には、すでに静寂が戻っていた。

とはいえ、“通常の”静けさとは違う。

不良たちが全員、壁にもたれかかったり地面に転がったりしながら、ぐったりと気絶していたからだ。

特にひどい姿なのは、壁に頭から突っ込みお尻だけを外にさらしている者…頭隠して尻隠さず…なんて百鬼夜行の言葉にあるけど実際にみると中々の迫力と言うか、痛々しい。

 

路地にはわずかに硝煙の匂いが残り、無数の薬莢が転がっている。

 

「……はぁ。これ、報告書書くの面倒なやつですよねぇ……」

 

またハスミ先輩の雷が落ちるぞ~とは思ったが、逆にこれだけの被害で済んだので良かったのかもしれない。

 

シオリは額の汗をぬぐいながら、割れたサングラスをかけた不良の手からずるりとカバンを引き出す。

中身を確認するのも仕事のうちだ。危険物の可能性もある。

 

「……あら?」

 

ひらり、と何かが手元から滑り落ちた。

それは表紙に可愛らしいタッチで描かれた二人のイラスト――

『青春・グラデーション・ハート♡』と金文字でタイトルが飾られた、いかにもラブリーな漫画だった。

 

「……?」

 

シオリは無意識に首をかしげる。

後ろにいたツルギの目が、ぴくりと動いた。

ガッとくいつき、シオリの後ろで唸る。

 

「えっと…興味がおありで?」

 

シオリがそう言うと、歯をギリギリならしながら無言を貫き通す。

 

「多分、マンガ……ですよね?……恋愛モノ、だと思うんですけど……」

 

そう言って何の警戒もなくページをめくるシオリ。

一方ツルギはというと、シオリの行動を見て表情をわずかに硬直させ顔赤くする。

 

「恋愛……」

 

ツルギは一歩踏み出して、その紙を覗き込む。

その瞬間、目に映ったのは、顔を赤らめたヒロインが制服の裾を引っ張りながら「せ、せんぱい……っ、今日は……その…」と声を出している描写だった。

 

「うーん、ちょっと登場人物がベタベタしてるなぁ…とは思いますけど、アクションとか無いんですね~話のテンポがゆっくりで……」

 

(これ服着てないよね?うーん作画コストを露骨に下げようとしていると言うか…はぁやっぱ恋愛モノは分からないなぁ…何が良いんだか。キスなんて頬っぺたで良いじゃん…なんでわざわざお互いの唾液を交換しようとするのさ、下手したら感染症だよ)

 

シオリはまたページをめくる。

 

(うわぁ…そんなとこ舐めるなんてばっちぃなぁ…何これ?)

 

「……っ!!」

 

ぶちっ

 

という音が、何かから聞こえた気がした。

 

次の瞬間。

 

「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ツルギはシオリから無理やり奪った本を地面に叩きつけると、顔を真っ赤にして叫んだ。

叩き連れた本はと言うと無残な姿…木っ端みじんになりただの紙屑と化した。

 

そのままの勢い足元に転がる不良たちをガシガシと蹴る。

そして意味も無く路地を走り回った。

 

「つ、ツルギ先輩!?」

 

「お前はそれを見て何とも思わないのか!!!!」

 

「えぇ?いや別に何とも…」

 

「キェェェェェ!!!!!!」

 

「委員ちょぉ!?」

 

地団駄を踏むような勢いでツルギが足を鳴らす。

そしてそのまま叫びながら路地を飛び出して行ってしまった。

路地の外からは車のブレーキ、誰かの悲鳴…そして何かが壊れる音がした。

 

「……」

 

突然の事に唖然するシオリ。

口を間抜けにポカーンと開き、まぶたを何回も開閉させる。

無意識に頭と背中の翼がパタパタと動いていた。

 

「……ツルギ先輩…一体何が。は、ハスミ先輩に連絡ぅ…した方がいいかなぁ」

 

スマホを片手に、散り散りになったラブコメらしきモノの欠片を一つ拾いながらシオリはそう呟いた。

拾い上げた欠片には濃厚な絡みをする二人のシーンが描かれていたが、彼女は理解する事が出来なかった。

 




委員長…知ってはいるけど耐性はないって感じでしょうか。
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