【悲報】下江姉、エッチを知らない   作:スラバヤサトゥ

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このお話を気に入ってくださった方々いるようで嬉しいです、ありがとうございます。


シオリのSMGはステンガンです。愛すべき急造兵器。栄光ある衛生兵初期武器ですね。





出会いの日

大聖堂の大きな鐘が鳴り響く。

それと小鳥のさえずりに木の葉がこすれる音…自然音って奴だろうか。

わざわざこの音を部屋の中でヘッドホンをし動画投稿サイトで再生する人もいるらしい…私には良く分からない行為だ。

 

時計の針は11時をさしている、すでに街は活動を始めている時間だが見渡す限り人は全くいない。

そんな寂しい空間にて私は姿勢を正し、愛銃を構え直立不動で立ち尽くす。

昔読んだ本に載ってた王様の近衛兵になりきってみようとしたが数分で動いてしまった…私には無理だ。

いつものこの時間帯なら私はパトロール中かスナック菓子を口に放り込んでいるだろう。

 

今日は特別。

 

「おーい、お疲れさま〜」

 

「ん?」

 

聞き覚えのある同僚の声が耳に入り、ほぼ死にかけだったシオリの目に生気が戻る。

 

「あぁ…お疲れ様、イチカちゃん」

 

「えーと…大丈夫っすか?」

 

私の表情が今どうなってるのか分からい。

多分もうすぐ死ぬ魚みたいな感じ、死んではいない、もうすぐ死ぬ…ここ大事。

 

心配してくれているのこの人は仲正イチカちゃん。

同期の仕事仲間ですっごい優秀な人。

どう優秀かって?なんていうかーコミュ力の鬼って感じ。

たまーに見える目が綺麗。いつも目を細めてるけど光が苦手なのかな?

 

「まぁ少しぼーっとしてたかも。どうしたの?西地区の警備担当でしょ?」

 

「配置転換っすね。こっち側の戦力が薄いから~って。どれぐらいの薄さなんだろうなって思ったらシオリが一人でぽつんと立ってるもんだからびびったったなぁ…」

 

「戦力の分散は…」

 

「各個撃破の原因…でしょ?それなら心配ないっすよ、委員長が」

 

「言わなくても分かるよ。なるほど…これが"勝ち確"って奴?」

 

「シオリがそんな言葉使うの違和感あり過ぎて怖いっすね」

 

笑いながらそんな事を言われる。

そこまで変かな?なんかネットを見てると結構使ってる人多いし別に私が言ってもおかしくないと思うんだけど。

 

「ふぅ」と息をはいて私の横に立つイチカちゃん。

相変わらずこの人は落ち着いてる。

私は全然、落ち着かない。

何故かって?

 

「入学式って当事者じゃ無くてもなんか特別っすよね」

 

「だね~」

 

そう、入学式。

新たな物語のスタート、ワンランクアップ、高校生の仲間入り。

所謂『アオハル』って奴。

 

新入生の子達にとっては一大イベント…って言葉だけじゃ言い表せないかもしれない。

在校生にとっては後輩が増えるだけって話かもしれないが私は違う。

 

なんせ妹が高校デビューする日だ。

 

今頃姿勢を正して少しプルプルしながらティーパーティーのお偉いさんの話でも聞いているんだろうなぁ…なんて。

予想だけど桐藤様の話が一番長いと思う。うん、すっごい偏見。

まぁコハルは真面目だから問題はないでしょうよ。

 

「うーん戦力…増えるかなぁ」

 

「後輩の事を『戦力』はまずいよ」

 

ぽや~っと呟いたらイチカちゃんに突っ込まれた。結構マジな感じで。

彼女はどんな相手にも『〜っす〜』と語尾つける。フランクな時は外れるが仕事中はそれ。

 

仕事中に外れたのがもし確認できたらそれはまずい証だ。

確かにまずかったかもしれない、『人』を『人的資源』なんて言ってひっぱたかれた人もいるらしい…気を付けないと。

 

「ごめんごめん…でも人手不足じゃん?最近忙しいし!」

 

「それはそうっすけど…あ!聞けば妹さんが入学するとか」

 

「な…なんで知ってるの…?」

 

「さ~て?」

 

手をひらひら動かして誤魔化す。

口笛がわざとらしすぎる。

 

シオリ自身はできるだけ隠してたつもりだったが彼女と親しい人物なら常識レベルで知れ渡っている情報だ。

ちなみにイチカはとある先輩から聞いたらしい。

 

「で、ウチに入るんすよね?」

 

ニヤニヤしながらシオリの脇腹をつつくイチカ。

警備強化の為の配置転換とは何だったのか、先ほどからただただ談笑しているだけである。

もし誰かに見られたら大目玉だ、しかも入学式の当日…色々プラスされるだろう。

 

観念したかのように、『そうだよ!』と叫ぶ。

脇腹は弱い。

くすぐられるというより突きに弱い。

 

「そうっすか~早く会いたいな~」

 

「私は怖いよ…色々と…」

 

コハルに一体何する気なんだ……まさか変なギャグでも仕込まれるんじゃないかしら…なんて。

 

 

 

 

 

我が校トリニティには『勧誘会』なる催しがある…けど正直言ってどの学校にもありそうなので独自って感じはない。

 

せめてもっと捻った名前を付ける気はなかったのだろうか。

内容はというと、新入生を各部活・委員会に勧誘するというそのまますぎると言う物。

お堅い式の後にいきなりこれだ、忙しい…

 

入部の手続き自体はもう少し後だけど先輩から詳しく話を聞けるのは貴重なので逃すと結構痛いだろう…何せ私がそれだったからだ。

 

「…」

 

「紅茶部へ是非!レンジでお茶を温める不届き者を共に撲滅しましょう!」

 

「コーヒー部に興味はありませんか?泥水と罵る者の言葉など無視して一緒に味わいましょう」

 

ブースの席に座りながら説明用の資料の束をべらーっとはじき、賑わいを見せるスクエアを眺める。

物騒な言葉が聞こえたが皆必死な証拠…なハズ。そりゃそうだ、人がいなければ廃部…悲しいがそれが現実、厳しい世の中よね。

 

まぁウチはほぼ公的機関みたいなものなので廃れる事はないだろうけど…人がいないのは寂しいし、仕事が増えるしでいい事がない。

 

興味のない講義を聞くときみたいに頬杖はつかない、ここは職場だ。

何せ私の隣には…

 

「やはりこの空気はいいものですね、私も一年生の頃を思い出します。でしょう?シオリ」

 

「え、えぇ!そうですね」

 

この落ち着いており、いかにもできるって感じの女性は羽川ハスミ先輩。

黒く力強い翼に艶のある長い髪、そしてスリットの入ったスカート……

 

うーむ、寒くはないのだろうか?

 

確かにこれから暖かくなるけど、去年の冬も同じだった気がするし……アレかな?動きやすさ重視って奴かな。

委員会の副委員長で凄腕のスナイパー…そうなると服装にも考えがあるのだろう。

その腕前にも頭脳にも何度もお世話になっている…私が正実に入ったのもこの人の影響が大きい。

あの時、射撃場で声をかけられてなかったら…想像したくないかも、頭が上がらないねぇ。

 

 

 

「あの…」

 

可愛らしい子が話しかけてくれました。

 

「あら、どうしました?」

 

「その、少し気になってて…」

 

おっと…来ましたか。

紙の束から一枚めくり、新入生に向けて机に置く。

 

「なるほど……座って座って!委員会について説明するからさ」

 

「は、はい!」

 

その落ち着いた雰囲気と整った所作、しかしどこか親しみやすい口調。新入生は少し緊張しながらも安心したように対面の席に座った。

 

シオリはプリントの端を指で押さえながら、説明を始める。

 

「私たちは、学園の秩序を守るために活動してるの。問題行動を未然に防ぎ、生徒さん達が快適な環境で学べるよう努めています」

 

「はい、知ってはいました…」

 

「おぉありがたいね!……ですが、取り締まりだけが仕事ではないと考えます。私たちは”必要以上の厳しさ”を求めるのではなく、生徒の皆さんがルールを正しく理解し、よりよい学園生活を送れるようにサポートすることも重要な役割だと考えています」

 

コクコクと頷く新入生ちゃん。

とりあえず好感触。

 

一週間前、ブースでの説明係を頼むと言われたときは頭が真っ白になったけど…練習したおかげで何とかなっている…と思いたい。

説明文が用意されてるかと思ったら考えてくれだし、こんな感じで本当に合ってるのかなぁ…私の主観でしかないよ…

 

はぁ…こういうのはもっと上手い人がいると思うんだけど…まぁ任されてからには最後までやり切るしかない。

コハルに聞こえないように練習したけど…大丈夫かな…だって当日に言いたいじゃん!こういうの!

 

「制服は黒になるんだけど…そこは大丈夫?」

 

「は、はい!カッコいいと思います!」

 

「よかった〜白がいいって人が結構いるからさ」

 

私は白より黒が好き、汚れが目立たないし何しろかっこいい。

夏は暑いけどね。

 

新入生と笑いながらプリントを読み進めるシオリ。横ではハスミが目を細めて微笑んでいたが、説明に必死なシオリは気づいていなかった。

 

続ける彼女だったが、ふと相手が何か言いたそうにしているのに気付いた。

 

「聞きたい事があるならどうぞ?出来るだけ答えるからさ」

 

お堅すぎるのもダメ…親密感が大事…ってネットの記事にあった。

 

「あ、えっと……」

 

新入生は少し躊躇いながらも、意を決して口を開く。

 

「……その、委員会って、けっこう厳しいって聞いたんですけど、実際のところどうなんですか?」

 

その質問に、シオリは一瞬だけ沈黙した。

 

「…………」

 

来ると思っていた質問だ…!

うん、絶対にくる…と分かっていてもいざ来るとアレだね、怖いね。

 

(正実は確かに厳しい。だが、それを言いすぎると新入生が怖がってしまう……)

 

(でもここで本当の事言わないと…詐欺みたいになっちゃうし…)

 

(この子…そしてハスミ先輩を満足させる事ができる回答は…!)

 

 

静かにため息をつき、シオリは言葉を選ぶ。

メモを見る暇もない、思ったことを話そう…現場の生の声ってやつだ。

 

「……厳しさというより、”責任が伴う委員会” だと考えた方がいいかもね」

 

「いやでも目立つし、結構特別な権限も与えられてるからさ、お堅く…って感じではないけど規範になれるようにはしないといけない」

 

「戦闘もあるから実技面でも…あと、夏の行軍訓練が個人的には大変だったかな」

 

「確かに厳しい面はあるけど、楽しいよ…仲間と協力して一つの事を達成すると気持ちいしね」

 

優しく微笑みながら、シオリはそう締めくくった。

新入生は少し安心した様子で頷いた。

 

「そっか……なるほど、ありがとうございます!」

 

「ふふっ、あ、これあげるね」

 

委員会のロゴと校章がプリントされた鉛筆を渡す…これ結構デザイン良くて好きなんだよね〜鉛筆ってのがちょっとアレだけど。

せめてボールペンにして欲しかった…これはワガママだ。

新入生の子はお辞儀をするとトタトタと去っていった。

 

「…」

 

「…」

 

「ナイスです、シオリ」

 

「ありがとうございます」

 

肺に空気を満杯まで取り入れ、必要な物だけもらってその他は捨てる。

その行為を何回か繰り返し、感情を整えた。

 

落ち着いてきたその瞬間、私の心の中の卓球選手が『サァ!』と叫びガッツポーズを披露した。

聞いたところじゃ卓球って肩より高い位置でポーズしちゃだめらしい…ホントかね?

イイ感じに説明を完了し、先輩からナイスを貰う事に成功…一週間の努力が報われたねぇ。

 

「この調子でいきましょう」

 

「はい!」

 

(はい?…あ…)

 

そうか、そうだった…まだ始まったばっかりじゃん!

…さっきをテンプレートにすれば…まてよ…?それだとハスミ先輩に手抜きって思われちゃうんじゃ…イヤ流石に気にしすぎかなぁ…

適度に…そう適度に変えていけばいいか。

 

「次は私が説明しますね、交代交代でいきましょう」

 

「あっ、はい…分かりました」

 

 

 

その後、とくにこれと言ったトラブルはなく時間は過ぎていった。

一つあげるとしたら…凄い熱意で正実に入りたいと迫ってきた子がいた話だろうか。

あの子は確実に入ってくる…これで違かったら…うん。演劇部に行った方がいいだろう。

 

一段落して残ったプリントをまとめているところ先輩にこんな事を言われた。

「妹さんは…」以下略。

あなたもですか…プレッシャーで私もコハルも潰れちゃうよ。

 

「ん〜どうでしょう…友達ができたか、迷ってるかだとは思いますが…」

 

「お姉ちゃん!」

 

噂をすればなんとやら…言霊ってのは本当にあるのかも知れない。

 

姉の姿を見つけ、転ばないように小走りで駆け寄るコハル。

思っていた以上の混雑で来るのが遅れてしまった。

小柄だし、知らない相手に『ちょっとどいてください』も言えずにいたからだろうか…まぁ過程はどうあれ閉会する前に到着できた。

 

「お〜よく来た、よく来た!入学おめでとうね〜!どう友達はできた?」

 

「えっと…その…」

 

言葉に詰まる。

『できてない』と正直に言った方が良いのか…でも心配させてしまうので嘘を言うか…しかし姉に嘘はつきたくない。

 

「…その…」

 

なんだかモジモジしている妹を見て察したのか咳払いをしてポンと肩に手を置く、少しかがみ目線は同じ高さ。

そして熱い口調で言う。

 

「わかるよぉ…難しいよねぇ…知らない人に声かけるの!そしてそこから『友達になりませんか』なんて言えないよねぇ…!」

 

「お、お姉ちゃん…な、泣いてる?」

 

シオリ頬につーっと水分の塊が流れた後が残る。

自分と同じ過ちを犯してほしくないと言う思いが込み上げ涙腺が崩壊してしまったようだった。

今まで見た事ない姉の姿に唖然とするコハル。

 

「泣いてなんかないよ…目から灯油が溢れて出ているだけだから」

 

「いやいや失明しちゃうって!」

 

「大丈夫、チャンスは今日だけじゃないから…けどコハルの人生、コハルの自由に生きてね」

 

自分のコンプレックスを押し付けるのはダメだって誰かが言っていた。

 

「う、うん」

 

「じゃ、委員会の説明を始めるね!」

 

仕事と私事の切り替えが異様に早いシオリ。

彼女が『灯油』と言い張っていた液体もすでに止まったようだ。

 

「そこ座ってね」

 

「う、うん」

 

ボルトアクション式のライフルを机に立てかけ座る。

特に面接などではないが緊張している様子、椅子には深く座らず背筋はピンと…手は膝の上で握られほんの少し震えている。

これが彼女にとってトラブル以外での正義実現委員会との初めての関わりとなるのだから当然と言えばそうかもしれない。

準備を待ちながらキョロキョロしていると、姉の隣にいた女性と目が合い、驚き視線を逸らす。

 

「ん?あぁ、この人は羽川ハスミ先輩だよ。委員会の副委員長でね、私の恩師でもあるんだ〜」

 

「えっ!」

 

「ふふっハスミです。よろしくお願いしますね、下江…コハルさん?」

 

「はっはい!下江コハルです!」

 

すごい人だと知り慌てて立ち上がり一礼する。

 

(会っていきなり目を逸らしちゃって…失礼だったかも…けど、お姉ちゃんが慕っている人って事なら良い人よね…)

 

コハルはもう一度ハスミの事を見るが、その視線はブラックホールに吸い込まれるかのように先輩のご尊顔からお山へと向く。

一瞬、目が何を認識しているのか分からなくなり二、三回瞬きをするがそこでやっと分かったようだった。

 

ボフン

 

聞こえないはずの音が聞こえた。

なぜか顔が熱い気がする。

 

(でッッ…ってダメダメダメ!)

 

立派は立派、『キヴォトス・D.Uドーム』二個分かそれ以上。

不埒な思考が下江妹の脳を駆け巡る。

シンプルな楕円状のサーキットを周回する耐久レースのレースカー…急遽グランプリが開催されたようだった。

創作の世界だけだと思っていたがモノがそこにはあった。

大先輩と姉のソレを交互に見る。違う。ものすっごく失礼な事をしているのは分かっている、だけど抗えない。

 

ごくり

 

唾を飲み、正気を取り戻そうと頑張る。

 

(あ、相手は大先輩よ大先輩!…しかもお姉ちゃんの前!ダメなんだから!)

 

息を整える。

ブラックホールからの奇跡の生還を果たしたコハルだったがまだ待ち構えているものがあった。

自由落下で視線がさらに下へ。

 

ドカン

 

さっきよりデカいがやっぱり聞こえない。

 

縦にスパーンと切れたスカート…もう仕事していないのでは?と問いたくなるがその布の言い分的には仕事をしていると答えて来るだろう。

伝統衣装としての威厳は!?

これに関してはもう単純に分からない。

 

(…うん、ファッションよね…そうよ…お姉ちゃんも特に気にしていないし!)

 

そう無理やり理解しようとした時、彼女に電撃が走った。

あらあら切れたスカートの隙間から見えているではないか…大人なのが。

コハルの瞳孔が鋭くなった。

 

!?!?!?!?

 

硬直する下江妹。

数秒後シオリに名前を呼ばれあっちの世界から戻ってきた。

ブラックホールから逃れ、魅惑の隙間から生還できた英雄。

 

その後の説明は色々気が散り疎かになったので自室でアイスココアを飲みながらもう一度教えてもらった。

 

 

 

 






コハルがカフェで「リア充め…」っていう度笑ってしまうんですよ。



ハスミ先輩→恩人です、ストレス解消の為射撃場にいた時その腕を見て委員会に誘ってくれました。

イチカちゃん→学年が上がった事で知り合いました。共に中間管理職をする事になります。気さくな仲です。

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