感想の表示がポップした時、静かにテンション上がります、ありがとうございます。
五人と一人の出会い
「はぁ……」
少女は小さくため息をつきながら、リュックのショルダーハーネスを握りしめた。
その視線の先には、正義実現委員会本部の重厚な扉。まるで裁きの門のように、どこか近寄りがたい威圧感を放っている。
その様子を隣に立つ大人が心配そうに見やり、声をかけた。
「大丈夫? 今の、なかなか大きめのため息だったけど」
「え? あっ……その……正義実現委員会の本部って、ちょっと独特な空気があるといいますか……。別に悪いことはしてないのに、妙に緊張するというか……」
少女ははにかみながら言い訳のように言う。
それを聞いて、大人はふっと優しく笑った。
「大丈夫。今回は人に会いに来ただけなんだから。事情を説明すれば、なにも問題ないよ」
大人は付け加えて『委員会に知人もいる』という事を伝えた。
「……ですよね! じゃあ、ノックしちゃいますね!」
少女は一度、深呼吸をしてから扉の前に立ち直り、声を張った。
「失礼します!」
——コツ、コツ、コツ。
三回、扉をノックし、重々しい音を立てながらゆっくりと押し開けた。
「すみません、どなたか——」
声が広がったが、反応はない。
室内は静まり返っていて、人の気配も感じられない。少女は辺りを見回したが、誰の姿もなかった。
「誰もいないみたいだね、仕事かな?」
「そう言えば…外の電光掲示板に【正義実現委員会戦闘中につきこの先注意】と書いてありましたね」
「爆発音もしたし…現場で対応中かな」
「あぅ…一気にメンバーに会えると思ってきたのですが…思惑が外れましたね」
少女は肩を落としてしょんぼりとつぶやいた。
そのときだった。
かすかな物音がした。
——カサリ。
ほんのわずかな、紙でもこすれたような音に、少女と大人は思わず身を強張らせた。
別室のへの入口…少女が身構えるよりも先に、奥からひょい、と誰かが顔をのぞかせた。
「…だれ?」
不愛想な声と共に現れたのは、ピンク色の髪をツインテールに結った少女…下江コハルだった。
黒い制服を見るに、正実の生徒だと一目で分かった。
手にはしっかりとライフルが握られており、目つきは鋭く、緊張が走る。
明らかに“警戒モード”だ。
「わっ……あ、あのっ、待ってくださいっ、敵じゃありません! 撃たないで!」
慌てて両手を挙げる少女。
その隣で、大人もすぐに腰のホルスターからピストルを引き抜き、ゆっくりと床に置くと、両手を広げて見せた。
「撃たないわよ、いきなり撃っちゃダメって先輩にも姉にも言われてるし……」
そう言いながらも、コハルはしっかりとトリガーから指を外さず、銃口を軽く下げたまま構えを崩さなかった。
「えーと……こんにちは……」
少女が恐る恐る声をかけるが——
「……」
コハルは返事もせず、鋭い視線でじっと睨み続けている。
「あの……」
「……」
「あぅ……せ、先生、私……何かしてしまったのでしょうか……?」
困り果てたように、少女は横に立つ大人へ助けを求める。まるで泣きそうな顔で。
「大丈夫だよ。きっとちょっとだけ人見知りなだけだと思うな」
落ち着いた口調でそう慰める“先生”に、コハルがビクリと肩を揺らした。
「だーれーが! 人見知りよ、失礼ね! 警戒してるのよ! 本部に来た相手を警戒しないなんて、正実として逆にダメでしょ!」
「確かに。君は職務をしっかり果たしている。ごめんね」
優しく微笑む先生の態度に、コハルはふいっと視線を逸らしながらも、少しだけ口元を緩めた。
「そうよ……! で、正義実現委員会にいったい何の用?」
腕を組み、今度は明確に問いかけてくる。警戒心は残しつつも、少し和らいだ声音だった。
「えーと……とある方を、探していまして……」
少女はそう言いながら、手に持ったメモをおずおずと見つめた。
「はあ?」
その言葉に、コハルの眉がぴくりと吊り上がる。
「正義実現委員会に人探しを頼もうっての!? 冗談もほどほどにして! そんな暇あるわけないでしょ、見ての通りじゃない!」
両腕を広げ、がらんとした静かな本部の様子を示す。
「そういうのは、ヴァルキューレのトリニティ支部とか、便利屋とか……そういうところに頼みなさいよね!」
少女は戸惑い、先生は苦笑を浮かべる。
「えっと…そういう探偵業務をお願いしたいわけではなく、委員会に留置されている方に会いたいと言うか…」
「え?じゃあ面会って事?ちょっとまって」
コハルは二人にそう告げ、部屋の奥へと姿を消した。
その姿を見て少女と先生は視線を合わせて、安心したように頷き合った。
数分ほどしてコハルが資料を手に戻ってきた。
「えっと、名前は?」
「はい!阿慈谷ヒフミです!」
「ん、そっちの…大人よね?珍しいけど」
「私は先生だよ」
「……それ名前?」
「…?私は先生だよ?」
コハルはその答えに一瞬きょとんとし、思わず唾を飲み込む。
しかし「…まぁいいわ」と呟き、手元の資料に視線を落とした。上から下へと欄に乗っている名前の中から『阿慈谷』を探すが、どこにもない。
「…‥ないわね。そもそも今日は面会がある予定すらないわよ」
「ああ、そうですね…正式な手続きを経たというよりは、その……非公式に、みたいな形なので……」
「はあ……もう、ダメよ、そういうの。面会ってのはちゃんと申請して、許可もらって、って手順を踏まないとダメなの」
「す、すみません!」
ヒフミは頭を深々と下げた。
その姿に、コハルは思わず一歩引いて、少しだけトーンを和らげフォローにわまった。
「いやまぁ難しいもんね…えっと、誰に会いに来たかだけ聞いてもいい?ちょっとお姉ち…じゃなくて上に掛け合ってみるから…」
「あっ…えーと、『浦和ハナコ』さんですね」
「浦和ハナコ、浦和ハナコ…ん?」
聞き覚えのある名前だ。
何度もその名前を小さく繰り返しながら、コハルは徐々に眉をひそめていく。
「浦和ハナコ、浦和ハナコ……うらわ……は……あっ!!」
何かに気づいたようにコハルが顔を上げた、そのときだった。
——コンッ。
どこかで小さな、乾いた音が響いた。部屋の空気が微かに変わったような気がした。
少女と“先生”が同時に周囲を見渡す。コハルも警戒したように、銃口を下げながら背後を振り返った。
そこに…いた。
水着姿で微笑みながら立ってる少女が。
「ふふ、呼びましたか?」
柔らかな声だった。
ほんの少し影を落とすような、儚げで落ち着いた声色、しかしどこか色気がある。
ひと目で“ただ者ではない”と分かる不思議な空気をまとっていた。
まぁ空気どころから見た目で判断した方が早いだろう。
「っ!?」
コハルは咄嗟に半歩引き、目を見開いた。
続けて、ヒフミも先生も肩を震わせた。
「な、なんであんたが、こ、ここに……!? 地下の留置区画にいるんじゃ……っ!」
コハルは明らかに動揺し、咄嗟に半歩引いてから再び前に出るように体勢を整える。構えていた銃を握り直し、警戒するようにハナコを睨んだ。
だが、現れた少女――浦和ハナコは、どこ吹く風といった表情だった。
表情は柔らかく、まるで食後のティータイムに現れたような優雅さすら感じさせる。軽く胸元に手を添え、僅かに頭を下げたかと思えば、静かな声でこう答えた。
「名前を呼ばれたので……鍵を解除しました」
「はぁ!? そんなことできるわけ――っ!」
コハルのツッコミも途中で遮られた。ハナコは首を傾げながら、ほんのり微笑む。
「適当に……ぜろななにーいち、と合わせたら開きましたよ♡」
「!?」
数秒、完全に思考が停止した。
「そ、そんなわけ――えっ!? ダメでしょ!? 普通に脱獄!!? それ、れっきとした犯罪行為よ!?」
「ふふふ」
ハナコは涼しい顔で小さく笑い、視線を先生のほうへと移した。
「……あら? 大人の方がご一緒とは。あぁ、なるほど……補習の件でしょうかね?」
まるで再会を喜ぶような口調だった。先生はやや困惑した顔で頷く。
「あ、ああ……うん。そうだけど……」
「というか! なんでまだ水着なのよ!! ジャージを貸し出したじゃない!」
コハルの声は、もはや怒鳴り声に近かった。
その声にも、ハナコは優雅な所作で軽く首を振った。
「あぁ……少し胸元がきつくて。生活に支障が出そうだったので、脱ぎました」
「うるさいわね!! 着なさいっての!! そもそもあんたが水着で歩き回るのが悪いのよ!」
コハルの額には、ついに血管が浮かび始めた。
だが、ハナコはその騒ぎをものともせず、柔らかく首を傾げながら問いかける。
「確かに、あの公園の付近にプールはありません。でも、公園も学園の敷地内、プールも学園の敷地内……つまり、実質、公園もプールサイド……」
ハナコはそこでひと呼吸置き、さらにとんでもない仮説を投げかけた。
「あ……もしかして、下江さんは全裸遊泳派……?」
「いやいやいやいや! 着るわよ!? バッカじゃないの!?!?」
もはや叫ぶというより絶叫だ。
ハナコはその怒声すら心地よい風のように受け流すと、さらに追い打ちをかける。
「なるほど……巷で噂の、人類の起源に立ち返り、自然と共に肌を晒す思想……。いやはや、正義実現委員会は進んでいますね。そういった精神性にも精通して――」
「そんなの名誉棄損よ!! 風評被害で訴えるわよ!!」
コハルは両手をぶんぶんと振り回しながら、ハナコの肩を押し始めた。
「とっ、とにかく戻りなさい! そろそろ先輩たちが帰還してくるからっ!」
抵抗するでもなく、ハナコはコハルの押しにされるがまま、ふわふわと階段のほうへと歩かされていく。
「……あら、でもこの方々は私に用があって……」
ハナコは最後の抵抗として振り返る。
「うるさいわね! ちゃんと手続きを踏んでから! 戻れ、この変態バカピンク!!」
「そうですね、すみません。もう少し落ち着いた場でお話しましょう。では、また後で」
コハルの手をすり抜けるように、ハナコはすとん、と階段を降りていった。
どこかの宮殿へ帰っていく王女のような、威厳と余裕のある背中だった。
来ているのは水着だが。
「はぁ……はぁ……ん゛ん゛っ!!」
部屋に響く、渾身の絶叫。
コハルはそのまま脱力したように壁にもたれかかると、震える手でポーチから水筒を取り出し、喉に流し込んだ。
ひと息に飲み干すと、少しだけ息を整え、天井を仰ぐ。
「あぁもう……叫びすぎて喉が潰れるかと思った……!」
張り詰めていた神経が一気に解けたようで、膝に手をつきながらぐったりと脱力する。
そんな彼女におずおずと声をかけたのは、先ほどまでその騒動を唖然と見守っていたヒフミだった。
「あの……えーと、ハナコさんって、この後どうなるんでしょうか……?」
恐る恐るの問いだった。
だが、それに対するコハルの返答は容赦なかった。
「え? そんなの簡単よ。人前であんな格好をして歩き回ったのよ? 死罪よ、死罪!」
びしり、と指を突き上げる。完全に勢いだけの発言だった。
「お、おもくないですかねぇ……?」
ヒフミが頬を引きつらせながら尋ねる。
そこへ横から先生が、妙にノリのいい調子で会話に入ってきた。
「ちなみにどんな感じで……死罪に?」
「せ、先生!? 乗っかっちゃダメです!!」
ヒフミが慌てて止める中、コハルは一瞬真顔になり、数秒考えてから――。
「それは……そうね……まずギロチンして――」
「ギロチン!?昔の王族じゃないんですから!」
「それから磔刑にして――」
「なんで!? もう首ないんですよね!?」
「火炙りにして――」
「なんで首のない身体を燃やすんですか!? 死にすぎです!! オーバーキルです!!」
ヒフミは両手を振り回して全力で否定した。
もはやツッコミというより、必死の訴えに近い。
しかしコハルは涼しい顔で、水筒を飲み干してから一言。
「……だって腹立つじゃない、あの変態」
「感情論っ!!」
「あはは…」
「……えーっと…ハナコさんは一度置いておいて…次はえーと…あれ、コハルさ…」
ヒフミが再びメモを見たその時、ドン!と委員会室の部屋が開いた。
音に反応し三人の視線がそちらに向く。
「戻りました」
「正義実現委員会、帰投しました!」
「はぁ…疲れた…」
「あぁ…まだ喉が痛いや」
ハスミとマシロを先頭に出払っていた正実の面々が帰ってきた。
その制服は煤塗れで布を破いてしまった者もいるようで、現場の壮絶さが伝わってくる。
「総員、一時間の休息の後、通常業務以降…いや、先ほどの戦闘の後処理にリソースを割いてください」
「中央区の戦力を回してしまうと…警備体制が疎かになるのでは?」
マシロが慎重な懸念を口にする。
「…東西南北…それぞれの学園内区域から戦力を捻出するよう伝えてください、イチカに統率させます」
「了解です」
「茶会への報告は如何しましょうか」
「それは私が担当します…まぁ、今はとりあえず休憩しましょう、総員解散!」
ハスミの掛け声と共に、緊張感は消え去り、部屋には活気とお茶の香りが漂い始めた。
コハルはタイミングを確認してハスミに駆け寄った。
「お疲れ様です!」
「む、あぁコハルですかお疲れ様です」
「コハルさん、お疲れ様です!」
挨拶を交わしながらも、コハルは周囲を見回す。
どこか焦ったように、彼女の視線は人混みの中を泳ぐ。
「…あ、あの?おね…姉はどこに?」
その言葉に、ハスミとマシロは一瞬だけ視線を交わす。
「あぁ…」
「シオリ先輩はですね…」
微妙な沈黙。すぐには返事が来ない。
そんな二人にコハルは小首をかしげるしかない。
「…」
ハスミは静かに顎で合図を送る。
その指示を理解したように頷くと、マシロはきゅっと唇を結んで、懐から…一丁の拳銃をとりだし、コハルの前に差し出した。
「え…?」
小さく息を漏らしながら、拳銃を震える両手で受け取り、見つめる。
45口径の旧型拳銃。マットブラックな塗装の本体に、ワンポイント映える桃色のグリップパネル。
それ以外は全く手をくわえられていない、素の状態。
マット塗装を台無しにするほど数えきれないほどの傷がある…がそれは幾度もの戦闘をくぐり抜けてきた証だった。
間違えるハズがない、愛してやまない姉の副兵装だ。
だが、なぜその銃だけが、ここにある?しかもメインのSMGではなくピストルだけが?
コハルの脳裏に、最悪の可能性が走る。
「おっ……お姉ちゃんは!? どこなの!? 無事なの!?」
声を震わせ、思わず一歩踏み出す。
それに対し、ハスミが両手を挙げて優しい声で宥めるように言った。
「落ち着いてください。シオリは、戦闘で負傷し気絶――救護騎士団によって搬送され、今頃は医務室のベッドの上かと」
その言葉を聞いた瞬間、コハルは安堵と焦燥の入り混じった顔で大声を上げた。
「っ! ごめんなさい! 行ってきます!!」
そのまま踵を返すと、風のような勢いで委員会室を飛び出していった。
「コハル…………っあら?先生…すみません気付かずに…」
「久しぶり…って言うほどじゃないね、こんにちはハスミ。大丈夫だよ、それよりもあの子のお姉さんは大丈夫なの?」
「えぇ、頑丈な子なので心配は………いりますね、私も内心バクバクです」
「私もいこうかな、どうやらちょうどあの姉妹に用があるからさ」
先生はヒフミの手元をチラリと覗きながら言った。
ハスミは何かに気が付いたように小さく「なるほど」と頷いた。
「行こうか、ヒフミ」
「はっ…はい!」
「ハナコもね」
「うふふ」
「じゃあまた今度…と言ってもまたすぐに用があるかも、ハナコも借りるよ」
「分かりました、お気を付けて」
三人は委員会室を後にした。
一瞬視界に映った水着の姿に困惑する正実一同だった。
「はぁ…はぁ…っ!」
コハルは荒い呼吸を押し殺すように、脇腹を抑えて走っていた。
救護騎士団の病棟内。白く静かな廊下に、彼女の足音だけがリズムを刻んでいく。
「そこの方、廊下では走らないでください!」
「すみませんっ!!」
騎士団員の注意にぴしっと反応し、走る速度を控えめにする……が、明らかに許容ギリギリの小走りだった。
やがて、目の前に『下江シオリ』の名が刻まれたプレートが見える。
それを見た瞬間――
「お姉ちゃん!」
扉を乱暴に開けて、部屋の中へと飛び込んだ。
常識もマナーも今だけは置いてきた。
抑えようのない焦りと不安が、そのまま声となって弾け飛ぶ。
その声に反応はーー
「ん~?」
返ってきた。
「んあ、コハル?どうしたのそんなに汗かいてさ」
けらっとした様子で応答し、ベッドに腰かけていたのは――紛れもなく、姉・シオリ本人だった。
テーブルの上には絶賛映画を上映中のスマホ、膝の上にはポテトチップスの袋。
腕には包帯、鼻の上には絆創膏……と怪我をしているようではあったが、苦しそうにはしていない。
よく自宅で見る姿とほぼ同じ。
「へ?」
コハルは、全力疾走してきた自分の姿と、目の前の「リラックスお姉ちゃん」とのギャップに、脳の処理が一瞬追いつかなかった。
「も、もうっ……!心配して損した……!」
そう呟きながらも、涙目でシオリの胸に飛び込むコハル。
力いっぱいしがみつくその様子に、シオリは少し困ったように眉を下げつつも、優しくその頭を撫でた。
「ごめんごめん、コハル。そんなに心配してくれてたんだねぇ」
「……っ! ほんとに、バカ……っ!もう…うぅ」
しばらくそのまま、感情の余波が収まるのを待ってから――
コハルはむくりと顔を上げた。その瞳には先ほどまでの涙がうそのように鋭い光が宿っている。
「で、誰にやられたの?」
唐突に切り替わったコハルの声に、シオリは「あ〜」と間延びした返事をしつつ、のんびりと隣を指さした。
「あぁ~そこの子」
シオリはとてつもなく軽い言葉と共に親指で隣のベッドを指さした。
「む?」
それに反応し、隣のベッドの少女が顔を上げた。
綺麗な長い白髪、鋭い目元には絆創膏。
制服の袖は破れ、腕には包帯が巻かれている。
そして何より目を引くのは、テーブルの上――
そこには、針金、導線、そして明らかに爆薬らしき物体の断片が広げられていた。
「私に用?ごめん、このパーツだけつけさせて」
視線は合わせず小さく首を傾けながら、不穏な塊に向けてピンセットを動かす少女…白洲アズサだ。
静かな声音と表情だが、その内容はまるで日常会話のテンションではない。
「……え、は? はあああああああ!?!?」
コハルは目を見開き、病室中に響く大絶叫を上げた。
「ちょ、ちょっと! 病室で何してるのよ!? っていうかこの人!? この人が犯人!? お姉ちゃんをやったのコイツ??」
「いやー、やったっていうか…やられたっていうか…まぁ、どっちもどっち?」
「どっちもどっちじゃないでしょおおお!! そもそもなんで犯人が同じ病室にいるのよ!!」
「さぁ?運命?」
「まさか正実にあそこまでやってくる兵がいるとは想定していなかった。だがトラップは有効だったし、ガスも上手くいった。もう少し弾薬があれば良かったけど…まぁ敗北したのは事実だ、反省しないと」
アズサは静かにピンセットを置きながら、ようやくコハルの方へ視線を向けた。
いやいやいやと首を振り、アズサを睨むコハル。
憎悪に満ちた目をし「良くもお姉ちゃんを…」と姉の拳銃を構えようとした。
そのタイミングで――
コン、コン、と控えめなノック音が、ドアの向こうから響いた。
「失礼します……!」
先に入ってきたのはヒフミだった。
その後ろから、先生が穏やかな足取りで続き、最後に、水着のままのハナコがひょっこりと顔を覗かせる。
「え?さっきの…ってあんたはなんでまだ水着なのよ…っていうかなんでここにいるのよ!!!!」
「着替える物がなかったので♡あと、先生に呼ばれたので」
ニコッと首を傾けるハナコ。
先生も「まぁね」と軽く笑った。
「大丈夫、ハスミには言ってるよ」
そう付け足した。
「まぁそれなら…というか、先生ってなに?授業でもするの?」
「うん、正解。ティーパーティーの子達に頼まれてね、補習授業部の顧問をしに来たんだ、シャーレからね」
先生は、スっと手帳型の証明書を白いコートの懐から取り出した。
ホンモノだ、噂の新組織、『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』のロゴに顔写真、連邦生徒会の印もある。
「補習授業部?聞いたことない」
「えっと…臨時の部活ですからね」
「ふーん」
「それで、そのメンバーに一度会おうと、歩き回っていたのですが……」
「え?」
コハルは何かに気付いたように、ハナコとアズサを交互に見つめた。
そして、口元を抑えながら小さく吹き出す。
「あはは!凶悪犯に変態!それの前に『バカ』がつくって事ね!傑作じゃない!お姉ちゃんがこの前見てた映画より、何千倍も!!!」
「え?コハル?そう思ってたの?」
「そうか…補習か」
アズサは、静かに頷く。
「あぅ…その申し上げにくいんですけど…」
ヒフミはおずおずと、メモを歌詞カードのように両手で顔の前に掲げる。
「下江コハルさんも……メンバーの一人ですね」
「へ?」
「あと…下江シオリさんも…です」
「あら、やっとかぁ~この前のテストのヤツですよね?中々通知がこないから怖くって、でも補習授業があるってのは聞いたことなかったなぁ~てっきり追試だけかと」
コハルは顔面蒼白になり、ぶわっと体中に汗をかく。
その瞳孔は微かに震えていた。
「あらあら…これは…楽しくなりそうですね~」
ハナコは頬に手を添え、目を細めてにっこりと微笑んだ。
エデン条約編。上映開始。
そろった、そろったあーそろった。
先生は…どの性別でも構いません。まぁFBI捜査官っぽさがある感じの若い大人って感じでしょうか。まぁなんでも大丈夫です。