「えっと…落ち着きましたか?」
ヒフミがそっと声をかけると、シオリは手の甲で目元をぬぐいながら、へにゃりとした笑顔を返した。
「大丈夫…あれだよ、生きてるとふいに涙が出てくる現象…あれと同じ、えへへ」
「なら、いいのですが…」
ヒフミは少しだけ肩をなでおろす。
その様子に、シオリは勢いよく両手を合わせて頭を下げた。
「お騒がせしてすみません!もう大丈夫です!!ごめんねヒフミちゃん、話の腰を折っちゃって」
「い、いえいえいえ!そんなこと全然ありませんよっ!」
ヒフミが慌てて手を振る中、ハナコが柔らかく微笑みながら言葉を挟んだ。
「でも…ヒフミちゃんを尊敬しちゃう気持ちは、分かります。昨晩だけで、こんなにも準備を進めてくださって…」
その声には、心の底からの感心がにじんでいた。
「ああ……いえ、その……先生も手伝ってくださったので……」
「先生が?」
「いやいや、私は大して何もしてないよ。これはヒフミの頑張りの結果だ。私だって尊敬しちゃうくらいだよ」
先生の言葉に、ヒフミは恥ずかしさからか小さく肩を縮めて、視線を泳がせた。
「うぅ〜重いです……あっ、ちょっと、いいですか?」
ヒフミは言葉の流れを切り替えるように、隣に置いていた大きめのスポーツバッグを、机の上に「ドン」と置いた。
重みを感じる音が教室に響き、自然とみんなの視線がそのバッグに集中する。
「えっと……ただ勉強するのもあれですし、いい成績を出せた方に、ご褒美を……と思いまして!」
「ご、ご褒美……?」
「べ、別にそんなのいらないわよ……子供じゃないんだし……」
コハルが腕を組み、そっぽを向く。
だが、その目線は明らかにバッグのファスナーの位置に吸い寄せられていた。
唇をとがらせながらも、好奇心を隠し切れていない。
(──まだご褒美って言葉に反応しちゃう年齢だもんね…)
シオリがばれないようににんまり顔をつくる。
もっと言えば、「ご褒美」と聞いて、少しでも心が躍らなかった者など、この場にはいなかった。
大人である先生も少し気になる様子。年齢関係なくワクワクするものなのだ。
ヒフミはそんな皆の様子を見て、照れ笑いを浮かべたままファスナーに手をかけた。
「では……開けますね?」
ヒフミがバッグのファスナーに手をかけると、教室内の空気がふわっと張りつめた。
誰もが思わず息をひそめ、視線が一点に集中する。
期待と興味に満ちた空気が、じわじわと膨らんで──そして、ファスナーが開かれた瞬間。
現れたのは、もこもことした、色とりどりのぬいぐるみの山だった。
目が完全にイっている、鳥らしき何かがこちらを覗いている。
「…なるほどねぇ……」
「……あら」
「っ!!!」
「は?」
「おお!」
反応は、実にまちまちだった。
感嘆、困惑、絶句、そして歓喜。まさに五者五様。
「はいっ!」
ヒフミは満面の笑みを浮かべ、ぬいぐるみの一つを手に取る。
「いい成績を出せた方にはこちら!『モモフレンズ』のグッズをプレゼントしちゃいます!」
両手を広げ、誇らしげに発表するヒフミ。だが、その笑顔とは裏腹に、教室の空気は少し戸惑い気味だった。
「えっと…どうでしょうか?」
「……モモ、フレンズ?」
ハナコが首をかしげ、ぽつりと尋ねる。
「え、ご存知ないですか? 最近流行りのあの『モモフレンズ』ですが……」
ヒフミはやや信じられないという表情で目を見開いた。
「いえ……スミマセン、初耳です」
少し困ったようにハナコが返すと、ヒフミは肩を落としながら、静かにバッグを床に下ろした。ぬいぐるみたちのカラフルさが、逆に彼女の落胆を引き立てている。
──『モモフレンズ』。
キヴォトス全域に影響力を持つ、巨大インターネットサービス企業『モモグループ』が展開する、キャラクターおよびメディアミックスシリーズの総称である。
モモグループは、通信、SNS、配信、AIアシスタントサービスなど、現代生活に不可欠なインフラのほとんどに関与している超巨大企業。かつては遊園地の開発と運営まで手がけており、その影響力と多角経営は下手な学園より上。
そんな企業が自社のブランド力を強化するために誕生させたのが『モモフレンズ』。
もともとは同社の人気SNSアプリ『モモトーク』内のスタンプキャラクターから生まれた存在で、そのままゲーム、グッズ、コラボ銃器に車両…さらにはロボット用カスタムパーツまで商品展開を広げた。
しかし、商品の生産と再販サイクルが恐ろしく長いため、一部ネットユーザーからは…
「モモグループって、絶対に商品作りすぎて生産ラインパンクしてるよね」
という苦情とも皮肉とも取れるコメントが書かれる始末。
だが、アニメと映画に関しては評価が変わり、「普通に名作」「なんかさらっと超大作で笑える」と高評価を受けている。
──そんな国民的シリーズ、かと思いきや。
「うーん、どこかで見たような気がしましたが……知りませんね」
思ったより知名度がない。
ハナコはやっぱり分からないと首を横に振った。アズサは興味津々にぬいぐるみをつついている。
「えぇ!? こ、コハルちゃんはどうです!?」
縋るように問いかける。
「知ってるけど……」
ヒフミの目に、希望の光が宿った──が。
「……受け付けない」
ぐさっ!
まさかの断罪に、ヒフミはガタン! と音を立ててその場に崩れ落ちた。
「……あぁあぁ……し、シオリちゃんはどうです……?」
もう座ったまま地面に顔を埋めそうな勢いで、ヒフミは声を絞り出す。
すると──
「ヒフミちゃん……」
シオリが、そっと歩み寄り、座り込んだヒフミの手を、両手でやさしくすくい上げ、真っすぐにその瞳を覗き込む。
「私ね、『ペロロ・ザ・ムービーシリーズ』……あれ、すっごい好きなんだ」
「……え?」
空気が、止まった。
「とくに…『PERORO WARS』と『Indiana・Proro』…このシリーズのDVD全部持ってる…私、映画からペロロ知った民でさ…『PW*1』に関しては最近のドラマシリーズも追ってるし…『PWバトルフロント』もいまだにプレイするし…」
「シオリちゃん……」
ヒフミは泣きそうなほど細い声で、名前を呼び…抱き着いた。
「ありがとうございます…」
「ヒフミちゃん…!」
二人はまるで旧友との再会を果たしたかのように、ぬいぐるみを挟んで抱き合っていた。
そんな光景を、少し距離を取った位置から見つめていたコハルは──死んだ魚のような目をしていた。
「……私たちはこれを見て何を思えばいいの?感動しろって?」
「まぁまぁコハルちゃん…趣味は人それぞれという事で…私が水着を着るみたいに」
「あんたの趣味よりかは健全ね、吹き飛べ変態」
普段は姉に対して全面的に肯定スタンスのコハルでさえ、この状況だけは納得できないようだった。
「あぁ!思い出しましたよ。ヒフミちゃんのカバンやスマホケースがこれでしたね」
「…お姉ちゃんのモバ充もこの気持ち悪い鳥……全面に出してないだけまだマシね…いや、確かに映画はまぁまぁ見ごたえあったけど…やっぱ目が怖い…私はいらない…こんなのだったら100円の缶ジュースの方がうれしい」
『姉妹の時間』としてゆったりと二人でテレビを見る時間を設けている下江家。
コハルは映像作品にコレといったこだわりはないので大体、姉の趣味を一緒に味わうのだが…その時間で時々目にするのがあの『キショイ鳥』の映画だった。
そのおかげか、存在を知り…『まぁ見慣れてはいる』程度まできているが…好きかと言われたらNoだ。ぶっちゃけアンチになりかけている所もある。
「ペロロより100円ジュースの方が上」と言う正直すぎる言葉に、ヒフミの心は再び揺らいだ。
「うぅ……でも、知り合った中で二人目のモモフレンズフレンズです……ノノミさん……私たちは……間違ってなかったんですよ……!」
どこか遠くを見つめながら呟くヒフミ。目の端にうっすら涙が光っている。
「で、もらえるとしたら、どの子がいいですか?」
ふいに明るく話題を戻してきたヒフミの問いに、シオリはちょっと困ったような笑顔で答えた。
「えっと…もちろん私はペロロのファンなんだけど…ヒフミちゃんは…同担拒否?」
「そっ!そんな事ないです!むしろ同志が増えて最高ですよ!」
「えっとじゃぁ…この『マスターペローダ』を…」
そう言ってシオリが遠慮気味に指さしたのは、緑色で目がイッており、光の剣を構えた異様に濃い存在感を放つ鳥のぬいぐるみだった。
「お目が高ぃ!ストア限定品です!」
ヒフミは骨董品店の中年店主のように声を震わせ、拳を握る。
「えぇ!?じゃ…じぁあもらえないよ!」
「大丈夫です!映画ファンのシオリちゃんが持っているのがふさわしいです…!ではシオリちゃんはこの子を予約という事ですね!」
「う、うん!」
シオリは嬉しそうに頷いた。今日一番の笑顔、いつも通りの下江シオリがここにきて帰ってきた。
その様子をずっと見ていたコハルが、ぐったりと肩を落としてため息をつく…がどこか嬉しそう…でもやっぱり呆れが勝つ。
「はぁ……アズサ、あんたからも何か言ってよ……」
と、諦め半分で隣でぬいぐるみを見つめていたアズサに振る。
だが、その一言が引き金になった。
「かっ……」
「か?」コハルが眉をひそめる。
「可愛い!!!!!!」
突然、アズサが叫んだ。
目を見開き、頬を赤らめ、拳を震わせる。
「!?」「!???」「あら…?」「お~!」「アズサッ!?」
出会ってからこの瞬間までで、間違いなく一番の声量だった。全員がそのあまりの気迫に小さく飛び跳ねる。
「かっ…可愛すぎる!なんだこのふわふわしていて、丸っこくて…カラフルで、未知の生き物は!?」
「あーあ。終わった」
「この目…一体どこを見ているんだ?何を考えているんだ?なんでそんなだらしなく舌を出しているんだ…だけどその全てが愛らしい!!!可愛い!!」
「あ、アズサちゃん…?」
「……っ!アズサちゃんも分かってくれますか!!!シオリちゃん!ペロロ様の良さを分かってくれる方がここにも!!!」
「アズサちゃん…」
シオリは真剣な表情で、すっとアズサの肩に手を置いた。その顔は完全に仕事モード。
委員会で作戦を遂行中…その時とほぼ変わりない空気感。
「シオリ…」
「ようこそ同盟軍へ。ペロロと共にあらんことを」
誓いの言葉のように、低く、重々しく。それでもどこか楽しそうにシオリは言った。
「うん…!」
「あぁ!バカおねぇ!」
コハルが頭を抱えて叫ぶ。いつもの姉肯定主義はどこへやら。
「そ、それで…こっちの長いのは?いもり、キリン…いや…でかいミミズか?すごい!首に巻いたらあったかそうだ!」
アズサが指差したのは、異様に体の長い猫のぬいぐるみだった。どこかとぼけた顔とダルンとしたシルエットが特徴的なそれに、ヒフミは即座に反応する。
「その子は『ウェーブキャット』さんです! いつもウェーブして踊っている猫さんなのですが……アズサちゃん、いやぁ初心者とは思えません! おっしゃる通り、ネックピローとして商品化されております!!!」
まるでテレビショッピングの司会のように、流れるような口調で語るヒフミ。陽気にウィンクし指パッチンまでしている。
その後ろで、コハルがぬいぐるみをじっと見つめていた。
「ま、まぁ……その猫は確かに可愛いかも……って、っむぐっ」
自分の言葉に違和感をおぼえた瞬間、慌てて自分の口を押さえる。
だが──遅かった。
「コハルちゃん……良いセンスです!!!!」
ヒフミが満面の笑みでぐっとサムズアップを決める。
コハルはほんの数秒前の自分を呪った。
「あぁ……サイアクっ!!」
「えっと、この小さいのは…?」
アズサが目を輝かせながら指を指したは、茶色で出っ歯のクアッカワラビー。
「おっ!『Mr.ニコライ』さんです!いつも哲学的な事を言って、不思議な目でみられてしまう方です!」
「今のヒフミじゃん」
「今回のご褒美の一つとして…なんと!そのニコライさんが書いた『善悪の彼方』と言う本も用意しています…それも初版!」
「初版…」
ハナコが興味を惹かれ、そっとスマホを取り出し、フリマサイトで『善悪の彼方 初版』と検索する。そして表示された価格に──小さく、目を細めて微笑み、静かにスマホをしまった。
表情は一切崩さないが、つーっと汗が頬に垂れる。
そこに映っていたのは、攻撃ヘリと戦車を余裕で買える金額だった。
見てはいけない世界を覗いてしまった事を微妙に後悔するハナコ……この世は…広い。
「すごい!こ、これを貰って良いのか?…選んでしまって良いのか!?」
「はい!欲しいのをどうぞ!!!」
「あらあら…」
「………何なの…」
「…すぅ…やむを得ない…全力で行こう…良いモチベーション管理だ、ヒフミ。約束する…必ずや任務をこなし…あの不可思議な生き物を迎え入れてみせる」
「ファイトです!!!」
「えへへへへ…こんな状況…思ってもいませんでした…」
ヒフミがぬいぐるみに囲まれながら、照れたように頬を紅く染める。
「あらあら、ヒフミちゃん、とっても嬉しそうですね…♡」
「モモフレ仲間が一気に二人増えたからかな?」
先生が穏やかに微笑み、肩を揺らして笑っていた。
すでに日は沈み、窓の外はすっかり闇に包まれていたが──補習授業部の活動はまだ続いていた。
小さなデスクランプと蛍光灯の光が教室をほのかに照らし、静かな筆記音と、紙をめくる音だけが空間を満たしている。
その中で、ふいにアズサが口を開いた。
「……コハル、質問だ」
ノートから目を離さずに呟くように言ったその声に、コハルはびくっと肩をすくめた。
「えっ!? 私に?」
「うん。コハルにだ。ちょうど同じところをやっているだろう?」
「そうだけど……」
コハルは少し戸惑いながらもアズサの方へ身を乗り出し、彼女のノートをのぞき込む。
そして、すぐに目を大きく見開いた。
「あ、これ知ってるわよ」
自信ありげに微笑み、手元のペンを手に取る。
「書くわよ?」と軽く目で問いかけると、アズサは小さくうなずいた。
コハルはアズサのノートにさらさらと図を描きながら、丁寧に説明を始めた。
「えっとね、これは……下のところと直角、つまり90度になるように線を引いて……そうすると、こことここの三角形が合同になるの。だから、ここがこうで……ってこと、わかった?」
「……なるほど、わかった。うん、凄いな。姉妹そろって優秀だ」
ぽつりと真面目な口調でそう返したアズサに、コハルは一瞬固まる。
そして――
「……!? え、えへへ、そ、そうよ! 下江はエリートだもん!」
照れ隠しのように胸を張ると、机に突っ伏していた誰かが、小さく震え始めた。
「うぅっ……」
その視線の先には、ちょっと離れてそっと様子を見守っていたシオリの姿。
彼女は手で口元を隠し、肩を前に丸めながら、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「こ、コハルが……成長してて……お姉ちゃん……うぅぅっ……」
「ふふっ、よしよし、シオリちゃん」
ハナコが微笑みながら、そっと背中をさすってくれる。
「ハナコちゃん……私、姉で……よかっだ……っ! 皆も妹を持つべきだよッ!! この感情は……何にも代えがたいっ!」
「シオリ、鼻水が出てるから…ほら」
「ずびばぜん、先生……」
シオリは先生から手渡されたティッシュで、盛大にちーんと鼻をかんだ。ティッシュが風を受けてふわりとはためくたび、どこか感動の余韻が台無しになる。
「お、お姉ちゃん!? だから、ちょっと大げさすぎっ!」
コハルが耳まで真っ赤になりながら、思わず立ち上がって叫ぶ。
「と、とにかくっ! 何かあったら聞いていいわよっ!?」
「ありがとう、助かる……あの、早速ですまないんだけど…もう一ついい?」
「仕方ないなぁ…どれどれ…って……この問題、えっと……?」
ペンをくるくる回しながらコハルがアズサのノートを覗き込む。その表情がじわじわと曇っていく。
「むっ、コハルも知らない問題か?」
「えっ!? いやっ……うぃ……えっと、参考書で見たかも……ちょっと、待ってて!」
慌てたように立ち上がると、コハルは自分のスクールバッグをがばっと開け、ゴソゴソと手を突っ込んだ。
「持ってきたはずなのよ……確かこのへんに……」
バッグの中はぎゅうぎゅう詰めで、手榴弾と弾薬が散乱しており、教科書や筆箱の隙間にくしゃっと押し込まれたノートやプリントが溢れそうになっている。
7.7ミリ弾の金属音と紙のこすれる音が鳴り響くその暗くて狭い空間を、コハルは手探りで漁り続ける。
「コハル……もう少し、カバンの中身を整理した方が……」
「わかってるからっ!」
そう言いながらも手は止まらない。整理される日は、たぶん来ない。
「……あった! たぶんこれ!」
彼女の手に四角く薄い物体が触れる。ガサリ、と何かを引っ張り出した。
コハルは勝ち誇ったように笑顔で掲げる。
が──
「…!?」
「まぁ」
「おっと…」
「?」
「?」
静寂。まるでその場にスタングレネードでも炸裂したかのような、全員の硬直。
コハル…その手にあるのは、一冊の本──
赤とピンクのシルエットで描かれた、妙にロマンチックな構図の男女が、まさに唇を重ねようとしている構図。金の装飾で縁取られた装丁が、やけに凝っていて怪しげなオーラを放っている。
「その参考書に載っているのか?」
アズサが声色一つ変えずに聞くと、コハルは「うん」と頷き、本の表紙を見た。
「…あれ?」
そして固まった。
「エッチな本ですねぇ」
ハナコが微笑みながら、包み隠さず言う。
「………」
目をぱちぱちさせるコハル。
そして数秒後、自分が何を持っているのかに気が付き、一気に顔を紅くする。瞳孔も猫のようにするどくなった。
「こ、これは……ち、ちが──ちがっ……なんで、なんでこれが入ってるのよぉ!?」
慌てて本を抱きしめた。だが、その表紙はすでに全員にバッチリ目撃されている。
すかさず、ハナコは追撃をかける。
「あらコハルちゃん?それってエッチな本ですよね?」
柔らかく、どこか慈愛すら感じる口調。それが逆にタチが悪い。
「確かに角度を変えれば参考書になる…かもしれません。うふふ、隠しても無駄ですよ?ばぁっちり『R18』って書いてありましたし」
「違う!アンタの目がイかれてるだけ!!絶対に違う!!」
全力で否定しながら後ずさるコハル。だがその慌てぶりが火に油を注ぐ。
「…?」
「?」
きょとんとシオリとアズサが目を合わせる。状況を理解していない。
「私の目は正常ですよ?確実にする本ですね…しかもかなり…
「違う違う違う!!!!」
全力で否定するが、ハナコはひるまないどころかさらにヒートアップしていく。
「トリニティ…いや、キヴォトスでも中々お目にかかる事が出来ないレベルの内容とお見受けします。確か…レッドウィンターの奥地で取引されていると聞いた事がありますね。肌と肌がリズムよくはじけ、敏感な部分が摩擦し…媚声が飛び、理性は遥か彼方へ…」
ずいっとハナコが歩み寄る。
「いやっ…その、これは委員会で没収した奴で…!」
「あら?コハルちゃんが委員会のお仕事をされてていたのって数週間も前ですよね?この合宿場にくる前に一度でもカバンの中身は整理するはずですし、没収品なら委員会の方にすぐ預けますよね?……コハルちゃん、わざわざここに持ってくるとは…『御用達』なんですね♡」
「ぬぅぅぅく」
コハルの顔が沸騰寸前だった。
「真面目なコハルちゃんがまさか…あらあらあら」
ハナコが距離を詰めてくる。コハルは後退しながら、まるで小動物のように震え、ついに手が滑った。
パサリ。
本が手から落ち、床に伏せた。
そして――
「っ!? ま、待ってお姉ちゃんっ、それは拾わなくてい――!」
だが時すでに遅く、シオリがすっと本を拾い上げた。
「あらシオリちゃん」
「あわわわわ」
「……」
シオリは本の表紙をまじまじと眺めた。眉間にしわを寄せて、真剣に分析するように、少し傾けながら観察している。
「ねぇハナコちゃん」
「?なんでしょうか」
「ハナコちゃんはこの本を『エッチな本』って言ったよね?」
「はい、言いましたよ」
「……エッチって……何?」
空気が、音を立てて凍りついた。
まるでレッドウィンター自治区のツンドラに突如放り込まれたような、冷気が室内を満たす。
「お、終わった…」
コハルが絶望感のある表情で呟く…その言葉には二つの意味がふくまれていた。
お姉ちゃんとエ駄死本。えっちっち。
あと普通にペロロ様って可愛いし、神デザインだと思うんですけど…私が異常者なんですかね、ぬいぐるみ買っちゃいましたよ。