【悲報】下江姉、エッチを知らない   作:スラバヤサトゥ

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えっと、かなり開いちゃいました、すみません。
原作ブルアカであんなにも熱い事が色々あったのにこれです、本当に申し訳ねぇです。

書きますのでこれからもよろしくお願いします。


ホスト代行と副委員長

「えっと…ハスミ先輩?お話とは一体…なんでしょうか?」

 

シオリは、ややぎこちない笑みを浮かべながら、目をチカチカと細かく動かしてハスミを見上げた。

どこか落ち着かないその動きは、まるで何か見えないものを探っているかのよう。

 

その隣では、コハルが背筋をピンと伸ばし、足をきちんと揃えたまま、抱えていたライフルの銃床をカチリとフローリングに合わせた。彼女も一応軍人の端くれだ。

決して先輩が怖い…という訳ではないのだがやはり緊張する。先輩とはそう言う物なのだろう…前にしても緊張しない先輩……姉とその友人ぐらいだろうか。

 

「ふふ、そんなにかしこまらなくても大丈夫です」

 

ハスミはくすりと笑い、小さく首を振った。

 

「「はいっ」」

 

二人そろって返事をする。

シオリの方がやや声が裏返っていたように聞こえたが、その場の者はさらりと流した。

 

「では…まず…」

 

ハスミが前髪をそっと耳にかけながら、言葉を選ぶようにひと息つく。

 

ごくり。

 

シオリとコハルは、同時に唾を飲み込んだ。

部屋の空気が、じんわりと張り詰めていく。

 

「二人とも、お勉強頑張っていますか?」

 

「は、はい!」

 

元気に返事するコハル。事実、机に向かうのがとことん嫌いな彼女だが、成績も目に見えるレベルで向上している。

 

「へっ……あっはい!頑張ってます!」

 

シオリは一瞬、間の抜けた声を出してしまったが、すぐに自分で気づき、いつもの調子を取り戻して慌てて答えた。

 

「最初の試験もいい感じでしたし……あ、でも…その最近やった模試だと少し下がってしまいまして……その、えと」

 

シオリの声は、語尾に向かうにつれて段々と小さく、か細くなっていった。

その口調には、自信という支えを見失った者特有の、不安定な揺れがある。

 

ハスミは静かにその様子を見つめながら、彼女の言葉の裏に潜む本音を探る。

 

たとえば――90点台から一気に30点へ転落した、なんて話であれば、本人が焦りや落胆を感じるのも無理はない。

しかし、彼女の「少し下がった」は本当に「少し」。

せいぜい片手で数えられる程度の点数差。普通なら誤差の範囲で済む話だ。だがその小さな虫が一匹通れるかどうかの隙間も彼女にとっては不安だったのだろう。

完璧主義…といった訳ではないが何か引っかかる…悔しさなのか、焦燥なのか――あるいは、無意識に感じた“危機感”か。

 

「そう落ち込まなくても大丈夫ですよ、そういったブレはあります」

 

ハスミは柔らかい微笑みを浮かべながら言葉を重ねる。

 

「あなたの事です、数点の差でしょう?」

 

シオリは照れたように、わずかに視線を逸らした。

 

「ま、まぁ」

 

「ケアレスミスだったり、その時のコンディションの問題だったり。そう気に病む話じゃないと思いますよ。私だって、同じようなことは何度もありました」

 

「ハスミ先輩の言う通りです!お姉ちゃんはあの中で一番頭が良いんだし、自信もって!そもそもあんな所にいるような人間じゃないんだって…!」

 

「そ、そうですかね……頭の良さ的には…ハナコちゃんの方が上な気がするけど……」

 

「ハナコが?いや、まぁ教え方は上手いし分かりやすいけど…でも点数はあれだし…私は人の事言えないけど

 

ハスミの優しく、温度のある声と妹の聞き慣れた可愛らしい声に触れたことで、シオリの表情にふっと緩みが戻った。

肩の力がわずかに抜け、息を吐くように言葉がこぼれる。

 

けれど――

 

その安心感は、長くは続かなかった。

 

シオリはふと俯き、眉を寄せる。胸の奥に、言葉にならない違和感が引っかかったままだ。

 

「でも……このまま下がっていったら……私は、体が頑丈なだけのバカに……。あはは……下手したら、退学……迷惑どころか……ある意味、人殺しにぃ……

 

掠れた笑い声とは裏腹に、声の端は震えていた。

 

「お、お姉ちゃん……?」

 

コハルが小さく呼びかける。だが、姉の瞳はどんどん光を失い、濁っていく。まるで心の支えが音を立てて崩れていくかのようだった。

 

自嘲じみた独白。表情は笑っているのに、口元が引きつっていた。

 

初めてだった。コハルにとって、姉がこんなふうに弱音を漏らすのは。十数年の中で、一度だって見たことのない姿だ。

 

(退学……連帯責任……。もしそうなったら、補習授業部のみんなに……先輩に、同級生に、後輩にまで迷惑がかかる……)

 

(イチカちゃん……どんな顔するんだろ……。久々に会って、開口一番が『ごめん、私退学になっちゃった』ってのは終わり散らかしてるって)

 

(ハスミ先輩とツルギ委員長に至っては、ほぼ裏切りも同然だし……担当してる一年生達の教育は放棄する事になるし)

 

(でも……一番ヤバいの、コハルだよね……。これから高校生活が本格化していくところで、いきなりドボンだよ?笑えない笑えない)

 

(い、妹の青春を破壊したくなぃ…後世まで『最低の姉貴』として名が残るぅ…ぅ)

 

死んだ目をしながら愛想をつかして自分を見つめてくる妹。

もちろんそんな姿のコハルを私は見たことないし、正直想像もできないのだが何故か今はハッキリと浮かぶ。

 

(……すぅ…もしもの時のお金のやりくりどうしようか…お給料が入って来なくる枠で、貯金はまぁあるししばらくは何とかなるだろうけど………イヤ、最悪口座を凍結もありそうだしなぁ。ば、バウンティハンターでもやろうかなぁ…うぅ…それかブラックマーケットで…でもあそこに詳しい人知らないし…なんかヤバそうだし…でも私とコハルが食べていくにはそうしないと……うぅ退学なんて嫌だよぉ…)

 

胸の内で思考がぐるぐると渦を巻く。

いくつもの『もしも』が湧き出てくる、しかも全て負の面。

 

シオリは根っから暗い性格というわけではない。悩むことがあっても、どこか他人事のように「まぁ、なんとかなるよね」と笑って済ませてきた事がほとんど。それがポリシー。

楽天的なようでいて、実は繊細。その「なんとかなる」が今、崩れかけている。

一度、穴に落ちるとその中で、どう脱出するかより、なんで落ちたのかとブツブツ自分を叩き始める。

 

ぐらついた心の支え。自分のせいで、誰かの未来を壊してしまうかもしれない。その不安が、彼女の中でじわじわと毒のように広がっていた。

 

「シオリ!」

 

「っ!?」

 

ハスミはこの世ともあの世ともいえない世界を彷徨っていたシオリの両肩をつかみ連れ戻し、心配そうに顔を覗く。

先輩の喉から飛び出したとは思えない声量にコハルの肩は数センチほど跳ねた。

 

「一体どうしたんです…あなたらしくない」

 

「だ、大丈夫です…問題ありません!」

 

「………何もなかったらそこまで翼が動くとは思えませんよ?」

 

「!?」

 

ハスミの言葉にドキリとし、慌ててシオリは自分の腰回りに視線を向けた。

すると、あらあら…可愛らしいサイズの若干グレー味がかった黒い翼が本人の意識とは別にパタパタと動いていた。

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

何とも言えない空気が三人の間に流れる。

ハスミは微笑み、コハルは頻繁に瞬きをしながら姉のソレを見つめる。そしてシオリは唇をきゅっと結び、目を猫のようにしながら頬を紅くしていた。

 

「ふふふ、翼が無い方が相手でしたら、誤魔化せたかもしれません…しかし私には通用しないですよ?」

 

「う…あはは…そのぉ…」

 

言葉を繋ぐ間にも翼は動く。最初は腰の方だけだったが…次第に頭の方もパタパタ微動し始めた。

 

「……えっと」

 

有翼の生徒の中には感情がそこに出てしまうと言った者がいるのだが、シオリはそれにあてはまる。訓練する事で抑え込む事も可能なのだが……彼女に関しては翼どころかそもそも顔にも出まくるのであまり意味がないかもしれない。

おかげで彼女はトランプ…に限らず心理戦に対してとてつもなく弱い節がある、どうにか直そうとしているが成就するのはかなり先かもしれない。

 

(お、おさまってぇ…!)

 

「さて、シオリ」

 

「はひ」

 

「一人で抱え込むのは毒ですよ?」

 

「えと…その…」

 

チラリとコハルの方を見て考える。

確かに…一人で抱え込むよりかは…誰かを頼るのが最善の選択かもしれない。

正直、相談相手の仕事を増やしてしまうのでは?なんていう思考にもなるが、本人が言っているんだから、甘えても許させるだろう。

 

(は、ハスミ先輩になら…い、言っても大丈夫かな…うん…大丈夫だよね…)

 

シオリは勇気を振り絞った。

 

 

 

 

 

 

キンコンカンコン

 

トリニティのランドマークであり、有名な観光スポットである『大時計塔』そのウェストミンスターの鐘が威厳を込めて学園全体に鳴り響く。キヴォトスの大体の学校がチャイムとして採用する音色はもはや生徒達に遺伝子レベルで刻まれていると言ってもいいだろう。

 

「セーフティを確認させていただきます」

 

鋭くも礼儀正しい声が、重厚な扉の前…静かな廊下に響いた。

 

「えぇもちろんです」

 

ハスミは穏やかな微笑をたたえながら、自らの所持するライフルを差し出す。

警護にあたる生徒は、流れるような手つきで銃のチェックを済ませる。熟練の兵士であることを感じさせる落ち着いた動作――ボルト、薬室、セーフティ。すべてを確認したのち、彼女は恭しくライフルをハスミへ返却し、自身の短機関銃を構えなおした。銃口は下げられたままだが、その姿勢には一片の隙もない。

 

「流石、副委員長…よく手入れされていますね」

 

「ありがとうございます。私もただただ書類をさばくのが仕事ではありませんから、この子の体調には気をつけています」

 

ハスミは装飾された愛銃のライフルを撫でながら、礼を述べる。

ふと、彼女の視線が警備生徒の手元に向く。

 

M1928(トンプソン)ですか、良い銃をお持ちで」

 

その言葉に、少女の口元がかすかにほころぶ。

 

「ふふ。どうもありがとうございます。どうしてもこのマガジンが使いたくて、よく出回ってる『M1』ではなくこの型にしましたの、PPShよりもスオミよりもこの子がいいんですよね」

 

すこし語りたくなってしまったのか、こんこんと銃のフレームを叩きながら愛銃へのこだわりを述べる。

その話を、表情を崩さずに聞いていたハスミ、少々きりだす。

 

「なるほど。ですが、パーティガードの正式採用銃は…確か、ガーランドだったのでは?」

 

ドラムマガジンは私の為にあると言わんばかりの圧が醸し出される。

トリニティの校風に合わせたホワイトのカラーリング。そして艶やかに磨かれている木製ストック。

武器と言うより鑑賞物と言える面持ちだ。

弾を撃った事や泥をかぶらせた事がほとんど無いと言う事が何となく分かる、正実として数多の戦場に身を投げた者としての勘だろうか。

 

どれだけガンオイルで磨こうが分解して清掃しようがその銃の「疲れ」というモノは外に醸し出される。

それがこの警備の銃からは感じられなかった。

 

「ふふ。少々方針が変わりまして。近頃、火力不足が課題として挙げられました」

 

『自前の戦車部隊まで保有しているのにどこが火力不足だ』…とハスミの脳裏をよぎったが、肝心な歩兵部隊は小銃のみ、まぁ言っている事に誤りはない。

いやなら、アサルトライフルでいいだろうとは思うが…ブルパップは嫌いなのだろうか。

まぁ彼女らのメインの戦場は室内…確かに身の丈にあった武器の選択と言えるかもしれない。

 

「ガーランド……セミオートライフルだけでは手数が足りないと思える場面も増えました。あ、ちなみに…ボルトアクションに関しては全てを退役、置換するに至りましたよ。ふふ」

 

ちろっとハスミのライフルを見てから笑顔でこたえる。

 

「なるほど、徹底していますね」

 

「最近どうも物騒といいますか…まぁいいでしょう。さて、ナギサ様がお待ちです。時間は有限ですからね」

 

護衛の少女は姿勢を一層正し、重い扉を押しながら歩みを促す。

ハスミは軽く頷き、足を踏み出した。

 

 

陽光に照らされたテラス。

白い柱が整然と並び、窓のない開放感が、空と庭園、そして歴史ある校舎、そして例の時計塔を絵画のように切り取ったように景色が広がっている。

清々しい風に運ばれてくるのは、小鳥の囀りと木々の葉擦れ――そして奥底でかすかに流れる、壮麗な弦楽の調べだった。

 

パチパチとノイズをまといながら聞こえてくるクラシックな音楽。なんというか、ベタな選曲だが、校歌でないだけマシだろうか。

中央には長いテーブルと、それを挟むように置かれた椅子。

 

ハスミは一歩、テラスへ足を踏み入れると、表情を変えずに小さく唾の塊を飲み込んだ。

正実の副委員長たる彼女でさえ、この場にはまだ慣れない。もちろん初めて訪れるわけではない。

隠さずに言えば、「居心地がすこぶる悪い」だ。

 

――彼女がこうなのだ。

ならば、他の生徒がここに足を踏み入れたならどうなるか。想像するまでもない。

何も根拠がないウワサ話になるが、汗をかきすぎてその場に倒れた生徒がいた…とか。

流石に盛りすぎでは?そしてまぁまぁ()()()に失礼な話だとは思うが、存在するか不明なその生徒に少しは同情もできる。

 

(……珍しい気がしますね。テーブルの上が、こんなに寂しいなんて)

 

今までの経験からすると、整然と並べられた茶器や、彩りを添える菓子皿が目に入るはずだった。

しかし今日、そこにあるのは白布のかけられた天板のみ。

余計なものを一切許さぬ清廉さが、かえって場の緊張を際立たせている。

 

ハスミは胸の内で短く息をつき、視線をあちこちに走らせた。

目的の人物――その存在を探し当てるために。

 

「ハスミさん、こちらです」

 

澄んだ声が、クラシックの調べと風の音をすり抜けて、テラス全体に穏やかに響いた。

その声音には決して大きさはない。けれど、不思議と耳に残り、自然と姿勢を正させる力があった。

 

声の方へと視線を向ければ――テラスの端、陽光を受けて輝く丸いガラステーブル。

そこに、白磁のティーカップを優雅に持ち上げる純白の翼をもつ少女の姿があった。

 

「そちらでしたか、ナギサ様」

 

目的の人物の所在が分かった瞬間、ハスミの歩幅は自然と早まる。

ティーカップを手に、微笑を浮かべながら座っていたのは――桐藤ナギサ。

トリニティ生徒会〈ティーパーティー〉の生徒会長の一人にして、現在は最高意思決定者「ホスト」を代行する存在だ。

同じ三年生ではあるが、ハスミが「様」と呼ぶことからも、その序列と敬意がどれほどのものかが窺える。

 

「すみませんね、本来ならそちらの長卓でお迎えするところなのですが……」

 

ナギサは申し訳なさそうに眉を傾ける。

その仕草一つ取っても、柔らかい気品が滲んでいた。

 

「いえ、とんでもありません。むしろ、こちらの方が私には親しみやすいサイズです」

 

「うふふ、そうでしたか」

 

二人は自然な笑みを交わし、しかし視線の奥にはそれぞれ別の緊張と警戒が潜んでいる。

 

「何か特別な理由でもあったのですか?」

 

ハスミの問いに、ナギサはふとテーブルの端へと視線を流した。そこには、白と淡いピンクのツートンカラーが施された小型拳銃が置かれている。

 

「……ピストル、ですか」

 

「えぇ。少々汚れていたので、磨いていたのです」

 

「なるほど。それなら、流石に長卓では……」

 

「はい。オイルで汚してしまったら、きっと皆さんに怒られてしまいますから」

 

ナギサは冗談めかして言うが、その声音には冗談では済まされない現実味が滲む。

ティーパーティーの備品は一つ一つが目の眩むような値段だ。テーブルクロス一枚で最新のゲーム機がいくつも買える――それほどの代物。

 

ぶっちゃけ、お嬢様方のポケットマネーにとっては些細な金額かもしれないが、伝統格式に彩られた神聖なテーブルを汚すことは、単なる経済的損失以上の意味を持つ。ホストを代行するナギサがそれをしたら、どうなるか。想像するまでもなかった。

 

「立ち話も味気ないですから、どうぞ」

 

ナギサは微笑と共に手を軽く振り、向かいの椅子へとハスミを促す。

 

腰を下ろすと、ハスミの視線は自然とテーブル上の拳銃に戻った。

 

「……PPK、ですか。トリニティ製ではないのですね」

 

「あぁ、それは――昔からの憧れなのです」

 

ナギサの声はどこか照れくさそうで、けれど誇りを含んでいた。

PPKに憧れ…?とハスミは少々考え込むがすぐに答えに辿りついた。

 

「……映画、ですか?」

 

「ご名答ですよ、ハスミさん。小さい頃の夢の一つに“スパイ”というものがありまして。まぁ流石になれませんでしたし、逆にそう言う方々(情報部)をかかえると言う立場になってしまいましたが……せめて銃だけでも、その気分を味わいたくて。PPKは、そういう選択なんです」

 

「なるほど……」

 

「ハスミさんの言う通り…学園の代表が自校製の銃を使っていないのは“らしくない”かもしれませんが」

 

「いえ、個人の自由ですし。戦闘時やファッションに目を凝らす人以外、そこまで気にしないでしょう」

 

「そう、でしょうかね……でも、実際言われると少し気になります。雑誌やニュースでは、各学園の生徒がどんな銃を使っているかを特集していると聞きました。……まぁ、私が取材されることは無いと思いますが」

 

「ふふふ、考えすぎですよ」

 

ハスミは穏やかに返し、そこで一呼吸置いてから問いを投げる。

 

「最近の映画は、ご覧になりましたか?」

 

ナギサはカップを口に運び、ほんの僅かに笑んだ。

 

「いいえ。時間が取れないのもありますが……どうも最近の作品は、深刻すぎて…鑑賞には体力がいるといいますか…」

 

――ほんの一瞬。

カップの縁から覗いたナギサの瞳に、憂いの影が落ちた。

 

「委員会に映画好きがいまして、話があうかもしれませんね」

 

「ツルギ委員長でしょうか?映画鑑賞がお好きと聞いています」

 

「いいえ。彼女はスパイ映画などではなく、恋愛映画を好みますから」

 

「あら、ではどなたのことでしょうか」

 

「下江シオリです」

 

その名が静かに告げられた瞬間、場が凍りついた。

まだ季節は夏の入りかけ、照りつける陽光の下にあるはずなのに、不思議と冬の訪れを思わせる冷気が背筋をなでていく。思わず「もう一枚羽織りたいな」と本能が訴えかけるほどに。

 

「……そうでしたね」

 

ナギサは一度目を伏せ、吐息をひとつ。そっと紅茶のカップをソーサーに戻した。

 

「この場を設けた理由――その生徒の件について、でしたね」

 

指を絡める。

 

「シオリさんが、どうかしましたか? 本人は補習で勉学に励んでいる……ということは既に通達してあるはずですが」

 

「えぇ。数週間前に、その件はきちんと丁寧なお知らせを頂戴しています」

 

「では、他に何か?」

 

「彼女から、とある……『物騒な話』を耳にしまして」

 

「物騒な?」

 

ナギサは小首を傾げ、ゆるやかに問い返す。

 

「どうやら補習の特別試験に不合格だった場合…退学…と言う措置になるらしいですね」

 

ナギサは片方だけ、眉を傾ける。

 

「……それはシオリさん本人の口から聞いた事でしょうか」

 

「えぇ、その通りです」

 

「……何かの聞き違いでは? 退学など、大げさな措置は私であっても簡単に下せるものではありません」

 

ナギサは柔らかく微笑んだ。だがその目元はわずかに細くなり、冷ややかな光を帯びる。

対面のハスミの表情もまた、先ほどまでの穏やかさを消し去り、紅い眼差しは鋭く、氷のような温度を帯びている。

 

「後輩ひとりに、随分と肩入れなさるのですね」

 

「その言葉、そのままお返しします」

 

「……」

 

沈黙。風鈴の音のようなクラシックが、遠くで場を保っている。

大きな扉の前に構える警備が、ほんのりと警戒度を上げ、静かに銃のハンドルを引く。

やがて、ハスミは静かな声で続けた。

 

「これはあくまで私の推測ですが……補習授業部には現在、顧問として“先生”がついています。しかもその所属はシャーレ――第三者であり、特別な権限を持つ組織です。その力を取り込む意図があるならば……退学処分、という措置も可能ではないでしょうか。そうでなければ、補習ごときと言ってはアレですが…わざわざ超法規的な存在を呼び込む必要などないかと、学園内で完結する話でしょう」

 

淡々とした口調でありながら、一言一句が刃のように鋭い。

 

「テストに落第しただけで、退学と言う名の…事実上の社会的な死を与える。それは正義に照らしてどうなのか。そもそもとしてシオリは病欠でした、本来なら別日に試験を受ける事が可能です。知り合いに実際そうした者がいますしね…彼女の妹…コハルは…実力で補習を受ける事になりましたが…どうやらあの子も退学の対象らしいです」

 

テーブルの上でハスミの指がわずかに動く。その様子は、怒りを抑え込む彼女なりの証だった。

 

「可愛い後輩達(下江姉妹)は…何か不始末でもしたのですか?」

 

低く、しかし一片の揺らぎもない声音が、空気を震わせた。




あはは、茶会と正実の関係性えぐい~~~
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